フィギュアスケートを中心に、冬季競技を幅広く執筆。競技会からアイスショーまで、取材範囲も多岐にわたる。

秦野 大知

「わかばスマイル」が氷上に帰ってきた！
<figure id="attachment_320242" aria-describedby="caption-attachment-320242" style="width: 1267px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="71abed27"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/07/52927e56f89f83df00800bb73bcad511.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-320242" class="wp-caption-text">復帰戦に臨む樋口新葉</figcaption></figure>
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7月2日に千葉市の「アクアリンクちば」でフィギュアスケート・アクアカップが行われた。2022年の北京冬季五輪女子で5位入賞した樋口新葉（22・ノエビア）は、今大会で昨年9月のロンバルディア杯以来、約10ヵ月ぶりとなる実戦復帰を果たした。ジャンプでミスがあり、得点は自己ベストに25点近く及ばない115.35点で3位だった。
「失敗しても成功しても、面白いっていうか、楽しいなって思いながら滑っていました」
樋口は復帰直後の心境をこう吐露している。
北京五輪後に判明した右すねの疲労骨折の回復が遅れ、昨季はシーズン途中に全休を発表。その際に日本スケート連盟を通じて、
「スケート人生で目標としていた五輪出場を果たし、一つ大きな山を越えた。しっかり充電して、もう一段階ステップアップした魅力あふれるスケートをお見せできれば」
とコメントした。
有力視されていた2018年平昌冬季五輪代表を、あと一歩で逃した樋口。北京五輪まで、雪辱を胸に4年間を駆け抜けた。そして今回、「またトップで戦えるようにしていきたい」と負けん気の強さを取り戻し、2023-24シーズンで再び輝きを放つ覚悟を示した。
<figure id="attachment_320244" aria-describedby="caption-attachment-320244" style="width: 2788px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="3fe2b9fe"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/07/90b0231a3b4f11b724f817c0c46d6d80.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-320244" class="wp-caption-text">2022年の北京五輪で、自身初となる五輪代表切符を摑んだ</figcaption></figure>
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2日の競技会ではフリーで新演目のコールドプレイ「フィックス・ユー/パラダイス」を披露。フィニッシュ後はしばらく立ち上がれずに肩で息をしていたが、観客のみならず、出場選手からも鳴りやまぬ拍手を浴び、表情には充実感が溢れていた。その後の囲み取材で、樋口は休養に至った思いを明かした。
<div data-friday-nextpage-lead="休養中に感じた「物足りなさ」"></div>
「ケガした後、1試合出てから休んだのですが、やっぱり気持ち的に持っていけない、難しいなと思う時期が長かったです。練習していても気持ちが入らなかったり、（技が）できなくても、あんまり何とも思わないような“無”の時間が続いた。そんなふうにスケートをするんだったらやらない方がマシ、1回スケートのことを忘れて生活しようと思ったんです」
昨年12月、米ハワイでホノルルマラソンに挑戦。初めて42.195キロを走り、今年2月にはイベントに金髪姿で登場した。「今しかできないこと」に次々と挑戦する中、
「生活している上で物足りなさがあった。何かしら戦うことだったり、自分の目標をつくって頑張ったりすることが好きなんだなと感じました」
自分の心にじっくりと向き合えたことで、自然と足がスケートリンクに向かった。
<figure id="attachment_320245" aria-describedby="caption-attachment-320245" style="width: 4589px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="d2a894e6"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/07/54b98f8207478f0564caa164f11ceebf.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-320245" class="wp-caption-text">2月には金髪姿を初披露し、周囲を驚かせた</figcaption></figure>
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氷上練習を再開したのは4月1日から。まだ3ヵ月だが、ルッツ―トーループの連続3回転ジャンプを成功させた。休養前よりも力みのないフォームでジャンプを跳べているという。
「今まで練習で『つらい』と思うことはたくさんありましたけど、『面白い』って思うことがあまりなかった。自分の技だったり、練習の強度だったりもプラスに捉えることがほとんどなかったけど、今は面白いと思ってやっている。だから、どんどんやりたくなるし、以前より計画的に練習ができている」
と、日々手応えを感じている。
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これほど晴れやかに語る樋口を見ると、どれだけの重圧と戦い続けてきたのかと、思いをはせずにはいられない。思い出すのは6年前、2017年12月24日のことだ。全日本選手権最終日が終わった後、発表された平昌五輪代表に樋口の名前はなかった――。
<div data-friday-nextpage-lead="這い上がり、摑んだ北京五輪の切符"></div>
2017-18シーズンは序盤戦から好調で、グランプリ（GP）シリーズでは2戦連続でメダルを獲得。上位6人で争うGPファイナルにも宮原知子（25）とともに出場。女子に2枠が与えられていた五輪代表争いでリードしていた。だが、それまで3年連続で表彰台に立っていた全日本選手権でまさかの4位に沈む。
代表切符は優勝の宮原知子と、2位で同学年の坂本花織（23・シスメックス）に渡った。当時樋口はまだ16歳だったが、関係者に肩を抱かれ、目を赤く腫らし「すみません」と、会場の武蔵野の森総合スポーツプラザ（東京都調布市）を後にする姿は痛々しかった。
自宅へと帰る車中で、
「もちろん悔しい、でも前を向くしかない」「まだこれで終わりじゃない」
との思いをツイートし、
「今日のことがあったから頑張れるって思えるようにこれから倍返しの始まりだ」
と誓いを立てた。
<figure id="attachment_320251" aria-describedby="caption-attachment-320251" style="width: 915px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="b112128e"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/07/9b61620441a599d74f2a9545e1f7372f-1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-320251" class="wp-caption-text">2017年の全日本選手権後のツイート</figcaption></figure>
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死にものぐるいで大技のトリプルアクセル（3回転半ジャンプ）を習得し、表現力にも磨きをかけていった。
そうして迎えた2021年12月の全日本選手権では、フリー「ライオンキング」の雄大な世界観を見事に表現。万感の舞で踊りきると両腕を突き上げて叫び、得点を待つ「キス・アンド・クライ」で歓喜の涙をこぼしている。
<figure id="attachment_320247" aria-describedby="caption-attachment-320247" style="width: 2220px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="2c344d6b"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/07/b6de8a8e69cbb7ea18c20f04f4ebc0dd.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-320247" class="wp-caption-text">2021年全日本選手権のフリーでは会心の演技を見せた</figcaption></figure>
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「4年間、悔しい気持ちで過ごしてきた。五輪代表になって、人生が変わりました」
この言葉に4年間の思いが凝縮されていた。
北京五輪出場は心身とも極限まで削って、つかんだ夢舞台の切符だった。昨年1年間の休養は必然だったといえるかもしれない。回復した今季はGPシリーズに出場する予定で、第3戦フランス杯（11月3～5日・アンジェ）と第6戦NHK杯（11月24～26日・大阪）にエントリー。
「心と体の状態と相談しながら、自分のペースでやっていきたい」と樋口本人が語るように、いきなりトップギアに入れることはないが、一方でトリプルアクセルは「戻したい」と意欲を見せる。
「五輪は自分の夢で、1回だけで終わりたくないと思っています」
2026年のミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪へ向けて、地に足をつけ、滑りを研ぎ澄ませていく。

秦野大知

共同通信社（1・5枚目）、アフロ（2・3枚目）

1年間の休養から、女子フィギュアスケート北京五輪代表の樋口新葉が帰ってきた。休養中には新しい挑戦も行い、気合十分。見据えるのは2026年ミラノ五輪である。

五輪選考で見せた「二度の涙」…1年間の休養から復帰・樋口新葉「劇的な復活ロード」感涙秘話

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