『カイジ』『金田一』…スピンオフ作品の勢いが止まらない! | FRIDAYデジタル

『カイジ』『金田一』…スピンオフ作品の勢いが止まらない!

【試し読み公開中】『トネガワ』『ハンチョウ』担当編集インタビュー&『犯人たちの事件簿』著者・船津紳平氏インタビュー

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今や“一大ジャンル”と呼んでいいほど人気を確立しつつある「スピンオフ」漫画。「スピンオフ」とは、本編から派生した作品全般のことを指し、映画やドラマ、漫画などでは「外伝」や「番外編」と呼称されることもしばしばある。漫画の場合、本編の作者がそのままスピンオフ作品を手掛けることも多いが、全く別の作者が執筆するケースもあり、その形態は様々だ。

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また、以前は脇役や敵役が主役になるのが一般的だったが、近年では本編で名前すら出てこないような“モブ”キャラクターにまでスポットライトが当たるなど、本編に捉われない新しい切り口&ジャンルの作品が増えてきている。有名作品のスピンオフ漫画をざっと下記に挙げてみるが、まさに群雄割拠といった具合だ。

●『賭博黙示録カイジ』…『中間管理録トネガワ』、『1日外出録ハンチョウ』
●『金田一少年の事件簿』…『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』
●『名探偵コナン』…『ゼロの日常(ティータイム)』、『犯人の犯沢さん』
●『シティーハンター』…『伊集院隼人氏の平穏ならぬ日常』
●『ジョジョの奇妙な冒険』…『岸辺露伴は動かない』
●『闇金ウシジマくん』…『闇金ウシジマくん外伝 らーめん滑皮さん』
●『マギ』…『マギ シンドバッドの冒険』
●『弱虫ペダル』…『弱虫ペダル SPARE BIKE』
●『3月のライオン』…『3月のライオン昭和異聞 灼熱の時代』
●『ドラゴンボール』…『ドラゴンボール外伝 転生したらヤムチャだった件』

中でも今最も熱いのは、言わずと知れた人気作『賭博黙示録カイジ』のスピンオフ作品である『中間管理録トネガワ』だ。本作は2017年の「このマンガがすごい!」オトコ編1位に輝き、その翌年の2018年には、同じく『カイジ』スピンオフである『1日外出録ハンチョウ』も同賞8位にランクインした。

また、『金田一少年の事件簿』の犯人目線で描いた『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』は、作中で犯人が呟く「やることが…やることが多い…!」という汎用性に溢れた台詞がツイッター上で瞬く間に拡散されるなど、SNS上でその人気が爆発。一世一代のトリックをことごとく金田一少年に看破されてしまう犯人たちの悲哀が、本家『金田一』とそっくりの絵で、しかし勢いのあるギャグ調で展開されるその作風が話題を呼んだ。

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同じ推理漫画で忘れてはならないのが、2018年公開の劇場版『名探偵コナン ゼロの執行人』でその人気を不動のものとしたキャラクター・安室透を描く『ゼロの日常(ティータイム)』である。『名探偵コナン』の大人気キャラクターである安室透は、私立探偵の安室透/公安警察の降谷零/“黒ずくめの組織”のバーボンという3つの顔を持つ“トリプルフェイス”の男。そのミステリアスさや、何をやらせてもパーフェクトなスマートさ、そして因縁の相手である赤井秀一との関係性などが多くのファンを魅了し、メインキャラクターを務めた前述の映画『ゼロの執行人』を91.8億円というメガヒットへと導いた。

映画の興奮冷めやらぬ内に連載開始した『ゼロの日常(ティータイム)』は、シリーズ累計130万部を突破。同じく『コナン』スピンオフである、”黒塗りシルエットの犯人”を主役にした『犯人の犯沢さん』も、シリーズ累計100万部のヒットを飛ばしているという。

「最近のスピンオフ作品の『原作とそっくりの絵・画風で、原作が絶対やらないようなギャグをやる』という路線は、『北斗の拳 イチゴ味』の影響がやっぱり大きいと思います。あの作品を最初見た時、『ここまでやっていいんだ』とビックリしたんですが、それが話題になって、ファンや読者に受け入れられて、アニメ化するほどの人気作になったというのは相当(影響が)大きかったと思います」(『トネガワ』『ハンチョウ』担当編集・村松充裕氏)

『北斗の拳 イチゴ味』は、『WEBコミックぜにょん』で2013年3月1日から連載を開始した、『北斗の拳』の「聖帝」サウザーを主人公としたスピンオフ作品だ(現在は作者の体調不良により休載中)。原典作画者の原哲夫そっくりの絵で、「キャラ崩壊」と言われてもおかしくないくらいはっちゃけたギャグを連発するその内容は、確かに衝撃的だった。

