東京都生まれ。フリーライターとして講談社、小学館、PHP研究所などの雑誌や書籍を手がける。携わった書籍は『近藤典子の片づく』寸法図鑑』（講談社）、『片付けが生んだ奇跡』（小学館）、『車いすのダンサー』（PHP研究所）など。

中川 いづみ

<h3>「農家はたいへん過ぎて『もう来年は秋の枝豆を作りたくない』と言いながら、毎年作っています」</h3>
キーンと冷えたビールに枝豆……暑い夏のお楽しみだ。ところが、
「あまり知られていませんが、枝豆の旬は９月からという声もあるほど、実は枝豆は秋がいちばんおいしいんです」
こう言うのは、長岡市農水産政策課で長岡市の枝豆PRに努めている大竹聡史さん。
「味覚の秋と言われるように、秋に収穫される作物は、さつまいもにしても、栗にしても、甘みがある。枝豆も同じです。秋に収穫される枝豆は、昼夜の寒暖差が大きい気候で、ゆっくり育つため甘みがのっておいしいんです」 
<figure id="attachment_327759" aria-describedby="caption-attachment-327759" style="width: 1915px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="f88ab5fa"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/f54d396057b3542190880105fdd52b5f.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-327759" class="wp-caption-text">長岡市民の食卓に欠かせない枝豆。一度に１～２㎏（！）ゆでるのだとか（PHOTO：長岡市提供）</figcaption></figure>
しかし、スーパーなどの店頭に、枝豆がてんこ盛りで並ぶのは７～８月だ。夏が旬ではないのか。
「夏に大量に枝豆が出回るのは、需要があるのも一つですが、栽培の都合によるんです。新潟県で枝豆の栽培が盛んな理由の一つに、昔、減反政策により、お米から枝豆への転作が進んだことがあげられます。 
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米農家は田植えと稲刈りの時期はとても忙しいため、それを避けるように栽培すると、８月に収穫できる枝豆が一番作りやすい。そのため夏に大量に市場に出回るんです」
枝豆の生産量トップ10に新潟県をはじめ、秋田県、山形県、宮城県など米どころが名を連ねているのは、そういうわけか……。
でも、それなら秋にはもう枝豆が作られていないのでは？
「長岡市には『越一寸』『肴豆（さかなまめ）』という９～10月に収穫する枝豆があります。これらは６月後半に植えるんですけど、ゆっくり育って、収穫できるのは秋。だから、おいしいですよ」
なんと長岡市の米農家は稲刈りの時期であるにもかかわらず、枝豆の収穫も行っているというのだ。
「朝４時に起きて、枝豆を収穫し、朝ごはんのあと稲刈りするから、たいへんです。みなさん、『もう来年は秋の枝豆を作りたくない』と言いながら、毎年作っている。それだけおいしい枝豆が食べたいんです。長岡市民の枝豆愛はどこにも負けません」 
<figure id="attachment_327760" aria-describedby="caption-attachment-327760" style="width: 1914px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="2d701ff1"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/26bf1bdf0c9f05b2c908be61acabfdaf.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-327760" class="wp-caption-text">品種ごとに売られている長岡市の枝豆。午前中山盛りだった商品も、午後になるとこのとおり（PHOTO：長岡市提供）</figcaption></figure>
<h3>まるで、アイドル総選挙…人気で店頭に並ぶ枝豆が変わる！？</h3>
長岡で食べる枝豆はおいしい。実がぷっくりしていて、味が濃いのだ。しかし、どうしたことか、首都圏のスーパーなどで長岡産の枝豆を見かけることは、ほとんどない。
「新潟県は枝豆の作付け面積が全国１位なのに、出荷量は６～７位。 
新潟県は食文化として枝豆が根付いてまして、枝豆が大好き。出荷する前に自分で食べてしまったり、近所の人に売ったりして、県内で消費してしまうんです。生産量こそ県内１位ではありませんが、枝豆といえばうちだろうと、長岡市民は思っています」
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長岡市のスーパーなどでは、枝豆に「初だるま」「陽恵（ようけい）」「おつな姫」「湯あがり娘」などと表示されて売られている。それぞれ好きな品種があり、長岡市民は自分好みの品種を買う。「枝豆」なら、なんでもいいなんていうことはないのだ。６月末から10月上旬まで10種類ほどの枝豆が並ぶというが、
「これは毎年変わります。農協で取り扱うのは10品種ほどですが、農家さんではほかの品種も作っていて、長岡ではおそらく20種類くらいの枝豆が作られています。 
