<figure id="attachment_338976" aria-describedby="caption-attachment-338976" style="width: 1536px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="dfcf3c6f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/1f8a98919a2cfa937cf34ae5e5e6735b.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-338976" class="wp-caption-text">ワカ・パルティーダ神殿遺跡（ペルー）のレリーフ（&#8217;05年 Marco Rivas撮影）</figcaption></figure>
<p><span class="strongInContent">「大学で働く者ですから、職業柄、客観的に証明しようのないものに関しては信じることができないですね。しかしながら、一個人としては子供の頃に抱いた暗がりや墓地などを怖ろしいものだと感じる気持ちも否定はできない。</span></p>
<p><span class="strongInContent">それを振り払うためには、職業柄信じてないようなことでも、やっておいた方が良いとか、気持ちがスッキリするという程度で、塩を盛ったりするようなことは、たまにしますよ。それから、現地で雇う作業員のために、現地の伝統にのっとった地鎮祭のような儀礼も」</span></p>
<p>そう語るのは、南米ペルーの考古学を専門とする芝田幸一郎・法政大学教授だ。考古学者は人類の歴史を解明するというロマンを求めて日々の発掘・調査活動をする裏側で、お墓に閉じ込められたり、原因不明の病にかかったりなどの命がけの日々を送っている。そんなインディ・ジョーンズ顔負け（？）の体験を３人の考古学者が綴ったエッセイが『考古学者が発掘調査をしていたら、怖い目にあった話』（ポプラ社）だ。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>著者の1人である芝田先生が体験した&#8221;怖い話&#8221;を聞いてみた。</p>
<p>芝田先生が発掘資料の整理と分析のためにペルーに渡航したときのこと。多忙なスケジュールの中、先生が発掘・調査を続けているワカ・パルティーダ神殿遺跡から少し離れた場所で同時代の遺跡を探していたときのことだ。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p><span class="strongInContent">「その岩山は、広い範囲からも目印になるような、谷底に突出してる岩山で、多分古代には特別視されていたのでしょう。その岩山を取り巻くように裾野の部分にたくさん遺跡があるんです。盗掘の穴がたくさん開いていて、要するに古代の墓地だったわけです。</span></p>
<p><span class="strongInContent">その岩山で発掘調査が行われたことはありませんでした。将来的には調査が必要かも知れないと思い、様々な機会にその岩山に登ってみたり、周囲を観察してみたりしていました。その中で、非常に荒らされている墓地にも足を踏み入れました。するとよくあることですけど、そこには子供のものと思われる頭蓋骨が転がっていたんです」</span></p>
<div data-friday-nextpage-lead="右肩に民族衣装を着た人が怖い顔で……。"></div>
<p>例えばその人骨が研究している時代のものだったり、発掘調査の中で出土したものだったりすれば、&#8221;学者のフィルター&#8221;を通して研究対象として見るため、仕事として接することが出来る。だが、このときのようにそうでない場合は、子供のときに感じた得体の知れない怖れが甦ってしまうのだという。</p>
<p><span class="strongInContent">「いろいろ想像してしまって、あまりいい気持ちがしなかったので、そこは早々に立ち去ったんです。しかし、その後ペルー滞在の終盤で高熱に襲われました。その後も発熱は続き、帰国後にいくつかの病院で検査しました。</span></p>
<p><span class="strongInContent">原因は不明で２週間以上高熱が続き、さらに指が動かなくなったり、信号無視の車に轢かれたりという事故にもあったんです。あまりにも色々なことが重なったので、迷信深くない私ですが、 そのときは一連の災難を古代墓地と結び付けて考えてしまいました。気持ちが良くなかったので自宅玄関に塩を盛ったりもしたんです」</span></p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>この話には後日談がある。前述の出来事から３年後にも例の場所で芝田先生は調査を行っていたという。ドローンを使って遺跡の分布や周辺地形を調べる航空写真測量の調査だった。成果は上々だったのだが、調査期間の終盤で、芝田先生はドローンのプロペラで手をざっくり切ってしまい、過呼吸で病院に担ぎ込まれたのだ。</p>
<p>さらにこのときに一緒に調査をした共同研究者が、帰国後に大学で講義をしていると、講義後に1人の女子学生から「先生、今年ペルーに行かれましたか？ 先生の右肩に民族衣装を着た外国の人がいて、怖い顔でずっと見ている」と言われたという…。</p>
<p>じゅうぶんにホラーなお話なのだが、芝田先生は「実は原因不明の病気については考えられる原因もあるんです」と、いたって冷静だ。</p>