あの漢(オトコ)らしく熱い絵で、本編では絶対出てこなそうなギャグをやるという大博打。しかも、超が付くほど有名作品である原作を積極的にいじっていくという、読者からしても「いろいろ大丈夫なのか?」と心配になってしまうようなことを、公式公認でやる――ツイッター風に言うなら、「公式が病気」感が刺激的で面白かった。それでいて、「原作をバカにしている」という風には感じず、むしろ、徹底的に原作に似せたその描きこみからは、「原作愛」すら感じるのだ。

『カイジ』本編では帝愛グループ・兵藤会長の右腕としてカイジを苦しめる利根川幸雄。中間管理職ならではの苦労や苦悩が、『トネガワ』では原作の福本伸行氏そっくりな画&ナレーションで描かれるのが笑いを誘う

こういった「原作を巧みに模倣しつつも、徹底的にパロる」という路線は、『犯人たちの事件簿』や『トネガワ』『ハンチョウ』にも共通している。

「『犯人たちの事件簿』の連載が始まる前は、『原作ファンの方に受け入れてもらえるだろうか』という不安がとにかく大きかったです。『金田一』という超有名な作品で、しかも犯人たちが主役のギャグですから……。原作者の方々には『面白い』とOKを貰っていましたが、実際に読者がどういう反応を寄せて下さるかは全く予想がつきませんでした。それが、1話が公開されてすぐにネットでバズって、それもバズり方がとても好意的なものだった。『金田一』ファンの、懐の大きさに支えられている漫画だと思っています」(『犯人たちの事件簿』著者・船津紳平氏)

『金田一少年の事件簿』記念すべき第1話「オペラ座館殺人事件」の犯人である有森裕二(ありもりゆうじ)。金田一少年の活躍はここから始まったが、その裏で、演劇部小道具係らしからぬ演技力を持つ有森も人知れず努力していたのだ……

『金田一少年の事件簿』は、シリーズ累計発行部数が9000万部を超える言わずと知れた超人気作。これまでアニメ化に加え、幾度もドラマ化されてきたが、『犯人たちの事件簿』ではそれすらも巧みにネタとして昇華させている。(本編屈指の人気を誇る“地獄の傀儡師”こと高遠遙一(たかとおよういち)の登場が話題となった4巻だが、「堂本剛君に激似‥!」と金田一の容姿に驚く家政婦・村西弥生は、もしかすると高遠以上の爆笑を読者にもたらしてくれるかもしれない)。

「とにかく『金田一ファンの方に楽しんでもらおう』と思って描いています。僕自身が実は『金田一』をちゃんと読んだことがなかった人間なんですが、原作をひたすら読みこんで、犯人目線で考えた時に、『よく考えたら面白いな』『金田一、敵に回すとメチャクチャ怖いな』という細かい気付きをどんどん膨らませていって、原作単行本とにらめっこしながらひたすらに模写をしています(笑)。『金田一を読んだことがないけど「犯人たち~」を読んでいます』という読者の方もいて、そこは僕自身驚いています。恐れ多い話ですが、そこから原作にも入って下さる読者の方がいるのはとても嬉しいですね」(船津氏)

犯人たちにしてみれば、「お前さえいなければ…!」としか思えない金田一少年の存在。超有名な決め台詞「ジッチャンの名にかけて…!」は、もはや犯人たちにとっては恐怖でしかない。読んでいると次第に犯人目線になって、「やめろ~金田一~!」と頭を抱えてしまいたくなるのが『犯人たちの事件簿』の面白さだ

『金田一少年の事件簿』のように長年連載が続いているシリーズでは、当然単行本の発行巻数も膨大で(現在「イブニング」で連載中の『金田一37歳の事件簿』も含め、2019年3月20日時点でシリーズ70巻超)、読み始めたいと思ってもハードルが高いのが正直なところ。「いつか読もう」と思って、もううん何年…という人も少なくないのではないだろうか。また、シリーズが続いていくなかで、ライフスタイルの変化などにより、作品から離れてしまったという読者も当然いるだろう。

原作に限りなく絵柄を寄せ、作中のキャラクターが活躍するスピンオフ作品は、原作を知っている読者からすれば「懐かしい!」「そうそう、こうだった」とノスタルジーを掻き立てられつつ、当時原作を読んでいた頃には気付かなかった新しい視点で楽しめる。原作を読んだことのない読者にとっては、スピンオフ作品の後に原作を読んでみることによって、「あの元ネタはこれか!」と答え合わせをするような楽しみ方も出来るだろう。もちろん、原作に触れないままスピンオフ作品だけを読んでも全く問題がない。漫画の楽しみ方は読者それぞれなのだから。

怪しげなシーンやショッキングなシーンでコマ内に登場する「!?」の文字は、『金田一少年の事件簿』ファンにとっては「これこれ!」と思わず嬉しくなってしまうお馴染みの光景だが、原作を知らなくてもインパクトは絶大と思われる

このように、原作ファンも、新規のファンもそれぞれに楽しむことが出来るというのはスピンオフ作品ならではの大きな強みだが、『トネガワ』と『ハンチョウ』に関しては、なんと本家である『カイジ』ファンのことは全く考えていなかったのだという。

