ドラマ『新しい王様』はリアルか、ファンタジーか? | FRIDAYデジタル

ドラマ『新しい王様』はリアルか、ファンタジーか?

指南役のエンタメのミカタ 第12回

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ドラマの核となるのは藤原竜也が演じるアキバ、と香川照之演じる越中の二人
ドラマの核となるのは藤原竜也が演じるアキバ、と香川照之演じる越中の二人

単刀直入に言おう。この1月クール、僕が最も面白いと思う連ドラは、『新しい王様』である。

え? 見たことがない?

――さもありなん。同ドラマはちょっと変則的な形でお茶の間に送られている。シーズン1(全8話)をTBSが放送し、シーズン2(全9話)を動画配信サービスのParaviが配信するという前代未聞の試みである。既にシーズン1は1月8日からウィークデーの深夜に帯で放送され、同月17日に終了。で、その終了直後にシーズン2の配信が始まり、以後、毎週一話ずつ配信され、現在5話まで進んでいる。最終回を入れて、あと4回だ。

シーズン1と2と言っても、ストーリー上は連続しており、放送と配信で便宜上分けているに過ぎない。要するに全17話だ。一話の尺は30分弱なので、通常の連ドラに当てはめると全8話か9話となり、それほど長い話じゃない。

見たことのない人のために、ネタバレしない程度にあらすじを説明すると、ドラマの核となるのは、藤原竜也サン演じるアプリ開発者で自由人のアキバと、香川照之サン演ずる投資家の越中(えっちゅう)の2人。アキバが旧来のルールや価値、更には金儲けすら否定するのに対し、越中は「金儲けの何が悪い」と次々に企業買収を繰り返す。物語は、この2人がテレビ局の買収を巡り、虚々実々の駆け引きを展開するのが大きな流れだ。

一見すると、誰もが2005年のライブドアによるフジテレビ買収騒動を思い出すだろう。旧来のルールに縛られないアキバの言動はホリエモンを連想するし(容姿は別として)、「もの言う株主」を実践する越中のスタイルは、かつて村上ファンドを率いた村上世彰代表を彷彿とさせる。とはいえ、似ているのは2人のキャラクターくらいで、その立ち位置や買収方法などは違うし(考えたら、あの騒動から14年も経っている!)、ドラマの1つのフックとして、あえてモチーフだけ近づけたのだと思う。

ただ、同ドラマの面白さの肝は、実は買収劇そのものじゃない。その周りで起きるテレビ界・芸能界・セレブ界を舞台にした、数々の嘘みたいな本当の話である。

例えば、越中が愛人関係にあった舞台女優(夏菜)を連ドラに出演させようと、テレビ局の上層部(八嶋智人)に掛け合ってねじ込んだり、その結果、玉突きのように弱小事務所の新人が役を外されたり――、インタビュー映像を勝手に編集されるのを嫌うアキバが、インタビュー中にTシャツをインタビュアーに気付かれないように着替えるトラップを仕掛け、視聴者に別日の編集と思わせ、局に苦情の電話をかけさせたり――、セレブパーティーに可愛い女の子を派遣する会社を経営するコウシロウ(杉野遥亮)に思わせぶりな態度を見せる美女(泉里香)が、実はセレブたちのパーティを渡り歩く玉の輿狙いの“プロ”だったり――。

神はディテールに宿るじゃないけど、このドラマの肝は、それら数々のエピソードのリアリティにある。なぜなら、同ドラマのプロデュース・脚本・演出を担当するのは、かつてフジテレビに在籍し、『ギフト』や『きらきらひかる』、『カバチタレ!』など異色作を数多く手掛け、独立してからは『闇金ウシジマくん』シリーズや、映画『カイジ』シリーズなどの話題作に携わる、奇才・山口雅俊サンだから。

つまり、テレビのど真ん中にいる人物が描くテレビ界・芸能界・セレブ界の話であって、これが面白くないわけがない。しかも山口サン、フジテレビ買収騒動があった時に、最も間近でそれを見てきた一人でもある。ある意味、禁断の話なんてものじゃない。テレビ局の買収劇がメインストーリーとなるシーズン2が配信になったのは、TBSにオンエアを断られたからという噂すらある。

正直、よく書かれていると思う。もちろん、デフォルメされて、それらのエピソードは元ネタが分からないようにはしているが、見る人が見れば、分かるワケで――。

ただ、山口サンが上手いのは、保険じゃないけど、このリアリティ渦巻く物語の中に、確信犯的に1つのファンタジーを入れていること。

――武田玲奈サン演じるエイリである。

元看護学生の役で、闇金から借りたお金がいつの間にか莫大に膨れ上がり、返済できなくなって風俗に売られたり、ひょんなことから芸能事務所の社長の目に止まり、スカウトされて女優デビューすると、あれよあれよと主役に上り詰めたり――。エイリだけは、このドラマで唯一、浮世離れしているのだ。

その兆候は、早くもシーズン1の第1話の開始2分20秒に訪れる。闇金事務所から逃亡するナースのコスプレ姿のエイリが、追っ手が迫る中、思い余ってビルの非常階段からパンチラも厭わず、飛び降りるのだ。高さにして20メートルほど。普通は死ぬ。だが――地上に降りたエイリは膝を少し擦りむいただけで、再び立ち上がって走り始めたのだ。

そう、この瞬間、このドラマは以降、何が起きてもファンタジーになった。僕は山口サンの確信犯だと思う。極端な話、地球によく似た惑星の話とも言い逃れできる。ビルの上から飛び降りて、膝を擦りむいただけで済む女の子が、この地球上に存在するワケがないだろうって。

あのシーン、SNS界隈では武田玲奈サンのパンチラが一躍注目されたが、実はそれ以上の意味があったのである。

  • 草場滋(くさば・しげる)

    メディアプランナー。「指南役」代表。1998年「フジテレビ・バラエティプランナー大賞」グランプリ。現在、日経エンタテインメント!に「テレビ証券」、日経MJに「CM裏表」ほか連載多数。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。代表作に、テレビ番組「逃走中」(フジテレビ)の企画原案、映画「バブルへGO!」(馬場康夫監督)の原作協力など。主な著書に、『テレビは余命7年』(大和書房)、『「朝ドラ」一人勝ちの法則』(光文社)、『情報は集めるな!」(マガジンハウス)、『「考え方」の考え方』(大和書房)、『キミがこの本を買ったワケ』(扶桑社)、『タイムウォーカー~時間旅行代理店』(ダイヤモンド社)、『幻の1940年計画』(アスペクト)、『買う5秒前』(宣伝会議)、『絶滅企業に学べ!』(大和書房)などがある

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