1976年、宮崎県生まれ。高校野球やオリンピックなど幅広く取材。著書に第23回小学館ノンフィクション大賞を受賞した『永遠のPL学園』（小学館文庫）など

柳川 悠二

<figure id="attachment_337946" aria-describedby="caption-attachment-337946" style="width: 2480px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="91eebe9c"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/3d29e968505748ac1d907bd470529063.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-337946" class="wp-caption-text">細野晴希（東洋大学）東亜学園高校出身。身長180㎝、体重87㎏の恵まれた体格から放たれる快速球が魅力。コントロールにばらつきがあるのが唯一の課題か</figcaption></figure>
<p>この秋の東都大学野球１部リーグは、最終節を前に日本大が勝ち点３で頭ひとつ抜け、青山学院大、國學院大、中央大、東洋大が勝ち点２で並んでいた。この大混戦を演出したのは、″戦国東都″に一極集中しているドラ１候補の投手たちだ。</p>
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<p>中でも最終節に強烈な存在感を誇示したのが、８月に行われた大学日本代表対高校日本代表の試合で158㎞/hを記録した東洋大の細野晴希（ほそのはるき）（21）だった。10月17日の中央大戦では９回125球を投げ２失点するも、被安打はわずか２。直球にカーブ、スライダーを織り交ぜた剛柔自在の投球で空振りを誘い、９三振を奪った。</p>
<p><span class="strongInContent">「ドラフト候補対決とか、そんなのはどうでもよくて、去年春の入れ替え戦で、中央に負けている（結果、東洋大は１部昇格ならず）から、負けたままじゃ大学野球を終われなかった」</span></p>
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<p>12球団のスカウト部長クラスが神宮球場に揃う中、プロでも希少な左の豪腕はベストに近い投球ができたと振り返った。</p>
<p><span class="strongInContent">「スカウトの存在は気にしていませんでしたが、ドラフトのことを100％気にせず試合に臨むことは無理でした。自分は指名される側。緊張感は常にあります」</span></p>
<div data-friday-nextpage-lead="佐々木朗希と直接対決なるか…"></div>
<p>細野との対決には敗れたものの、この秋になって評価が爆上がりしたのが中央大の西舘勇陽（にしだてゆうひ）（21）。クイックモーションから放たれる150㎞/hオーバーの直球と、落差の大きいフォークを武器にする。</p>
<p><span class="strongInContent">「大きなケガなく４年間やってきた過程で、セットポジションからクイックモーションで投げる自分にしかないフォームにたどり着いた。走者がいてもいなくても、同じリズムで投げられるので、常に平常心でいられる。それが強みです」</span></p>
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<p>花巻東高校の３年生だった’19年夏、甲子園の切符が懸かった岩手大会決勝で投げ合うことを覚悟していたのが大船渡の佐々木朗希（現・千葉ロッテ）だった。令和の怪物と呼ばれたライバル校のエースは、蓄積した疲労によるケガのリスクを鑑みて、決勝での登板を回避した。西舘は、高校時代に果たせなかった直接対決を夢見ているのではないだろうか。</p>
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<p><span class="strongInContent">「いえ、それはありません。初めて見たのは高２だったと思いますけど、高校野球の中にひとりだけプロ野球選手がいるようだった。自分と比較することもなかったし、常に遠い存在で、ＷＢＣもいちファンとして見ていました（笑）。対戦したいとは心のどこかで思っていても、ライバルとはとても言えません」</span></p>
<p>この秋は鋭く落ちるフォークを有効に使っていた。青山学院大を秋の東都１部優勝に導き、ドラフトを前に広島が真っ先に指名を表明した右腕・常廣羽也斗（つねひろはやと）（22）に、握りを教わったという。</p>
<figure id="attachment_337945" aria-describedby="caption-attachment-337945" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e6bbb390"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/a4d1bc1874d38ffea82118ec495d8522.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-337945" class="wp-caption-text">西舘勇陽（中央大学）花巻東高校出身。最速155㎞/hの速球派投手。１年秋からリリーフを経験し、３年秋には先発で５勝と幅広い起用に応えることができる</figcaption></figure>
<figure id="attachment_337944" aria-describedby="caption-attachment-337944" style="width: 1284px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="f6813f74"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/4124c771486ce97501892eeb208def20.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-337944" class="wp-caption-text">常廣羽也斗（青山学院大学）大分舞鶴高校出身。最速153㎞/hの速球と多彩な変化球を操る。広島が１位指名を公表するなど、「完成度は世代ナンバーワン」との声も</figcaption></figure>
<div data-friday-nextpage-lead="東都の”神７”と凶作の高校生"></div>
<h2>東都の″神７″と凶作の高校生</h2>
<p>東都のドラ１候補は他に、青学で常廣との２枚看板である下村海翔（しもむらかいと）（21）、國學院大の長身左腕・武内夏暉（たけうちなつき）（22）、亜細亜大の技巧派・草加勝（くさかしょう）（21）、そして２部リーグを戦う専修大の西舘昂汰（にしだてこうた）（22）。彼らは″神７″と呼ばれている。</p>
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<p>大豊作とされる大学生に対し、凶作と言われてきたのが高校生。ドラフト１位指名が確実視されるのは大阪桐蔭の前田悠伍（まえだゆうご）（18）くらいか。その前田も、今春以降、ケガの噂がつきまとい、最後の夏も大阪大会決勝でライバル・履正社に敗れた。が、高校日本代表では日本のエースとしてＵ-18野球Ｗ杯決勝の台湾戦など重要な試合に登板し、日本の世界一に貢献。再びドラフトの主役に返り咲いた。150㎞/hに迫る直球とチェンジアップなどの変化球に加え、マウンドさばきも高校生離れしている。前田は言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「チームを勝たせるピッチングをするのは大前提として、真っ直ぐで押せて、あまり点を取られないピッチャーになるのが理想。スピードを求めるのも魅力ですが、そこばかりを意識していたら簡単に打たれると思う。直球と変化球のバランスの良いピッチングをこれからの野球人生で追求していきたい」</span></p>
