菊池 雅之

<figure id="attachment_335328" aria-describedby="caption-attachment-335328" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="b2171481"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/2c7094142a8d90cdce1b73bea8cc719c.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-335328" class="wp-caption-text">豪海軍のフリゲイト「アンザック」（左）と訓練中に洋上給油を行う護衛艦「いずも」。本任務の主役は太平洋に面した国々を歴訪した</figcaption></figure>
<p>海上自衛隊で最大規模、空母型の船体が特徴的な護衛艦「いずも」は、護衛艦「さみだれ」を率いて２隻で南シナ海を航行していた。</p>
<p>戦術訓練が始まるということで、その模様を取材すべく、筆者は護衛艦に搭載されていた海自のヘリSH-60Kに乗って、「いずも」を発艦。２隻による訓練を上空より撮影していたそのとき――海自の艦隊に近づく１隻の艦影に気づいた。</p>
<p>徐々に距離を詰めると正体不明(アンノウン)の軍艦は「いずも」から約20マイル（約37㎞）の位置につけ、並走し始めた。</p>
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<p>ヘリは海自の艦隊から離れ、確認に向かう。機内に緊張が走る。</p>
<p>逆光の中、″謎の軍艦″を視認。それは海自艦艇でもなく、同盟国であるアメリカ海軍艦艇でもなく、中国海軍の054Ａ型フリゲイト「黄山」だった――。</p>
<p>南シナ海は紛れもない公海である。</p>
<p>しかし、中国はそのほとんどを自分たちの領海と主張。スカボロ礁など７地点で埋め立てを敢行し、レーダー施設や港湾、庁舎、滑走路などを建設した。</p>
<p>南シナ海を航行する船舶は、軍艦に限らず、中国海軍のいわれのない警戒監視の対象となっている。時には針路を妨害するなどして、排除してくることもある。この日、まさにその警戒監視を受けた海自艦隊は、当然の権利として予定通り航海を継続。挑発には乗らず、無視を決めこんだ。その後も中国側は同じ針路、同じ速度で並走。このストーキングは、フィリピン領海内に近づくまで行われた。</p>
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<div data-friday-nextpage-lead="約4ヵ月にも及ぶ特殊任務"></div>
<p>護衛艦「いずも」は５月31日に母港である横須賀基地を出港。太平洋を巡る長期航海へと出発した。「インド太平洋方面派遣」（ＩＰＤ）と名付けられた約４ヵ月にも及ぶ特殊任務に就くためだ。</p>
<p>太平洋に臨む友好国を訪問し、ときには現地海軍と共同訓練を行う長期航海で、その目的は覇権主義的海洋進出を進める中国の牽制。一般的にはあまり知られていないが、’17年から毎年実施されている。</p>
<p>今年のＩＰＤは、オーストラリアを中心に、数隻の艦艇で、パプアニューギニア、パラオ等を巡った。そのうち、オーストラリアのダーウィンからフィリピンのマニラに至る約10日間に筆者は同行した。</p>
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<p>「いずも」には、約450名の乗員が乗艦しており、操艦をする航海科やエンジン、電気、真水を統制する機関科、航空機の運用を行う飛行科など、それぞれの仕事を担っている。</p>
<p>「いずも」の特徴は航空機運用能力の高さにある。最大で14機ものヘリを搭載できるのだ。今年度より大規模改修が施され、短距離離陸・垂直着陸が可能なステルス戦闘機F-35Bが搭載可となる。護衛艦から空母へ生まれ変わる途上にある。</p>
<p>平素から陸上自衛隊の隊員を乗せようとしており、これには「いずも」を水陸両用戦の旗艦として運用していく狙いがある。今回のＩＰＤには″日本版海兵隊″と呼ばれる水陸機動団の隊員約15名が乗艦していた。指揮官の安本一尉が言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「海自との連携強化、シーマンシップの涵養(かんよう)という二つの目的を果たすために乗っています。私を含め、ほとんどの隊員に長期航海の経験がない。艦内生活がどういうものか身をもって知りたい」</span></p>
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<p>陸自乗艦部隊で唯一の女性、成田士長は「『いずも』には、たくさんの女性自衛官がいて、慣れるまでに時間がかかりました」と白い歯を見せた。</p>
<p>確かに海自艦艇の中で、「いずも」は女性自衛官が約40名と多い。艦内の医療区画で勤務する衛生隊員の斉藤一曹もその一人だ。パイロット志望で入隊したが、体を壊した際、親身になって対応してくれた女性衛生隊員に憧れ、正看護師の資格を取得。「女性自衛官が多い職場だからこそ、心の悩みや不安にも寄り添っていきたい」と筆者に話した。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="「いずも」は食事も充実"></div>
<p>「いずも」は食事も充実していて、「今まで乗ってきたどの艦艇よりも美味しい」という声を艦内のあちこちで聞いた。″料理長″の菅原曹長は、これまで８隻の艦艇を乗り継いできた大ベテランだ。</p>
<p><span class="strongInContent">「長期航海では栄養バランスに加えて、飽きの来ない献立が大事。『これが食べられるとは！』と隊員をビックリさせられるメニューを日夜、考えています」</span></p>
<p>それでも「一番人気はカレーです」と菅原曹長は笑った。</p>
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<p>ＩＰＤでは艦内生活も充実させつつ、訓練もしっかりと行われている。艦内での戦闘訓練はもちろん、僚艦「さみだれ」との訓練にもたっぷり時間を割いた。フィリピン入港前には、日豪米比共同訓練も実施。友好国間で絆を深め、インド太平洋の平和と安定を構築していくという覚悟を世界に示した。</p>
<p>石油等エネルギー資源を中東地域に依存する日本にとって、インド太平洋地域が中国に封鎖されるようなことがあれば死活問題となる。日本を守るため、人知れず特殊任務が続けられているのだ。</p>
<figure id="attachment_335324" aria-describedby="caption-attachment-335324" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="b0a58bd1"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/2d0db5c328b8b27cba4b62fce4013f89.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-335324" class="wp-caption-text">「いずも」の艦橋内。手前の赤い椅子に座っているのが艦長の城１佐。艦橋内では多くの女性自衛官が働いている</figcaption></figure>
