実業家・伊藤祐奈が説く“アイドルが職業として成立する条件” | FRIDAYデジタル

実業家・伊藤祐奈が説く“アイドルが職業として成立する条件”

20歳で引退した元アイドルが「セカンドキャリア」を探る “アイドルの働き方改革”の必要性が見えてくる?

  • Facebook シェアボタン
  • X(旧Twitter) シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

14歳だった2010年3月にアイドルグループ「アイドリング!!!」(2015年10月解散)に加入し、20歳の誕生日にアイドルを引退した伊藤祐奈(23歳/1995年8月15日生)。21歳のときに株式会社TKMK(トキメキ/2016年12月設立/以下、「TKMK」)を設立し、実業家として、アイドルのセカンドキャリアをサポートする事業をスタートさせた。さらに、「アイドルに関わる全ての人に新しい革命を」をコンセプトにしたプロジェクト「&IDOL」(アンドアイドル)の発起人で、法人化した「&IDOL株式会社」(2018年8月設立)の代表も務めている。

20歳の誕生日にアイドルを卒業した伊藤祐奈に、アイドルへの想いを聞いた(写真:竹内みちまろ)
20歳の誕生日にアイドルを卒業した伊藤祐奈に、アイドルへの想いを聞いた(写真:竹内みちまろ)

伊藤に、アイドルから実業家に転身した理由と、アイドルという“職業”への想いを聞いた。伊藤が語るアイドル業界の現実から、“アイドルの働き方改革”の必要性が見えてくる?

■アイドルになった理由は「ほんの少しの好奇心」

――中学3年生(14歳)のときにアイドリング!!!に4期生として加入しました。アイドルになりたかったのでしょうか?

伊藤祐奈(以下、伊藤):アイドルになりたいと思ったことはなかった……かな。といいますか、なれるものだとは思っていませんでした。ただ、アイドリング!!!が、4期生のときに初めてオーディション受験者を一般公募しました(それまでは事務所に所属しているタレントのみ応募可能)。アイドルは、ネットでAKB48さんのMVなどを見ていました。ちょうど、「AKBアイドリング!!!」(AKB48とアイドリング!!!のコラボユニット)もやっていた時期なので、ほんの少しの好奇心から、ノリでアイドリング!!!のオーディションを受けてみました。生まれて初めてのオーディションだったのですが、それから約6年間、アイドルをやりました。

インタビュー伊藤祐奈 実業家の伊藤祐奈が考える“アイドルが職業として成立する条件” (写真:竹内みちまろ)
インタビュー伊藤祐奈 実業家の伊藤祐奈が考える“アイドルが職業として成立する条件” (写真:竹内みちまろ)

■アイドル時代は「誇れる時間」、“新しいスタート”のため卒業

――20歳の誕生日(2015年8月15日)にアイドリング!!!を卒業し、アイドルを引退しました。どんな想いがあったのでしょう。

伊藤:14歳からアイドリング!!!の活動をはじめ、大学にも進学したのですが、「一般常識がないままに大人になることが怖かった」というのが引退した一番の理由です。また、私は、アイドルはゴールではなく、ステップアップのための環境だと思っています。でも、アイドルをしていた私には、「女優になりたい」、「モデルになりたい」、「マルチタレントになりたい」などの芸能界でのアイドルの次の目標がありませんでした。私にとっては、「アイドルがひとつの夢だったのだな」と感じました。

アイドルはできることなら長く続けたいという気持ちもありました。ただ一般常識だったり、金銭感覚だったり、(アルバイトが禁止だったため)アルバイトもしたことがないという状態のまま大人になることを不安に感じてしまうことがありました。“何歳なら大丈夫”という考えは人それぞれだと思いますが、私は、20歳なら区切りよく、新しいスタートを切れるのではないかと思い、卒業を決めました。

――アイドル時代は忙しかった?