<p><span class="strongInContent">「古代墓地に足を踏み入れて数日後に、ある博物館の収蔵庫に入って作業したんです。 収蔵庫と言っても博物館の庭に建てられた掘っ立て小屋で、屋根は葦や竹を編んだ薄っぺらなものなので、コウモリが入り込むわけです。そのコウモリの糞がたくさん堆積して汚れている箱を掃除しながら、遺物を引っ張り出してくるという作業をしたのです。コウモリの糞と、長時間、手でも接触していますし、マスクをしたとはいえ吸い込んでもいますし。それが原因なのかもしれないな……とは思っています」</span></p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>高熱や指の麻痺の原因がウイルスだったにせよ、その後の事故やドローンでのケガは偶然というには出来すぎなお話にも思える。だが、いずれにしても考古学調査が命がけの作業であることは間違いないのかも知れない。芝田先生は今年の夏もペルーで調査を行ってきた。８月はペルーでは冬に当たるのだが、今年は異常気象で数十年に一度の記録的に暑い冬だったそうだ。その影響でデング熱が流行っていて、その感染の恐怖や、大量発生したノミに悩まされたという。だが、さらに問題だったのは、一番掘りたかった遺跡を掘れなかったことだった。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="発掘調査が出来なかった理由"></div>
<p><span class="strongInContent">「ペルー文化省の許可を得て行ったんですが、コロナ禍の間にその遺跡の一帯がブルーベリー畑になっていました。パンデミック前は、そこはほとんど砂漠だったんですが、そこを灌漑して、ブルーベリー畑にしたんです。ペルーではここ数年で急速にブルーベリーの生産地が広がっていて、それまで誰も見向きもしていなかったような谷の端の砂地も狙われているんです。遺跡があれば壊し、遺跡の上に直接ブルーベリー畑を作ってしまう。そして、人が入れないように柵で囲ってしまうわけです」</span></p>
<p>芝田先生の調査団はその現場を３月にも訪れ、そのときは「文化省の許可を得たら大丈夫」と、畑を持つ企業の担当者から聞いていた。しかし今回、許可証を企業に提出したら…。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p><span class="strongInContent">「 非常に対応が遅くて、ゆっくりしていて。どこか時間を引き延ばしているような感じがあったんですね。『本部との連絡を取らないといけない』『弁護士に相談しないといけない』…。これはもしかしたら、我々が時間切れになって帰るのを狙っているから、こういう対応なのかな、という風に考えていたら、まさにその通りで、我々が撤収した直後に、『許可を出しますよ』ということになりました。</span></p>
<p><span class="strongInContent">農地になってしまった範囲で一番大きな遺跡がちゃんと保護されているのは、衛星写真で確認できるんです。ところがそれ以外は、潰されてしまったのか、畑になっているわけです。企業側としては、遺跡を破壊したことがバレないように……と、我々に調査させたくないのでしょう。　ブルーベリー畑を作ることは、現金収入を得る術の少ない田舎ではありがたい面もあります。 でも、その反面、遺跡の破壊という問題にも直面しています」</span></p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>また、政治や学会などの&#8221;諸事情&#8221;も、発掘に大きく影響することがある。著書『考古学者が発掘調査をしていたら、怖い目にあった話』の中でも芝田先生は触れているが、20年近く前にはペルー考古学者会という団体が突然権力を握り、外国人研究者らはその団体から排斥されるのではないかという懸念もあった。当時、博士論文執筆を控えていた芝田先生にとって、ペルー国内で発掘できなくなるということは、考古学者としての生死に関わるピンチだった。</p>
<p>もしかすると、本当に怖いのは人間なのかも知れない。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="【画像】芝田先生が手掛けたペルーの発掘調査現場"></div>
<figure id="attachment_338977" aria-describedby="caption-attachment-338977" style="width: 2592px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="dbb711ad"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/fcf896f61598157159ede4e6c9977f05.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-338977" class="wp-caption-text">ワカ・パルティーダ神殿遺跡の壁画（&#8217;04年）</figcaption></figure>
