フリーライターとして雑誌記事の執筆、書籍の構成・編集などを手がける。現在は北海道在住で、ニュースサイトを中心に活動。社会情勢に関する執筆の機会が多い。地方紙の通信員としても取材・執筆。



斉藤 さゆり

<h3>ハローワークの相談員が毎年「雇い止め」に怯える年度末</h3>
全国の自治体で働く非正規の地方公務員「会計年度任用職員」の多くが、今年の3月末に「雇い止め」に遭った可能性がある。任用制度が&#8217;20年4月に導入され、総務省がマニュアルに「非正規の再任用は原則2回まで」との方針を示したため、雇用期間の上限を3年に設定した自治体が少なくないからだ。
たとえば、北海道新聞によると3月末に任用期間の満了を迎えた札幌市の会計年度任用職員は1000人余り。他の道内主要都市とあわせると、推計で4000人を超えるとされる。
公務非正規女性全国ネットワーク「はむねっと」は地方自治体で何が起きたのか実態を知ろうと、全国の会計年度任用職員を対象にアンケートを実施。6月18日までに500件を超える回答を得たという。
<figure id="attachment_319012" aria-describedby="caption-attachment-319012" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="268c3cf8"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/69f05fe8db4f1312df6b9070caca0cd1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-319012" class="wp-caption-text">ハローワークの相談員は「職場は8割ほどが非正規相談員で、残りの2割が正規の職員です」と実情を語る（写真はイメージ：アフロ）</figcaption></figure>
ただ、全国の自治体でどれだけの会計年度任用職員が雇い止めに遭ったかは不明であり、当事者の声もなかなか聞こえてこない。
「会計年度任用職員の任期は1年で、契約が更新されるかは自治体次第です。この先も雇い止めの不安がつきまとう状況にあるような方が、当事者として声を上げるのは難しいのではないでしょうか」
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そう話すのは、労働者の側に立って労働問題に取り組む平井康太弁護士だ。日本労働弁護団が今年の1月からオンライン署名サイトで「STOP 非正規公務員の雇止め」を掲げて署名活動を展開しているが、平井弁護士は弁護団の事務局次長でもある。
弁護団は署名活動とあわせ、2月に「STOP 非正規～」と題して集会を開催。その様子をYouTubeで公開している。
「集会では、非正規公務員の方々にオンラインで実情を語っていただきました。ただし、個人や職場が特定されないように、匿名や音声のみといった方法で発言しています」 
非正規での勤務が10年以上というハローワークの女性相談員は、弁護団主催の集会でこう語っている。
《職場は8割ほどが非正規相談員で、残りの2割が正規の職員です。 
毎年、年が明けると当たり前のように次年度の定員数が発表され、誰が雇い止めになり誰が契約更新されるか決まっていきます。4月1日にならないと誰が雇い止めになったかははっきりとわかりませんが、今年も人が減らされることになりました。 
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現場にそれが言い渡された日は、雇い止めになった人のすぐ横で契約更新された人たちが喜び合う声が聞こえてきます。とても残酷で、毎年その場面を目の当たりにすることが本当に辛く、やるせなくて涙が出てきます》（集会の発言者）
平井弁護士は言う。
「ハローワークで働く非正規の方たちは、市民に良質な仕事を紹介する役割を担っていながら、ご自身の職が非常に不安定です。あまりに理不尽な話だと思います」 
<div data-friday-nextpage-lead="法的に争う手段もない…"></div>
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<h3>労働契約法が適用外の地方公務員…法的に争う手段もない</h3>
医療事務に従事する非正規公務員は集会にコメントを寄せ、《3年間働くと、自治体の公募に応募して面接を受け直さなければならない。会計年度ではなく、継続的な雇用の中で知識や能力を評価する仕組みにしてほしい》と訴えた。 
平井弁護士が続ける。 
「非正規公務員は、本人の能力に関係なく、3年働いたというそれだけの理由で雇い止めに遭います。 
