<figure id="attachment_329164" aria-describedby="caption-attachment-329164" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="848c4ce1"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/0e30da858d87432599dfba45bbd117ae.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-329164" class="wp-caption-text">ウクライナ正規軍の第24旅団。激戦地バフムトの近郊でロシア陣地に向かって迫撃砲を発射している</figcaption></figure>
<p>今年６月にウクライナ軍の反転攻勢が始まり、現在も東部と南部では両軍の激しい戦闘が続いている。７月に私は東部戦線で戦うウクライナ正規軍及び、３人の日本人義勇兵が在籍する領土防衛隊の取材をするべくドネツク州へと向かった。ウクライナ戦争が始まって以降、私にとって４度目の取材になる。</p>
<p>ウクライナ正規軍の第24旅団は激戦地バフムトの南、ドネツク州のトレツクに展開している。ロシア軍陣地から20㎞ほどの距離にある迫撃砲陣地へと軍の車両で向かう。前線でハンドルを握る兵士は、絶えず上空のドローンを警戒しながら100㎞／ｈを超えるスピードで車を走らせる。猛スピードで走ることが、砲弾や自爆ドローンの攻撃から身を守る唯一の方法なのだ。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>司令部は無人になった民家を接収して使っていた。家の中に入ると部屋には５台のモニターがあり、画面にはロシア陣地の上空からドローンで撮影した映像がリアルタイムで映っている。この部隊の指揮官で35歳のオレクサンダーに話を聞く。</p>
<p><span class="strongInContent">「我々の部隊はこの陣地に来て１ヵ月になります。バフムト近郊の戦闘状況は非常に厳しいですが少しずつ奪還しています。我々には十分な武器や砲弾、その他装備品がありますが、一番必要なのは休息です」</span></p>
<p>司令部を後にした我々は迫撃砲陣地へと向かう。陣地は住宅地の中にあった。ここでもドローンを警戒して草木で偽装した即席の屋根で迫撃砲を覆(おお)っている。</p>
<p>指揮所から無線連絡が入ると屋根を外して準備をする。大きな120㎜砲弾を筒に落とすと「ズドン！」と腹に響く爆音と共に発射される。連続で４発の砲弾を撃ち終えるとすぐに屋根を被せる。迫撃砲を担当する兵士の多くは40代以上だ。過酷な前線で戦うには体力的に厳しい年齢だろう。</p>
<p><span class="strongInContent">「戦争が始まる前は建設業に携わっていました。戦争がこれほど長引くとは思わなかったですが、ここは私の国であり戦うのが義務です」</span></p>
<p>40代のベテラン兵士はそう答えた。国民が一丸となってロシア軍から領土を取り返す意気込み、士気の高さを感じた。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>第28旅団、第10戦車大隊は南部のヘルソンやバフムト近郊など数々の激戦を生き抜いてきた。ドネツク州、ヤブルニウカ郊外の戦車陣地の森の中には２両のT－64戦車が隠されていた。T－64は1960年代に開発された旧式の戦車だが、125㎜砲はロシア軍のT－90戦車にも有効で、現在でもウクライナ軍では主力戦車として使用されている。頭上にはドローン攻撃を警戒して防御用ネットが張られている。ロシア軍はまだこの陣地を発見していないそうだ。T－64は乗員３人で運用され、指揮する車長の年齢は30代で、他の２人は20代だった。</p>
<p>戦車の内部の取材を許可された私は砲塔の上部ハッチから入り、砲手の席に座った。身長170㎝の私がちょうど収まるサイズで、戦車兵は小柄な体躯の兵士が多いのが納得できる。目の前には観光地にある望遠鏡のようなスコープがあり砲手はこれで照準を合わせて撃つのだ。</p>
<p>周囲には至る所にスイッチや計器がある。このT－64は自動装填装置が装備されており、車体底部にある円形の弾薬庫から自動で装填されるという仕組みだ。極めて限られた視界しかない戦車、こんな密室で戦車兵はどんな気持ちで戦うのだろうか。</p>
<p><span class="strongInContent">「この戦車はT－64の改良版のT－64BVです。年代物ですが私はこれで十分戦えます。戦闘中は３日間、外へ出られないこともあります。対戦車ミサイル、地雷など戦車にとって脅威は多くて恐怖を感じます」</span></p>
<p>20代の戦車兵はそう語った。領土防衛隊は一般市民や予備役で構成され、さまざまな国籍の外国人も在籍している。本来、領土防衛隊は検問所での警備など正規軍の後方支援の任務をするのだが、現在は最前線での戦闘任務を行っている。</p>
<p>第204独立領土防衛大隊には３人の日本人義勇兵が在籍している。３人は年齢、日本での経歴などは違うが、自衛隊の経験がないということは共通している。キーウ郊外で１ヵ月間の基礎訓練を受けただけで、ウクライナ東部戦線の激戦地へと投入されることになった。</p>
<p>東部コスチャンティニウカにある後方基地から３日間のローテーションで最前線での任務に就いている。日本では建設関係の仕事をしていた26歳の鈴木さん（仮名）は、昨年５月に家族に内緒で義勇兵になるためにウクライナへやって来た。</p>
