<figure id="attachment_327496" aria-describedby="caption-attachment-327496" style="width: 1000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c5031b40"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/92fc49a3819978ec228cc067be8a2225.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-327496" class="wp-caption-text">３月８日、グーグルジャパンへ直接行動を起こした労働組合「Google Japan Union」の人たち。「GOOG」とは株式市場での「Google」の表記</figcaption></figure>
<p>米ビッグテック企業であるグーグルが、今年１月、各国あわせて６％の社員を解雇すると発表し世界中に激震が走った。アメリカでは一夜にして会社のアクセスも雇用も失う社員が出る一方で、日本では労働組合が結成され、“退職勧奨”を受けながらも会社に残り勤務を続ける社員もいる。３月には第１回目の団体交渉が開かれ、組合側はすでに２回目を要求しているが、次回期日の見通しは立っていない。アメリカと日本では何が違うのかーー。日本の“グーグラー（Googler）”に聞いた。</p>
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<p>今年３月、日本の社員も解雇の対象となった。フランクさん（仮名、30代）は一通のメールで、自分も６％に含まれることを知った。そこにはこう書いてあった。</p>
<p><span class="strongInContent">「あなたの職務も該当しているので、離職同意書を添付します。２週間以内に署名してください。これまでの貢献に感謝します</span>」</p>
<p>メールには同意が「任意」であるとの説明はなく、「解雇」という言葉も使われていなかった。フランクさんは、すでに離職に同意したかのようなニュアンスが気になった。</p>
<p><span class="strongInContent">「私にとって退職に合意するという選択肢はなかったので、合意書にサインしなければどうなるのか聞きました。すると、担当者は『サインすれば、退職金などが一通り支払われるが、そうでなければ、何が起こるかわからない』と言ったんです。それも戦略のうちだと思いました」</span></p>
<p>グーグル側の戦略はもうひとつあった。</p>
<p>離職を促す面談が、グーグル合同会社ではなく、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社との担当者と行われたことだ。</p>
<p>担当者はさらに、２週間の期限を無視した場合、サインをするよう<span class="strongInContent">「複数の人から嫌がらせを受けることになる」</span>と回答した。</p>
<p>しかし退職勧奨に応じないから嫌がらせをするということ自体、法律違反ではないかと思ったフランクさんがそう指摘すると、相手は「そうです」と言い切った。</p>
<p>はじめは自分が対象者となったことに驚いたが、同時期に労働組合が結成されつつあることや日本の労働法のもとでは労働者が保護されていると聞き、一筋の希望の光が差した。外資系企業であっても、日本で事業展開する企業においては、労働基準法、労働安全衛生法、労働組合法など日本の法律に従って運営しなければならないのだ。</p>
<p>フランクさんは離職に合意する気は毛頭なかったので、労働組合への加入を決意。すでに結成されていたGoogle Japan Unionに加入。３月には団体交渉にも臨んだ。</p>
<p>およそ50人の組合員が出席した団体交渉では、組合は、組合員に対して退職勧奨も解雇も行わないことを要求。離職合意を強要するメールはハラスメントに値するため、日本の労働法では違法行為になる点などを指摘した。</p>
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<p>会社は合意を取り付けるために手段を選ばないだろうと聞いていたが、フランクさんは、少なくとも強制はできないと確信していたため、合意を拒否。期限までの２週間、毎日届くメールに耐えた。合意を迫るメールは、期限が近づくとその数が増えた。会社の人事担当からは、すでに合意したかのように、転職の成功を願う、といった内容のメールも送られてきたという。</p>
<p><span class="strongInContent">「これにはもちろんストレスを感じましたが、予想はしていたので驚きはしませんでした。この２週間だけ耐えよう、と自分に言い聞かせてがんばりました。組合員でもあったので、法的には大丈夫だと思っていました。早い段階から心を決めて、自分の決断を曲げないようにしていました」</span></p>
<p>その甲斐あってか、フランクさんは２週間の期限が過ぎた今でも、会社で仕事を続けている。</p>
<p>ただ、離職合意書へのサインを拒否した社員は、担当業務を外され、自らの職歴や技術には不相応の仕事に配置された。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="グーグル合同会社は何と返答したのか"></div>
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<figure id="attachment_327261" aria-describedby="caption-attachment-327261" style="width: 5702px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="80a0802f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/b34f57eeebf79c6e329b7cd845d94c73.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-327261" class="wp-caption-text">６月、アメリカにあるグーグル本社でワークショップを開いたサンダー・ビチャイCEO。退職勧奨を受けた社員の現状をどれぐらい把握しているのだろうか（写真：アフロ）</figcaption></figure>
</div>
<p>フランクさん自身の担当は、個人客からの問題対応。他国籍の企業に委託されるような仕事だ。「グーグル本社で働く正社員には不適応」だとフランクさんは抗議するが、それでもこの機会を最大限に生かそうと努力を怠らない。チームのメンバーには組合員もいることから、<span class="strongInContent">「お互いに支え合い、自分の力が及ぶ組合活動などでは力を発揮しよう」</span>と話し合う。</p>
<p>離職を拒否した社員で作るチームは、他の社員と階をともにせず、孤立させられている。チームイベントや社員交流、会社の上層部の訪問に合わせて企画されるイベントの情報も、事業の最新情報も届かず、参加対象からは外された。</p>
<p><span class="strongInContent">「会社は、この配置転換は一時的だと言っているが、それがどれくらいの期間なのか、そのあとのことについても一切の説明がない。会社は、私たちを不安にさせて自主退職するのを待っているのかもしれない。多くの人は時間軸が示されない中ではストレスを感じると思う。我々を不安に感じさせるのが目的だから、自分の力がおよばないことにはできるかぎり落ち着こうと努力しています」</span></p>