『こっちの枝豆のほうがおいしいようだ』となると、農家や農協関係者たちが実際に食べてみて、ラインナップを入れ替えます。アイドルの総選挙みたいなことを毎年行っているんです」 
そんなことをするのも、少しでもおいしい枝豆を食べたいという長岡市民の枝豆に対するこだわりのためだと言う。 
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<h3>１日２日で味が半減…20度以上で一気に‟うまみ成分”が失われる！ </h3>
それにしても、長岡では東京では聞いたことがない枝豆がたくさんあるようだ。品種改良にも力を入れているのだろうか。
「長岡発祥の品種は、９月中旬から下旬にかけて収穫される『越一寸』と、９月下旬から10月上旬に収穫される『肴豆』だけです。たとえば『湯あがり娘』は群馬県で生まれた品種で全国で広く作られています」
でも、東京で売られている枝豆は〇〇産という表記はあっても、その品種はわからない。
「〇〇産のものであっても、時期によって品種は変わっていると思います。湯あがり娘もきっと召し上がっているのではないでしょうか」
そうなのか。でも、長岡で食べたときの味と違う……。
「枝豆は鮮度が命で、１日２日で味が落ちてしまいます。長岡ではその日に収穫した枝豆だったから、おいしく感じたのではないでしょうか。しかも枝豆は熱に弱く、20度以上のところに一瞬でも置いておくと、一気に糖分やアミノ酸（うまみ成分）が失われて、おいしくなくなってしまうんです」 
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では、今年のように猛暑が続いている年は長岡の枝豆も味が落ちているのだろうか。
「長岡では収穫すると真空予冷機に入れて、温度が上がらないように冷やしているんです。そのような設備をもたない農家さんも収穫すると、すぐ冷蔵庫や氷水の中に枝豆を入れて、温度が上がらないようにしています。そういう手間暇をかけて、よりおいしい枝豆を作ろうとしているんです」
<figure id="attachment_327761" aria-describedby="caption-attachment-327761" style="width: 1908px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="22fb6f37"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/43a57e0224e7c53502c94991eb2406bd.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-327761" class="wp-caption-text">収穫したら、即氷水漬け。おいしく食べるためには手間を惜しまないのが“えだまめ王国”長岡市民の矜持（PHOTO：長岡市提供）</figcaption></figure>
収穫時期にもこだわりがある。
「枝豆はやせっぽちでもおいしくないし、実がパンパンでも旨味や香りが少なくなってしまうんです。だいたい実が８割くらいの大きさになったときが、いちばん甘みが強く、おいしいとされています。 
長岡だけでなく、新潟では実の入り具合が８割になったのをチェックして収穫しているので、おいしいものが多いのだと思います」
忙しい稲刈りの時期にも、豆の状態をチェックして、収穫した枝豆を冷やす。これだけ手間をかけているなら、おいしいのも当然かもしれない。
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そんなおいしい枝豆が東京では食べられないなんて……と思ったら、
「長岡市イチ押しの『越一寸』は一部の大手スーパーチェーンさんに取り扱っていただいています。このほか、ふるさと納税の返礼品や農家さんから直接送ってもらうこともできます。ぜひ、旬の枝豆を味わってください」
<figure id="attachment_327764" aria-describedby="caption-attachment-327764" style="width: 1920px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c472c8b3"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/f62a4a3ff8596444adb3084b96a481e1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-327764" class="wp-caption-text">長岡市イチ押しの「越一寸」。減反政策で米作りができなくなった田んぼだったところが今や枝豆畑。「田んぼだった土地は畑と土質が違い、一般的な野菜を作るのはむずかしいのですが、枝豆作りには適しているんです」（PHOTO：長岡市提供）</figcaption></figure>

中川いづみ

「実は枝豆は秋がいちばんおいしいんです」というのは「えだまめ王国」長岡市枝豆のPRに努めているスタッフ。「新潟県は枝豆の作付け面積が全国１位なのに、出荷量は６～７位。県内で消費してしまうんです」


「枝豆の旬」は９月から？４時起きで収穫、朝ごはん後は稲刈り…えだまめ王国・長岡市民の「枝豆愛」

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