日本代表とサンウルブズ 連携と独自性が産んだ「選手の自意識」 | FRIDAYデジタル

日本代表とサンウルブズ 連携と独自性が産んだ「選手の自意識」

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2月23日、秩父宮ラグビー場で行われたサンウルブズ対ワラターズ戦。サンウルブズは31対30で惜敗。写真は日本代表のメンバーでもあるツイ ヘンドリック
2月23日、秩父宮ラグビー場で行われたサンウルブズ対ワラターズ戦。サンウルブズは31対30で惜敗。写真は日本代表のメンバーでもあるツイ ヘンドリック

東京の秩父宮ラグビー場は、チアリーダーや花火や入場口付近の屋台で華やいだ。公式で14499人のファンが集まるスタンドからは、「Awoooon!」と狼の鳴きまねが響く。2月23日、国際リーグであるスーパーラグビーの国内初戦が開催された。

太陽と狼をモチーフにする日本のサンウルブズは、優勝経験のあるオーストラリアのワラターズに30―31と肉薄。16日にはシンガポール・ナショナルスタジアムで南アフリカのシャークスに10―45と大敗も、第2節となったこの一戦では防御を改善させていた。

しかし、今季初勝利はならず。代表経験の豊富な右プロップの山下裕史は、きっぱりと言った。

「接戦は記録に残らない」

ラグビーワールドカップ日本大会の開幕まで約半年に迫った。

前回のイングランド大会で歴史的3勝を挙げた日本代表はいま、主要の候補選手をふたつのグループに分けて強化を図っている。

ひとつめのグループは、2月上旬から実施中のラグビーワールドカップトレーニングスコッド(RWCTS)キャンプへの参加者。12月に発表された第3次RWCTSのうちリーチ マイケルや堀江翔太といった主軸候補が並び、RWCTSの予備軍にあたるナショナル・デベロップメント・スコッドの一部も繰り上がる。

ジェイミー・ジョセフヘッドコーチは、2月中旬からこちら側に合流した。最初からRWCTSを見ている堀川隆延コーチは言う。

「S&C(肉体強化)をメインとするなか、ファンダメンタルスキルをやり切る。メニューは、ジャパンが昨年から取り組んでいるものにプラスして、(各コーチが)色を出すという感じです」

ふたつ目のグループは、サンウルブズへの合流組だ。1月からプレシーズンキャンプを実施したサンウルブズには、第3次RWCTSの中でもより高度な試合の経験が求められていたメンバーが帯同。代表資格を持たない外国人選手と手を組み、日本代表と同種の戦術を用いて試合をする。

サンウルブズのヘッドコーチとなったのは、母国ニュージーランド時代からジョセフの右腕を務めてきたトニー・ブラウン。日本代表でのアタックコーチも務め、今季のサンウルブズでは流れのなかで後方のセンターを攻撃ユニットの先頭に立たせるなど、アタックのバリエーションを増やそうとしているようだ。いまのサンウルブズに帯同しているRWCTSのひとり、スクラムハーフの茂野海人はこう話す。

「試合ができることで経験値を高められますし、試合ごとに出た課題をひとつずつ修正していけば、個人としてもチームとしても成長できる」

RWCTSキャンプが大きく動きそうなのは、一部の人員がサンウルブズに割かれるであろう3月以降。最初にわかりやすい形で光を差し込んだのは、ワラターズ戦に臨んだサンウルブズだった。

シャークス戦時の反省とワラターズに関する事前分析を活かし、相手のおとりの選手に惑わされないよう守備列を整える。ワラターズが端から中央にパスを放った際は、ロックのトンプソン ルークらが飛び出しビックタックルを浴びせる。要所で連携の不備を突かれて失点したものの、概ね有機的な動きを保った。

自陣深い位置でのインターセプトを味方のトライに繋げたのは、RWCTSでもある中村亮土だった。インサイドセンターとして先発フル出場した後、こう振り返った。

「先週はひとりひとりでディフェンスをしてしまっていたので、今週はその間に繋がりを持つように変えました。まずは相手にプレッシャーをかけながら、両サイドの選手とコミュニケーションを取ってプッシュ(グラウンドの内側から外側へ相手を押し出す動き)していく…と」

ジョセフを筆頭に据えたこのプロジェクト。今後の焦点となるのは、ふたつの組織の繋がりだろう。

まず攻防の起点となるスクラムについては、RWCTSの山下が「いまの組み方にプラスして、代表の組み方を入れている」と証言する。サンウルブズが迎えたマーティ・ヴィール新スクラムコーチのもと、昨季までサンウルブズも教えていた日本代表の長谷川慎スクラムコーチの形を選手主導で採り入れる。

この日機能したサンウルブズの防御システムは、相手への鋭いプレッシャーが肝となる点では日本代表のジョン・プラムツリーディフェンスコーチ(現在ニュージーランドのハリケーンズを指揮)のシステムと共通する。もっとも両者には、いくらか違いもある。中村はその点を認識しつつ、目の前の仕事に集中したいという。

「いまはどうなのかわかりませんが、以前(2018年まで)のプラムツリーのやり方は(所定の立ち位置から相手の方向まで)上がり切る形でした。上がり切ったなかで、隣同士がどうコネクションを取るか…というものです。今週(ワラターズ戦でのサンウルブズ)は、上がりながらプッシュする形でした。ここは試合によって変わってくるとも思います。(いま考えていることは)チームがやろうとしていることに、100パーセントコミットすることです」

繋がりが注目されるのはグラウンド外も同じ。サンウルブズができた2016年から課題とされてきたのが、日本代表を支える強化委員会とサンウルブズを運営するジャパン・エスアールとのコミュニケーション不足だった。

ワールドカップイヤーの今季は、両組織の要職を藤井雄一郎・前宗像サニックス部長兼監督がいっぺんに担う。2月は都内のRWCTSと、世界中を回るサンウルブズとの間を行ったり来たり。「初めてのことだから色んな事が起こる。何かが起きた方へ行く」と、親交の深いジョセフを精神面でもサポートする。

「このふたつ(日本代表とサンウルブズ)は切っても切り離せない関係にある。ただ、(それぞれの)スタッフは違う。両方のチームを見るのはブラウンと俺しかいない。きっちりと連携を取って、右に行ったり左に行ったりしていく」

ジョセフがRWCTSキャンプ序盤を離れていた間におこなった欧州視察の成果、サンウルブズのボスであるブラウンがスーパーラグビーの開幕前からずっとRWCTSに張り付いていることなど、対外的な説明が必要な項目は多い。今度のサンウルブズの善戦が全てを好転させられるかも、未知数である。

ただ確かなのは、選手側に前向きな心が芽生えていることだ。誰もがスタッフの方針に敬意を示したうえで、成功に不可欠な項目を自主的に点検している。

サンウルブズに加わるRWCTSのフランカー、ツイ ヘンドリックは「ジョセフとブラウンの計画を信じ、やり切る」と言い、RWCTSキャンプにいる流大は「当日のレフリングが分析通りではなかった場合など、色んな事を想定して練習するのが大事」と発言。いまの日本代表がワールドカップで決勝トーナメントに進むための最善手を、必死に模索している。「接戦は記録に残らない」のは日本代表でも同じだと、皆、わかっている。

  • 取材・文向風見也

    スポーツライター 1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

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