<h3>「下水」の中にいる〝電気生産菌〟を利用して、二酸化炭素を吸収…しかも、水もきれいに </h3>
温暖化を抑止するため、’50年のカーボンニュートラルに向けて、さまざまな技術開発が進められている。その一つが下水を利用した二酸化炭素ガスの回収・固定化技術。
「すでに実証実験は終わり、実用化に向けて進んでいます」
こう言うのは、東北大学の佐野大輔教授だ。
<figure id="attachment_336357" aria-describedby="caption-attachment-336357" style="width: 3500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="04eca46e"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/dc67c6deaec889adbddc6d3296dedc9c.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-336357" class="wp-caption-text">待ったなしの温室効果ガスの削減。日本の総排出量の約９割を占めているのが二酸化炭素だ</figcaption></figure>
佐野教授のプロフィールを見ると、専門は上下水道工学。コロナが蔓延したころは、下水からコロナウイルスを測定し、その地域での感染予測をしたこともあると書かれている。二酸化炭素とは無縁の研究をしているように思える。
「そもそも下水道業界では、下水処理場で発生するメタンを回収して発電に利用する研究などが進められていて、我々は下水中の微生物を利用した燃料電池の研究をしていました」
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その微生物とは“電気生産菌”。酸素がないところでは電極に電気を渡す“電極呼吸”をすることが知られており、その電子をうまく集めれば、発電装置ができるそうだ。
佐野教授が目をつけたのは、電気生産菌が作った電子を電極に集めると、アルカリ性の水ができること。二酸化炭素はアルカリ性溶液に溶けやすい。ならば、それで二酸化炭素を吸収することができると考えたのだ。
「そのときの化学反応で重炭酸イオンが発生しますが、それを集めて浄水処理に再利用することもできるのです」
一般に二酸化炭素を吸収するためにはアルカリ性溶液を用意しなければならず、その処分にもコストがかかる。この装置を使えばアルカリ性溶液を購入する必要もなく、処分の必要もない。さらに水もきれいになるという一石三鳥にも四鳥にもなる装置なのだ。
<h3>１台３万円！　いつかは家庭で二酸化炭素吸収も </h3>
現在、二酸化炭素吸収するための研究が多くの企業で進められているが、その装置は巨大だ。コストもかかる。佐野教授の装置も巨大なのか。
「いえ、15×15×10㎝ぐらいです」
超小型だ。１台いくら？
「３万円くらいです」
３万円！！
装置自体は電気生産菌が含まれる汚泥に電極を入れるだけと、超シンプル。下水処理場に設置する場合、それを10台くらい連結させる必要があるというが、それでも30万円だ。この装置で下水処理場から発生する二酸化炭素をゼロにすることはできないが、それでも下水処理による１日１人当たりの二酸化炭素放出量の10％程度の二酸化炭素は回収することができるという。
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現在、日本には2200ヵ所の下水処理場がある。たとえ回収率が10％でも、すべての下水処理場につければ、その量はバカにできない。将来的には、さらに性能を上げて回収率を増すことも可能だとか。
<div data-friday-nextpage-lead="家庭から出る二酸化炭素を…"></div>
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’20年度の日本の温室効果ガスの排出量は10億4400万トン。二酸化炭素を排出するのは工場などの産業部門がいちばん多く、次に自動車などの運輸部門、商業やサービス、事業所などで、家庭部門は４番目。しかし、産業部門や運輸部門などが年々排出量を減らしているのに対して、家庭部門は’19年から上昇傾向になり、全体の約16％を占める。
<figure id="attachment_336358" aria-describedby="caption-attachment-336358" style="width: 4330px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="1094506a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/7c21a1ac7aabbf7d627bdea645f44641.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-336358" class="wp-caption-text">地球温暖化対策に消極的な国に贈られる「化石賞」を毎年のように受賞している日本。岸田首相は「新しい資本主義」の重要政策の一つに「温暖化対策」をあげていいるが…</figcaption></figure>
家庭から出る二酸化炭素を減らすのも、温暖化対策には重要なのだ。
佐野教授の装置は小型だから、家庭にも置けるかもしれない。家庭だって生活排水があるから、この装置が使えるはずだ。
「下水処理場では水が流れていますから、発生した重炭酸イオンを自然に流すことができますが、家庭で使うためには重炭酸イオンをどうやって回収するかが課題です」 
家庭でも使えるようになるためには、あと２～３年ではむずかしいということだ。
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「でも、いつかは」
佐野教授は言う。
「発電所や工場のように多量の二酸化炭素を出すところには大型の装置が必要ですが、家庭などでは、この装置が役立つと思います。将来はマンションやショッピングモールなど、さまざまな場所で使えるようにして、広く浅く二酸化炭素を吸収したい」
家庭用が完成したら、政府はぜひ各家庭に配ってほしい。ポイントを配るより、よほど地球のためになると思うが、どうだろう。
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佐野大輔　東北大学大学院工学研究科教授。微生物燃料電池を用いた大気中二酸化炭素回収技術に関する研究のほか、下水中の微生物を利用した下水道管路劣化予測技術の開発、ノロウイルス等の病原体による水系感染症リスク評価、水環境中における薬剤耐性遺伝子伝播ポテンシャルの評価、水源における藻類異常発生ポテンシャルの評価、感染症流行の早期検知のための下水水質の活用技術の開発などに取り組んでいる。
<figure id="attachment_336473" aria-describedby="caption-attachment-336473" style="width: 659px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="0a1be3b5"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/654427a3e30afeafa6496aa78b33212e.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-336473" class="wp-caption-text">二酸化炭素回収装置を組み立てている佐野研究室の研究員。15×15×10㎝と本当に小型。複数台を下水処理場に設置すると、下水処理によって排出する１日１人当たりの二酸化炭素の10％を回収する（PHOTO：佐野大輔教授提供）</figcaption></figure>
<figure id="attachment_336474" aria-describedby="caption-attachment-336474" style="width: 373px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="82076716"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/90152dee2e3e48700a8195cb64c4775e.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-336474" class="wp-caption-text">電気生産菌の存在は専門家の間では知られていたが、これを二酸化炭素回収に利用できるとひらめいたのは佐野教授が「他人と違う視野をもつこと」をつねに心がけているから。その教えのもと、研究室では学生たちが実験を続けている（PHOTO：佐野大輔教授提供）</figcaption></figure>

中川いづみ

温暖化を抑止するため、さまざまな技術開発が進められている。その一つが下水を利用した二酸化炭素ガスの回収・固定化技術。「実証実験は終わり、実用化に向けて進んでいます」と言うのは、東北大学の佐野大輔教授。

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