<figure id="attachment_336047" aria-describedby="caption-attachment-336047" style="width: 1000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="ac8ee83d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/76cb6f9938a4fb3e4e3ffb2721e16bea.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-336047" class="wp-caption-text">ボールを持ってもスペースがない。姫野はアルゼンチンの分厚いディフェンスに阻まれ、思うような突破はできなかった</figcaption></figure>
ラグビーワールドカップ（Ｗ杯）フランス大会で史上初のベスト４を目指した日本代表（世界ランキング12位）は、ナントでアルゼンチン代表（同９位）と対戦し、27―39で１次リーグ敗退。ベスト８入りを逃した。
アルゼンチン代表と日本代表との過去の対戦成績は１勝５敗。Ｗ杯で過去ベスト４に２回進出し、昨年にはニュージーランド代表、オーストラリア代表と過去W杯優勝国を撃破した世界的強豪だったが、同点には追い付いても、一度も勝ち越すことはできず。「南米の雄」の厚い壁に跳ね返された。
〝情熱と愛情〟を掲げ、「W杯優勝」を公言してチームを引っ張ってきたキャプテンNO８姫野和樹（29）は試合後、悔しさをにじませながらこう明かした。
「結果が出なくて残念ですが、最高の努力をしてきてくれた仲間に感謝したい。ここまで頑張れたのはファンの皆さんのおかげ。エベレストの頂上に桜の花を咲かすことができなかったが、自分たちのレガシー、文化、そしてW杯で優勝する、という夢や目標は次に受け継がれていくと思います」
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試合後の記者会見で姫野の隣に座ったジェイミー・ジョセフヘッドコーチ（HC）はこう明かした。
「（日本代表は）クオリティーのあるチームだけど、クオリティーのある選手を育てる場がなかなかなかった」
コロナ禍で格上の国に挑むテストマッチが制限され、’20年11月のニュージーランド代表戦で試合を再開できたアルゼンチン代表に対し、日本代表は’21年６月のブリティッシュ＆アイリッシュ・ライオンズ戦と遅れをとった。さらに、アルゼンチンは６月と11月の国際試合以外にも、ニュージーランドやオーストラリア、南アフリカと原則２試合ずつ戦う、例年７～８月に開催される南半球４ヵ国対抗戦「ザ・ラグビーチャンピオンシップ」に参加し、厳しい試合を積んできており、その経験値の差が出た。
前回’19年大会で「ジャッカル（タックルで倒れた選手からボールを奪う瞬間技）」を武器に一躍スターダムにのし上がった姫野が今大会でキャプテンになったのは既定路線だったと言えよう。新たなキャプテンを選ぶときジョセフHCはメンバー選考直前の７月末、「試合に出てチームを引っ張ってもらいたい」と話しており、「多くの信頼を寄せている」と姫野と副将に就いたSH流大の２人を呼び出して、指名したという。
「自分のリーダーシップというのが日本代表には必要で、ジェイミーもそれを期待しているということだったので、自分の持てる情熱、愛情、自分なりのリーダーシップというものをチームに注ぎ込んで引っ張っていきたい」（姫野）
ただ姫野はもともと、どちらかというとキャプテンというキャラクターではなく、自由奔放なプレイヤーだった。現在の日本代表33名中、７名の帝京大出身者が選ばれているが、５名がキャプテン、１名が副キャプテン経験者で、大学時代にリーダーになっていないのは姫野だけだった。高校３年時に飛び級でU20日本代表候補にも選出されたが、大学１年時、当時日本代表を率いていたエディー・ジョーンズ監督の下で行われた合宿でケガをした影響により大学時代は完全燃焼とは言いがたかった。
転機となったのは姫野の地元・愛知のチームであるトヨタヴェルブリッツ（以下、トヨタ）に入ったときだった。当時のトヨタは’07年のＷ杯で南アフリカを優勝に導いたジェイク・ホワイト監督（当時）が率いており、世界的名将は姫野をルーキーながら異例となる主将に任命した。
「彼は（帝京大で）優勝を知っている選手。日本代表になれるし、Ｗ杯で必ずプレーする。自分の仕事のひとつは、姫野に責任感とキャプテンシーを与え、インターナショナルな選手に育てること」（ホワイト監督）
姫野自身もトヨタに入る前に「小さい頃からの夢だった日本代表になること」「トップリーグの新人賞を取ること」を掲げて、ホワイト監督や、就任２年目だったジョセフHCの期待に応え、その２つを有言実行してみせた。さらにスーパーラグビーのサンウルブズでも研鑽を積み、’19年Ｗ杯での飛躍につなげた。
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’19年の熱狂の中で、姫野は「自分の夢であるラグビーを、日本になくてはならない存在にしたい」「自分の成長という点で、居心地のいい日本を離れてハングリーにプレーすることが必要と感じた」という理由から、’21年、トヨタでプレーするのではなく、かつてジョセフHCが率いてスーパーラグビー初優勝に導いたニュージーランド（以下NZ）のハイランダーズへの挑戦を選択した。この４年間でFWでは唯一の〝海外組〟となった姫野はこう振り返る。