「『カイジ』を知っている人向けのものをやろうという気持ちはあまりなくて、それよりはむしろ、全く『カイジ』を読んだことのない人に向けて作っているところが大きいです。『鉄骨渡り』や『焼き土下座』など原作の有名なネタを扱う際にも、『(原作ネタが)わかる人にだけわかればいい』ぐらいの気持ちでやっていて、『カイジ』を全く知らなくても楽しんでもらえるように、という部分に注力しています。僕自身は前から『カイジ』が好きで、利根川って面白いキャラだよな、こういう中間管理職のオジサンっているよな、そしてこんな“働くオジサン”の苦悩というのを『カイジ』のあの破天荒な世界で真面目に、リアルなサラリーマン目線で考えたら面白いんじゃないかと思っていたんです」(『トネガワ』『ハンチョウ』担当編集・村松充裕氏)

『カイジ』本編では単なるモブキャラでしかない黒服たちだが、『トネガワ』では彼らにもスポットライトが当たる。が、「全員サングラス&黒スーツ」という没個性・画一的な見た目であることから、「つくかっ…!区別…!!」と部下の名前を覚えようとする利根川を苦しめる

これまでアニメ化や実写映画化もされてきた『カイジ』は、“福本節”とも呼ばれる独特のナレーションや擬音語が印象的な作品だ。場の不穏さや動揺を表すお馴染みの「ざわ…ざわ…」や、「圧倒的閃きっ…!!」といったフレーズがその代表。特に「圧倒的○○」という形容詞は、『カイジ』の世界観を語る上で欠かせない重要な要素なのだ。『トネガワ』や『ハンチョウ』でもこの福本節は継承されつつも、完全にギャグに振り切っている。

部下の黒服たちと上司・兵藤会長との間で板挟みになる中間管理職・利根川幸雄の苦悩が、“社会人あるある”的な視点で描かれる『トネガワ』。「地の底に借金返済の為の『地下労働施設』がある…」という『カイジ』ならではの設定を活かし、「1日外出券」マスターであるE班班長・大槻による、まさかの飯テロ&ぶらり旅レポ的な姿がゆる~く描かれる『ハンチョウ』。

趣は異なる両作品だが、確かに『カイジ』を読んだことがなくても、利根川や大槻たちの姿に笑わされている内に、だんだんと彼らの『働く姿』や『1日を満喫する姿』に妙な親しみが湧いてくるのだ(たとえ、二人が原作で「悪魔的」にカイジを追い詰めるキャラクターであるとしても)。

「『トネガワ』が“社会人あるある”だとしたら、『ハンチョウ』の大槻や、その仲間たちのノリは“大学生あるある”ですね(笑)。ギャグ漫画ではあるのですが、両作品を読んで、『漫画の世界も僕らの生きてる現実も、実はそんなに遠くないんじゃないか?』って身近に感じてもらえれば嬉しいし、『利根川たちが働く「帝愛グループ」って、本当にどこかにあるのでは?』とビル群を見上げた時なんかに思ってもらえたりしたらさらに嬉しいです」(村松氏)

殆どの人間が「24時間しかない…!」と焦って自滅するなか、「1日外出券」のプロであるE班班長・大槻はいつでも余裕を失わない。そんな頼もしい班長を慕う側近の沼川や石和(いさわ)たちとの、まるで男子学生がはしゃいでいるかのようなトークも『ハンチョウ』の見所のひとつだ

「『カイジ』ファンでなくとも読めるように」というところから始まった『トネガワ』『ハンチョウ』と、「『金田一』ファンが楽しんでくれるように」という気持ちで描かれている『犯人たちの事件簿』。スピンオフ作品として絶大な人気の両作品が、まったく真逆のスタンスを取っていたのは面白い限りだ。

『犯人たちの事件簿』は最新5巻が3月15日に発売され、2019年夏に発売予定の6巻で、原作の初期作品である「FILEシリーズ」を網羅することになる。また、本編とはうって変わって真面目に利根川が人生相談を受ける『中間管理録トネガワの悪魔的人生相談』という「スピンオフ作品のスピンオフ」とも言える一冊も2月12日に発売された。

その他、劇場版が10億円超えの大ヒットとなった『シティーハンター』でも、お馴染みのキャラである「海坊主」を主人公に据えた『伊集院隼人氏の平穏ならぬ日常』の第1巻が1月19日に発売された。Webマンガサイト「コミックタタン」で連載中だが、同サイトではなんとあの懐かしのアニメ『魔法の天使クリィミーマミ』の公式スピンオフ漫画、『魔法の天使クリィミーマミ 不機嫌なお姫様』も連載中である。

今後も、まだまだスピンオフ作品の勢いは止まりそうにない。


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まとめて一気読み!『中間管理録トネガワ』&『1日外出録ハンチョウ』①~②話、『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』①~③話

  • 取材・文大門磨央

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