<figure id="attachment_328706" aria-describedby="caption-attachment-328706" style="width: 2723px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="9c592926"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/a14ede57594ebcb411cf07512adb095b.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-328706" class="wp-caption-text">いろは丸船体中央部分で発見されたボイラーと思われる部分。いろは丸はイギリスで建造された蒸気船だった（提供・特定非営利活動法人 水中考古学研究所）</figcaption></figure>
<p>水中考古学という学問をご存じだろうか。海や湖などの底に眠る沈没船や都市などの遺跡や遺物を発見・調査して歴史の謎や真実に迫る学問だ。沈没船のお宝といえば、少し前までは海底の冒険家やトレジャーハンターの独壇場で、学問としての歴史は60年ほどとまだ新しい。</p>
<p>水中に眠っていた遺物は陸上の遺跡よりも保存状態が良く、資料としての価値も高いと言われる。そんな水中考古学をめぐるロマンあふれるエピソードを、『水中ミステリー 海底遺跡と難破船』（東京新聞社）の著者、井上たかひこ氏に聞いた。井上氏は“水中考古学の父”と言われたジョージ・バス氏に学び、東洋人として初の学位を取得した、日本における水中考古学の第一人者だ。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>この発見については日本でも’02年にTBSがBSで『甦る伝説の都　女王クレオパトラの海底宮殿』という番組で取り上げている。井上氏も出演した同番組では、女優の羽田美智子が現地で実際に潜っていたという。</p>
<p><span class="strongInContent">「現地のガイドに手を引かれて実際に潜った羽田さんは『何も見えなかった。こんなに浅いところにあるのに、なぜこれまで発見できなかったのか、わかったような気がします』と言っていました。現場は水深が10メートルもなくて、さほど深くない。しかし、水の濁りが酷く更に砂泥に覆われており、そのことが調査や発見を遅らせていました。また、軍事基地が近くにあったことも調査ができなかった理由の１つだったようです」</span></p>
<div data-friday-nextpage-lead="甦った2000年前の宮殿跡"></div>
<p>’96年の調査ではプトレマイオス朝（前305年頃～前30年）の宮殿跡や同王朝最後の女王であるクレオパトラの宮殿跡、彼女の恋人だったローマの軍人、アントニウスの住居跡などが見つかった。まさに歴史物語の舞台そのものが現代に蘇ったのだ。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p><span class="strongInContent">「クレオパトラには、カエサルやアントニウスとの恋など、小説や映画の題材となった有名なエピソードも多い。もし生活用品とか、クレオパトラが実際に使っていた愛用の品……などが出れば、より現実的なものになってロマンが掻き立てられますよね。水の中だからこそ残っているものもあるでしょう。</span></p>
<p><span class="strongInContent">クレオパトラについては墓も見つかっていませんし、どこにあるのかも不明です。クレオパトラの遺言は『アントニウスの隣に葬ってくれ』ということだったようなので、クレオパトラの墓が見つかれば、その近くにアントニウスも眠っているかもしれませんね。ツタンカーメンのような、あんな凄いものが出てくるかは分かりませんが。そんなクレオパトラの息吹が感じられるかもしれない遺跡なのです。ただ、この調査にはこれから100年ぐらいかかるとも言われており、もちろん現在も調査中です」</span></p>
<p>日本における水中考古学の調査では北海道・江差町で’75年に大砲が引き揚げられた幕末の軍艦、開陽丸や30年の調査が実って’11年に元寇船が発見された長崎県の鷹島海底遺跡などが有名。だが、歴史の真実をあぶり出したという点では’88年に発見された「いろは丸」も有名だ。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p><span class="strongInContent">「蒸気船いろは丸は坂本龍馬が亀山社中・海援隊で交易のために荷を積んでいた船です。1867年、長崎から大阪に向けて出港したいろは丸は瀬戸内海で紀州藩の軍艦・明光丸とぶつかり、結果積荷もろともに沈没しました。</span></p>
<p><span class="strongInContent">これを広島県福山市の鞆の浦の『鞆を愛する会』という町おこし団体が『沖に唐人船が沈んでいる』という地域の伝承をもとに調査して1988年に発見しました。それを水中考古学研究所の吉崎伸理事長等が調査したものです。こういう素人が発見したという例は珍しいです。福山市の沖合の水深27mで発見されたいろは丸からは、船のパーツや石炭や陶磁器などが引き揚げられ、ボイラーなども確認できました。</span></p>
<p>いろは丸の事故をめぐる出来事は「いろは丸事件」として聞いたことがある方もいるかもしれない。坂本は「明光丸の甲板に見張りが１人もいなかった」という国際法違反を盾に紀州藩から８万３千両という多額の賠償金をせしめたのだ。一介の脱藩浪人だった坂本が御三家の大藩を相手に回して見事に勝ったという話になっている。だが、いろは丸の調査で思わぬ真実が判明したのだ。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="「いろは丸事件」の真相とは…"></div>
<p><span class="strongInContent">「賠償金に含まれる積荷代金の多くは、いろは丸が積んでいたという当時の最新鋭銃であるミニエー銃400丁でした。しかし、吉崎理事長の話によれば、ミニエー銃は１丁も発見できなかったそうです。調査の結果、数丁でも出てくれば、話は違ったかもしれません。ところが全く出てこない……、そこから推測するに、ミニエー銃400丁の話は、紀州藩を相手取った、龍馬一流のハッタリや駆け引きだったのではないか。そう考えるといろは丸の調査によって、龍馬の何とも痛快なキャラクターが見える気がします。</span></p>
<p><span class="strongInContent">幕末とはいえ、開国をすべきかどうか悩みながら近代化に向かっていた当時、国際的には基本的な法律だった万国公法を龍馬に突きつけられて、紀州藩もやむを得ずだったのではないでしょうか。海難事故で賠償金を取ったのは、日本ではこれが初めてのケースだったようです」</span></p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>このように歴史を掘り起こして真実に光を当てる可能性を持った水中考古学だが、実際に人が潜って調査・探査するのは、せいぜい水深50m位が限界だという。しかし、現在では科学技術の進歩によって、より深い場所にまで手が届くようになった、と井上氏は語る。</p>
