<figure id="attachment_319109" aria-describedby="caption-attachment-319109" style="width: 3399px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c6ac248f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/07/76228db76bb848dd7821ab431f1b734a.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-319109" class="wp-caption-text">事件から１週間が経過した６月21日、陸上自衛隊射撃場の門近くで手を合わせる元自衛官ら（写真：時事通信社）</figcaption></figure>
<p>岐阜県にある陸上自衛隊日野基本射撃場で６月14日、18歳の自衛官候補生の男（以下A）が銃を乱射し、自衛官３人が死傷するショッキングな事件が発生した。</p>
<p>Aは最悪、死刑になることをわかっていて実行したであろう。その面では拡大自殺とも言える。私の経験と取材を通じて感じたのは、Aの動機と異常に多い自衛官の自殺に共通する３つの要因だ。</p>
<p>１ 理想と現実の違い<br>
２ 努力しても報われない組織<br>
３ 離れられない</p>
<p>約40年前の1984年２月、陸上自衛隊山口駐屯地山口射撃場で、射撃訓練中の２等陸士の男がいきなり持っていた銃を発砲。隊員４人にけがをさせ、うち１人は翌日死亡した。男は心神喪失状態だったとされ、不起訴処分となったが、この40年前に起きた事件を教訓に、「世界一厳しい」と言われる安全管理体制を敷いて再発防止につとめてきただけに、関係者のショックは大きかった。</p>
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<p>自衛隊に入ることを夢見ていた18歳のAはあと半月ほどで念願がかなうはずだった。しかも私の取材や各種報道を見てもAは銃撃した菊松安親１等陸曹や原悠介３等陸曹から日常的に指導を受けていたわけではなく、恨みの感情を抱いていた可能性は低い。ではなぜ、Aは引き金を引いてしまったのか。ある現役自衛隊員はこう明かす。</p>
<p><span class="strongInContent">「Aは軍事マニアで自衛隊にも相当詳しかったと聞いています。『国を護る公務員』は生涯収入の安定も見込め、希望を持って入隊しました。しかし、３ヵ月間の候補生教育も仕上げの段階に入ると、職種や任地が決まり部隊勤務の現実が見えてきます。軍事知識から思い描いていた防衛組織ではなくて、たとえば、能力に関係なく、１日でも早く自衛隊に入隊した方が絶対的に偉いという上下関係や、現代の戦闘には全く役に立たない銃剣道に強いことが出世の道であることなどを思い知らされます。理想と現実は違うと気付くのです。</span></p>
<p><span class="strongInContent">候補生教育での成績、部隊配属後の目標となる陸曹候補生課程での成績の順位で階級が昇級する早さなど自衛隊人生が決まり、部隊勤務での努力では覆すことはできない、努力しても報われないことも知ります。そして、集団生活なので嫌なことから逃れられない、退職したくても簡単に辞められないことも悟ったのでしょう」</span></p>
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<p>上記のような、自衛隊人生に自分が納得できるような希望を持てずに自殺した者は、多い時には年間100人もいた。84人を記録した2017年以降、徐々に減ってはきているが2021年も53人いて、週に１人は自殺で亡くなっている計算だ。ちなみに、『兵士を守る：自衛隊にオンブズマンを』（作品社）の著者、三浦耕喜氏が2013年11月に公表した人口10万人あたりの自殺率のデータは自衛隊員が33.3に対し、ドイツは7.5で同国の一般国民の11.5より低い。当時、アフガニスタンとの紛争真っただ中だったアメリカは20.2で自衛隊の方が高い。別の現役自衛隊員がこう続ける。</p>
<p><span class="strongInContent">「兵士の場合、生活に困り将来に不安を感じることはないため、ドイツ軍の値のように、一般国民よりは低く出るはずなんです。戦争に参加していない自衛隊の場合、紛争中だったアメリカよりも自殺率が高いということは原因はやはり“内部”にあるということです」</span></p>
<div data-friday-nextpage-lead="育児休暇を申請したら一蹴され……"></div>
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<figure id="attachment_319108" aria-describedby="caption-attachment-319108" style="width: 1024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="4745ef73"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/07/073b4ecfb6413b81b7967b544a715d60.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-319108" class="wp-caption-text">事件が起きた翌日の６月15日、家宅捜索と現場検証が実施された陸自日野基本射撃場で、施設前に集まる自衛隊員（写真：共同通信社）</figcaption></figure>
<p>なぜ、自殺率が高いのか。まず自衛官は退職を望むときに退職できないことがあげられる。一般の会社員と自衛隊員では雇用形態が違う。会社員は会社と本人との「契約」であるため、退職を望んだ場合は「契約解除」で済む。しかし自衛官は国からの「任命」であり、自衛隊は「命令と服従」の組織であるため、任期満了前、定年前に退職するには相当な日数がかかる。</p>
