<p><span class="strongInContent">〈本人の代わりに会社で退職の手続きを行うサービスである「退職代行」。ネットの広告などで存在は知っている人も多いのではないだろうか。</span></p>
<p><span class="strongInContent">今回は、自身も退職代行サービスを提供していた司法書士の加陽麻里布氏が、寄せられた退職代行の事例をもとに、退職代行の仕組みやサービスの概要を説明する〉</span></p>
<figure id="attachment_329423" aria-describedby="caption-attachment-329423" style="width: 1999px" class="wp-caption aligncenter"><a href="#" data-ident_hash="e9cbb02b"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/a17f8f84ee9b5bae357314cf64fed50c.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-329423" class="wp-caption-text">写真はイメージです/フォトライブラリー</figcaption></figure>
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<p>入社してまだ一年も経っていないが、退職を考えている伊藤かおり（仮名）さん。４月から正社員として株式会社Ｚに入社。株式会社ＺはＳＮＳの求人広告で見つけ、面接をうけて採用された。</p>
<p>求人には、<span class="strongInContent">「月給23万（残業代を含む）」</span>とだけ明記されていたが、伊藤さんは入社前の面談で詳細を聞かないまま、急募であるということで、書面によって雇用契約を交わしてしまった。</p>
<p>株式会社Ｚは社長と、監査役を務める社長の妻、パートタイマーの主婦２人と正社員１名と伊藤さんの小さい会社で、入社してすぐに、先輩社員が手厚くさまざまな業務を教えてくれた。</p>
<p>しかし、伊藤さんに引継ぎをした後、先輩社員が１週間で退社。伊藤さんは、先輩社員が担当していた業務も負担することになり、退社時間が夜の11時を回ってしまう激務が続くことになってしまった。</p>
<p>このような日々が続いていたにもかかわらず、支払われる給料は23万円。そこで、曖昧にしていた残業時間をきっちり計算し、社長に相談したところ、<span class="strongInContent">「この条件で雇用契約を交わしたんだから、急に辞めるんだったら損害賠償請求をするぞ！」</span>と怒鳴られてしまい、それ以降、気の弱い伊藤さんは何も言えなくなってしまった。</p>
<p>そんな状況に身を置いてから数ヵ月、伊藤さんは胃腸の不具合を抱え始めた。しかし、業務が減ることもなく、社員は伊藤さんしかいないため、薬を飲みながら、激務の日々を耐え忍んでいた。もう辞めたい。毎晩そう考えるが、社長の荒らげた声が脳裏に焼き付いており、思い出すと足が震え、言い出すことができなかったという。</p>
<p>ある日、同級生の林雄太（仮名）が弁護士を目指し法律を学んでいることを知り、相談することになった。伊藤さんは、会社を辞めたい旨と、できるなら残業代を請求したい旨を相談した。</p>
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<div data-friday-nextpage-lead="伊藤さんに告げられた「衝撃の解決方法」"></div>
<p>林さんは、伊藤さんの話を聞いた後、<span class="strongInContent">「そもそも奥さんが監査する立場である監査役になっている時点で、企業統治がきちんとなされていない会社であるといえるな」</span>と言い、伊藤さんの採用応募時に使用した株式会社Ｚの求人広告を見て、<span class="strongInContent">「月給23万（残業代を含む）」</span>という点を指摘し、このような残業代は<span class="strongInContent">「みなし残業代（固定残業）」</span>といい、固定残業代は、時間と金額が明記されていなければならず、さらに固定残業代の金額は割り増し金額になっていなければならないことを教えてくれた。</p>
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<p>労働基準法では、労働時間は１日８時間、週40時間までと定められており、それを超えて働いた場合には割増賃金を支払わなければならないと定められている（労働基準法37条）。</p>
<p>また、民法では、当事者が雇用期間を定めなかった場合には、各当事者はいつでも解約の申し入れをすることができ、雇用は申入れから２週間で終了する（民法627条）。伊藤さんは、今の辛い状況の原因は違法な労働条件にあり、会社を辞めさせてくれないのは違法な行為であることを知った。</p>
<p>しかし、社長に直接辞める旨を伝えなければならないと思うと、足がすくんでしまう。そこで、林さんは、伊藤さんに退職代行サービスの利用を勧めた。</p>
<p>退職代行サービスとは、退職する社員本人に代わって退職手続きを代行するサービスだ。退職代行業者には、①弁護士、②労働組合運営、③民間業者運営の３種類が存在していて、どこの退職代行業者であっても相談料は無料としているところがほとんどである。</p>
<p>それぞれ用途にもよるが、特徴としては、民間業者運営は一番低コストではあるが、支払い後に音信不通になるなどの事件もあるので、信頼性の面で注意が必要となる。また、民間業者運営には交渉権は認められておらず、雇用主側との交渉・協議まで踏み込んで解決することは許されていない。ゆえに、ただ会社に言い出しにくいなどの要件であれば、退職手続きを代行して行ってもらうために気軽に使用することができる。</p>
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<div data-friday-nextpage-lead="退職代行サービスを依頼した伊藤さんが迎えた結末"></div>
<p>次に、労働組合運営は、比較的コストも抑えられ、信頼の面でも比較的安心して利用できる退職代行業者だ。労働組合がない会社や企業などに属する労働者でも、地域の同業者が個々に参加できる合同労働組合（ユニオン）に加入することができる。</p>
<p>国民の権利である労働三権の範囲で、団体として会社に有給休暇の消化、未払い賃金、残業代についての交渉・協議をすることができる。しかし、この場合であっても、弁護士法72条（報酬を得る目的で、本人に代わって法律事務を取り扱うこと）に抵触する部分にまでは踏み込んで解決することはできない。</p>
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<p>最後に、コストの面で一番高額となるのが弁護士であるが、今回のケースのように、残業代などの支払い請求をする場合など、他よりもコストがかかったとしても一番確実性が高く、解決への最も近道になるといえる。</p>
<p>今回の事例では、伊藤さんは弁護士の行っている退職代行業者を利用した。最初は失礼なような気がして退職代行の利用を断ろうとした伊藤さんだったが、林さんにそもそも会社が違法な条件で働かせているんだから礼儀なんか気にしなくていいと説得され、退職代行サービスを使って無事に退職することができたのだという。</p>
<p>今回の事例のような場合だと、社員本人による交渉ではなかなか円満に退職できるケースは少ない。心や体を壊してしまう前に、一度専門家に相談してみてはいかがだろうか。</p>
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司法書士法人永田町事務所 代表司法書士<br />
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司法書士試験に合格した後、司法書士事務所で実務経験を積み、2018年に独立。永田町司法書士事務所を設立する。その後2023年1月に法人化し、司法書士法人永田町事務所の代表になる。<br />
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HP：https://asanagi.co.jp/

加陽 麻里布

近年増え続けるブラック企業に対抗して、需要が高まっている退職代行サービス。司法書士の加陽麻里布がどんなサービスでどんな仕組みなのかを事例ベースで解説する。

「辞めるなら損害賠償請求するぞ」ブラック企業社員が「退職代行サービス」を利用せざるを得なかった訳

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