井出 千昌

<h3>「エアコンの‟お喋り”がうるさくて…」 </h3>
先日、エアコンを買い替えた実家の母から「エアコンのお喋りがうるさくてテレビが聞こえない」と苦情の電話があった。喋らない設定に変更すれば済む話だが、高齢者にはそれが難しい。
やれ天気がいいから布団を干せだの、そろそろ窓を開けて空気を入れ替えろだのと言ってくるエアコン。勝手に学習して献立の提案をしてくる冷蔵庫や鍋。高級で高性能な家電は、高齢化が進む日本では逆に消費者を苦しめていないだろうか。
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
迷走する日本の家電の実情と海外家電の実際を、家電ライターの藤山哲人さん、ロサンゼルス在住のライター廣田陽子さんに聞いた。
<figure id="attachment_328709" aria-describedby="caption-attachment-328709" style="width: 3861px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="deb58337"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/b41548104a27fd839151926829e254c4.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-328709" class="wp-caption-text">中国からの観光客が炊飯器を買い漁ったのは、こんなにおいしく炊けるのは日本製だけだから。ガラパゴス化の前に、そこを誇ってほしいかも（写真はイメージ／PHOTO：アフロ）</figcaption></figure>
<h3>世界に誇れる「省エネ性能」！ なのに海外で流通していない日本製家電</h3>
――廣田さんは渡米して８年目ですが、そちらでも日本の家電は人気ありますか？
廣田：韓国と中国が多く、日本製はほぼ見ないです。日本のメーカーはラップなしでも鮮度を保てる冷蔵庫とか水で焼くオーブンとか、バージョンアップするごとに消費者の予想を飛び越える新機能を必ずつけてくるので、できれば日本製を買いたいのですが。 
藤山：東日本大震災以降、省エネ性能も飛躍的に進み、世界的に見ても飛び抜けていますしね。
――日本では献立を提案する鍋など、お喋りする家電がいろいろあるけど、海外のメーカーはどうですか？
廣田：ないです。デジタル機能がつくと、ネジひとつで直せなくて面倒くさそう（笑）。 
藤山：料理の得意な人が喋る鍋を買うと、大抵１ヵ月で飽きてマニュアルモードに移行します（笑）。提案型の鍋は宅配業者と夕食のソリューションサービスを提供していたりするので、料理が苦手な人や忙しい人が時間を買っている感じです。
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
――家電も二極化が進んでいるんですね。
<h3>「スマート家電」が高齢者にも優しくなるのは40年後！？</h3>
廣田：天気予報で「お洗濯指数」とか言ってくるのは日本だけ。それが家電にも反映されているのかも。ちょっと過剰な気もします。 
藤山：日本は客が求めるひとつ上のサービスを返す「おもてなし文化」の国だから、そこに昨今のIoT家電ブームが乗っかったというのはあるかも。AmazonのAlexaとかGoogle Homeがもてはやされた２、３年前ですね。 
例えばシャープのコンセプトには“仮想人格を家電に持たせて、友達感覚で操作できるように”というのがあるんですよ。なのでみんなめっちゃ喋ります。 
誕生日をお祝いしてくれたりもするので、アニメ好きな僕はプリキュアの声で設定しています（笑）。スマホもめちゃくちゃ喋りますが、電車の降りる駅を自動的に学習し、乗り過ごさないように教えてくれるので、そういうのは便利です。 
廣田：GoogleやAmazonを家電と繋げちゃうと、いつ家にいて、いつ何を買ってといった個人情報が全部バレるので、あえてコネクトさせない人もいます。 
藤山：LINEなんかもスマートスピーカー作ってたけど、今はもうやめちゃいましたしね。
――スマート家電は誰にでも優しいというイメージがありますが。
藤山：スマホを使えることが前提なので、高齢者には全然優しくないです。らくらくホンにはアプリがインストールできなかったりしますし。IoT家電は若者がこの先高齢化していって、高齢者もスマホやパソコンが当たり前になった時には、みんなに優しいものになると思います。今は時間待ちですね。 
<div data-friday-nextpage-lead="「新機能ちょい足し」が、やめられない訳"></div>
<div class="expapp-yahoo-paragraph-break"></div>
<h3>「新機能ちょい足し」が、やめられない訳</h3>
