SKE48からカフェ経営へ 手束真知子「女の子管理術」
アイドルの「セカンドキャリア」 店舗経営やアイドル管理の秘けつ、“次世代のアイドル運営の姿”が見える?
アイドル戦国時代とうたわれた時代が過ぎて、2018年はPASSPO☆(2009年結成)、ベイビーレイズJAPAN(2012年結成)など大型グループの解散も目立った。一方で、グループを卒業したり、事務所との契約を終了させたりした元アイドルたちが、SNSを駆使したセルフプロデュースで存在感を発揮するケースが増えてきた。戦国時代を駆け抜けてきた元アイドルたちは、自身のアイドル時代に何を思い、どのようなセカンドキャリアを思い描いているのか。

ステージ併設型エンターテインメントカフェ「発掘!グラドル文化祭」を経営する手束真知子(てづかまちこ 32歳/1986年2月25日生)にインタビューを行った。手束は、ミスマガジン2004ミスヤングマガジン賞(講談社)を受賞し、SKE48とSDN48のメンバーとして活躍した後、自身で会社を設立。食品衛生管理者などの資格を取得して、資金調達からテナント探し、店員として働く女の子のスカウトまで1人でこなし、29歳だった2015年10月にアイドルオタクで賑わう東京・秋葉原に同店をオープンした。手束が語るアイドル経験を生かした店舗経営や、アイドル管理の秘けつから、“次世代のアイドル運営の姿”が見えてくる?
■16歳からアイドル、起業家の道は「自然に」
――お店を始めた理由は「30歳までに形として何かを残したかったから」、「自分がグラドルとして活躍していたのでグラドルがもっと活躍できる場所を作りたかったから」とのことですが、アイドルやグラドルとしての活動に不安があった?
手束真知子(以下、手束):不安はなかったのですが、私は“進化欲”が強くて、新しいチャレンジをしたいタイプなのです。16歳のときから“売れる”ということだけを目標にアイドルをやってきました。27歳のときに、私が目指す“売れる”ということは、もう、私にはないのだなと感じました。だったら、アイドルとしてやってきた経験を活かして、次のステップに進みたいと思いました。「経営者になりたい」とか、「社長になりたい」という気持ちはなかったのですが、「グラドルが活躍できる場所を作りたい」と考えたときに、自然に起業の道を選びました。
会社は今、決算を3回やって、4期目に入っています。実は、「発掘!グラドル文化祭」の1周年のときに、CDをリリースして、大型の宣伝トラックを走らせたのですが、大赤字になってしまいました。その後、おもしろいアイデアが浮かんでも、予算的に制限されてしまった時期がありました。やりたいことをやるためには、黒字が大切なのだなと痛感しました。
※コンセプトカフェ〔発掘!グラドル文化祭〕の仕組み
グラドルたちが様々なコスチュームや水着姿で店員を務めるカフェ
。券売機で「1時間」「2時間」「1day」からチケット選びを購入・入店。テーブル席に案内され、ドリンクやフードを注文するもよし、 グラドルたちとお話をするもよし。 グラドルたちにオリジナル楽曲でのライブパフォーマンスをリクエ ストすることもできる。無料写真撮影タイムあり。現在、 グラドル23名が在籍。 住所:〒101-0021 東京都千代田区外神田3-8-5イサミヤ第7ビル4階
営業時間:水・木・金(17:00~22:00)、土・日・祝(15:00~22:00)、定休日:月・火(祝日は不定休) 【システム】
・初心者コース 1時間3,000円(税込/ソフトドリンク飲み放題)
・文化祭コース 2時間5,000円(税込/ソフトドリンク飲み放題)
・グラドル満喫コース 1day8,000円(税込/ソフトドリンク飲み放題)
■“推し”や“干し”はなし “はじっこのキャラ”は作らない
――アイドルの集団だと、“推し”や“干し”が話題にあがることもあります。店員として働く女の子たちを管理するうえで、経営者として気を付けていることは?