「（’19年Ｗ杯の準々決勝の南アフリカ代表戦は）自分のプレーができなかったこともある。もっともっと強くなりたいという向上心がすごく強くなりました。スーパーラグビーというレベルの高いリーグで、毎週、戦ってタフになることはすごく大きなメリットがあると思い、（NZに）行くことを決めました」
<div data-friday-nextpage-lead="「生きるか死ぬか、という状況になる」"></div>
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<figure id="attachment_335972" aria-describedby="caption-attachment-335972" style="width: 1680px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="70be6d47"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/61958e5125161bd689814a68eab06072.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-335972" class="wp-caption-text">６月の浦安合宿。バイクを使ったトレーニング後、厳しさのあまり顔をゆがめた姫野</figcaption></figure>
トヨタは当初、姫野のNZ行きを反対したが、背中を押したのが選手の海外挑戦に前向きだったジョセフHCであり、当時、ハイランダーズは日本代表のアシスタントコーチを務めているトニー・ブラウンが指揮していたことも大きかった。
’17年秋、初の欧州遠征後に寝込んだという姫野。コロナ禍の移籍ということで隔離期間があり、さらに初の海外での一人暮らしということで、生活環境や言葉の違いなどで最初はホームシックになり、さらに「毎試合結果を出さないといけない」というプレッシャーもあり「顔にブツブツができるくらいストレスフル」で苦労したという。
ただハイランダーズの本拠地オタゴに住んでいるジョセフHCは「（日本代表を気にせず）ハイランダーズに集中しろ！」と励ましつつ、姫野を自宅に招いて食事をしたりして、サポートしたという。’17年秋に姫野を初招集したジョセフHCと姫野の信頼関係、師弟関係はNZの地でも醸成され、堅固なものになっていった。
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そんな中、姫野はNZ人選手のオンとオフバランスや、メンタルの持ち方などから学びを得て、見事に初の海外挑戦という逆境を乗り越え、スーパーラグビー アオテアロア（コロナ禍のためNZ国内で争われた）で新人賞を受賞する活躍を見せた。
姫野はNZ挑戦をこう振り返る。
「恐怖に打ち勝つ、メンタルを作っていくのは、いつもやっていることであるが、慣れない（NZの）中で作っていくのは、日本にいるときよりしんどい部分もあった。それは自分が選んだ道であり、もがいて、もがいて……。たとえば刀（を造るときも）でもそうですが、しっかり叩いて、叩いて、強くなることができた。狙い通りだった」
ジョセフHCが、日本ラグビーのため、そして自らの進化のため、NZで挑戦した姿を間近で見ていた姫野をキャプテンに指名したのは自然な流れだったと言えよう。ただ昨季は左太ももの肉離れという大ケガをした影響があり、指揮官としては様子を見るためだろうか、代表の主将には任命せず、帝京大学の先輩、坂手淳史がつとめていた。５月に終了した今季のリーグワンで心身ともに充実した姿を見せていた姫野を満を持してＷ杯前にキャプテンに指名したというわけだ。アルゼンチン代表に勝利できれば初めて敵地で行われたW杯でベスト８に入り、歴史を塗り替えることになったが、それは次回大会以降にお預けとなった。
「自分たちは生きるか死ぬか（という状況になる）。その中で必要なのは命がけで、自分の命を賭けるくらいのパフォーマンスをしないといけない。（キャプテンとして）期待してくれたジェイミーに男として応えたいし、まずはしっかりグラウンドの中でのベストプレイヤーになってチームを引っ張りたい」
アルゼンチン戦前、こう明かしていた姫野は前述の通り、「（地元の）トヨタに入ること」「小さい頃から夢だった日本代表になること」など、口に出してきたことは必ず形にしてきた。今大会前に口にした「W杯優勝」は今回、実現できずに試練が降りかかってきたが、エベレストの頂上を姫野は今、どんな心境で見据えているのだろうか。
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1975年生まれ。ラグビー、サッカーを中心に、雑誌やWEBで取材、執筆するスポーツライター。「DAZN」のラグビー中継の解説も務める。W杯は2019年大会まで5大会連続現地で取材。エディ・ジョーンズ監督率いた前回の日本代表戦は全57試合を取材した。近著に『ラグビー語辞典』（誠文堂新光社）、『ラグビー観戦入門』（海竜社）がある。自身も高校時代、タックルが得意なFBとしてプレー

斉藤健仁

長尾亜紀（１枚目）産経新聞社（２枚目）

ラグビーW杯で史上初のベスト４以上を目指す日本代表の主将に選ばれたのは姫野和樹だった。有言実行で夢を形にしてきた男はこの４年間、「世界一になる」という目標のために己の弱さと戦ってきた。

W杯８強逃したラグビー日本代表・姫野主将「顔にブツブツができた」ストレス乗り越えても遠かった頂上

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