迷走する起用法、ファームで燻るホンネ…中日・根尾 昂「プロで勝ちたい、今はただそれだけです」
大阪桐蔭高校で2年連続「胴上げ投手」を経験 甲子園に愛された"天才球児"が迎えた試練のとき
酷暑の中で熱戦が繰り広げられている「夏の甲子園」について話を振ると、高校野球の元スーパースターは真っすぐにFRIDAY記者を見つめ、こう振り返った。
「僕、勝った試合のことはあまり覚えていないんです。覚えているのは負けた試合のことばっかりで……」
’17年、’18年と2大会連続でセンバツの胴上げ投手を務め、’18年夏の甲子園では決勝で金足農業の吉田輝星(22・日本ハム)から本塁打を放ってチームを優勝に導いた根尾昂(あきら)(23・中日)。全国優勝9回を誇る大阪桐蔭高校で外野、ショート、投手の”三刀流”で活躍した天才球児が口にしたのは、2年夏の「敗戦」だった。
「仙台育英との3回戦。同級生の柿木蓮(23・日本ハム)がいいピッチングをしていたんですが、ファーストの中川卓也(23・東京ガス)がベースを踏み損ねるミスも絡んで最後はサヨナラ負けでした。『自分がリリーフで投げていれば、もっと打っていれば……』とずっと考えていました。それでも引退する3年の先輩方は毅然としていて、『来年優勝しろよ』と声をかけてくれた。敗戦翌日には中川が主将に指名され、全員で悔しさを晴らそうと決意を新たにしたんです」
翌春のセンバツでは智弁和歌山を決勝で下して約束を果たすも、夏には地方大会の「落とし穴」に苦しんだ。
「準決勝の履正社戦で、9回2アウトまで1点差で負けていたんです。なんとか逆転することができましたが、正直、甲子園よりキツかったです(笑)」
苦境を乗り越えて臨んだ夏の甲子園も先述の通り優勝。最も手ごたえを感じたのは準々決勝の浦和学院戦だったという。
「世代ナンバーワン投手と言われていた渡邉勇太朗(22・西武)を打ち崩せたことが大きな自信になりました。あの試合で、『僕らはもっと強くなれる』って確信したんです。あの戦いを経て、優勝の瞬間にマウンド上に集まったときは、本当に最高の気分でした」
あの夏から5年――天才球児はファームでもがいている。甲子園で強烈な輝きを放った根尾は’19年にドラフト1位で中日に入団するも、ショート、次に外野、そしてまたショート、今年から投手専念とポジションが目まぐるしく変わり、一軍に定着できずにいる。ファンからは「気の毒」という声も聞こえてくるが――。
「いや、本当に気にしてないんですよ!野球がサッカーになるわけじゃないので(笑)。もともと投げるのは好きだったので、野手時代も遊びでこっそりブルペンに入ったりしていたんです。そんな中で立浪監督(和義・53)に声をかけていただいて、投手一本で行こうと決めました」
昨シーズン途中からリリーフ投手として25試合に登板し、防御率3.41。今季もファームで好調をキープしているが、本人は納得いかないようだ。
「配球や考え方――いわゆる投球術が全く身についていなかったんです。一軍で活躍している柳さん(裕也・29)、涌井さん(秀章・37)、宏斗(高橋・21)と自分の差はなにか。映像を見て研究しています。まずはとにかくプロで1勝目を挙げたいですね」
試行錯誤が続くプロ野球生活を語った後、根尾は聖地で闘う高校球児たちへ、いたずらっぽくメッセージを残した。
「観客もめちゃくちゃ入ってますし、熱がこもっていてとにかく暑い。熱中症にならないように、水分しっかり摂って、頑張ってください! ホント、とにかく甲子園は暑いんです(笑)」
高校時代、根尾は何度も逆境を乗り越えて栄冠をつかんだ。プロでの5年間の苦闘も、肥やしにするに違いない。
『FRIDAY』2023年9月1日号より
- PHOTO:濱﨑慎治