患者数1500万人「逆流性食道炎」を放置してはいけない | FRIDAYデジタル

患者数1500万人「逆流性食道炎」を放置してはいけない

死神はアナタの食道を狙っている

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国府台病院の研究室で取材に応じる上村直実医師。広島大学医学部卒業後、呉共済病院消化器科医長、国立国際医療センター・内視鏡部長などを歴任した
国府台病院の研究室で取材に応じる上村直実医師。広島大学医学部卒業後、呉共済病院消化器科医長、国立国際医療センター・内視鏡部長などを歴任した

「逆流性食道炎になると、胃酸の逆流や停滞で食道の粘膜が傷つき炎症が起きます。それが原因で、食道腺がんになることもあるのです」

こう話すのは消化器内科が専門で、国立国際医療研究センター国府台病院(千葉県)名誉院長の上村直実医師(67)だ。

胃液や食べたモノが逆流して食道に炎症を起こす「逆流性食道炎(以下『逆食』)」は、日本人の新・国民病となっている。厚生労働省などの調査によると’70年代は2%ほどしかいなかった患者が、’00年代以降は15%ほどに急増。その数は、予備軍を含めると1500万人にもなる。ほうっておくと、まれにがんになる可能性もある恐ろしい病気なのだ。上村医師が続ける(以下、発言は上村医師)。

「胃と食道の境目には、胃酸や食べたモノが逆流しないように防止装置があります。食道の下部にある筋肉(下部食道括約筋(かぶしょくどうかつやくきん))です。この筋肉が緩むことで『逆食』になります。’70年代まではほとんどの日本人の胃の中に、ピロリ菌がいました。井戸水などを飲むことで体内に入り、胃の元気を失わせて胃酸の分泌を減らす菌です。それが最近では生活環境の改善により、ピロリ菌に感染する日本人が減った。結果として胃酸の分泌が活発になったため、『逆食』の患者が増えたんです。胃酸の酸度はとても高い。だからこそ食べ物を消化できるのですが、胃と違い食道の粘膜は酸の強さに耐えきれず、炎症を起こすこともあるんです」

「逆食」増加の要因は、ピロリ菌の減少だけではない。

「一つは日本人の肥満化や高齢化です。太ったり背中が曲がって姿勢が悪くなることで、胃に圧力がかかり胃酸が逆流するのです。アルコールや刺激の強い料理、高脂肪食などによる胃酸過多も影響しています。食事の後などに激しい胸やけがする、酸っぱいモノがこみ上げてくる、ノドがつかえる、胸が締めつけられるような感覚がある……。このような症状がある人は注意が必要です。とくに40代〜50代の働き盛りの男性は、気をつけなければならない。高脂肪食の摂取が多く、中年太りになりがちだからです」

ノドも無傷ではいられない

他にも特徴的な症状がある。

●頻繁にゲップが出る――胃の中にたまったガスや空気が逆流して排出される。

●空セキが出る――就寝中の逆流によって、喘息のようなセキが出る。夜間に症状が悪化することが多く、睡眠障害になることも。

●口の中が臭い――胃酸がこみ上げることで酸っぱい臭いがする。

●虫歯が増えた――口の中まで上がった胃酸が、歯や歯茎を損傷させる。

こうした症状をほうっておくと、死にいたる危険性もあるのだ。

40代の会社員Aさんはラーメンや揚げ物などの脂っこい食事を好み、毎日のように泥酔するまでアルコールを大量に摂取。猫背など姿勢の悪さも指摘されていた。40代後半になると20代のころから感じていた食後の胸やけがさらに激しくなり、食事量も徐々に減っていったAさん。声がかすれ体重も1ヵ月で5㎏ほど減少したが、ついに水を飲むのも困難になったため妻に連れられ病院へ。「食道腺がん」と診断され、すぐ手術を受けることになった――。

「逆食」で食道が蝕まれれば、ノドも無傷ではいられないだろう。人間は、食べ物を食べエネルギーを身体に取り込まなければ生きていけない。ノドが衰えれば食欲が減退し、栄養障害や消化器系の重大な疾患を引き起こす。食べ物の咀嚼(そしゃく)や口の中から食道へ送る機能が低下して起きる、「誤嚥(ごえん)」と呼ばれる症状もその一つ。異物が気管から肺に入り、そのまま居座り細菌に感染。日本では年間約10万人が肺炎で命を落としているが、そのうち7割(ほとんどが高齢者)が「誤嚥性肺炎」だと言われているのだ。

最悪の事態を招く前に、予防できることはある。

「『逆食』は、生活習慣を変えることで防げます。高脂肪食を避け太らないようにする、アルコールやタバコの過剰摂取を止めるのはもちろん。スマホを見ている時やパソコンでのデスクワーク中に、姿勢の悪さで胃を圧迫しないように、背筋を伸ばすことも大切です」

改善できる生活習慣は多い。

●細身のズボンやベルトでお腹を締めつけない――胃を圧迫する要因に。

●寝る時には上半身を高くする――食べたモノや胃酸が、逆流しにくくなる。

●満腹になるまで食べない――胃が内容物で膨れ圧力がかかる。

●食後すぐに入浴しない――水圧で胃を圧迫することになる。

●コーヒーや紅茶、オレンジジュースなど、カフェインが多かったり酸度の強い飲み物を避ける――カフェインは胃に刺激を与え、胃酸分泌を促進する。

●牛乳やヨーグルトなどの乳製品を積極的に摂る―――乳製品には胃の粘膜を守る性質がある。とくに胃酸が多く出る朝に摂取するのがおススメ。

「『逆食』の不安がある人は、生活習慣の改善と合わせ病院での診断を受けてください。胸やけの強さなど問診を受けた後、通常は内視鏡検査を受けます。食道や胃をキレイにするシロップを飲んでから鎮静剤を打ち、口か鼻からスコープを入れるんです。検査は10分ほどで、終了直後に結果が判明。精密検査についても、1週間ほどで結果が出ます。

