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やっとの思いで…「二度と服用したくない!」体験者が語る睡眠薬・抗不安薬の離脱症状地獄からの脱出法
「私にとっては"魔法の薬"だったのに」…『ベンゾジアゼピン系薬剤』減・断薬体験記【後編】
厚労省の規制強化で減薬ブームが起きている「ベンゾジアゼピン系薬剤」
睡眠薬や抗不安薬として広く用いられているベンゾジアゼピン系薬剤(以下、ベンゾ系薬剤)。近年、厚生労働省が向精神薬の多剤大量処方の規制を強めていることを背景に、患者の間で減薬ブームが起きている。
しかし急な減薬はリスクを伴う。ベンゾ系睡眠薬を長期服用してきたライターが、自ら減・断薬を決行。
前編では初の減薬時に味わった‶眠れない地獄″の体験をお伝えしたが、後編では離脱症状をなるべく抑える減・断薬法と、‶薬漬け″から逃れるための医師とのつきあい方をお届けする。

「自分に合った薬の単位を見つける」…離脱症状との闘い方
もう二度と、デパスは飲みたくない――。
ベンゾ系睡眠薬であるデパスを11年常用した後、5年かけて断薬にこぎつけた筆者は、今、切にそう思っている。
ベンゾ系薬剤など向精神薬は、長期服用していた人が急に減・断薬すると、‶離脱症状”を起こす可能性が指摘されている。
症状は、不眠、頭痛、耳鳴り、目のまぶしさ、筋肉のこわばりなど実にさまざま。向精神薬の取材を続けてきた医療ジャーナリストの月崎時央さんによれば、悪夢を見たり、激しい自殺願望や体のさまざまな部位が勝手に動く‶ジストニア″に苦しんだりというケースもあり、服用している薬の種類や量によって、症状、強さ、離脱症状が始まるまでの期間や、症状が続く期間は異なるという。
離脱症状の期間は薬の半減期(薬が体内に入ってその血中薬物濃度が半減するまでの時間)の影響が強いとも。例えば、筆者が服用していたデパスは、半減期が6時間と短い。半減期が短い薬は減・断薬後、すぐに症状が表れ、長引かないのが一般的だというが、筆者は3ヵ月もの間、離脱症状に苦しんだ。当時の離脱症状の詳細は前編に記したのでそちらをご一読いただきたい。
離脱症状をなるべく抑えるにはどう減薬するのがいいのか。
減薬方法には、少しずつ定期的に減らしていく「漸減法」、飲まない期間を少しずつ延ばしていく「隔日法」。また、漸減法の一種だが、水溶液減薬(※)がある。どれを選ぶかは本人次第だが、「1~2週間に1度のペースで、1種類ずつ‶数%単位″で減らす(漸減法)人が多い」と月崎さんは言う。
「医療者の多くは、減薬時の最小処方単位を1錠の4分の1、または2分の1と考えていますが、1錠の1~2%の微量の減薬でも心身に影響が出ると話す患者さんは少なくありません。そのため、時間はかかっても1%ずつの減薬を試みる方もいます。自分に合った薬の単位があるはずなので、それを見つけることが大切だと思います」
減薬にはカッターやナイフで錠剤を切る方法もあるが、薬の成分が1錠に平均的に入っているとは限らない。錠剤を粉砕してから薬さじなどで減らして飲むのが安心だ。薬局に薬の粉砕をしてもらえるよう、処方箋でのオーダーを医師に頼むのがいいという。
「もっと早くやめていれば 」…‶羞明″はデパスの副作用だった
ちなみに筆者は、’18年にデパス2錠から1錠へと減薬した際、反跳性不眠に苦しんだことから減薬は棚上げし、2年半ほど現状維持を続けていた。
再開は’21年。自己流ながら2分の1錠の減薬を思いつき、ペティナイフで半分にカットして服用した。眠りは浅かったが耐えられると確信。仕事が忙しい日や体調が悪い日は、半錠よりも少し多めに服用しながら、2年かけて‶2分の1錠でも眠れる″自信をつけた。
そして今年4月。残り半錠は、1ヵ月ごと(半錠の)4分の1ずつ減らす計画を立てた。順調にいけば、4ヵ月で断薬できるプランだ。ほぼ予定通り進み、今年7月末にようやく断薬できた。
減薬中も断薬できた今も、日によっては入眠に1時間以上かかり、途中覚醒も度々ある。だが、満足いく眠りを求めると、薬の力を借りずにはいられなくなる。ある程度、眠れればよしとする――。こう考えを改めたことも、断薬できた理由なのかもしれない。

