<figure id="attachment_340056" aria-describedby="caption-attachment-340056" style="width: 5760px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="6ca3dc7e"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/4d31a8edc01dbd4cbf0c4339f069e8d1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-340056" class="wp-caption-text">出入国在留管理庁──。法には書かれていない判断を委ねられた強大な権限を持ち、その意思決定の基準は未だ“ブラックボックス”の中にある</figcaption></figure>
<p><span class="strongInContent">「最初、入管での仕事はその権限の大きさが眩しく見えました。権力や権限を背景にして自分が何かをする……正直に言うと、心のどこかに権力志向があったのかもしれません……」</span></p>
<p>そう語るのは入管――出入国在留管理庁の元職員である木下洋一氏（59）。同氏は’19年に退職した後、自身の入管での経験や大学院での研究を基に今年８月、『入管ブラックボックス 漂流する入管行政・翻弄される外国人』を上梓。現在は、行政書士事務所で働きながら、入管問題について考えている。大きな権限を持つ入管だが、そこでの判断にはあまりに大きすぎる裁量が認められている。入管行政に実務者として携わった人間が、その実情について語るのは稀であり、貴重だ。</p>
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<p>実は木下氏が公務員として最初に働き始めたのは入管ではなかったという。</p>
<p><span class="strongInContent">「大学卒業後、私はまず公安調査局に入り、12年間働きました。左翼団体等の調査をするところですが、権限がほとんどなく、左翼団体の調査といっても、強権を持って取り組めるわけでも、警察のような組織力もない。成果が見えにくく、物足りなさを感じていました」</span></p>
<p>’01年に木下氏は入管に異動する。大きな権限を持つ入管の仕事はとてもやりがいがあると感じられたという。最初の２年間は、実態調査部門に所属し、偽装結婚や偽装就労などの現場に足を運んだ。</p>
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<p><span class="strongInContent">「バブルが弾けた後で、その後のカオスのようなものがあった時代でした。中東系の人たちが上野で偽造テレカを売ったり、シャブの密売をしていることが報道されていた時期です。入管に異動した年には9.11があり、大きな衝撃を受けました。</span></p>
<p><span class="strongInContent">外国人の受け入れって、ウェルカムなだけではダメで、厳しい視線で見ていかなくてはいけないのだろうと感じましたね。空港での入管業務にも携わりました。単にポンポンとハンコを押しているイメージがあるかと思いますが、危険な外国人の入国を阻止し、水際で日本の治安を守っているという自負みたいなものもありました」</span></p>
<div data-friday-nextpage-lead="日本で生まれた子どもが「強制送還」される違和感"></div>
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<p>だが、木下氏は徐々に入管の仕事に違和感を持つようになる。それは’06年に横浜入管の審判部門に移り、オーバーステイの人たちや犯罪などにより退去させられる人たちと直接に接するようになったことがきっかけだったという。</p>
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<p><span class="strongInContent">「基本的にその人たちは強制送還される。しかし、必ずしも入管法違反者がすべて強制送還されるわけではなく、そこでは在留特別許可を与えられる人と、認められない人が出てくる。入管法にはその基準が書かれていなくて、入管の大きな裁量に委ねられているんです。その裁量は、入管の極めて恣意的な、主観的な物差しによって測られているのではないか、そのような思いが日増しに強くなっていきました」</span></p>
<p>在留特別許可とは、オーバーステイなどの強制送還対象者に対して、現行の入管法では、「法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があるとき……」に認められるもの。確かにそこに基準は記されていない。つまり、入管の〝裁量〟次第なのだ。</p>
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<p><span class="strongInContent">「裁量そのものを否定するつもりは毛頭ありません。しかし、フリーハンドの裁量権は結局は行政の自己満足に過ぎないのではないか……。とくに腑に落ちなかったことが、子どもの送還についてでした。</span></p>
<p><span class="strongInContent">オーバーステイの外国人同士が結婚して子どもが産まれた場合、産まれた子どもにはビザはなく、そのまま成長していきます。中には、日本語しか話せない子どももいるんです。あるいは幼くして親に日本に連れて来られて、一家でオーバーステイになってしまう例もあります。当時、小学生くらいの子どもについては、『本国に帰しても、十分にやり直しが利く』ということで、在留特別許可を与えられず、一家で強制送還されていました。私はそこに強烈な違和感を持ったんです」</span></p>
<p>「中学生はかわいそうだけど、小学生なら送還しても大丈夫」というのはあくまで大人の目で見たロジックではないか。なぜ入管は〝裁量〟でそこに線を引くのか。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="&quot;不法滞在者&quot;が５年間で半減したからくり"></div>
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<figure id="attachment_340053" aria-describedby="caption-attachment-340053" style="width: 4000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="ac961803"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/e3e025c7f3a3a6d171d6bcd50fd6af92.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-340053" class="wp-caption-text">&#8217;21年に名古屋入管で亡くなったウィシュマ・サンダマリさん（当時33歳）の遺族と弁護団は’23年４月に会見を行い、入管法改悪への反対を訴えた（写真・つのだよしお/アフロ）</figcaption></figure>
<p>木下氏は、多くの場面で、基準もないまま、入管の裁量のみで判断されることへの問題意識を持っていたが、それは横浜入管の審判部門からいったん異動になり、’16年に再び戻った際にも強く感じられたという。</p>