伊藤:日々の記憶がほとんどないくらい、忙しかったです。アイドルの世界はみなさんが思っているほどキラキラしたものではないと私は思いますが、ただ、それ以上に得たものが大きかったです。アイドルとして過ごした6年間は、何にも代えられない時間でした。本当にアイドルになってよかったと思っています。仮に中学生に戻って、アイドルになる人生か、アイドルにならずに普通の女の子として過ごして行く人生かを選べたら、迷わず、アイドルを選びます。それくらい、アイドルとして過ごした時間は、誇れる時間でした。

伊藤祐奈:「今ならアイドル時代に“もっとこうしておけばよかった”と思えることはありますが、当時の最大限で精一杯やりましたので、後悔は一切ありません」(写真:竹内みちまろ)
伊藤祐奈:「今ならアイドル時代に“もっとこうしておけばよかった”と思えることはありますが、当時の最大限で精一杯やりましたので、後悔は一切ありません」(写真:竹内みちまろ)

■アイドル卒業後は経歴を隠して即バイト

――アイドル卒業後、どんな時間を過ごしたのでしょう。

伊藤:卒業した翌々日にアルバイトの面接に行きました。最初に面接に行ったのは、イタリアンレストランです。履歴書の書き方が分からなかったので、普通の友達に付いてきてもらって、レストランの上のカフェで書き方を教えてもらいました。ただ、そのとき、職歴にアイドルをやっていたことを、なぜか胸を張って書けなかったです。もちろん、「職業、アイドル」なのですが(アイドリング!!!の4thシングルの表題曲「職業:アイドル。」を意識した発言)、ただ、アイドルって、世間から見たときに、資格でもないし、伝えにくいなと思いました。イタリアンレストランの面接なら、例えば「ファミレスで3年間のアルバイト経験があります」と言うのは職歴として分かりやすいと思いますが、「アイドルをやっていたから何なの?」という感じで見られてしまうのではないかなと思いました。今まで6年間、すべてを捧げてきたことはムダではないけど、アイドルをやっていたことを職歴に書けなかったとき、自分はチッポケだなと思いました。

それでも面接は受けなければいけないので、心機一転、「アイドルのことは話さずに、普通の女の子で行こう」と思いました。アルバイトはイタリアンレストランの店員、お寿司屋さんの店員、焼き肉屋さんの店員、歯科助手の4つをやったのですが、飲食店の3つは私の好きな食べ物で、歯科助手はやってみたかったことです。父親が医師で母親が看護婦だったので幼いころの夢は小児科医になることでした。それで医療の現場で働いてみたかったのですが、どの職場でも、アイドルのことはずっと言っていませんでした。「アイドル、やりなよ」とは何度も言われましたが(笑)。

インタビュー伊藤祐奈 実業家の伊藤祐奈が考える“アイドルが職業として成立する条件” (写真:竹内みちまろ)
インタビュー伊藤祐奈 実業家の伊藤祐奈が考える“アイドルが職業として成立する条件” (写真:竹内みちまろ)

■起業は「今の年齢で」

――アイドルを卒業した1年4か月後には、TKMKを設立していますね。

伊藤:TKMKは私が1人で設立した1人会社なのですが、アイドル卒業後、アルバイトのほかに、やりたかった留学(カナダ・バンクーバー)をしました。バンクーバーでは、アイドルではなく、自分が自分でいられるといいますか、枠にはまる必要がないといいますか、自然体でいることができて、とても楽しかったです。短期間のお試し的な留学だったのですが、日本に戻ってきたときに、本格的に留学したいなと思いました。ただ、そのときに、留学するか、仕事をするかを考えて、後者を選びました。

――なぜ、仕事を取ったのでしょう。

伊藤:例えば30歳で起業するのとはぜんぜん違って、この年齢なら“知らなくて当たり前”だし、周りの方が助けてくれやすいと思いました。だったら、今の年齢で周りの方に助けてもらいながら会社を始めた方がいいなと思いました。元アイドルの子たちと協力して、私が発起人となって「&アイドル」プロジェクトも立ち上げました。

■一般の女の子がアルバイトでアイドルに

――&IDOLはどんな活動をしているのですか?

伊藤:&IDOLでは、アイドル活動をしていた子のセカンドキャリア支援と、アイドルになりたかった子などがアイドル体験ができる環境作りなど、アイドル業界に関わる子たちのサポートをテーマにしています。今のアイドルの主な収益源は、物販やライブがほとんどだと思うのですが、それ以外での新しい収益源を生み出すことが必要だと考え、いろいろなプロジェクトに取り組んでいます。

去年の夏、アイドルを卒業したメンバーの子たちと協力して、約2か月間、期間限定のビーチカフェ「SUMMER&IDOL」(神奈川・鎌倉由比ガ浜海水浴場)をやったのですが、そのときに、「アルバイトアイドル」を募集しました。「SUMMER&IDOL」の計画しているときに、全てのプロデュースをアイドルが手がけるというのがテーマだったので、私が「アルバイトもアイドルしよう!」と言ったのが始まりでした。