では、離脱症状は完全になくなったのか。
実は人生初の針治療に通うほど、これまでにない‶肩こり″と、開けているのがつらいほどの目の乾きや羞明(目のまぶしさ)に悩まされている。「年のせい」と思っていたのだが、月崎さんの著書『新版 ゆっくり減薬のトリセツ』を読み、これらは離脱症状の可能性があることを知った。
「離脱症状はその人のもともと弱いところに表れるとも言われています。若い頃から肩こりがひどかったのであれば、デパスを服用していた間は、筋弛緩作用によって肩こりは和らぎ、気にならなくなっていたところに減・断薬で筋緊張が復活したということだと思います。
また、羞明も、患者さんからは度々聞く離脱症状の一つで、薬剤性の眼瞼けいれんの可能性も。なかには症状が重く、自分で目が開けられない方もいらっしゃいます」
月崎さんへの取材後、神経眼科を受診したところ、やはり薬剤性の眼瞼けいれんだと診断された。実は8年ほど前、目の乾きで眼科を受診すると、ドライアイではなく疲れ目だと診断されたのだが、神経眼科の医師によればその時点で眼瞼けいれんを発症していたはずだという。もっと早くデパスをやめていれば、発症しない可能性もあったと告げられた。つまり、筆者の眼瞼けいれんは、離脱症状というよりは、長期服用による副作用との診断だった。
不眠に悩んでいた筆者にとって、デパスは効果絶大な‶魔法の薬″だった。だからこそ、依存の自覚はあったものの、副作用を重大に捉えることなくここまで来てしまった。
そもそもデパスを含むベンゾ系薬剤は、’16年に向精神薬に指定されたことで、投与期間が30日に制限されていた。本来、この処方制限は、長期にわたって漫然と処方されるべきではないことを意味しているはずだ。ところが医師は筆者の通院の度にデパスを処方し、筆者もそれを熱望し、ありがたく服用してきた。なぜもっと、医師に処方制限がついた理由を問い、副作用について尋ねようとしなかったのか……反省しきりである。
「リスク軽視」の医師が多い現実…処方を任せきりにしない
精神科や心療内科以外の診療科でも漫然と処方されている現状について、月崎さんはこう指摘する。
「近年、私が注視しているのは出産直後の女性が産婦人科でベンゾ系薬剤を処方されるケースです。
出産は女性にとって肉体的、精神的に負担が大きく、睡眠や授乳がうまくいかないという悩みは多くの人が経験します。これを安易に‶産後うつ病″と診断し、ベンゾ系薬剤を処方する医師がいる。
出産直後にベンゾ系薬剤を服⽤すれば、
精神科専門医はもちろんですが、ほかの診療科の医師がベンゾ系薬剤を扱うには、薬のリスクを十分に理解する必要があります。
ところが多くの医師はリスクを軽視していると言わざるを得ません。患者の側から見ると、薬を正しく治療に使える医師を探すのは、容易ではないということなのだと思います」

それでも医療に頼らざるを得ない患者はどうすればいいのか。
「一人一人にできることは、薬を処方されたら、どうしてこの薬が自分に必要なのか、どのくらいの期間、服用するべき薬なのかということを、医師に確認し続けることだと思います。
診療報酬のしくみの問題もあって、患者の質問を歓迎しない医師もいますが、嫌な顔をしたり、怒り出したりする医師であれば、『安心できる伴走者ではない』ということ。転院を考えるのも方法だと思います」
処方箋を薬局に提出する前に、自分で効果・効能や、副作用などを‶添付文書″で確認することも大切だ。ネット検索なら、薬剤名のあとに‶添付文書″と打つとすぐに出てくる。
「『生涯薬を飲み続けること』に巻き込まれるつもりはない――。こうした強い意志を、医師に、何度も伝えてほしいですね。
通院の度に、‶薬を減らすにはどうすればいいのか″を話題にしていくことが、患者がいますぐできることだと思います」
※水溶液減薬(ウォータータイトレーション)とは、薬に水を入れて均一に攪拌した水溶液をシリンジを使って数ml単位で取って捨て、その残りの水溶液を飲む方法。
月崎時央(つきざきときお) 医療ジャーナリスト&ファシリテーター。出版社勤務を経て、作家・猪瀬直樹氏に師事したのち『日経トレンディ』『日刊スポーツ』『週刊朝日』などに医療記事を寄稿。′93年、家族の精神病発症を機に精神保健福祉の取材を開始し現在に至る。著書に『正しい精神科のかかり方』(小学館刊)。近著に、向精神薬の減薬・断薬について患者の取材からまとめたハウツー本『新版 ゆっくり減薬のトリセツ』(読書日和刊)がある。向精神薬について考えるワークショップも主催する。

取材・文:つまいけ戀子
女性誌の編集を経てライターに。持病歴40年。今回は長年、医療を受けてきた患者の視点で取材・執筆。