<figure id="attachment_332799" aria-describedby="caption-attachment-332799" style="width: 1042px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="23566e8a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/291558bc51e028255b861678bdd9755e.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-332799" class="wp-caption-text">映画『春に散る』でのボクシングシーンでは、鬼気迫る演技を見せた横浜流星</figcaption></figure>
ノンフィクションの分野で独自の世界を築き上げてきた沢木耕太郎が、集大成として朝日新聞に連載。幅広い年齢層から支持された小説『春に散る』が映画化され公開されている。
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今作は、不公平な判定で負けアメリカへ渡り40年ぶりに帰国した元ボクサーの広岡仁一（佐藤浩市）。同じく不公平な判定で破れ、心が折れたボクサーの黒木翔吾（横浜流星）。
この２人が偶然飲み屋で出会い、やがて２人は世界チャンピオンを目指して“命を懸ける”戦いの舞台へと挑んでいく注目の感動作だ。
「その中でも、20分に及ぶ翔吾と世界チャンピオン・中西利男（窪田正孝）が繰り広げるタイトルマッチは、映画史に残る名場面でした。
安藤サクラ『百円の恋』、菅田将暉『あゝ、荒野』、窪田正孝『ある男』、岸井ゆきの『ケイコ 目を澄ませて』を始め、今作でもボクシング指導・監修を務めた松浦慎一郎さんが、『この作品の映像化は難しいだろう』と諦めていたほど難易度の高い作品だけに、それを見事に映画化したスタッフ・キャストは、見事としか言いようがありません」（制作会社プロデューサー）
世界チャンピオン・中西役を演じたのは窪田正孝。三池崇史監督の映画『初恋』（‘20）では、脳腫瘍であることを知り、アンダーグラウンドの世界に身を投じていくプロボクサー。映画『ある男』（‘22）では、突然姿を消すプロボクサーを演じるなどボクシングキャリアは十分。しかし、壮絶な世界タイトルマッチを丁寧に描く今作に関しては
「覚悟を決めてオファーを受けた」
と、振り返っている。
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一方、世界チャンピオンに挑む翔吾役に選ばれたのは、中３の時極真空手の世界チャンピオンに輝き、映画『きみの瞳が問いかけている』（‘20）では、キックボクシングに挑戦。身体能力の高さは折り紙つきの横浜流星が演じることになった。
「しかし瀬々敬久監督が魅せられたのは、身体能力の高さだけではありません。Netflix版『新聞記者』（‘22）で新聞配達の青年役を演じる横浜の等身大の演技力に、心つかまれたと明かしています。
横浜が演じる木下亮は、新聞配達をしながら大学に通う就活生。Netflix版『新聞記者』は、映画版とは異なり若者・亮の視点から刺激的に現代社会の問題点を浮き彫りにしている。あの生身の演技には、横浜ならでは魅力が溢れていました」（前出・プロデューサー）
Netflix版『新聞記者』を手掛け、横浜の盟友でもある藤井直人監督は、横浜の魅力について
「流星の一番の魅力は“目”だと思う。説明せずとも感情が目に宿るというのは、万国共通する演技のひとつ」
と話す。その“目”が、今作でも遺憾無く魅力を発揮している。
翔吾は仁一と出会い、光を取り戻すためにボクシングに再び挑戦する。仁一と出会う前後では、別人のような眼差しを見せている。
<div data-friday-nextpage-lead="最後のシーンはアドリブに。つまり…"></div>
さらに自分勝手ですぐカッとなる乱暴なボクシングから、周囲の人たちのために闘うボクシングへ変わっていくに連れ、野生の眼差しから穏やかな深い眼差しへと変わっていく様は見事としか言いようがない。しかしまるで憑依したかに見える横浜流星の演技には、秘密がある。
「横浜自身も『翔吾と同じように“今しかないから一瞬一瞬を燃え尽きたい”と言う感覚を普段から強く持っている』『だから後悔しないように、毎日を必死で生きている翔吾に、非常にシンパジーを感じます』『違和感なく演じることができた』とインタビューで告白しています」（映画専門チャンネル・ディレクター）
横浜流星は、現代に生きる“黒木翔吾”なのか。 クライマックスとも言える20分にも及ぶ、世界タイトルマッチのシーンは、４日間に渡って撮影された。
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「撮影は、初日１ラウンドから５ラウンドまで撮影しても、翌日いきなり６ラウンドから撮るわけにはいきません。臨場感を出すためにまた４ラウンド・５ラウンドから撮り始める。その度に汗をかくし疲れも溜まっていく。そうする内に『拳を交えて分かり合えるものが、黒木翔吾を通して感じられた』と本人は明かしています」（制作会社ディレクター）
そして最終日に撮影された11ラウンドで異変が起きる。撮影前に固められた試合の構成と動きが突然アドリブ、つまり“お約束なしのガチンコファイト”に変更された。
「ボクシング指導・監修を務めた松浦慎一郎さんが『約束事なしで挑戦してはどうだろう』と２人に相談。リスクを伴うこの場面。
瀬々監督は『２人の迫力が本当に凄まじく、本物の試合を見ているようでした』と当時を振り返っています。実はこれが横浜から『今まで松浦さんが作ったことのないボクシングシーンにしてください』と言われたことへの答えだったというわけです」（前出・ディレクター）
このシーンを立ち会った翔吾の母親役の坂井真紀は
「お芝居を超えた“人生を賭ける姿”がそこにあって、涙が止まりませんでした」
と話せば、心を寄せ合う広岡佳菜子役の橋本環奈は
「近寄れないくらいの気迫だとか緊張感だとかに、本当に圧倒された」
さらに広岡仁一役の佐藤浩市は、試写を見た直後、
「まったく長く感じなかったよ」
と横浜にメールを送っている。
格闘家は、試合のことを「作品」と呼び、1試合に自分の持てる力をすべて注ぎ、人の心を動かそうとする。今作の世界タイトルマッチは、横浜流星にとってまさに「作品」と呼ぶに相応しい。
彼こそ、沢木耕太郎が描く“理想の男”を演じ切ることの出来る、唯一無二の存在なのかもしれない――。

バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』（竹書房新書）を上梓。電子書籍『異聞 徒然草』シリーズも出版中

島右近（放送作家・映像プロデューサー）

足立 百合

横浜流星VS窪田正孝…リングの上で２人が”ガチンコ”で殴り合う映画『春に散る』のボクシングシーンが”壮絶”と話題だ。そのウラには２人の役者が背負った覚悟が……

最後はガチンコ…『春に散る』で横浜流星と窪田正孝のボクシングシーンが「映画史残る名シーン」のワケ

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