フィギュアスケートを中心に、冬季競技を幅広く執筆。競技会からアイスショーまで、取材範囲も多岐にわたる。

秦野 大知

<p>突然の結婚発表で、日本中に衝撃を与えたフィギュアスケーターの羽生結弦（28）。</p>
<p>その10日ほど前の7月25日、彼が仙台市泉区のスケート場・アイスリンク仙台に5588万1272円を寄付したことも発表されている。</p>
<figure id="attachment_325428" aria-describedby="caption-attachment-325428" style="width: 6000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="40cc7a9c"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/1af59476876e1c196f5e322538b937d1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-325428" class="wp-caption-text">北京五輪でフリーの演技を終えた後、充実の表情を見せた</figcaption></figure>
<p>プロ転向後も練習拠点にしているリンクで、寄付総額はこれで8733万406円に上った。アイスリンク仙台は昨今の電気代の高騰で7～8月の一般営業を短縮すると発表したばかり。今回の高額寄付にリンクの運営会社は<span class="strongInContent">「いつも地元仙台を深く愛され、アイスリンク仙台のことも、とても大切に思ってくださっています。深く感謝の意を表します」</span>とコメント。スーパースターの漢気あふれる行動に、深い地元愛がにじんでいた。</p>
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<p>リンクの閉鎖を小学生時代に経験している羽生は、滑ることのできないつらさを誰よりも知っている。’11年3月11日に東日本大震災が起きた際は、一緒に滑っていた先輩にしがみつき、アイスリンク仙台の外へ逃げ出した。仙台市内の自宅は全壊。4日間の避難所生活では2畳ほどの狭い空間に家族4人で身を寄せ合った。</p>
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<p>リンクの閉鎖を受け、故郷を離れることを余儀なくされた羽生は<span class="strongInContent">「自分だけスケートをやっていていいのか」</span>と日々葛藤しながら全国のリンクを転々とし、4回転サルコーなどの武器を習得していった。</p>
<p>翌’12年、カナダ・トロントの名門「クリケットクラブ」に拠点を移すことが決まった際には、<span class="strongInContent">「仙台から離れたくない」</span>と親しい関係者を前に涙をこぼした。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="仙台のため、何ができるのだろうか……"></div>
<p>’14年のソチ冬季五輪で獲得した日本男子初の金メダルは、傷ついた故郷にこれ以上ない吉報をもたらした。だが、羽生の表情は冴えなかった。</p>
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<p>「金メダルなのに笑顔がないのはなぜですか」。競技後の記者会見でそう問われ、<span class="strongInContent">「震災について語るのは難しい。僕に何ができたのかを考えてしまうから」</span>と硬い表情で答えたのは印象的だった。そして<span class="strongInContent">「金メダリストになれたからこそ、復興のためにできることがある。今日をそのスタートにしたい」</span>と被災地の希望の星となる覚悟を示しもした。</p>
<figure id="attachment_325429" aria-describedby="caption-attachment-325429" style="width: 6000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a053d61d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/b27a29bb8bce495e8e697f546e537126.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-325429" class="wp-caption-text">北京の地で見せた『天と地と』は数多くの人の心を打った</figcaption></figure>
<p><span class="strongInContent">「自分が選手でいる限り、直接的な活動はほぼ不可能」</span>と言いながらも、羽生はできることを形にしてきた。同年に出版した自叙伝『蒼い炎』の印税をアイスリンク仙台に全額寄付したのもその一つだ。</p>
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<p>’16年1月、盛岡市でアイスショーに出演する前に震災で甚大な被害に遭った岩手県大槌町に赴き、関係者から当時の状況を聞いた。<span class="strongInContent">「被害を受けた方のつらさ、悲しみ、苦しさを乗り越える強さを表現できたら」</span>とプログラム『天と地のレクイエム』をつくり、エキシビションなどで美しく舞った。</p>
<figure id="attachment_325444" aria-describedby="caption-attachment-325444" style="width: 6000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="6f72ee28"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/c41f602612e5ff84b1082d88ffb5f944.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-325444" class="wp-caption-text">漢気溢れる素顔も羽生の魅力だ</figcaption></figure>
<p>昨年7月にプロ転向した際にも、スタートを切ったのはアイスリンク仙台だった。8月10日に行われた公開練習「SharePractice」。38社88人の報道陣が詰めかける中、約１時間40分にわたって『SEIMEI』などを力強く滑った。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="プロ転向後、初の3月11日に――"></div>
<p><span class="strongInContent">「やはりここで練習していけることは特別。昔みたいに、いろんな先生達と練習する機会はなくなってしまったけど、地元を離れず、地元で練習して自分を高めていけることに特別な感情はある。僕自身もここで成長したいし、大好きな故郷に貢献できるように少しでも支援していけるよう頑張っていきたい。これからも仙台の皆さんと共に歩んで行けたらいいなと思う」</span></p>
<p>公開練習後の本人の弁である。</p>
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<p>プロフィギュアスケーターとして迎えた最初の年、’23年3月11日に羽生が滞在していたのも宮城だった。</p>
<figure id="attachment_325437" aria-describedby="caption-attachment-325437" style="width: 6000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="6e99a13c"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/f4f8bba76039ba6fcfa8ed132ccdcb09.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-325437" class="wp-caption-text">故郷・仙台への思いは人一倍強い</figcaption></figure>
<p><span class="strongInContent">「プロになったからこそ、大切な日に演技できる。3月11日じゃないと届けられない気持ち、3月11日だからこそ思っていただける気持ち……大切に演技していきたい」</span></p>
<p>東日本大震災から12年目となる今年3月10～12日、宮城県セキスイハイムスーパーアリーナで、初めて座長を務めるアイスショーを開催した。絶望感を抱きながら家族と避難所に向かう夜道で見た頭上に広がる星空を思い起こし<span class="strongInContent">「あの日、被災地を照らした満天の星のように希望を発信し、人々が少しでも笑顔になれるきっかけになれば」</span>と、イタリア語で「満天の星」を意味する「notte stellata」をタイトルに選んだ。災害について考えるきっかけになればと、会場での物販も防災グッズを中心に展開した。それも羽生ならではだろう。</p>
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<p><span class="strongInContent">「3月11日という日に毎年、祈り、感謝の気持ちを込めながら人知れず滑ってきた。（ショーが）少しでも希望となるように心から願っている」</span></p>
<p>稀代のスケーターは6000人の観客に思いを伝えた。</p>
<p>地元・仙台への強い思いを胸に、羽生はこれからも氷上に立ち続ける。</p>


秦野大知

JMPA

故郷・仙台のリンクへ5500万円を寄付――。羽生結弦の漢気溢れる行動が話題となったが、根底には東日本大震災で傷ついた故郷への強い思いがあった。震災後の彼のあゆみを、もう一度たどろう。

結婚発表の裏で故郷のリンクに5500万円寄付！羽生結弦の”漢気”を育んだ「練習中に被災」の原体験

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