脱・ジャニーズの次は「脱・コア視聴率」! 現役テレビマンが明かす「シニア世代重視」の新トレンド
歌番組、ドラマ、バラエティに数多のタレントを送り込んできたジャニーズ事務所(現SMILE‐UP.)が半世紀を超える歴史に幕を下ろし、テレビの制作現場は今、大きな転換点を迎えている。
長らく「メインプレイヤー」としてテレビを支えてきたジャニーズタレントたちの起用が次々と見送られるなど、各局のキャスティングが大幅に変わっているのだが、ここにきてもうひとつ、大きな方針転換がなされているという。
番組作りの指針として、テレビマンはおろか視聴者の間でもすっかり定着した「コア視聴率」(13歳~49歳男女の視聴率)の見直しである。
「ここ2~3年、日本テレビを筆頭に民放各局は若い視聴者の取り込みに躍起になっていました。『Z世代向けに番組を作れ!』という大号令が発されていたのですが、今年からまったく逆の方向にシフトチェンジした。『さよならZ世代』へ大きく舵をきりつつあるのです」
そう語るのは、制作会社プロデューサーだ。
Z世代とは’90年代後半から’12年の間に誕生した、”生まれた時点でインターネットが普及していた最初の世代”を指す。今後、旺盛な購買力を持つことになるZ世代、若い視聴者を取り込むことで、スポンサーを引き込むのがテレビ局の狙いだ。
Z世代に受けるゲストとしてユーチューバーやインフルエンサーを番組に呼んだり、TikTokネタ、韓流スイーツネタ、自販機・ガチャネタなどを扱ったり、あの手この手で若い視聴者を取り込もうとしてきたが、「いっこうに視聴率アップには結びつかなかった」(前出・プロデューサー)という。
かわりにこの夏ぐらいからトレンドとなっているのが、「再びシニア層を取り込もう」という動きなのだと、前出のプロデューサーは苦笑いする。
「上層部から『シニア層が好きなおじさん、おばさん枠のタレントをキャスティングしろ!』というお達しが出ています。今、アツいのはアンミカ(51)と梅澤富美男(72)。最近よくテレビで見かけるようになったと思いませんか?」
シニア層が好むタレントとして他に名前が挙がるのが、石原良純(61)と長嶋一茂(57)。かつてデヴィ夫人(83)が君臨していた”モノ言う強い熟女”枠に新たにおさまったのが、アンミカなのだという。
「さよならZ世代」のトレンドは番組が扱うネタにも波及。情報番組では往年の鉄板ネタ「スズメバチ駆除」、「日本に押し寄せる外国人観光客」が復権しているという。そういえば最近ワイドショーでよく見るな……という読者諸兄は少なくないはずだ。
テレビが「脱・コア視聴率」に舵を切った理由はもう1つある。
Tverの隆盛だ。
いま、テレビマンたちは「Tverの見逃し配信に若い人を取り込もう」という思考になっているという。
少し前なら、Tverの再生回数を伸ばすために最も手っ取り早い手段はジャニーズタレントのキャスティングだった。一人でもジャニーズタレントが出演しておれば、”推し”のYouTubeを回すことに馴れたファンたちが再生回数を一生懸命伸ばしてくれた。『King & Prince』の髙橋海人(24)と『SixTONES』の森本慎太郎(26)がW主演した「だが、情熱はある」(日本テレビ系)は、視聴率こそ振るわなかったが、Tverの再生回数は100万回を超え、YouTubeで流れた宣伝動画の総再生回数は、日テレドラマ史上歴代1位の1億回を突破している。

制作会社ディレクターが苦笑いする。
「ジャニーズの崩壊でその手は使えなくなってしまいましたけどね(笑)。なのでいまは、”Z世代向けに番組作りをするのではなく、Tverの再生回数を伸ばしてくれるZ世代のタレントを1人、番組にキャスティングする”という方針に変更になっています。ジャニーズタレントの代わりとして『JO1』や『乃木坂46』が引っ張りダコになっていますね」
『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)など数々の人気バラエティを手掛けて、一時代を築いた放送作家・鈴木おさむ氏がこのタイミングで引退を表明したのも、「時代の移り変わりを肌で感じ、潮時だと判断したのかもしれません」と前出のディレクターは見ている。鈴木氏の引退と時を同じくして、国民的バラエティ番組を世に送り出した制作会社が次々と買収されているという。
「ここ数年、マネタイズしやすいドラマ枠を各局増やしていたのですが、この秋クールからさらに増加しました。今後はアニメ枠が拡大される予定です。このあおりを食ったのがバラエティです。視聴者の需要そのものが激減していて、今後も枠は減る一方でしょう。バラエティを得意としていた制作会社は生き残りに必死ですよ」(同前)
日本のテレビ界はかつてないほど、大きく変わりつつある。
取材・文:愛田プリン
テレビとラジオの世界を15年以上、漂流している放送作家