ドラフト1位候補の〝超高校級左腕エース〟…東松快征（享栄）＆前田悠伍（大阪桐蔭） 「Ｗ密着撮」

大学生投手が「豊作」とされる今秋のドラフトにおいて、高校生の投手が１位に食い込むとすればこの二人の左腕しかいない。１年秋から大阪桐蔭の事実上のエースとして君臨してきた前田悠伍と、享栄（愛知）の豪腕・東松快征(とうまつかいせい)だ。

既に３度の甲子園を経験している前田に対し、東松は一度も聖地のマウンドを踏めていないものの、最後の夏を前に一気に評価が高まっている。

「前田はずるいっす。僕も先輩には恵まれましたが、１学年上に（昨秋のドラフトで横浜DeNAに１位指名された）松尾汐恩(しおん)さんのようなキャッチャーがいたら、そりゃあ投球も良くなりますよ（笑）。僕も一度は、360度見渡しても観客が入っている甲子園球場で投げてみたい。いや、絶対に行かなければいけない場所です」

パワーリフティング日本王者の父を持ち、厚みのある上半身とずっしりと安定した下半身からMAX152㎞/hの直球を投じる。福岡ソフトバンクの動作解析チームが東松のボールを計測したところ、プロの平均が２２５０回転／分ほどの直球の回転数が２５８０を示した。フォークは50㎝の落ち幅があり、「プロの中でも特殊球に位置づけられる」と評価されたという。

「以前、スカウトの方に『直球とフォークは一級品だけど、スライダーは三流』と言われたのが悔しくて。スライダーにも磨きをかけてきました」

右打者の膝元に投げ込むスライダーは立派な武器となった。昨年までは享栄の先輩・近藤真市氏（元中日）に似た、右肩を高く上げ、左肩を下げながら反動を利用して球速を出すフォームだった。しかし現在は両肩を平行にして体重移動する、制球重視のフォームに。

「以前のフォームのほうがしっくりきていたんですけど、猛暑のなか連戦がある夏の高校野球では、疲労が少ない現在の投げ方が勝ちにつながりやすい。今は高校野球仕様です。自分の理想を追求するのはプロに入ってからでいい」

将来はメジャーリーグに挑戦し日本人初のサイ・ヤング賞を獲る――そんな野球人生を中学生の頃から思い描いてきた。

「その前に、今年の目標が３つある。甲子園で日本一になり、９月に台湾で開催されるU−18野球Ｗ杯で世界一になり、ドラフトで競合で１位指名されること。僕は何でも一番を目指しているし、大きな夢を口にするなら、競合でプロ入りするくらいじゃないとダメだと思うんです」

一方、大阪桐蔭の前田はこの春のセンバツ準決勝で報徳学園（兵庫）に敗れて以降、ベールに包まれた状態で過ごしてきた。春季大阪大会、近畿大会と、主将でありながらベンチを外れ、６月に入ってからも公の場で登板しなかった。それゆえ、昨秋に右脇腹を痛めた前田が、今度は左ヒジや左肩に不安を抱えているのではないか――そんな憶測も飛び交った。

前田はその憶測を真っ向から否定し、万全をアピールした。

「ケガの不安は何もないです。去年の秋は（明治神宮大会で）日本一という良い経験をさせてもらったんですけど、センバツで悔しい負け方をした。下半身が安定せず、フォームがバラバラだった。まだまだ力不足を感じました。『春はトレーニングに専念』と先生方に言われていたので、投球フォームを一から見直したんです。最後の夏は笑顔で終わりたいです」

直球のMAXは148㎞/h。変化球は動作解析のスペシャリストからメジャー級と評価されたチェンジアップに加え、スライダー、カーブと豊富だ。

春に比べて太ももは一回り太く、身体も大きくなっている。東松と前田は、今年４月に実施された高校日本代表候補の合宿で親交を深めた。前田は東松が普段行っているトレーニングのメニューについて食い入るように聞き入った。

「ウエイトのメニューも、具体的に何㎏の重さを上げているのか、と細かく聞いて参考にしました。その結果、体重が70㎏台から81㎏に増えましたね。下半身の力がついたことによって、前より力を入れなくても球速が出るようになったと実感しています。といっても、球速で東松と張り合うつもりはない。本心は競いたいんですけど、球速を追い求めたら、自分はコントロールが悪くなってダメなんで」

２人は６月１日にバンテリンドーム ナゴヤで行われた享栄学園の創立110周年記念事業の招待試合で投げ合うことを誓い合っていた。だが、前田が登板を回避して実現ならず。両雄が初めて相まみえるとしたら８月――灼熱の甲子園だ。

『FRIDAY』2023年8月4日号より