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<p><span class="strongInContent">「私が最初に横浜入管の審判部門に異動した’06年当時は小泉政権下で策定された『不法滞在者５年半減計画』（’04年〜’08年）の只中で、その達成は入管の最重要課題でした。そして当時22万人くらいの不法滞在者を実際にほぼ半減させ目標を達成しました。</span></p>
<p><span class="strongInContent">しかしその内情は、摘発や取り締まりの成果というよりは、むしろ『非正規滞在者に在留特別許可を与えて正規化することによって、数値上の不法滞在者を減らす』というものでした。入管はその政策実現のため、裁量を利用し在留特別許可を積極的に付与していたんです。それは政治的で恣意的ではありますが、ある意味入管が一つの基準を持って動いていたとも言えるかもしれません。</span></p>
<p><span class="strongInContent">ところが、横浜入管審判部門に再び異動になった際には、以前は許可されていたようなケースでも、在特が出にくくなっていたのです。政策的なキャンペーンで一時は出されていたものも、それが過ぎれば再び在特を出さなくなる……。それもまた入管の裁量の問題だと思います」</span></p>
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<p>入管法には判断基準がなく、すべてが〝裁量〟に任されているため、判断は結局各担当官の主観や正義感に色濃く左右されてしまう。また、外国人の出入国に関しては、基本的には行政手続法や行政不服審査法の適用外で、基準もなく当事者は不服の申し立てもできない。入管の裁量をコントロールする術がほとんどない中で、それが恣意的なものに流れていくというのは避けがたい必然で、それが入管問題の根本なのだと木下氏は言う。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="&quot;人の心&quot;があるからこそ陥りがちな「入管マインド」"></div>
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<figure id="attachment_339818" aria-describedby="caption-attachment-339818" style="width: 4870px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="766c9dff"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/990bc835842258989896cfb086efde85.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-339818" class="wp-caption-text">『入管ブラックボックス』著者の木下洋一氏。’01年から18年間入国審査官として入管の業務に従事した</figcaption></figure>
<p>では、そもそもなぜこの大きすぎる裁量が入管に付与されているのだろうか。</p>
<p><span class="strongInContent">「これは終戦直後の外国人管理政策の影響が非常に大きい。GHQの統治政策と当時の外国人─ほぼ朝鮮半島出身者─ですが、食料難やイデオロギー対立の中で、より迅速かつ効率的に多くの人たちを朝鮮半島に『送還』しなければならなかった。そのため短期間で大量の判断をさせるために行政庁に裁量を多く与えた。その後現実は大きく変化しているにもかかわらず、古い制度設計を引きずったまま今日に至っており、現実との乖離が生じているのです」</span></p>
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<p>入管職員は決して鬼ではなく、人だ。だからこその問題もある。</p>
<p><span class="strongInContent">「本の中で、『広島小１女児殺害事件』（’05年11月）について取り上げました。外国の人たちが何か問題を起こすと、入管職員は『なぜ、あの人の入国（在留）を認めてしまったのだろう』と感じると思います。後悔もあると思います。すると入国（在留）者に厳しい目を向けるようになるのは当然のことだと思います。しかし、何でもかんでも入れないというマインドが行き過ぎれば、さしたる根拠もないのにだた“あやしい”というだけで排除しようする『入管マインド』へと繋がっていく」</span></p>
<p>大きな裁量であればこそ、何か事が起こったときには大きな責任が伴う。そこから逃れるためにマイナスの判断をしがちになるのは人として自然な判断だ。では、そんな『入管マインド』をなくすためには、どうすればいいのだろうか。</p>
<p><span class="strongInContent">「自分たちに全てを丸投げされることは、入管にとってもしんどいんです。主観や正義感の物差しで測らなくてはいけなくなってしまうから、恣意的な判断が通ってしまう。しかし、第三者機関の設置など入管の裁量をチェックする仕組みを設けたり、不服申し立てができるような制度が確立されれば、入管の判断もより慎重になるだろうし、外部の目が入ることによって、恣意的な判断が入り込む余地も狭まると思います」</span></p>
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<p>６月に成立した改正入管法の３回以上の難民申請者に対して退去強制者の送還が可能になる、という内容は激しい議論を呼んだ。木下氏はその一方で在留特別許可が申請制になったことや、許可を出さない理由を明らかにしなければならなくなった点などについては評価している。だが、そのプロセスが不透明な難民認定も含め、入管をめぐる問題は山積みだ。</p>
<p>入管という“ブラックボックス”はまだまだ中身が見えない。</p>
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<figure id="attachment_340055" aria-describedby="caption-attachment-340055" style="width: 960px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c1e12c60"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/b39ef1fe3234ba7d8df4eb97da8d44d9.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-340055" class="wp-caption-text">『入管ブラックボックス　漂流する入管行政・翻弄される外国人』（木下洋一著・合同出版）</figcaption></figure>
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日本への出入国や日本に滞在する外国人の管理を管轄する出入国在留管理庁─入管は、時に外国人の生殺与奪を握るほどの「裁量」という名の権限を持っているという。元職員がその「内情」について語った。

強大な権限、生殺与奪を握られた外国人…元職員が体験した「入管ブラックボックス」戦慄すぎる実態

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