これが民間であれば、有期雇用の方が3年間まったく問題なく働いてきたなら、使用者は客観的に合理的な理由がない限り契約更新を拒否できません。労働契約法19条違反で雇用が継続します。しかし、地方公務員は労働契約法の適用外になっているため、契約更新を拒否された場合に雇用継続のために法的に争う有効な手段がないんです。 
非正規で働いている方たちにも民間と同等レベルの法律上の保護と権利があるべきで、私たち労働弁護団は法制度自体を変える必要があると考えています。それを国に求めるために、署名活動に取り組んでいます」
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任用制度に関する総務省のマニュアルは昨年12月に改訂されたが、そもそも「単なるマニュアルで法的な効力はない」という。そうであれば、自治体は非正規の職員を3年上限で雇い止めする必要はないはずだが。
「改訂版のマニュアルには『再度の任用を行うことができるのは、同一の者について連続2回を限度とするよう努めるものとしている』と記載されています。これを自治体が再任用は2回までしかできないと解釈し、自主的に3年で雇い止めしているというのが現状でしょう。国はもっと積極的に、3年で雇い止めする必要がないことを各自治体に周知するべきです」
民間の非正規には、有期労働契約が5年を超えて更新された場合に、本人の求めにより無期労働契約に切り替わる「無期転換ルール」がある。地方公務員にも適用される可能性はどうなのだろう。
「日本の政府や自治体は民営化とアウトソーシング、正規公務員の削減などによって、公共部門の縮小を進めてきました。非正規雇用を正規雇用にするというのは正規公務員を増やすことになるので、現在の政府が無期転換ルールの適用を方針として打ち出す可能性は低いかもしれません。それでも私たちは、非正規公務員の雇用を守り行政サービスの低下を防ぐために、無期転換ルールの実現を求めていきます」 
<figure id="attachment_319013" aria-describedby="caption-attachment-319013" style="width: 337px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a3149d5b"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/452831c0c758d5c3b80440f1f3084e4c.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-319013" class="wp-caption-text">自治体の非正規職員数の推移（表：共同通信）</figcaption></figure>
<h3>法的な根拠のない総務省のマニュアルのために多くの非正規が泣き寝入り</h3>
現状のままでは、非正規公務員は泣き寝入りするしかない。
「法律で保護されず、裁判で争うこと自体のハードルも高い。多くの方が泣き寝入りを選択せざるを得ない状況にあると思います。 
ただ、非正規で働く方の雇用の安定が図られるようにするために今できることをする、それが大事です。たとえば、労働組合を通じて、根拠のない雇い止めをしないよう自治体に求めていくことは可能だと思います」
労働弁護団の集会で発言した非正規の清掃職員は、《正規職員と同じ仕事をしているにもかかわらず、待遇に2倍の差がある》と語った。非正規公務員は、不合理な待遇差にもやり切れない思いをしている。
「市民の生活を支える行政サービスの中心を担っていると言ってもいい非正規の方たちが、非常に低い待遇で日々働き、これほど簡単に使い捨てされてしまう。このような状況で、十分なサービスを提供できるわけがありません。 
非正規公務員の雇用や待遇が改善されなければ、私たちも良い行政サービスを得られなくなります。非正規公務員の問題は、市民の暮らしに大きく関わる問題でもあるんです」
総務省によると、非正規の地方公務員は&#8217;20年時点で69万人いる。自治体では、財政難を背景に正規職員から非正規職員への置き換えが進む。無権利状態の非正規公務員は、この先も増え続けることになるのだろうか。
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平井康太（ひらい・こうた）弁護士。&#8217;91年埼玉県生まれ。&#8217;14年に立教大学法学部法学科卒業し、&#8217;16年に東京大学法科大学院修了。&#8217;17年、弁護士登録（第二東京弁護士会）。

斉藤さゆり

アフロ

「雇い止めになった人のすぐ横で契約更新された人たちが喜び合う声が聞こえてきます。とても残酷で…」と非正規で10年以上働くハローワークの女性相談員は語る。当事者の声はなかなか聞こえてこないその実態は…。

救いは「きちんと有休が取れることぐらい」…上限3年で雇い止めに遭う「非正規公務員」の苦難

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