<figure id="attachment_327802" aria-describedby="caption-attachment-327802" style="width: 2000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a0118a48"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/d1a058d05a14935ebb53686bf070dc9e.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-327802" class="wp-caption-text">夜の街ではさまざまな欲望がうごめいている（写真はイメージです）</figcaption></figure>
今年７月、風俗店の従業員である赤井環（25）が、ＳＮＳで知り合った自殺願望のある40代女性に集団自殺を持ち掛けて金品をだまし取り、昏睡強盗と窃盗の疑いで逮捕された。
【<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/327795">前編：20代風俗嬢「本業では高収入望めない」戦慄の闇バイト実態</a>】では、赤井と同じ店で働いていたというＡ子の生々しい証言を紹介した。本稿では、それにつづいて、風俗業界が自殺願望のある人を利用して行う犯罪やビジネスについて見ていきたい。
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Ａ子によれば、夜の街でもっとも多く行われているのが、ＳＮＳで自殺願望のある若い女性を見つけ出し、売春業に引きずり込むことだそうだ。
今回、その証言の裏付けのため、Ａ子は風俗専門のスカウト会社に勤めるスカウトマンの男性を紹介してくれた。女性を風俗店で働かせ、その売り上げの一部をマージンとしてもらう仕事だ。
このスカウトマンの男性は次のように述べる。
「今のスカウトは、主にＳＮＳを使って行います。方法は３通りあって、１つ目がすでにウリ（売春）をしている子に連絡を取ってうちが紹介する店で働かないかと声をかけるもの。
２つ目が貧困女子、たとえば住む家がないとか、食事をするお金がないとか、借金を抱えているとかつぶやいている子を見つけて同じように勧誘するもの。そして３つ目が、死にたいと自殺願望をつぶやいたり、自殺サイトに出入りしたりしている子にＤＭを送って勧誘するものです」
若い女性の中には、ＳＮＳでお金に困っていることを発信する人や、そのプロフ欄に風俗嬢であることを記している人がいる。スカウトは、毎日ＳＮＳでそういう子たちをさがして、片っ端からＤＭを送るか、リプライするかして連絡を取るのだ。
<h2>「あなたのためになるなら」</h2>
<figure id="attachment_327806" aria-describedby="caption-attachment-327806" style="width: 3888px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="ed30e4b3"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/b21bd5f3cd74bd556511786d1e306cc9.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-327806" class="wp-caption-text">深い悩みを持つ人の心が悪用されるケースもある（写真はイメージです）</figcaption></figure>
スカウトマンの男性は次のようにつづける。
「風俗嬢や貧困女子にはダイレクトに『✕✕という店で働けば、月✕✕万円は保証する』と伝えてスカウトします。話に乗る子はすぐに乗ってくるし、そうでないなら返信はありません。ビジネスライクではっきりとしている。自殺願望のある子はちょっと違います。
彼女たちとはある程度やり取りをして、悩み事を聞きます。それでこちらを信用してもらってから、スカウトの仕事をしていることを打ち明け、うちが関わっている店で働いてみないかと言う。女の子は『それがあなたのためになるなら』という形でＯＫしてくれることが多いです」
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すでに風俗で働いている女性や、今すぐ現金が欲しい子はビジネス感覚でスカウトマンとつながり、条件次第で店で働くかどうかを決める。しかし、自殺願望のある子は違う。彼女たちは心のどこかに「生きたい」という気持ちを持っていることが多いそうだ。スカウトマンは、それを巧みに利用し、「それなら俺のために働いてくれ」というふうに持ち掛ける。そうすると、女の子は「あなたのため」と言って働く。つまり、それを生きる口実にして働くようになるらしい。
非常に卑怯でえげつない手法だが、スカウトマンの男性に言わせれば「まだ全然マシ」とのことだ。男性は話す。