治療でよく使われるのが、胃酸の分泌を抑制する『プロトンポンプ阻害薬(PPI)』という薬です。効果が乏しい場合には、投与量を変えたり粘膜を保護する他の薬を追加して服用することになる。PPIでいったんは症状が改善しても、服用をやめると再発することがあります。場合によっては、5年以上の長期服用になることもあるんです。ただPPIにより胃酸が減少するので栄養を吸収しづらくなり、高齢者は骨折の危険が高まるなどの副作用も考えられます。長期服用は医師とよく相談してください」

新・国民病「逆食」は、重大な疾患に結びつくことがある。胸やけ程度と思って、決して甘く見てはいけないのだ。

逆流性食道炎によって炎症ができた食道の内視鏡画像。放置すると食道腺がんになる危険性がある
逆流性食道炎によって炎症ができた食道の内視鏡画像。放置すると食道腺がんになる危険性がある

10年闘病した 患者の告白

ルポライター・明石昇二郎 「最初は食道をやられて、最後は胃がんになりました」

逆流性食道炎にかかっていた明石昇二郎氏。がんが発見され胃の3分の2を摘出することになった
逆流性食道炎にかかっていた明石昇二郎氏。がんが発見され胃の3分の2を摘出することになった

強い胸やけを感じるようになったのは、10年以上前のことです。果汁100%のオレンジジュースや甘い缶コーヒーを飲むと、胃酸が上がってノドや胸が苦しくなる。「これはおかしい」と病院で受診すると、「逆流性食道炎」と診断されました。

こう語るのはルポライターの明石昇二郎氏(56歳)だ。食品公害事件「カネミ油症」問題や、福島の原発事故などを取材するベテランジャーナリストである。若いころから体力には自信があったと話す明石氏だが、40歳を過ぎたあたりから胃の不調を感じ始めた。

区役所から40歳時の「節目健診のお知らせ」が届いたので、レントゲン写真を撮ったところ胃に変形が見つかったんです。「要精密検査」と言われ、生まれて初めて胃カメラを飲むと胃壁から出血していることが判明。医師からは「胃潰瘍の一歩手前」と診断され、胃酸を抑える薬「PPI」を処方されました。

PPIを飲んで2週間ほどで胃痛は消えましたが、それから約2年後、今度は激しい胸やけで苦しむようになります。焼けるようにノドが痛いんです。単なる胃酸過多かと思い胃腸薬を飲んで痛みをまぎらわせていたのですが、次第に薬も効かなくなってきた。病院に行くと「逆流性食道炎(逆食)」と診断されたんです。

まさかの「がん宣告」

当時の私は、不規則でストレスの多い生活をしていました。書籍の締め切りが近づくと、起きている間はパソコンの前でずっと座りっぱなし。そんな状態が2ヵ月以上も続くんです。運動不足から学生時代80㎏だった体重は、最大100㎏にまでなりました。当時は、胃に相当なストレスを与えていたと思います。

病院では再びPPIを処方されたのですが、以前処方されたもの(30㎎)よりも軽い15㎎でした。毎朝1錠飲むだけで、嘘のように胸やけが消えてしまうんです。その効果は終日続くので、以来10年以上PPIを飲み続けてきました。

長年PPIを飲み、自覚症状もなくなり、大きな効果があったと感じていたので、服用の中止を検討したこともあります。ただ人間ドックを受けた時に担当医師に尋ねると、こう言われました。

「PPIの服用をやめたら、すぐ症状が再発するでしょう」

その人間ドックを受けてから2年後の、昨年夏のことだった。明石氏に今度は食道の病気ではなく、「胃がん」が見つかったのだ……。

区の健康診断で異常を指摘され、精密検査の結果わかったのですが、「神経内分泌腫瘍(しんけいないぶんぴつしゅよう)」(別名「胃カルチノイド」)という珍しいタイプのがんです。多少医療に関する知識のある私にとっても、初めて聞く病名でした。医師に聞くと、腫瘍は通常、胃壁の表面にできますが、胃カルチノイドは内部にできるとのこと。抗がん剤も効かず、根治のためには早期に見つけて切除手術をするしかありません。肝臓など他の臓器に転移していれば延命治療をするしかなくなります。私は幸い早期の発見でしたが、自覚症状はまったくありませんでした。

手術の2日前までPPIを飲んでいましたが、腹腔鏡手術で胃の3分の2を摘出したことで、結果的に「逆食」の症状は完全に消えました。皮肉にも、今ではPPIをまったく服用しておりません。

「逆食」は、クスリで症状が治まっているからと言って安心はできない。胃や食道の不調を放置して定期的な健診を受けないでいると、がんなどの取り返しのつかない病気になることもあるのです。

明石氏が10年以上にわたり服用していた、胃酸を抑える薬「PPI」
明石氏が10年以上にわたり服用していた、胃酸を抑える薬「PPI」
  • 取材・撮影明石昇二郎写真會田園(3、4枚目写真)

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