廣田：アメリカの場合、賃貸だと家電がついているので、個人で買うチャンスは日本の５分の１くらい。商品の回転率が悪いせいか、さほど高機能は求められず、家電愛も低いかも。冷えればいい、動けばいいという感じなので、メーカーも既存の商品をずっと売っていて、リニューアルは頻繁にしません。
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
藤山：なぜ日本のメーカーは家電を年に１〜２回、モデルチェンジするのかっていうと、値崩れするからなんですよ。日本独特の販売店システムがあって、販売店のほうで「何割引します」となると、割り引いた分の損失補填はメーカーが払う。すると販売店に払うマージンが増えるので、だったら新製品を出したほうがいいと。海外のメーカーは、販売形態が日本と違うから、掃除機なんて１回作ったら５年10年はモデルチェンジしないんですよ。 
<figure id="attachment_328710" aria-describedby="caption-attachment-328710" style="width: 3500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="0d77c854"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/93933587fb0857770c25ebc1669f8c5f.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-328710" class="wp-caption-text">こちらは、ニューヨークの家電量販店に並んだ乾燥機。かなりのシンプル度…（PHOTO：アフロ）</figcaption></figure>
――新製品を出すたびにイノベーションを起こしていたら、いつかは天井に届いてしまうのでは？
藤山：それが今です。何か新しい機能をちょっと足さないと新製品が出せないというのをもう70年以上続けてきたので、「それは来年にしない？」といった忖度もあるし、IoTに走るしかない状態なんです。
――なんという「誰得」システム！
藤山：それを問題視したパナソニックが、去年からドライヤーとドラム式洗濯機を、指定価格買取制にしました。でもそれは販売店とメーカーとのパワーバランスなんですよ。今挙げた商品は圧倒的に強いので、販売店に「この値段で販売してください」と言えるけど、それは今のところメーカーとして強いパナソニックしかできないと。日本には、そういう構造があります。
いかがだっただろうか。なんだかとんでもないことを聞いてしまった気がする。世界市場ではサムスンやLGに完全に押されている日本家電。けれど日本の製品は省エネで壊れにくく、機能も優れている。
円安で国内回帰が進み、国内に工場を戻すメーカーも増えている昨今、「機能モリモリお喋りおせっかい路線」とは別立てで、低価格でシンプルなものを販売したら、高齢者は喜ぶし、世界的にも市場が拡大しそうなのにと素人は考えてしまうけど、そんな単純な話じゃないのかね…。
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
藤山哲人 『家電Watch』をはじめ、雑誌やwebなどで家電を紹介する家電ライター。ライターのかたわら電子回路や機械設計、プログラマーとしても活動。バラエティ番組『マツコの知らない世界』に６回出演するなど、情報番組を中心にテレビでも活躍中。
廣田陽子　ロサンゼルス在住の編集ライター、ヘルスコーチ。雑誌編集者歴は15年以上。’15年に渡米し、日本で流行りそうなアメリカのダイエットフード、エクササイズなどのトレンド記事を得意とする。
<figure id="attachment_328712" aria-describedby="caption-attachment-328712" style="width: 1600px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="2d79a882"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/51494b66b20eaec11fe501f5bdf797f4.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-328712" class="wp-caption-text">米と水の計量から炊飯までを全自動で、しかも、外出先からはスマホで操作可能…７月にパナソニックから発売された「自動計量＆遠隔炊飯機能」搭載の炊飯器（パナソニックのプレスリリースより）</figcaption></figure>

井出千昌

高級で高性能な家電は、高齢化が進む日本では逆に消費者を苦しめていないだろうか。迷走する日本の家電の実情と海外家電の実際、日本の家電が多機能化する訳を、家電ライター、ロサンゼルス在住のライターに聞いた。

誕生日を祝ってくれる家電って必要？ ‟付加価値機能”過多でガラパゴス化する「日本の家電」迷走の訳

あなたへのオススメ

関連記事