「ネットで自殺願望のある子をさがしている連中はたくさんいます。連中は、俺らなんかよりもっと悪質ですよ。彼らは自殺願望のある子なら何をしたってかまわないと考えています。それで誘い出してレイプをするとか、それを動画にとって売るとかそういうことをする。
一番ひどいのは、前に神奈川県で起きた座間９人殺害事件ですよね。死にたいなら殺してもいいだろうって考えて実際に殺してバラバラにする。自殺願望のある子って、家族や友人と深いつながりがないので発覚することも少ないから狙いやすいんです」
<div data-friday-nextpage-lead="深い悩みのある人を弄ぶ戦慄の手口"></div>
筆者自身も、日本で初めて起きた自殺サイト連続殺人事件を取材したことがある。加害者の前上博（死刑執行）には、人を窒息させることに異常な快楽を覚える特性があった。それで彼は自殺サイトで知り合った男女３名を次々に呼び出し、身体の自由を奪った上で、時間をかけて窒息させ苦しませた末に殺害したのである。
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この事件以降、自殺願望者を狙った事件は形を変えて起きている。その最たるものが、風俗のスカウトマンだった白石隆浩が９人の女性を自宅に誘い込み、引き起こした座間９人殺人事件だといえるだろう。そう考えると、多くの人間があの手この手で自殺願望者を利用していることがわかる。
スカウトマンの男性は言う。
「自殺願望者を利用するのは、男だけじゃありません。女だっている。その一つの形が、赤井環なんです。男の場合は性欲やビジネスのために利用しようとしますが、女はもっと直接的です。彼女の場合は、手っ取り早く金を手に入れるために、一番だましやすく、事件が発覚しにくい自殺願望のある女性を利用したのでしょう。
被害者の女性にしても、男性より女性の方が安心できる。そういう意味では、赤井の他にも、同じように自殺願望のある女性を誘い出して金品を奪っている女はたくさんいると思いますよ」
自殺願望者が受けた被害がどれだけ表ざたになっているのかは定かではない。ただ、こういう話を聞くと、スカウトマンの男性が自分たちは「まだ全然マシ」と言いたくなる気持ちはわからないでもない。
<h2>「居心地がいいんだと思います」</h2>
<figure id="attachment_327800" aria-describedby="caption-attachment-327800" style="width: 1243px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="4406c0cc"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/87d5904976f6b86717f101561d523612.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-327800" class="wp-caption-text">「社会に居場所のない人にとって風俗業界は居心地がいい」という声も（写真はイメージです）</figcaption></figure>
では、当の女性はどう思っているのか。Ａ子は次のように語る。
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「（スカウトマンの男性の主張は）それはそれで当たってると思いますよ。私は死にたいって思ったことないけど、周りにはそういう子はたくさんいます。あの子たちにとって風俗の世界は、似たような子がたくさんいるし、簡単に受け入れてくれるから居心地がいいんだと思います。
もっと言っちゃえば、風俗の世界にしか居場所がないという子も少なくないはず。だから、スカウトの人がそういう子に声をかけて風俗の世界に誘い込むのは、助けにもなっているわけで、全部が全部間違っているとは言えない気がします。少なくとも強盗とかレイプとか殺人とかに遭うよりいいと思いますよ」
自殺願望のある女性は、自分すらも大切にできないとか、信頼できる人間が周りにいないなどの特徴がある。それゆえ、困難のある人であっても受け入れてくれる風俗業界を居場所だと錯覚してしまうのだろう。だが、それがまた別の犯罪を生むことにもなりかねない。
あらゆることを可視化させるネットの世界は、人々の自殺願望をも浮き彫りにする。そして悪い人たちによってそうした人々が簡単に裏の世界に引きずり込まれるという状況を生んでいる。それをどのように食い止めるのか。非常に難しいが、今後の大きな課題であることに間違いない。

'77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

石井光太

風俗嬢による闇バイトが悪質化している。本業で高収入が望めないため高額な報酬を求めて副業を。自殺願望のある女性や親族から金を巻き上げ……。ノンフィクション作家・石井光太氏が描く戦慄のルポ後編だ。

「生きたい」という気持ちを逆手にとり…風俗嬢が明かす「自殺願望のある人も利用する」卑劣闇ビジネス

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