<p><span class="strongInContent">「タイタニックのように、水深3800mのところまで探せるようになったのは画期的なことです。先日は深海にあるタイタニックを見に行くツアーで、残念ながら事故がありましたが…。タイタニックについては、私の師であるジョージ・バスさんもロシアの潜水艇ミール号に乗って実際に見に行っているのですが、やはり不安だったようです。</span></p>
<p><span class="strongInContent">事前に家族会議を開いたそうで、奥さんと長男は反対して、次男は賛成したのだとか。深海に潜ったときの感想を『宇宙飛行のようだった』とバスさんは言っていました。宇宙飛行士の気持ちは分かりませんが、水深3800mは気が遠くなりますね。真っ暗闇だそうです。</span></p>
<p><span class="strongInContent">タイタニックは特殊な例としても、深いところ──水深100mぐらいのところでも、ソナーや水中ロボットなどを使っての調査は可能です。21世紀の水中考古学は、より深い場所、より目の届かない場所……と、いわば“深海”考古学の方向に進んでいくのではないでしょうか」</span></p>
<p>地上にも、まだ明かされていない謎はあるが、水中には人類にとって、もっと未開の部分があるのだろう。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<div data-friday-nextpage-lead="【画像】水中に眠るインゴット、いろは丸…"></div>
<figure id="attachment_328715" aria-describedby="caption-attachment-328715" style="width: 1325px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="89c2b188"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/ee5a0d63a456ee7fe3fd3f8109c46970.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-328715" class="wp-caption-text">いろは丸船尾付近の船体外板。海底付近はほぼ視界がなく、手探り状態で作業は進められたという（提供・特定非営利活動法人 水中考古学研究所）</figcaption></figure>
<figure id="attachment_328716" aria-describedby="caption-attachment-328716" style="width: 1480px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="bb93c4c7"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/6ad99daeee087bdf043232765bfaf962.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-328716" class="wp-caption-text">地中海トルコ南部、ウルブルン難破船での潜水調査中の井上氏。水深50mの場所で銅のインゴット（鋳塊）が重なるようにして沈んでいた（提供：Institute of Nautical Archaeology）</figcaption></figure>
<figure id="attachment_328717" aria-describedby="caption-attachment-328717" style="width: 1433px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="3ea2f82b"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/69b15d5633d0f77dd6bb6775ae1508b9.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-328717" class="wp-caption-text">千葉県・勝浦沖で黒船ハーマン号を調査する井上氏。ハーマン号は戊辰戦争で箱館に熊本藩士350名を輸送する途中で沈んだ（提供：日本水中考古学調査会）</figcaption></figure>
<figure id="attachment_328718" aria-describedby="caption-attachment-328718" style="width: 1467px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="5a669a3a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/ca0a58d437106f89ad18cbc9da2e6a7e.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-328718" class="wp-caption-text">ハーマン号の調査風景。現場は岩礁地帯で潮の流れも速く、井上氏も何度も溺れかけたという（提供：日本水中考古学調査会）</figcaption></figure>
<figure id="attachment_328719" aria-describedby="caption-attachment-328719" style="width: 5760px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="56793e95"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/792d3ee004f7cce61194ed25f601865d.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-328719" class="wp-caption-text">井上たかひこ氏。現在もハーマン号の調査に取り組む</figcaption></figure>
<p>&nbsp;</p>


海や湖などの底に眠る沈没船や都市などの遺跡や遺物を発見・調査する水中考古学。日本における第一人者である井上たかひこ氏が、クレオパトラの宮殿やいろは丸などの歴史の真実に迫るそのエピソードを語る

クレオパトラの海底宮殿、「いろは丸」に隠された坂本竜馬の思惑…水中考古学が明かす水の中に眠る真実

あなたへのオススメ

関連記事