<figure id="attachment_338978" aria-describedby="caption-attachment-338978" style="width: 2048px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="ee647692"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/cc40c6bafa28cc86c6461a7eed73a5ed.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-338978" class="wp-caption-text">住民に発掘現場の説明をする（&#8217;04年）</figcaption></figure>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<figure id="attachment_338979" aria-describedby="caption-attachment-338979" style="width: 2048px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="aaaeda2f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/94f42d2a91689b743512f0e9cabe4f73.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-338979" class="wp-caption-text">発掘風景</figcaption></figure>
<figure id="attachment_338980" aria-describedby="caption-attachment-338980" style="width: 3024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a2cb3f4b"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/ee9605c99fd9ada523324dc4ed417f00-rotated.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-338980" class="wp-caption-text">発掘風景</figcaption></figure>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<figure id="attachment_338981" aria-describedby="caption-attachment-338981" style="width: 4000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e2cb993a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/031a9ee1254d986214e2150b5f549b8a.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-338981" class="wp-caption-text">ドローンで上空から撮影した古代墓地。画面中央左の細かい穴は盗掘坑。その下の黒い点がジープで右斜め下に芝田先生らがいる</figcaption></figure>
<figure id="attachment_339181" aria-describedby="caption-attachment-339181" style="width: 388px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="9034916e"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/44a15436c8f588557582dbb93a4063c7.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-339181" class="wp-caption-text"><a href="https://www.amazon.co.jp/%E8%80%83%E5%8F%A4%E5%AD%A6%E8%80%85%E3%81%8C%E7%99%BA%E6%8E%98%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E3%82%92%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%9F%E3%82%89%E3%80%81%E6%80%96%E3%81%84%E7%9B%AE%E3%81%AB%E3%81%82%E3%81%A3%E3%81%9F%E8%A9%B1-%E4%B8%80%E8%88%AC%E6%9B%B8-%E5%A4%A7%E5%9F%8E-%E9%81%93%E5%89%87/dp/4591172031">『考古学者が発掘調査をしていたら、怖い目にあった話』ポプラ社</a></figcaption></figure>


専門分野は南米ペルー考古学。1972年福岡県生まれ。 法政大学経 済学部教授。 駒澤大学文学部歴史 学科考古学専攻卒業。 東京大学大 学院超域文化科学専攻文化人類学 分野博士課程単位取得満期退学。 博士（学術）。 大学2年次に東大アン デス調査団長の講演を聴いて全身に 鳥肌が立ち、 ペルー考古学を志す。 博士課程在学中に零細発掘プロジェ クトを立ち上げ、 細々と継続中。（『考古学者が発掘調査をしていたら怖い目にあった話』より）

芝田幸一郎

人類の歴史の真実を追求する考古学はロマンあふれる学問だ。だが、その一方で発掘調査の現場では、インディ・ジョーンズばりに死にそうな目に遭うこともしばしばだという。考古学者・芝田幸一郎氏に話を聞いた。

「古代墓地の祟り…？」インディ・ジョーンズより過酷　考古学者が明かす発掘調査にまつわる”怖い話”

あなたへのオススメ

関連記事