<figure id="attachment_335701" aria-describedby="caption-attachment-335701" style="width: 4608px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="f8efe0df"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/0b8c3fd44513baad23fe70cd938f1304.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-335701" class="wp-caption-text">&#8217;12年まで4年間、千葉ロッテマリーンズに在籍した生山裕人氏。支配下登録されることは一度もなかった</figcaption></figure>
<p>10月に入り、プロ野球の各球団で戦力外通告がはじまった。一軍に上がると眩いスポットライトを浴びて戦うプロ野球選手だが、平均在籍年数7.7年、27.8歳で現役引退と選手寿命は短い。彼らがセカンドキャリアで希望するのは高校野球の指導者（17.9%）が最も多く、次いで人気を集めるのが会社経営者（17.2%）だ（いずれも&#8217;22年、日本野球機構＝NPB調べ。セカンドキャリアの希望は同年のフェニックス・リーグで調査）。</p>
<p>個人事業主のプロ野球選手としてプレーした後、今年、経営者として新たな一歩を踏み出した元ロッテの選手がいる。&#8217;08年育成ドラフト4位で入団し、4年間在籍した生山裕人だ。</p>
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<h3>一度はプロ野球を諦め、芸人を目指していた</h3>
<p>彼の名を知るファンはそう多くないだろう。育成枠で同期入団した右腕投手の西野勇士、俊足外野手の岡田幸文が一軍に上がって華やかな道を歩んだ一方、生山は支配下登録されることなく、静かにNPBでのキャリアを終えた。</p>
<p>育成選手のほとんどが人知れず球界を去っていくなか、生山はそもそもプロになれたこと自体が奇跡のような選手だった。</p>
<p>大阪トップの進学校・天王寺高校で野球部に所属し、2日に1回、1日2時間という”ゆるい”ペースで練習した。子どもが好きで教師になりたかったが、希望した大学に不合格となって浪人し、今度は芸人を目指して近畿大学文芸学部芸術学科演劇芸能専攻演技コースへ。ところが野球をやりたい気持ちが抑え切れなくなり、二部の準硬式野球部に入部する。週3日しか練習日がなく、空いている時間はバッティングセンターに通い詰めた。友だちからの誘いはすべて断るなど、自分がやりたいことに一直線になる気質だった。</p>
<p>野球の実力はプロのレベルに到底及ばなかったが、足だけは速かった。21歳のときに独立リーグの四国アイランドリーグのトライアウトを受験すると、50メートル走ではストップウォッチの計測で5秒9を記録して合格する。そうして香川オリーブガイナーズに入団する運びとなり、近畿大学を2年で休学して新天地に飛び込んだが……。</p>
<p>3月のオープン戦で一塁走者の代走に送られると、牽制球で帰塁した際に右肘の靱帯を部分断裂。同部を再建するトミー・ジョン手術が必要だったが、独立リーグでは長期の戦線離脱＝クビを意味し兼ねない。生山は右肘に痛みを抱えながら、練習中にボールを渡す役割を日々こなした。</p>
<p><span class="strongInContent">「生山、使えへんの。大阪に帰ろうか？」</span></p>
<p>元広島で、当時オリーブガイナーズを率いた西田真司監督にツッコまれた。芸人志望だった生山は、香川でイジられ役になった。</p>
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<div data-friday-nextpage-lead="「悩みを言える相手もいなくて……」"></div>
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<figure id="attachment_335702" aria-describedby="caption-attachment-335702" style="width: 843px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="67b955a8"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/03bab1848f9e0604abced708553bf86b.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-335702" class="wp-caption-text">巨人との試合で二塁盗塁を試みた生山。同じく俊足で鳴らした鈴木尚広（巨人・外野守備走塁コーチ）を目標にしていた</figcaption></figure>
<p>それでも夏に復帰して外野のレギュラーを獲得すると、俊足と、攻守交代の際に常に全力疾走する姿勢がロッテのスカウトの目に留まる。当時のボビー・バレンタイン監督にファームの人数を増やしたいという思惑もあり、生山は“一芸”だけで夢のプロ野球選手になった。</p>
<p>だが、待っていたのはイバラの道だった。</p>
<p><span class="strongInContent">「プロ野球選手は孤独でしかなかったです。僕は大卒2年目の年にドラフトにかかったから即戦力の立ち位置だったけど、めちゃくちゃ下手くそで……。野球界では、下手な選手はどんどん扱いが悪くなるじゃないですか。</span></p>
<p><span class="strongInContent">しかも僕は“特殊経歴”すぎて。ある先輩から『偏差値が高いんか、賢いか知らんけど、野球できへんのお』と言われたこともあります。加えて育成の同期入団は高卒ばかりで、みんな5歳くらい下。悩みを言える相手もいなくて、1年目は練習時間以外、引きこもっていました」</span></p>