アルバイトアイドルは略して「アルドル」と呼ばれているのですが、「アルドル」には、芸能経験ゼロの普通の大学生の子や現役アイドルの子などが登録しています。現在、「道頓堀 赤鬼」という、たこ焼き屋さんの上野店とコラボをしています。そこに行くと「アルドル」の子たちが店員として毎日、日替わりで働いていて、通常の接客に加え、チェキ撮影やコラボメニューなどのアイドル要素も含んだ活動をしています。半年前まで普通の大学生だった「アルドル」の子に、今はたくさんのファンがついていたりします。 アルバイトしながら、自分だけのファンが出来るということで「アルドル」も楽しんで働いてくれています。

実際にアイドルになってしまうと、色々なリスクが発生しますし、制限も生まれます。ですが、「アルドル」なら、大学生でいる間の時間を有効に使ってアイドル活動的なことをして、ちゃんと就職するという感覚で活動することができます。期間限定アイドルといいますか。現在、&IDOLでは、“「アルドル」×「飲食店」”のコラボ展開を様々な店舗で計画しています。

伊藤祐奈:プライベートでやってみたいことを尋ねると「本格的な留学もしてみたいし、行ったことがないヨーロッパにも旅行してみたいです!」とにっこり(写真:竹内みちまろ)
伊藤祐奈:プライベートでやってみたいことを尋ねると「本格的な留学もしてみたいし、行ったことがないヨーロッパにも旅行してみたいです!」とにっこり(写真:竹内みちまろ)

■“運営の大人”によるアイドルのケアの必要性

――「アルドル」と関わる中で、アイドル経験が役に立ったことはありますか?

伊藤:「アルドル」からは、彼女たちが何をしたいのかを具体的に聞くようにしています。それは、運営サイドがやったほうがいいことだと思うからです。現実問題としては、アイドル運営がアイドルの子の将来について、ケアを「した方がよい」と言う人と、「しない方がよい」と言う人がいます。なぜなら、将来の目標を聞いて「女優になりたい」と言われてても、運営は、その子に女優の仕事をさせてあげることができないケースがあるからです。また、アイドルの方も、大人に将来の目標を聞いてもらうことで、「私の将来は事務所が考えてくれるのだ」と安心しちゃうこともあります。ただ、私は、アイドル経験がある人間として、それぞれのやりたいことに出来るだけ近づけ、それぞれの目標を実現できるようにすることを心がけています。

■アイドルは職業?「残念ながら、現状では……」

――アイドルは、職業として成立していると思う?

伊藤:人によるのではないかと思います。実家暮らしで、親のサポートがある環境なら、レッスンをこなしながらスキルをあげ、ステップアップすることが大事だと思います。ただ、20歳を超えるタイミングになると、生活をしなければならなくなるので、そういう子たちに対しては、ちゃんと収益化できる仕組みを作ってあげた上で、活動させるべきだと思います。私も親のサポートがあったからアイドルを続けることができました。「全部、自分でやってくれ」と言われていたら、そもそも生活ができていませんでしたし、金銭的にも厳しかったと思います。

――アイドルは、“人間が社会生活を営むための職業”としては成り立っていないということ?

伊藤:私は、アイドルは、れっきとした職業ではあると思います。実際に一番触れ合える芸能人としてすごいパワーを持っていると思います。自分がやっていたときは、活動自体が楽しいし、むしろファンの方からエネルギーをもらっていて、「ファンのみんな、ありがとう」という感じでした(笑)。社会生活という点でいえば、20歳を超えた人間が、自分で部屋を借りて、ちゃんとした生活を成り立たせて、そのうえで「私の職業はアイドルです」と言えることが理想です。ただ、残念ながら、現状では、アイドルだけで生活を成り立たせることは難しいことなのかなと思います。

インタビュー伊藤祐奈 実業家の伊藤祐奈が考える“アイドルが職業として成立する条件” (写真:竹内みちまろ)
インタビュー伊藤祐奈 実業家の伊藤祐奈が考える“アイドルが職業として成立する条件” (写真:竹内みちまろ)

■アイドルが職業として成立するには?

――アイドルが社会的な職業として成り立つには、何が必要だと思いますか?