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<p>米国留学を表明した花巻東の佐々木麟太郎（18）や前田と共に高校１年生の頃から″四天王″と呼ばれ、強打の野手として期待を集めた広陵の真鍋慧（まなべけいた）（18）、九州国際大付の佐倉侠史朗（さくらきょうしろう）（18）もプロ志望届は提出したものの、２年前を超えるインパクトを残せず評価を落としている。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="国体で最後のアピール"></div>
<p>毎年、秋に開催される国民体育大会は、プロ志望届を提出する３年生にとってプロにアピールする最後の場でもある。</p>
<p>仙台育英でエースの高橋煌稀（こうき）、慶應との甲子園決勝で先発した湯田統真（ゆだとうま）と150㎞/hトリオを形成した仁田陽翔（にたはると）（18）は、主将で高校日本代表でも遊撃を守った山田脩也（やまだしゅうや）（18）と一緒にプロ志望届を提出した。３度の甲子園ではボールが暴れて結果を残せなかった仁田に対し、同校の須江航監督は<span class="strongInContent">「ポテンシャルは誰もが認めるところですが、高校野球の２年半では仁田の力を引き出してあげられなかった。進路に関しては何度も何時間も話し合いました」</span>という。仁田が話す。</p>
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<p><span class="strongInContent">「育成での指名であれば、大学に進学して、自分を見つめ直して鍛えていきたい」</span></p>
<p>この夏の甲子園で誰より名を上げた高校球児が、背番号「10」ながら、準決勝に進出した神村学園の実質的エースであった黒木陽琉（くろぎはる）（17）。夏を終え、髪を伸ばす球児がほとんどのなかで、黒木は再び丸刈りにして国体に臨んだ。真上から投げ下ろすフォームで自己最速を更新する147㎞/hを記録し、伝家の宝刀である大きく割れるカーブで打者を翻弄した。</p>
<p><span class="strongInContent">「甲子園が終わってから、球威アップを目標にトレーニングを積んできました。その成果は出せました。プロに行けるならば何位でもいい」</span></p>
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<p>前田、仁田、そして黒木はサウスポーである。高校日本代表の監督を務めた明徳義塾・馬淵史郎監督が絶賛した山形中央の二刀流・武田陸玖（たけだりく）（18）も左投げだ。即戦力となる大学生のドラフト１位候補に左腕が揃っていることから、ドラフト上位の指名結果の高校生左腕の指名の有無、順位への影響は計り知れない。彼らも「凶作」の世代と呼ばれることは不本意だろう。プロでの飛躍によって、そんな悪評など振り払えばいい。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="今年は大豊作！　金の卵たち“熱闘”画像集"></div>
<figure id="attachment_337943" aria-describedby="caption-attachment-337943" style="width: 1240px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="242f4920"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/56f33928f71b34a890fa6a0510af6fb1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-337943" class="wp-caption-text">武内夏暉（國學院大學）福岡県立八幡南高校出身。３年秋のリーグ戦で防御率0.68を記録してMVPに。幼少期からホークスのファンで、目指すピッチャーは和田毅</figcaption></figure>
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<figure id="attachment_337942" aria-describedby="caption-attachment-337942" style="width: 1334px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="52f7f4b9"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/a832511d148bf8c60121fe76a4ffc20f.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-337942" class="wp-caption-text">前田悠伍（大阪桐蔭高校）名門・大阪桐蔭の世代ナンバーワン投手。履正社に敗れて甲子園出場は叶わなかったが、地元のオリックスが１位指名するとの噂も……</figcaption></figure>
<figure id="attachment_337939" aria-describedby="caption-attachment-337939" style="width: 1341px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="299c447b"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/4cb85de4b911afcaf73eded231aa0c69.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-337939" class="wp-caption-text">真鍋 慧（広陵高校）高校生離れした飛距離が魅力の選手。長距離砲としてのポテンシャルは米留学を表明した「花巻東の佐々木麟太郎を超える」との評価もある</figcaption></figure>
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<figure id="attachment_337940" aria-describedby="caption-attachment-337940" style="width: 1506px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="b5ff893e"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/337b296593cde0b69ea51fa593925b66.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-337940" class="wp-caption-text">黒木陽琉（神村学園）今秋に行われた国体でも147㎞/hを計測した左の本格派。183㎝から投げ下ろすストレートは迫力満点でガン表示以上の球威を感じさせる</figcaption></figure>
<p>『FRIDAY』2023年11月3日号より</p>


柳川悠二（ノンフィクションライター）

藤岡雅樹（細野、武内）　濱﨑慎治（西舘勇陽）　柳川悠二（黒木、前田）　AFLO

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