<figure id="attachment_329165" aria-describedby="caption-attachment-329165" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="d1db9b44"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/32a280c622ab9c4d5df57bccf64ce97c.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-329165" class="wp-caption-text">第28旅団第10戦車大隊。Ｔ-64は旧ソ連時代、今回の戦争で激戦地になったハルキウで開発された</figcaption></figure>
<figure id="attachment_329166" aria-describedby="caption-attachment-329166" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="9a695c2d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/6a9d9d8ea2a79ee4a5f893a13e308af5.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-329166" class="wp-caption-text">戦車を動かすウクライナの戦車兵。西側諸国から供与された戦車より扱い慣れたＴ-64を好む兵士が多い</figcaption></figure>
<div data-friday-nextpage-lead="腐乱遺体の隣で寝る"></div>
<h2>腐乱遺体の隣で寝る</h2>
<p>軍歴はなかったが、鈴木さんは昨年、東部イジュームで別の領土防衛隊の兵士として凄絶な塹壕戦を経験している。３日間、塹壕に滞在する予定が１週間に延びた。食料や水がなくなってしまい、川の水をＴシャツで濾過(ろか)して飲んだそうだ。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>現在は第204独立領土防衛大隊の砲兵として、AGS－17（自動擲弾発射機）を担当しているが、人手不足ということもあり助っ人としてロシア軍から奪還したばかりの陣地の防衛のためにハルさん（仮名）と共に送られることになった。ハルさんも日本人義勇兵で、元暴力団組員という異色の経歴を持っている。あまりにも危険で死傷者も続出していることから部隊では「自殺ミッション」と呼ばれ、兵士からは敬遠されている。</p>
<p><span class="strongInContent">「明け方に出発して装甲車と徒歩でポジションと呼ばれる最前線の塹壕に行くことになりました。自分が入った塹壕には戦死したロシア兵が遺棄されていて、我々は腐乱した遺体の隣で戦い、食事をし、睡眠を取らなければならず、強烈な臭いには参りました。その塹壕は最近までロシア軍が使っていたので、座標も知られていた。そのため、ロシア軍は雨あられのように砲弾を降らせ、クラスター爆弾も使い、夜中も攻撃は続きました」（鈴木さん）</span></p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>無事に２日間の任務を終えてポジションを後にした。鈴木さんはまた同じ任務の要請があれば参加したいという。</p>
<p>ロシアがウクライナへの侵攻を開始してから１年半が経った。出口はまだ見えていない。</p>
<figure id="attachment_329168" aria-describedby="caption-attachment-329168" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="bf0ded98"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/9e21e6ddcd64ae0379bf2af00436a263.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-329168" class="wp-caption-text">FRIDAYの取材に応じる鈴木さん（右）とハルさん（左）。同じ隊の日本人義勇兵のケンさん（仮名、中央）と</figcaption></figure>
<figure id="attachment_329167" aria-describedby="caption-attachment-329167" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e45e3b16"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/5a8a8f97cf61bdc6857d66e619c7158c.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-329167" class="wp-caption-text">恋人と休日を楽しむウクライナ兵士。侵攻から１年半で、両軍の死傷者は50万人にのぼるというデータもある</figcaption></figure>
<p><span class="strongInContent">よこた・とおる／’71年、茨城県生まれ。’97年のカンボジア内戦からフリーランスの報道カメラマンとして活動を開始。コソボ紛争、アフガン紛争などを取材する。著書に『戦場中毒 撮りに行かずにいられない』など</span></p>
<p>『FRIDAY』2023年9月8日号より</p>


横田 徹（報道カメラマン）

侵攻から１年半。今年６月にウクライナ軍の反転攻勢が始まり、現在も東部と南部では両軍の激しい戦闘が続いている…領土防衛大隊には３人の日本人義勇兵が在籍、現地へ取材に向かうと……

「腐乱した遺体の隣で戦う」”ウクライナ戦争最前線”で戦う日本人義勇兵の揺るぎない覚悟

あなたへのオススメ

関連記事