伊藤:アイドルは、ファンの方がいてこそアイドルになることができます。なので、もっとアイドル業界全体のファンの方が増えるように、色々なことを仕掛けていかないといけないな、と。私がアイドリング!!!に入ったときは、アイドルブームで盛り上がっていました。今は、ブームを超えて、「アイドルは日本の文化だ」と言われるまで定着しました。ただ、最近のアイドル業界は、「ファンの方の数に対して、アイドルの数が多いなぁ」という印象を受けます。夏に「SUMMER&IDOL」をやったのは、既存のアイドルファンではなく、それまでアイドルに興味を示さなかった人たちに新しくアイドルファンになってもらいたいという思いからだったので、アイドルのイメージとは真逆の“海の家”を選びました。“「アイドル」×「海の家」”など、今までなかった分野でどんどんチャレンジして、産業革命的なことができたらいいなと思います。

――元アイドルのメンバーたちと、「アイドル業界を変えたい」という話は?

伊藤:「こうだったらよかったよね」、「こうすればもっと良くなるよね」という話はしたことがあります。若い時からアイドルの世界に入っていると、親や学校の先生よりも、運営や現場の大人と接する時間のほうが圧倒的に多くなるので、「もっと色々なことを相談してもよかったなぁ」と今では思っています。当時は自分1人で考えがちで、溜め込むタイプだったので(笑)。ただ、色々と相談したのちも、「何ごとも最後に決めるのは必ず自分であること」、そして「その事に対して自分で責任を持つこと」、この2つは今までも、これからも変わらず大切なポイントだと思っています。

――アイドルを卒業した方はたくさんいると思いますが、みなさん、どういった活動をしているのですか?

伊藤:卒業して事務所に残る子は芸能界での次のステップを考えていると思います。逆に事務所も離れ、夢を形にするためにがんばっている子もいます。業界での経験を活かしてキャスティングの仕事をしている子もいますし、数は少ないのですが、就職して普通に働いている子もいたりと、様々だと思います。

インタビュー伊藤祐奈 実業家の伊藤祐奈が考える“アイドルが職業として成立する条件” (写真:竹内みちまろ)
インタビュー伊藤祐奈 実業家の伊藤祐奈が考える“アイドルが職業として成立する条件” (写真:竹内みちまろ)

■アイドル業界を変えるカギは「愛情」?

――アイドルを取り巻く現状を変えるには、何が必要だと思いますか?

伊藤:愛情を持つこと。もちろんアイドル運営は、教育ではなく、ビジネスが基盤ではあると思うのですが、一番近い大人として、アイドルの子の気持ちの変化などに気づいてあげることがすごく大事だとは思います。ケアの仕方は、100人いたら100人とも違う方法があると思っていますし、みんながみんな褒めて伸びるわけではありません。だから、私は、「アルドル」に関しては、1人ずつ違う方法で接しています。そもそも、考え方も、意見も、同じになるわけがないですから、いかに自分と違う感性を自分の中で理解してあげられるかということを心掛けています。

■「一緒に、アイドル業界を盛り上げていきましょう!」

――最後に、アイドル業界を夢見る学生や若者たちへ、メッセージをお願いします。

伊藤:アイドル業界は、自分もそうだったのですが、想像していた以上に厳しい世界だと思いました。でも、同時に、想像以上にキラキラしていてパワプル。そこのギャップが楽しい世界だなと思います。アイドル業界で活躍したいと思っているのなら、折れずに、辛抱強くがんばってください。1人ではなく、みんなで作る世界だと思いますので、一緒に、アイドル業界を盛り上げていきましょう!

***

伊藤にインタビューをして感じたのは“アイドルへの愛”だった。伊藤のようなアイドル経験者がセカンドキャリアとしてアイドル業界で活躍することで、“日本のアイドル”がどう変わって行くのかにも注目したい。

&IDOLのロゴを持つ伊藤祐奈:「セカンドキャリア支援では、まだ発表できないのですが、いくつか動いているプロジェクトがあります」(写真:竹内みちまろ)
&IDOLのロゴを持つ伊藤祐奈:「セカンドキャリア支援では、まだ発表できないのですが、いくつか動いているプロジェクトがあります」(写真:竹内みちまろ)
  • 文・撮影竹内みちまろ

Photo Gallery8

FRIDAYの最新情報をGET!

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事