【ラグビーW杯開幕記念】日本代表 リーチマイケルの決意と誇り「地獄の日々を乗り越えて」 | FRIDAYデジタル

【ラグビーW杯開幕記念】日本代表 リーチマイケルの決意と誇り「地獄の日々を乗り越えて」

4度目、そして集大成のW杯へ 何度メスを入れても股関節の痛みは癒えず、「もう自分を選ばないでほしい」

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酷暑の6月に行われた浦安合宿。「これまでで一番キツい」と多くの選手が明かした過酷なメニューを終えると解放感に浸ろうと練習着を脱ぎ捨てた
酷暑の6月に行われた浦安合宿。「これまでで一番キツい」と多くの選手が明かした過酷なメニューを終えると解放感に浸ろうと練習着を脱ぎ捨てた

8月15日に発表されたラグビーW杯フランス大会の日本代表メンバーに、過去2大会でキャプテンを務め、今回が4回目のW杯出場となるリーチ マイケル(34)も順当に名を連ねた。

しかし、発表直後にリーチの口から出てきたのは、意外なほど悲壮感が漂う言葉だった。

「ギリギリまで『選ばれるかな』と緊張していたので、ホッとしました……。自分の中では奇跡。いろんなケガをして、地獄まで落ちて、がんばってここまでこられたのはすごく自信になっています」

リーチは東海大学の2年生だった’08年に20歳で日本代表デビュー。以来、W杯は’11年から3大会連続出場した。’15年大会ではキャプテンとして強豪国・南アフリカ代表から歴史的勝利を収め、’19年の日本大会ではアジア初の決勝トーナメント進出という偉業も成し遂げた。彼がキャプテンとなるまで7大会で1勝しかあげられなかった日本代表を、一時世界ランク6位まで引き上げたのだ。

日本中を熱狂させた快挙の立て役者はしかし――’19年のW杯後、苦しい日々を過ごしていた。満身創痍の身体に何度もメスを入れるもコンディションが上がらない。とりわけ深刻だったのが股関節のケガだ。手術後も痛みが収まらず、練習することさえままならなかったという。

「代表からの引退を考えた時期もありました。ジェイミー(・ジョセフ/ヘッドコーチ)からの評価もよくなかったし、’21年の秋にはキャプテンも下りることになって……。『(本来のポジションのフランカーではなく)ロックをやってみないか』と言われたこともありました。(ジェイミーに)『もう自分を代表に選ばないでほしい』というメールを書いて、送信寸前までいったこともあります。周りが期待してくれるのに、応えられないのが辛かった」

どん底の″鉄人″を救ったのは、日本代表躍進の「代名詞」とも言われたハードワークだった。セーブしていた下半身のトレーニング量を思い切って増やしたことで、本来のパワーがよみがえり、動きにキレが出てきた。

パフォーマンスは次第に回復。調子が上がるにつれて気持ちが吹っ切れると、痛みも消えていった。

「股関節と膝が痛くて、下半身のトレーニングをずっと避けていたんです。それが痛みに耐えてスクワットをやったり、ランニングのボリュームを上げたら、身体の調子がよくなりました。年齢を言い訳にしたくなかったし、調子が悪いまま終わりたくなかった。最後はいい状態で終わりたい。その思いが一番でしたね」

15歳でニュージーランドから札幌山の手高校に留学してきた時、リーチ少年は身長178㎝、体重78㎏と「周りの1年生とほとんど変わらない体格だった」。

そこから毎日夕食後に食パンを8枚食べるなど食事量を大幅に増やし、厳しいトレーニングを重ねたことで、卒業時には100㎏を超えるまでサイズアップを果たした。並外れた向上心と遂行力こそが、アスリートとしてのリーチの原点にして、真骨頂でもあるのだ。

7月22日に札幌ドームで行われた今季最初のテストマッチのサモア戦で、タックルの際に肩が相手の頭部にヒットし、前半30分に一発退場を喰らった。これが人生初のレッドカードだった。高校時代を過ごした第2の故郷で初めてプレーする代表戦だっただけに、リーチ本人の落胆は大きく、そこから勢いを失った日本代表は22-24で敗れた。

試合後、リーチは「(自分の)気持ちが下がってしまったのはチームにとってもよくなかった。顔に出さずポジティブでいるべきだった」と反省を口にしたが、裏を返せば、あらためて日本代表におけるリーチの存在の大きさを示す出来事だったともいえる。

リーチは3試合の出場停止処分を受けたが、国際統括機関であるワールドラグビーのコーチング介入プログラムへの参加申請により、処分は軽減され、W杯前の最後の実戦となる8月26日のイタリア戦から復帰が可能になった。

リーチ不在の日本代表は7月29日のトンガ戦は21-16と振り切ったものの、8月5日のフィジー戦に12-35と完敗。前半早々にFWの選手が退場し、一人少ない想定外の戦いを強いられ、精神的な動揺をうまく抑えられなかった。数々の逆境を乗り越えてきたリーチの復帰は、大きなプラス材料になるはずだ。

9月8日から始まるW杯フランス大会のメンバーは、フィジー戦後に内々で通達された。その場には、落選した選手の姿もあったという。リーチは振り返る。

「落選したメンバーの顔を見た時に責任を感じました。試合だけじゃなく、これからの準備も含めて、彼らの分までがんばらなければと思っています」

どん底に沈む苦しさを味わった経験は、不屈の男をまたひと回りたくましくした。心身ともにベストの状態となったリーチが4大会目、集大成のW杯に挑む。

7月8日、All Blacks戦でのリーチ。相手を引きずる力強さが戻ってきた
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本誌未掲載カット 『日本代表 リーチマイケルの決意と誇り「地獄の日々を乗り越えて」 札幌山の手高校時代のリーチ(左から7人目)。ほかの高校生と体格はさほど変わらなかった(提供:ベースボールマガジン社)
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本誌未掲載カット 『日本代表 リーチマイケルの決意と誇り「地獄の日々を乗り越えて」』 6月の浦安合宿でチームメートと談笑するリーチ
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本誌未掲載カット 『日本代表 リーチマイケルの決意と誇り「地獄の日々を乗り越えて」』 高校時代を過ごした札幌で挑んだサモア代表戦。リーチは態勢を崩されながらもパスを通した。
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本誌未掲載カット 『日本代表 リーチマイケルの決意と誇り「地獄の日々を乗り越えて」 穏やかな笑みの中に苦難を乗り越えてきた自信がみなぎっている
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『FRIDAY』2023年9月8日号より

  • 取材・文直江光信(スポーツライター)撮影松本かおり

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