<figure id="attachment_333887" aria-describedby="caption-attachment-333887" style="width: 777px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="998c07f1"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/e0e54c01840f013c3d788ae181598621.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-333887" class="wp-caption-text">ホームランの打球を見つめる万波中正。わずか３年前は二軍でも２割に届かなかったが、見事に開花した</figcaption></figure>
パ・リーグの本塁打王争いは混戦模様だ。’20年に本塁打王に輝いた楽天・浅村栄斗（32）とロッテ・ポランコ（32）、日ハム・万波中正外野手（23）が25本で並んでいる。
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横浜高校から’18年のドラフト４位で入団し、プロ５年目を迎えた万波は今季、初めて開幕一軍のスタメンを勝ちとり、４番を張る時期もあった。しかし８月23日の楽天戦以降、１ヵ月近く、アーチを描けない時期が続いた。
再び追撃態勢に入ったのは９月16日のソフトバンク戦（エスコンフィールド）だった。初回、石川柊太の外角低めのカーブをとらえて先頭打者ホームランで21号を放つと、１-１の同点で迎えた九回１死一塁で守護神オスナの初球、内角の直球を一振りでとらえ、レフトスタンドにサヨナラアーチ。22号を打った後、お立ち台で万波は声を上ずらせた。
「（ホームランタイトルについては）メチャクチャ意識してやっていますけど、この１、２本がなかなか動かせなかった。自分にとってはいい挑戦となっています」
万波は新庄剛志監督が就任した’22年シーズンから一軍で起用されるようになり、今季も万波の本塁打王のタイトルをアシストするため、９月３日から１番で起用。新庄監督やコーチングスタッフらの計らいが23歳の成長を促している。ただ、わずか３年前の’20年は二軍でも打率.196しか残せなかった万波がここまで伸びる素地を作った人物がほかにいる。元ファーム（二軍）打撃コーチの矢野謙次氏（現・スカウト）はこう振り返る。
「ここまで来られているのは彼の努力の賜物です。万波選手を最初に見たのは、’19年１月の新人合同自主トレのときでした。第一印象は『とんでもない選手が入ってきた』。192㎝のサイズに手足の長さ、それでいて柔らかさもありました。バネとスピードはまだ不足していましたが、鍛えれば楽しみな選手だなと感じていました」
その後、矢野氏はコーチ修行のため、日本ハムが業務提携を結ぶテキサスレンジャーズに留学。直接指導するようになったのは矢野氏が二軍打撃コーチになった’21年のキャンプからだ。その前年、万波は一軍には一度もあがれず、二軍でも58試合に出て打率.196、８本塁打、31打点の成績に終わっていた。
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矢野氏は自分が指導することになる選手たちの特徴をつかむ過程で、万波の長所、短所も把握していた。
「全体練習が終わった後でも個人で２～３時間打つぐらい練習熱心ですし、ボールをとらえたらものすごい飛距離が出ます。ただ、どんなスイングをしたからその打球を打てたのか、ということを万波自身はわかっていなかったからいい打率を残せなかった。ボールに力がうまく伝わる感覚が本当の意味でつかめていないと、日によってスイングが変わってしまう。練習熱心な彼がその状態で練習を続けてしまうと、間違った方向にいってしまうおそれもありました。
ですから、自分がどんなスイングができたときに人が目を見張るような打球を飛ばせるのか。そのインパクトの感覚を自分でつかんでもらうため、体の使い方を見直すために、歩き方から指導しました」
矢野氏の場合、万波だけでなく、指導する選手全員に同じスタンスで接した。ひとつひとつの練習で体のどこをどう使っているのか。なぜその練習が必要なのか。無理やり数をこなして追い込むようなことはせず、時には自分がやって見せながらその道理を説明し、どれぐらい量をこなすかは、選手の自主性に任せた。ボールに力を伝える感覚を選手たちにつかんでもらうために、テニスやバドミントン、卓球、サッカーボールのリフティングなども遊び感覚で取り入れていた。
<div data-friday-nextpage-lead="万波の「覚醒」につながったある“事件”"></div>
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<figure id="attachment_333890" aria-describedby="caption-attachment-333890" style="width: 870px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="ef74213a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/5a9fa8cf909e6f24bd15c03549bd3f04.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-333890" class="wp-caption-text">ファームで再起をめざしていた頃の万波と、ファーム打撃コーチとして指導していた矢野氏（左）</figcaption></figure>
道具を使ってボールを打つスポーツは、スイングをするときに「ハンドファースト」が理想とされる。スイングしたときに道具より先に手首が前に出て、ボールが当たったインパクトの後に手首を返すイメージだ。ただ野球の場合、バットの芯でボールをとらえたい、という気持ちが強くなると、ポイントを前に置き、手首が半分返った状態でボールをとらえてしまう選手が多い。したがって右打者の場合、芯から外れるとボテボテのサードゴロに終わるケースも多く、万波も例外ではなかった。
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矢野氏が二軍で本格的に指導をはじめた’21年２月の沖縄・国頭キャンプ中。万波は芯にあてることにこだわらず、ボールをひきつける意識をしながらスイングを続けた。ある練習試合でそのスイングができたものの、どんづまりの打球がショートの後方にポトリと落ちてヒットになったことがあった。打者は首をかしげて反省したくなるような打球だったが、矢野氏は「今のスイングでいいぞ」と褒めたという。