手束:徹底的に全員を平等に扱います。「発掘!グラドル文化祭」というグループとして店員たちが外部のライブステージに立つこともあるのですが、ライブでは、毎回出演している子にセンターなど、いいポジションに立ってもらっています。そのとき、「ライブにたくさん出ているから、あなたは前ね」とポジションの理由もしっかりと伝えます。アイドルグループだと、いわゆる、「“はじっこのキャラ”だから“はじっこのポジション”に立つ」という現象が生まれてしまうこともあるのですが、“はじっこのキャラ”は作らないようにしています。
私がグループアイドルのメンバーだったときに一番嫌な思いをしたのが、「あなたの代わりは誰でもできるのよ」と言われたときです。私は絶対に言わないし、そもそも、そういう発想を持たないようにしています。「発掘!グラドル文化祭」では、「年齢が高いからアイドルはできない」ということもありませんし、「年齢が上だから“はじっこ”だよ」ということもありません、何歳の子だって、自分が思うようなパフォーマンスや表現ができるようにしています。
――手束さんのグループアイドル時代は、運営の人たちとのコミュニケーションを自分から積極的に取るタイプではなく、“蔭で努力を重ねて、劇場公演のパフォーマンスでひたすら頑張る”というタイプでした。いま経営者に立場が変わって、女の子たちとのコミュニケーション上、注意していることは?
手束:“運営”の立場を経験して、初めてメンバーと運営スタッフとの間のコミュニケーションの大切さを理解できました。なので、女の子たちの様子はいつも気にかけて、相談に乗ってほしそうだったら、絶対に声を掛けます。女の子たちが相談しやすい空気を常に作るよう心掛け、2人だけでごはんに行ったりもしています。個々の悩みをクリアーにしながら、それぞれに合った形で活動していけるようにしてあげたい、というのが一番の想いです。
■経営者としてのやりがい「毎日、感じています」
――経営者として工夫している点や、やりがいを感じることは?
手束:グループアイドル時代は、「お客さんが来てくれること」も、「お客さんが笑顔でいてくれること」も当たり前でした。「発掘!グラドル文化祭」をオープンしてから、それがまったく当たり前ではないことを知りました。アイドル時代、劇場公演が終わった後にハイタッチでお見送りしたり、はあったのですが、当時は、それが大切なことだと理解できていませんでした。
「発掘!グラドル文化祭」では、店員の女の子たちは、ハイタッチや握手などの“接触”はしないのですが、お客さんが帰るときは、私が必ず握手をし、エレベーターの扉が閉じるまで全員でお見送りをします。お客さんが来てくださったときも、全員で「わっしょい!(=いらっしゃいませ!)」と言います。全員で心を込めてお迎えお見送りをし、他にもたくさん工夫していますので、お客さんに「楽しかった」と言ってもらえると嬉しいです。
――最後に、起業したいと思っているアイドルや元アイドルにメッセージをお願いします。
手束:起業って、ぜんぜん、難しくありません。なので、やってみたいことで、できることがあったら、どんどん始めてしまうことがよいと思います。服を作ることが好きなら、どんどん服を作ってしまえばよいと思います。今はネットを利用して服を売ることもできます。そうやって、お金をかけずにできることからチャレンジしてしまうことが大切だと思います。
******

******
「発掘!グラドル文化祭」は、手束のアイドル経験が生かされる形で運営されており、それができるのは、自らセカンドキャリアとして起業家を選んだからのようだ。
「発掘!グラドル文化祭」で働くグラビアアイドルで、富山県のご当地アイドル・Vienolossi(ビエノロッシ)のメンバーとしても活躍する橘由紀子はこう語る。
橘:(手束さんは)アイドルの気持ちを分かってくれる経営者です。『発掘!グラドル文化祭』では、ソロ曲がもらえたり、お仕事を紹介してもらえることもあるのですが、お店での実績が高い子から順番に採用されるので、『有名じゃない事務所に所属しているから自分にはお仕事やオーディションを回してもらえないのだな』とか、『コミュニケーションが苦手で事務所の偉い人に気に入られることができないから売り込んでもらえないのだな』という卑屈な発想が生まれることがありません。グラビアアイドルをやっている女の子が何人も働いているお店だと、よく『楽屋は怖いんでしょ?』と言われるのですが、『発掘!グラドル文化祭』は、楽屋もとても平和ですよ!
手束のようなアイドルの気持ちが分かる経営者が増えれば、アイドル界がより活性化し、再び“戦国時代”と呼ばれるほどの盛りあがりを見せるのかもしれない。セカンドキャリアとしてアイドル業界の中で実業家を選んだ手束のますますの活躍に期待したい。
文・撮影:竹内みちまろ