あなたのマンションは大丈夫!? 国税庁の「タワマン節税」対策で訪れる「マンション価格暴落」の未来
右肩あがりに値上がりを続けるマンション価格が、大きな転機を迎えている。
その原因は、昨年末に発表された『令和5年度税制改正大綱』だ。これにより国税庁は早ければ来年1月からマンションの相続税の算定方法を見直すことを発表した。
相続税とマンション価格――。一見すると無関係に見える両者だが、実は緊密な関係にある。キーワードは「タワマン節税」と言われる富裕層が使う節税手法だ。タワマンなど戸数が多いマンションの住戸を相続する場合、一戸建てなどに比べて税負担を大幅に軽減することができる。それを利用し、富裕層が相続・贈与の節税目的で超高層物件を購入することがあり、これが不動産価格の値上がりを生む一因となっている。
国税庁はこのタワマン節税の封じ込めを決めたのである。では新ルールの相続税算定方法ではタワマン所有者はどのくらい相続税が増えるのか。たとえば東京都内の市場価格1億1900万円のタワマンのケースでみると、現行制度による資産価値の評価額は3720万円にしかならないのだが、新制度では7142万円となる。そして相続税は子供が1人の場合だと、現行制度では12万円ですむが、新制度では508万円。一気に約500万円も増税になるのである。(当該のマンションの市場価値は国税庁調べ)
税の公平性という観点からタワマン節税を封じることは良いことなのであろう。しかし、この新税制は一般の人々にとっても決して対岸の火事ではない。それが「マンション価格の暴落」である。節税ができなくなることでタワマン価格が下がり、つられて一般のマンション価格にも影響が出るというのだ。住宅ジャーナリストの榊淳司氏が解説する。
「東京の都心エリアの新築タワマンにおいて、2〜3割ほどの住戸が相続税対策で買われていると言われています。タワマン節税が封じられることにより、この需要がかなり鈍ると思います。
加えて資産を海外に逃がすなど節税対策として他に良いものがあれば、資産家がタワマンを売却するトレンドも生まれるかもしれません。これによりタワマン価格にマイナスの影響が出てくる可能性がある。そしてマンション市場を牽引しているタワマン価格が下がると、他のマンションにも影響が出るわけです」

不動産経済研究所の調査によると、5月の首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)の新築マンション1戸あたりの平均発売価格は8068万円。前年同月比で3割以上もアップしている。今は過熱しているマンション価格だが、タワマン節税の封じ込めがトレンド転換のポイントになるかもしれない。
市場価格への影響が見えてくるのは早くて秋以降になりそうだが、一旦下がりだすと売りが売りを呼び下落に歯止めがかからなくなる可能性が高い。
マンションを購入する多くの人は、「“掛け捨て”となる家賃より、資産としてマンションを購入したほうが得だ」と考える場合が多いが、今後は凄惨な未来を迎えるケースも増えそうだ。榊氏が続ける。
「さまざまな事情で、どうしてもマンションを売らなければならなくなったときは借金だけ抱えるリスクがあります。その最たるものが『ペアローン』。今のマンションは高額なので夫婦の収入を合算してペアローンを組むことが多いのですが、離婚したら大変です。
一緒には住めませんから、たいがいは物件を売却することになるのですが、ローンの残債以下の価格でしか売れなければマンションはなくなり借金だけ抱えることになります」
さらに日銀による政策金利引き上げは、いつ行われても不思議ではない。金利引き上げが行われれば、変動金利型の住宅ローンを組んでいる人は、毎月の返済が増える。実際、政策金利の上昇(現在5%)がつづくイギリスでは、収入に対する住宅ローン返済費用は約50%、つまり収入の半分がローンの返済に充てられているという悲惨な状況も発生している。
資産家だけでなく、一般の方々もタワマン節税封じの行方には注視する必要があるだろう。
PHOTO:Minami_Wind(1枚目) はっちー。(2枚目)