田幸 和歌子

<h3>採用時に、心理テストなどで見つけることは困難</h3>
大手中学受験塾「四谷大塚」の元講師の男が教え子の女子児童の下着を盗撮し、その動画や個人情報をSNSのグループに投稿したとして逮捕された事件は、保護者や学習塾関係者のみならず、世間に大きな衝撃を与えた。
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この事件を受け、子どもと接する仕事に就く人に性犯罪歴がないことを確認する制度「日本版DBS」を創設する法案が検討されている。しかし、当初検討されていた「日本版DBS」の対象は非常に限定的なものだったため、「四谷大塚の事件は氷山の一角。深刻です」としていち早く警鐘を鳴らしたのが、花まる学習会代表、NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長の高濱正伸氏だ。
<figure id="attachment_334261" aria-describedby="caption-attachment-334261" style="width: 4589px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="3e5fa817"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/2dfe5287ed38db3787b2e743126cb85c.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-334261" class="wp-caption-text">「四谷大塚の事件は氷山の一角。深刻です」と警鐘を鳴らす花まる学習会代表、NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長の高濱正伸氏（PHOTO：アフロ）</figcaption></figure>
同氏は「この国は、性犯罪者が易々と『子どもと関わる仕事』に就ける国です。ぜひ今の国会のDBSを、よきものに変えましょう」「日本版DBSは、塾もスポーツクラブも福祉施設も加えてください！」として、認定NPO法人フローレンスと共に、日本版DBSを子どもと関わるすべての仕事を対象にするよう、オンライン署名を立ちあげ、訴えてきた。
「学習塾の世界には子どもたちの性被害という危険がかなり潜んでいるという話は、僕が若い頃から先輩たちによく聞かされていました。 
例えば、小学校５～６年の女の子なんて、自分が狙われるとは全く思っていないですから、とにかくマンツーマンにしない、十分に気をつけなければいけないと教えられていて、その後いろいろな塾で起こった問題なども情報として入ってきました。 
実際に問題を起こした職員は、当然すぐに処分します。でも、今回の四谷大塚の事件もそうですが、採用に関しては、基本的に勉強のできる人が多いし、心理テストなどで見つけることが困難なのです。 
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例えば、性格傾向を見るテストなどでは、やる気や集中力、社会性などは分かりますが、性的嗜好は分からない。そのため、採用時には性的嗜好に問題のある危険人物について、ふるいがない状態で、実際にできる対策といえば、何か問題が見られたらすぐ外すことくらいなんです」（高濱正伸氏・以下同）
小児に対する性犯罪や痴漢の再犯率は非常に高いことから、例えばアメリカでは’90年代にすでに、性犯罪者が居住する近隣住民や学校への告知や、性犯罪者リストのネット閲覧可能、強制終身刑の懲役や生涯にわたるGPS装置による監視などが課せられてきた。
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<h3>「他県の教員や職員になって、子どもへの性加害をずっと繰り返しているんですよ」</h3>
高濱氏は日本でも同様の法整備が必要だと主張する。
「進学塾以上に酷い犯罪が起こっているのが、障がいのある子の施設です。我が子が重度の障がいを持っていることから、その界隈で聞く話が下劣なんですよ。 
埼玉で、15歳の女の子が施設から帰ると下着に血痕がある。その子は成長の問題で生理が来ないことが分かっていたので、すぐに医師に診てもらったら、陰部の裂傷があり『性加害だろう』と言われたそうです。それでも、警察では、言葉を喋れない子たちでは証拠にならないなどと言われ、泣き寝入りしかないそうです。 
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そのこと自体絶対に許せない犯罪ですが、さらに恐ろしいのは、その加害者がまだ別の場所に行って指導員をやっていることなんです。 
１回でも子どもへの性加害をした人間は、そういう癖なので、大人相手の職場には行きません。たいてい他県の教員や職員になって、子どもへの性加害をずっと繰り返しているんですよ」 
<figure id="attachment_334262" aria-describedby="caption-attachment-334262" style="width: 4000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="cacce19f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/91709c21ff3a50b99e0692594c3a91ee.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-334262" class="wp-caption-text">次回の臨時国会での法案提出が見送りとなった「日本版DBS」。９月26日の会見で、加藤こども政策担当大臣は法案の提出時期は〝白紙〟との考えを示した</figcaption></figure>
<h3>「１度でも性加害を行った人間は、その職種から外すべき」…働く権利や自由とは別の問題</h3>
実は高濱氏は、オンライン署名に先駆けて、とある県庁所在地の教育障がい者政策委員会で日本版DBSの対象拡大と共に「１度でも性加害を行った人間は、その職種から外すべき」と訴えたが、それは一部の猛反発を受けたそうだ。
「某大学教授の女性が色をなして『虐待は親からの方が多いんだ』と言うんです。 
働く権利や自由みたいな話で、『刑務所から出た人は働いちゃいけないのか』という問題が出てくるじゃないですか。更生した人を支援する人たちも、擁護する権利もあるのは分かるけれど、それと子どもに対して性加害をした人を二度と教壇に立たせないこととは、別問題だろうと。 