「バッターは詰まるのがイヤなので、芯でとらえたい、とつい考えます。私も首位打者をとったある先輩から教わったのですが、年間500前後立つ打席の中で芯で完璧にとらえた打球は５本ぐらいしかないそうです。しかも近年、投手のレベルがあがっているので、芯でとらえることが余計に難しくなっている。芯ではない所にあたってどれだけヒットにできるかが大事ということを、選手たちには伝えてきたつもりです」
万波は矢野氏から指導されたことを素直に聞き入れて練習を重ねたが、すぐにものにできるほどバッティングは単純ではない。国頭キャンプから帰ってきたときにある“事件”がおきた。鎌ケ谷でバッティング練習をしていた万波はたった１球で練習ストップを命じられてしまったのだ。矢野氏が当時を振り返る。
「打席に立ったときに『ボールが（バットに）当たるかな』と探り探り打ちにいっている様子がありました。それだと体の使い方がどうしても中途半端になる。なので屋外でやる打撃練習の１球目から全力でスイングできるよう心身ともに準備しようと前日に話をしていたんです。にもかかわらず、１球目に探るようなスイングをしていたので、やめさせました。
体の使い方に悪い癖がつくということだけではなく、彼の置かれている立場も考えました。一軍で地位を確立していない選手が一軍にあがると、１試合に１打席あるかないかの代打か代走でチャンスが回ってくる。そこで結果を残せなかったら、すぐにファームに逆戻りです。打撃練習の１球目から全力でバットを振りにいけるかどうかは、結果的にプロの世界に残れるかどうかにもつながってくる。繊細な彼の性格を考えると、今は『そこまでしなくてもよかった』と反省していますけどね」
矢野氏は一時的に突き放したものの、フォローも忘れなかった。打撃練習ができなかった万波は全体練習終了後、室内練習場にむかい、ひとりでマシンに向かってバットを振り続けた。その練習を最後まで見守った矢野氏は万波と一緒にボールを拾いながら、こんな話をした。
「昼食の時間を削って練習するのはスゴいと思う。ただ打撃練習の１球目に探りにいくことを続けていたら、お前が持っている半端ない才能が開かない。それを伝えたかったんだ。だから今、取り組んでいることをやれるようにしていこう」
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<div data-friday-nextpage-lead="相手との駆け引きを覚えるために続けていること"></div>
<figure id="attachment_333898" aria-describedby="caption-attachment-333898" style="width: 3732px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="10fbe874"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/e677dbe79729043e1c68e26960a64a7f.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-333898" class="wp-caption-text">万波がホームランを打ったときの豪快なスイング</figcaption></figure>
このシーズンの４月に一軍にあがった万波はオリックスの山崎福也からプロ初安打、６月にDeNAの今永昇太からプロ初本塁打を放った。フレッシュオールスターにも出場したが、一軍と二軍を行ったり来たり。一軍では49試合の出場にとどまった。
打ち方が改善されても、相手との駆け引きを覚えないとプロでは数字を残せない。そのため、矢野氏は一軍から二軍に降格してきた選手たちを含め、指導している選手みんなに伝えていたことがあった。
「相手の気持ち、空気を読めるようになろう」
水を欲しそうにしている先輩の様子を察知できるか。風呂場で使用するサンダルが乱れていたら、気づいてきれいに並べ直せるか。日常生活から些細なことに気づく、繊細かつ鋭いアンテナを張る訓練を求めた。たとえば、実績ある投手がマウンドにあがっても、額の汗がいつもより多かったら「今日はいつもと違う焦りがあるんじゃないか」と打席で心理的に優位に立つこともできるからだ。
前半で紹介した万波のサヨナラホームランの場面も、１-１の同点で迎えた九回１死から俊足の五十幡亮汰が相手の守護神・オスナの意表をついて初球をセーフティーバントで出塁。決勝点のランナーをいきなり背負い、オスナにも焦りが出たのだろう。ちょっとした動揺を万波は見逃さなかった。早めにストライクをとって落ち着きたい、という投手心理を逆手にとり、初球の直球をフルスイングした。二軍でくすぶっていた頃、たった１球で打撃練習を「やめろ」と言われた苦い思い出はこんな場面で実を結んだ。
「繰り返しになりますが、本塁打王を争えるようになったのは、万波選手が自分を変えようともがいて、言われたことを素直に取り入れ、形にしてきた努力のおかげです。『１球目からいっていいぞ』と言ってもらえる新庄監督の下でやれていることも大きいと思います」
サヨナラホームランを打った後、お立ち台で３万人以上集まったファンの歓声を一身に浴びた万波は、ベンチに戻ると、使用したバットを丁寧にビニール袋に入れた。大半の選手は試合後、裸のバット２本を片手に持ちながらロッカーに消えていくが、万波が自分の商売道具を大切に思う気持ちは人一倍だ。勝負どころで大胆さを生み出す日頃の繊細さ……。矢野氏が最初に万波に会ったときに感じた「とんでもない選手」になる階段を万波は確実に上っている。
<figure id="attachment_333889" aria-describedby="caption-attachment-333889" style="width: 1108px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="2199470c"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/263a728fcf3fea29067bcdb7ef5ac96c.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-333889" class="wp-caption-text">矢野スカウトが仕事で東京ドームを訪問したとき万波（右）と撮影</figcaption></figure>
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「万波君、87本ぐらい行くんじゃない」。ホームランキングトップに並ぶ25号を放った日本ハム・万波中正外野手を新庄剛志監督は手放しで褒めた。この才能を伸ばす素地を作った元コーチに開花の理由を聞いた。

二軍時代にわずか１球で打撃練習を終了……日本ハム・万波中正が本塁打王を争うまでにバケた理由

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