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<p>完全に排除されている状況下では、社内での動きが全く見えない。しかし先が見えない状況に追いやり、不安を煽ることが会社の戦略、とフランクさんは読む。</p>
<p>こうして苦しい中でも、労働法が完備され労働組合の権利が守られている国にいるからこそ、仕事の内容は満足していなくとも、同額の給料を確保することができている。</p>
<p>グーグル合同会社が離職の合意を求めたいと考えている社員に対してメールを送ったこと、そして該当社員に対して面談する場合は、その業務を「デロイト トーマツ コンサルティング合同会社」に委託していることについてグーグル合同会社に確認したところ、<span class="strongInContent">「組織体制の詳細については公表しておりません」</span>との返答にとどまった。</p>
<p>さらに、離職を勧められたある社員が「２週間以内に署名してください」というメールでの通知を無視した場合「複数の人から嫌がらせを受けることになる」と返答されていたことについては、<span class="strongInContent">「このような事実は確認していません。自ら退職を希望している人、（会社から）離職同意書が送られてきた人も、人事担当の正社員と直接話すことを希望する人は、話すことはできます」</span>とした上で、<span class="strongInContent">「グーグルには、不適切な行為やその他の違法行為等を禁止する強固なポリシーと就業規則があります。そうした申し立てがなされた場合は調査を行い、ポリシー違反が確認された場合には断固たる措置を講じます」</span>と回答した。</p>
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<div data-friday-nextpage-lead="「使えないやつだと思った瞬間に人を切り捨てる」"></div>
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<figure id="attachment_327262" aria-describedby="caption-attachment-327262" style="width: 1586px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="552e91cb"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/05e0b43dde470e929309454eb246916a.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-327262" class="wp-caption-text">グーグル本社がeメールで多くの社員に解雇通知したことを報じた３月21日付のCNN</figcaption></figure>
<p>一方、同じく大量解雇が発表されたアメリカでは、該当する社員が即日解雇に遭った。</p>
<p>グーグルCEOは、全社員のうち１万２千人を人員削減の対象とすると、１月20日付のメールで社員に通知。報道によれば、アメリカで対象となった社員の中には病気療養中や出産分娩中の社員もいたが、彼らにも容赦なく退職勧奨のメールが届いたという。</p>
<p>ただ、労働者代表や組合との協議がない中での一方的な解雇が事実上不可能である、フランスやドイツなどのEU諸国では、希望退職を募ったり労働委員会で協議したりするなど、即日解雇にはいたっていない。</p>
<p>こうした他国での状況を見守りつつ、フランクさんは、まさか日本でも会社が解雇に踏み切るとは思っていなかったと話す。</p>
<p><span class="strongInContent">「シンガポールやアメリカにいたら、会社に言われるがままに失職していた。自分は少なくとも反撃することができているし、それこそがエンパワメントになっている。もちろん、自分の手が及ばないことには無力感もある。失職したら多くの人がこう感じるのは当然だ。たった一晩で、仕事へのアクセスも仕事自体も失ったら、信じられないほど無力感に陥る。少なくとも組合員とともに闘い続けられている自分は、恵まれていると思う」</span></p>
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<p>創業当初は、家族のように社員を大切にし「社員中心」の社風があったグーグル。米ニュース報道番組CNNによれば、実際、’04年、創設者であるラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが株主に送った最初の手紙には「自らを“グーグラー（Googlers）”と呼ぶ社員は、我々のすべてだ」からこそ、時を経て「福利厚生を少しずつ削減するよりも増やしていくことになるだろう」と記されている。だが、成長が進むにつれその意識は薄れゆき、官僚的になっていった、と関係者は語る。</p>
<p>そのようなグローバルな企業に発展したからこそ、社員間でもグローバルに情報交換が進む。フランクさんは、退職勧奨の対象となっても仕事を続けられている自分の話を聞いた、アメリカの社員が驚いていたことを忘れられない。</p>
<p>労働法や労働組合の力を知り、労働者の権利について学び、そのために闘う道を探る機会になればと願う一方で、フランクさんは、所属会社や仕事を自分自身のアイデンティティとして捉えることを疑問視する。</p>
<p><span class="strongInContent">「会社が、社員の福祉や精神的な健康を心配していると捉えて、まるで家族のようだと言う人もいます。自分と会社を同一視し、自分の価値を会社に紐付けたりする人にとっては、一夜にして会社が自分を見切るという現実に、目が覚めるような思いだったのではないでしょうか。最終的には、仕事はただの仕事であり、会社は、使えないやつだと思った瞬間に人を切り捨てるんです。グーグルは、労働条件であれ事業であれ、アメリカ帝国方式を他国に押し付けているかのようです。そうあっていいのでしょうか。本来は、事業展開するその国の法律や規則や慣習に従うべきです」</span></p>
<p>現在、「Google Japan Union」は第２回目の団交を申し入れているが、会社が団交に応じる条件を提示しているため、数ヵ月にわたって進展は見られない。</p>
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ジャーナリスト。人権や労働など社会的正義に関する問題を主に取材する。共著に『マスコミ・セクハラ白書』（文藝春秋）、『マンガでわかるブラック企業』（合同出版）など、共同翻訳には『ストする中国』（彩流社）があり、２０２１年１月に共同翻訳『世界を動かす変革の力——ブラック・ライブズ・マター共同代表からのメッセージ』（明石書店）を出版

松元ちえ

アメリカのビッグテック企業・グーグルが１月、各国あわせて６％の社員を解雇すると発表し世界中に激震が走った。労働組合が結成された日本で“退職勧奨”を受けながら会社に残り勤務を続ける社員の叫びを聞いた。

離職同意書に合意しなければ「嫌がらせを受ける」退職勧奨を受けたグーグル社員が明かす「日本のよさ」

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