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繰り返しになりますが、小児に対する性加害は再犯率が非常に高いだけに、アメリカをはじめとした海外では二度と関わらせないという法律が成立しています。 
なぜ日本はダメなのかが分かりませんし、検討が始まった日本版DBSの原案も、学校や保育園は対象なのに、塾は対象外というのは、意味が分かりませんよね。現実として多くの子が塾に通っているわけで、そこだけ対象外にするのは子ども中心に考えているとは思えません」
日本版DBSは臨時国会提出が見送りになり、内容の再検討をすることとして進んでいる。
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<h3>親ができること…「合格実績などの数字ばかり掲げる塾」は要注意</h3>
その一方、親ができること、すべきことも当然あるだろう。安全な塾の選び方などについて高濱氏は言う。
「塾としてこれだけやれば安全というものはありません。 
まずは１対１の時間を作らせないこと。仮に個別相談がある場合でも、ドアは開けておくなどのルールが徹底されているか。そもそもこうした性加害への意識を持っているだけでも、だいぶ違います。 
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<figure id="attachment_334263" aria-describedby="caption-attachment-334263" style="width: 3743px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="953e58e1"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/8adb24d67a18f7a6205673cade0f42fd.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-334263" class="wp-caption-text">「まずは１対１の時間を作らせないこと。仮に個別相談がある場合でも、ドアは開けておくなどのルールが徹底されているか」を確認するべきと高濱正伸氏（写真はイメージ）</figcaption></figure>
なぜなら、有名中学に合格させるという実績のみで塾を選び、危険について考えていない親御さんが多いですから。 
進学塾では、まだ許容されていた時代のゲンコツなどではなく、陰湿な締め上げみたいな形で暴力があるということも一時期聞いていました。 
暴力で問題を起こした先生が辞めさせられて、障がい者施設で全く同じことをまた繰り返して、問題になると、他県に行ってまた働き続けているという情報も、お母さんたちのコミュニティを介して入ってきます」
通塾を決める前の個別面談で、対策について具体的に聞くのも良いと勧める。
「例えば、『子どもたちからの質問は、どういう形で聞くんですか』とか、『ドアは開けっぱなしですか』『女子トイレのチェックは定期的にしていますか』など。 
四谷大塚の一件から、塾に対する世間の目は厳しくなっていますから、どこの塾も対応を急いでいるはずではあります」 
また、事前の情報収集ももちろん大切だ。
「親御さんたちには、一次情報を集めてくださいと言っています。噂やネット上の書き込みではなく、基本的には保護者同士で知っている情報を共有するとか、空気感などを個別にチェックするとかしかないと思います。 
一次情報を集めていくと、今、塾に通っている子の親御さんから『特定の子をしばしば呼び出している先生がいると聞いた』などという話が出てくることもあるんですよ。 
加えて『トップリーダーを見ろ』といつも言います。例えばある監督が行く高校は、必ず甲子園に行くということはよくあるじゃないですか。 
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塾も同じく組織論で、リーダーが全体の方向性を決めるので、子どもの安全性に対して見識があるか、方針、哲学を持っているかなどを親が見抜く必要があります。 
逆に、合格実績などの数字ばかり掲げる塾は、そういう哲学ですから、安全性などは後手にまわっている可能性が高いでしょう」 
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<h3>親子の対話や社会で見守る環境づくりを…</h3>
さらに高濱氏は、親子の対話や社会で見守る環境づくりも大切だと強調する。
「子どもが高学年になったら、そろそろ第二次性徴も始まりますから、同性の親か、親がわりの信頼できる同性の親族などが他人に触らせてはいけない場所などをしっかり伝えておく必要があると思います。
狙われるのは女の子ばかりではないということを、親子共々念頭に置いておきましょう。少年が被害者になるケースもたくさんありますから。 
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アフリカのことわざでは、子ども一人を育てるのに村がまるごと１つ必要だというものがあります。 
日本でもかつてはご近所や地域が子どもたちをみんなで見守っていましたが、今はそうしたつながりが希薄になっていますよね。自分の子どもを守ることは大前提として、社会で子どもを守る意識を持つことも重要。日本版DBSのオンライン署名もそうですが、声をあげること、社会に働きかけていくことは、我々大人の重要な使命だと思うのです」
高濱正伸（たかはま　まさのぶ）　花まる学習会代表。NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長。1959年熊本県人吉市生まれ。県立熊本高校卒業後、東京大学へ入学。東京大学農学部卒、同大学院農学系研究科修士課程修了。’93年「花まる学習会」を設立、会員数は23年目で20,000人を超す。算数オリンピック作問委員、日本棋院理事、武蔵野美術大学客員教授、環太平洋大学（IPU）特任教授。『情熱大陸』などTV出演も多数。
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田幸和歌子

「四谷大塚の事件は氷山の一角。深刻です」と警鐘を鳴らす花まる学習会代表、NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長の高濱正伸氏。同氏は「この国は、性犯罪者が易々と『子どもと関わる仕事』に就ける国です」という

「日本は性犯罪者が易々と『子どもと関わる仕事』に就ける」…四谷大塚事件から考える安全な塾の選び方

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