<figure id="attachment_335327" aria-describedby="caption-attachment-335327" style="width: 1671px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="3a7d6911"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/43ccbe5a72e0eb58d74d91bba1e1766d.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-335327" class="wp-caption-text">発艦する哨戒ヘリSH-60K。現在はヘリ運用能力しか持たないが、改修後はF-35Bも搭載できるようになる</figcaption></figure>
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<div data-friday-nextpage-lead="緊迫の「密着写真」"></div>
<figure id="attachment_335332" aria-describedby="caption-attachment-335332" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="82bcafa1"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/bcf554ff71d70efef9e9c05dacbb626e.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-335332" class="wp-caption-text">南シナ海を並んで航行する日中艦隊。手前が中国海軍「黄山」。つかず離れず、海自の艦隊をストーキングしてきた</figcaption></figure>
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<figure id="attachment_335329" aria-describedby="caption-attachment-335329" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="8cc78480"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/684ac05af5e8f87e276598dadd10c5bc.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-335329" class="wp-caption-text">ジャイロレピーター（羅針盤）にて針路を確認する乗員。後方に見えるのは豪海軍強襲揚陸艦「キャンベラ」</figcaption></figure>
<figure id="attachment_335325" aria-describedby="caption-attachment-335325" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a208e6cf"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/b961c2df6694aa0006ed6f9ba96ef409.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-335325" class="wp-caption-text">長大な飛行甲板を走る「艦上体育」。ほぼ毎日実施され、日によって右回り、左回りと替えて気分転換を図る</figcaption></figure>
<figure id="attachment_335331" aria-describedby="caption-attachment-335331" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c2cba5dc"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/17c4260686cb4ffb2c6aa8bc5b418edc.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-335331" class="wp-caption-text">不審船へと乗り込んでいく立入検査隊による船内捜索訓練。艦内では毎日、さまざまな訓練が行われていた</figcaption></figure>
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<figure id="attachment_335330" aria-describedby="caption-attachment-335330" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="046cecf6"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/df3fdfcbb30041ddcc897a7de25ca69e.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-335330" class="wp-caption-text">格納庫にてトレーニングする水陸機動団の隊員たち。「いずも」には将来的に陸海空の自衛隊員が乗り込む</figcaption></figure>
<figure id="attachment_335326" aria-describedby="caption-attachment-335326" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="f33fb09d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/cafe29f003a3cafdad83969c992c5850.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-335326" class="wp-caption-text">通販で話題の海自カレーがやはり一番人気。艦によって味は違うという。超大盛りのご飯にルーをたっぷり</figcaption></figure>
<p>きくち・まさゆき／’75年、東京都生まれ。自衛隊をはじめ、各国軍を取材。写真集『陸自男子』（コスミック出版）、著書『なぜ自衛隊だけが人を救えるのか』（潮書房光人新社）等の著作のほか、漫画やアニメの軍事監修も行う</p>
<p>『FRIDAY』2023年10月13・20日号より</p>


菊池雅之（軍事ジャーナリスト）

護衛艦「いずも」が「さみだれ」を率いて他国海軍と共同訓練——海上自衛隊に密着！特殊任務の目的は中国の牽制。日本を守るため、人知れず特殊任務が続けられている。

【海上自衛隊の特殊任務】インド太平洋方面派遣「緊迫の密着10日間」フォトルポ

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