ドキュメント「踏切」 ふとした待ち時間にドラマがある
田舎独特のどこか懐かしい踏切
遮断機のない静かな踏切
めったに見ることのできない珍しい踏切
そんな日本中の「踏切フォト」を集めました
桃と桜が咲き乱れる絶景の踏切 わたらせ渓谷鐵道(群馬県桐生市)
旅情と詩情をとりもどす場所
踏切で、幼い子どもがすぎる電車に手をふる。あるときは車内から、踏切をながめ、待つひとと目があい、見しらぬ町の暮らしに思いをはせる。おなじような記憶をお持ちの方も、多いと思います。
警報音がカンカンと鳴り、黄と黒のしましま遮断桿(しゃだんかん)が降りる。踏切は、あかずの踏切や痛ましい事故もあり、都心ではずいぶん少なくなりました。小田急線の下北沢などの踏切の消えた町は、ぽっかり昔にもどったように見えます。そんな町の循環も、たいへん興味深い。
踏切から見る車窓のひとは、通勤電車も各駅停車も、みな旅人の表情をしていて、漂泊の風が心身を吹きぬける。
現代人は予定がいっぱいですから、踏切での足止めを嫌います。けれどエレベーターや跨線橋(こせんきょう)で渡っても、時間はそんなに変わらない。いらいらと待つより、空を見あげたり、線路わきのたんぽぽや野の草をながめれば、踏切の足止めは、むしろ幸運、当たりのひとときになります。
しばしたたずめば、詩情も浮かぶ。踏切はインスタ映えもばっちりですが、みじかいひととき、俳句を作るのもいい。
俳句は、五七五の十七文字。天には月や夕焼けがあり、地には草花、渡るひとの姿にも四季がある。ひな祭りに、桃の花を持つ少女がいたり。一期一会の会話も、よい俳句のテーマになりそうです。
ぶらりと出かけて、お金もかからない。
踏切はますます、日本人の旅情と詩情をとりもどす大切な場所になるでしょう。
スレスレのところを電車が走る 江ノ島電鉄(神奈川県鎌倉市)
世にも珍しい「地下鉄の踏切」 東京メトロ銀座線(東京都台東区)
「勝手に渡ってください」 江ノ島電鉄(神奈川県鎌倉市)
電車と電車が「直角交差」 伊予鉄道(愛媛県松山市)
山手線の踏切はここだけ JR山手線(東京都北区)
警報機もない素朴な踏切 紀州鉄道(和歌山県御坊市)
ルール違反で炎上した野々宮踏切 JR西日本山陰本線(京都府京都市)
踏切を渡ると一面の田んぼが 秩父鉄道(埼玉県行田市)
踏切注意!新幹線が通ります JR東日本秋田新幹線(秋田県大仙市)
- 文:石田 千(いしだ・せん)
- 撮影:星川功一
- 写真:アフロ(わたらせ渓谷鐵道、満福寺、野々宮踏切)