企業がスポーツチームを持つ意味 神戸製鋼の優勝に見えた希望 | FRIDAYデジタル

企業がスポーツチームを持つ意味 神戸製鋼の優勝に見えた希望

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中央に見えるのが、世界最高のスタンドオフと言われたダン・カーター
中央に見えるのが、世界最高のスタンドオフと言われたダン・カーター

企業がスポーツクラブを持ち続けるメリットを思い知らされた。

神戸製鋼である。

その看板のラグビーが復活したのだ。

2018年12月15日、トップリーグで実に15季ぶりとなる2回目の優勝を果たした。サントリーに55-5。兼ねていた日本選手権では10回目のタイトル奪取となる。

東京・秩父宮ラグビー場には山口貢社長の姿もあった。この優勝は、新日鉄住金、JFEに次ぐ国内3位の売上高を持つ鉄鋼会社にとって、大きなイメージアップにつながる。

神戸製鋼のデータ改ざんが明るみに出たのは2017年10月だった。自動車や航空機用のアルミや銅製品において、強度などが満たされていない場合でも出荷をしていた。この不正は1970年代から50年近くに渡って続けられていたという。

会社のダメージは計り知れない。川崎博也会長兼社長は責任を取って、改ざん発覚から約半年後の2018年4月に辞任する。それでも、ラグビー部は存続された。これまで、神戸製鋼は鉄鋼不況などもあって、男子バレーボール、陸上、野球と全国レベルの3つのクラブをなくしていた。

男子バレーボールは1995年だった。この年の1月17日には阪神淡路大震災があった。会社は大きく被災する。神戸市にある本社は倒壊。灘浜にあるラグビーグラウンドは液状化を起こし、半年以上使えなかった。全国社会人大会(トップリーグの前身)、日本選手権の7連覇はストップした。

陸上部は1999年に活動を停止する。喜多秀喜、武冨豊といった日本を代表するマラソンランナーを輩出していた。

野球部は2002年に「休部」が発表された。1977年には都市対抗を制する。中日、西武で2000本安打を放ち、名球会入りした和田一浩らが在籍した。

そのスポーツに退潮的な流れの中でも、ラグビー部には手をつけなかった。

7連覇を裏で支えた亀高素吉元会長の存在は大きかったが、その後の経営陣もラグビー部を「別物」として扱った。その効用が、会社としての危急存亡の時期に大きく現れた。「ラグビーを大切にするよい企業」というイメージが世間に広がる。おりしも今年2019年は、初の日本開催のワールドカップの年でもある。

千言万語を費やすより、ひとつの優勝という事実はすべてを変える。トップリーグはプロではない。ラグビーは開催日数や規模から野球やサッカーと比べ、興行そのものとしての利益を生みだしにくい。それでも、クラブを持つ外向きの大きな理由は、今回の優勝が物語る広告宣伝にある。

同時に内向きの理由もある。社員の士気を高揚させ、企業としての一体感を保つ。帰属意識を高めることである。

神戸製鋼はグループ全体として約37000人の社員をかかえている。会社関係者は話す。

「データー改ざんの時は、会社にバンバン電話がかかってきた。『わしの車を買い替えんかい』というようなものあった。社員は疲弊しながらも、信頼回復に努めた。でも、彼らに報いることはできない。ボーナスを出したり、海外旅行に連れて行く訳にもいかない。その中でラグビー部が勝てば、社員にたいするせめてものなぐさめになる」

チケットを渡し、動員をかける。スタジアムではチームグッズを手渡す。時には弁当やお茶もつける。それだけで社員やその家族にとっては慰安のひとつになる。少なくとも、翌日の勤労意欲につながってくる。

2016年10月、「ミスター・ラグビー」と呼ばれた平尾誠二ゼネラルマネジャー(GM)が亡くなった。実質的なチーム運営は、福本正幸チームディレクターに引き継がれた。

その2016年度のリーグ戦は4位。続く2017年度は5位で終わった。このシーズン中にデーター改ざんが露見した。

そして、2018年度シーズンに向け、「15億から20億円の間」と言われているチーム運営費を使い、積極的な補強に入る。

その代表は「世界の至宝」と呼ばれるダン・カーターの獲得だ。「オールブラックス」と呼ばれる世界最強のニュージーランド(NZ)代表として、112試合に出場したスタンドオフである。

36歳の体調面が不安視されたカーターの控えとしてヘイデン・パーカーも押さえた。さらにセンターのリチャード・バックマンをパナソニックから、ロックのグラント・ハッティングをクボタから移籍させる。日本代表の経験者、フッカー・有田隆平をコカ・コーラから、スクラムハーフ・日和佐篤をサントリーからそれぞれ獲得する。

総監督に据えたのはウエイン・スミスだ。NZ代表ヘッドコーチ(監督)やアシスタントコーチの経験がある世界的な指導者を迎えた。

人材の集積は潤沢な予算が理由だけではない。平尾前GMや大畑大介氏らOBに代表されるラグビー界におけるブランド力がある。

センターのアダム・アシュリークーパーは昨年度、近鉄と契約合意寸前まで行きながら、最終的には神戸製鋼への入団を決めた。オーストラリア代表として116試合に出場。バックスの複数ポジションをこなせた。

すべての結果として、順位決定戦を含めたリーグ戦は9勝1分。無敗だった。

トップリーグ王者についたのはリーグ創設の2003年度以来のことになる。当時を知っている現役選手はひとりもいない。神戸製鋼はラグビーというコンテンツを使い切り、描いた戦略を実現した。

その創部は社会人のトップチーム最古である1928年(昭和3)。90年かかって、クラブ保持の価値を示したといえよう。

  • 取材・文鎮勝也

    (しずめかつや)1966年(昭和41)年生まれ。大阪府吹田市出身。スポーツライター。大阪府立摂津高校、立命館大学産業社会学部を卒業。デイリースポーツ、スポーツニッポン新聞社で整理、取材記者を経験する。スポーツ紙記者時代は主にアマ、プロ野球とラグビーを担当

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