<p>さらに幹部（３尉以上）は総理大臣による任命なので、退職には防衛大臣の認可を必要とする。大臣の決裁を仰ぐ日は週に曜日が決められており、認可を受けられなければ次週以降へと先伸ばしになるため数年を要することすらある。</p>
<p>また各級指揮官は、部下から依願退職願いを出されると自らの勤務評定に悪影響が出ることがあり、それをおそれて自分の就任中に退職を許可しないこともある。隊員から中途退職を願い出られたら部隊ぐるみで「本人のより良い再就職のため」と何かと理由をつけては退職を引き延ばす。こういった組織的障害と自分の希望の狭間で悩んでいる間に精神を病み、後の人生に悪影響を及ぼすか、もしくは自ら命を絶つ、というつらい決断をすることになる。</p>
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<div>自衛官にも日本国憲法第22条第1項で定められた職業選択の自由<wbr></wbr>があり、本来は平時で大きな災害も無ければ、<wbr></wbr>陸上自衛官人事業務規則第28条に定める 30 日間と自衛隊法第31条に定める任命権者が退職を承認するまでに要する<wbr></wbr>日数、長くても1ヶ月の合計2か月で退職できる。<wbr></wbr>不当に退職希望を認めずに引き止めることは憲法に違反していると<wbr></wbr>も言える。</div>
</div>
<div></div>
<p>自衛隊特有の理不尽さも離職や自殺の主な原因となっている。2021年１月６日、NHKクローズアップ現代+で「ある自衛隊員の自殺」という番組が放映された後、すでに退官して独立していた私のもとに、以下のコメントが寄せられた。夫婦ともに陸上自衛隊員で、夫は幹部自衛官で管理職だった。</p>
<p><span class="strongInContent">「妻が勤務復帰しやすいよう私が育児休業申請を中隊長に具申しましたが、『幹部が取得すると皆、取得を申し出て部隊が機能しない』と一蹴されました。それでも権利を主張すると、師団長へ取得理由を説明する資料の作成を指示されました。作成しても、作成しても、『これでは師団長が納得しない』と言われ図板（書類を保持する板）を投げられ続け、理不尽さと希望をかなえられない組織であることを悟り、退職を決意しました。</span></p>
<p><span class="strongInContent">退職となれば陸自トップの陸幕長への退職理由説明を求められます。詳細に経緯を記した文書を作成したならば『この内容では退職できない』と言われ、赤字で例文が示され、『この内容をそのまま記入すれば退職できる』と促されましたが、とても承服できる内容ではありませんでした。そんな組織で自殺が増えるのは目に見えています」</span></p>
<p>幹部や結婚した曹は営外居住なので職場と生活は離れているが、営内居住者の曹と士は集団生活であるが故の「離れられない」苦しさがある。勤務から生活まで一日中、24時間、同じ生活空間の中で同じ固定した人間関係の中で暮らしている。したがって人間関係で問題が生じた場合に逃げようがない、夜中に起こされて朝まで説教など１日たりとも耐え難い状態に陥るリスクは常にある。</p>
<p>自衛隊は防衛を担う閉鎖的な組織であるが故に、一般国民が思う理想と実際に勤務している自衛官の現実とは大きな差があるものだ。その差を埋めようと努力はするが報われずにいる隊員も大勢いる。そうした先輩達の背中を見て自衛隊に失望する新隊員もいることだろう。</p>
<p>仕事が増えないように安きに流れることに至上の価値を置いてしまうと、それは安全や救命の手間が省かれてしまうことにつながる。それが今回のような乱射が起きる条件を揃えてしまった、という見方もできる。</p>
<p>自衛隊とは本来行うべきことをするために殺傷力のある銃を持たされている。特別な武器を持つが故に特別な危険がある。それに対するプロ意識が自衛官としての生きがいでもあるはずだが、そのプロ意識が失われることで自殺者が出てしまい、戦争もしていないのに隊員が減っている今の自衛隊は、とても有事に備えられているとは言えないだろう。</p>
<p>◆自衛官の自殺者数</p>
<figure id="attachment_319117" aria-describedby="caption-attachment-319117" style="width: 625px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="20a42a42"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/07/1e4997d34e5a887a9328dca3dbbed03d.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-319117" class="wp-caption-text">社民党党首、福島みずほ・参議院議員のtwitter（@mizuhofukushima）より抜粋</figcaption></figure>


元陸上自衛隊　衛生科幹部（衛生官）。陸上自衛隊富士学校普通科部と衛生学校の２職種で研究員を務めた唯一の幹部自衛官。自衛隊では2015年まで20年間つとめた後、愛知医科大学（災害医学・医療安全）や琉球大学医学部（救急医学）で非常勤講師をつとめた。現在は「株式会社いきがい」代表取締役、Tactical Medicine ESSENTIALS　アジア支部代表、技術経営修士（専門職）・発破技士

照井資規

6月は自衛官による銃乱射事件、銃を持ったまま逃走する不祥事が起きた。事件同様、深刻だったのが自衛隊員の自殺だ。週１人の割合で亡くなっている計算になる。その背景を追うと今回起きた事件とリンクしてくる

「退職したくても簡単に辞められない……」自衛隊の岐阜乱射事件と同様に深刻「週に１人が自殺」の実態

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