<p>精神的に参っていた生山だったが、ギブアップしなかったのはファンの支えがあったからだ。オリーブガイナーズ時代に応援してもらった人たちから「頑張ってるの？」とかけられる声が励みになり、悩みは時間が解決してくれた。</p>
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<p>ロッテ入団1年目は二軍で2試合しか出られなかったものの、4年目になると同87試合に起用された。この年限りで戦力外通告を受けたが、阪神ファンとして好きな選手だった今岡誠（現・真訪）をはじめ、プロでも超一流の考え方を知れたことはこの上ない収穫だった。</p>
<p><span class="strongInContent">「孤独を味わったことや、プロ野球で経験したことが引退後、めちゃくちゃ生きていると感じています。特に今、そう思いますね」</span></p>
<p>&#8217;12年限りでロッテを戦力外となった後、生山はウェディングプランナーや独立リーグのコーチなどを経て今年、新たなチャレンジを始めた。10月2日に放課後等デイサービスの「シーズステップ」を滋賀県大津市に開業させたのだ。ダウン症の娘を持つ妹に相談され、3年前から一緒に構想してきた計画だった。</p>
<p>放課後等デイサービス、通称「放デイ」は障がいを抱える小学1年生から高校3年生を預かり、「療育」を施す施設だ。一人ひとりに支援計画を立て、より良い成長を一緒に目指す。支援が必要な子どもたちは目をうまく使えていないケースも多く、シーズステップでは発達の土台づくりを目的としてビジョントレーニングに力を入れていく方針だ。</p>
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<div data-friday-nextpage-lead="弱いことを認めていい"></div>
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<figure id="attachment_335703" aria-describedby="caption-attachment-335703" style="width: 6000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="7f775a3b"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/badcfd6611f30b6cb88cfc3ac0a0d419.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-335703" class="wp-caption-text">2日に開業したばかりの放課後デイサービスの「シーズステップ」。左から生山氏、妹の岸本絵理さん、小原駿太氏</figcaption></figure>
<p>さらに、生山が持つアスリートやパラアスリートらとの人脈を活かし、地域住民を誘って一緒にイベントを行っていきたいと考えている。</p>
<p><span class="strongInContent">「日本でも多様性やインクルーシブ社会という考え方が広がっています。僕自身は姪っ子がダウン症だから障がい者との接点があったけど、多くの人にはそうした機会がなかなかないですよね。それが大人になった瞬間、『多様性やインクルーシブが大事』と言われても、どうしたらいいかわからないと思います。だから地域の人たちと組んでイベントを企画し、そこに放デイの子も参加するようにしたい。仰々しく『障がい児と交流しましょう』とやるのではなく、自然と地域にいる中で関わるようにしていきたいんです」</span></p>
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<p>シーズステップを開業するにあたり、生山は“教え子”を雇った。&#8217;22年に滋賀GOブラックス（同年で活動休止）でコーチを務めた際に選手だった小原駿太だ。宮城教育大学を卒業して小中高の教員免許を持つ小原に対し、生山が将来的に放デイを開業すると話したら「めっちゃいいじゃないですか」と食いついてきたことがきっかけだ。独立リーグでの出会いが、一人のキャリアに大きな影響を与えた。</p>
<p><span class="strongInContent">「小原を含めて正社員を3人、パートを5人を雇いますが、人を雇用するのは初めての経験です。その人たちのキャリアをいかに面白いものにしていけるか。プロ野球時代、自分の弱みは自身で補っていくしかなったけど、今は補ってくれるメンバーがいる。弱いことを認めていいんだ、ということです。逆に自分の強みを会社の中で発揮していかないといけない。よく『経営者は孤独だ』と言われるけど、今回の事業では一緒に山を登ってくれる仲間がいて、すごく楽しみなチャレンジです」</span></p>
<p>球界一と言われる“特殊経歴”を歩み、独立リーグとロッテで計6年間プレーした生山裕人の名を知るプロ野球ファンは決して多くないだろう。だが、彼が新たに始めたチャレンジは、多くの人に知られる価値がある。</p>
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1979年、埼玉県生まれ。スポーツノンフィクション作家。プロからアマチュアまで野球界全般を取材している。著書『中南米野球はなぜ強いのか』（亜紀書房）でミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。他に『野球消滅』（新潮新書）、『プロ野球　FA宣言の闇』（亜紀書房）、『山本由伸　常識を変える投球術』（新潮新書）など。

中島大輔

攻守交代の際に常に全力疾走する姿勢がスカウトの目に留まり、プロ野球選手になった人物がいる。プロ４年間で味わった「孤独感」が新しい事業を起こし、経営者となった今、生きているという。なぜなのか。

「野球できへんのお」と言われた“球界一特殊経歴”の元プロ選手が経営者挑戦にワクワクしている理由

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