バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』（竹書房新書）を上梓。電子書籍『異聞 徒然草』シリーズも出版

島 右近

<figure id="attachment_340138" aria-describedby="caption-attachment-340138" style="width: 606px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="cd79e7ac"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/eebd5554e1cbd6ec9c2d5fc6d307746a.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-340138" class="wp-caption-text">『キリエのうた』に主演したアイナ・ジ・エンド（中）。その歌声は多くの人を魅了してきたが……</figcaption></figure>
アイナ・ジ・エンドが主演する映画『キリエのうた』が10月13日に公開され、３時間に及ぶ超大作ながら観終えた観客からは
《一瞬だった》 
《178分、その時間が嘘のよう》
と言ったコメントがSNSに殺到している。
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この映画は、東日本大震災で家族を、そして言葉を失った少女・路花が、今は亡き姉の名前・Kyrie（キリエ）を名乗りストリートミュージシャンとなり運命に翻弄されながら生きていく、切なくも壮大な物語。岩井俊二監督が描く、美しい映像とかけがえのない言葉や音楽が溢れるこの作品に心震わされ、何度も映画館に足を運ぶリピーターも増えているという。
「岩井監督は、ポカリスエットのCMで初めてアイナの声を聞き、BiSHのライブ、そして彼女のソロアルバム『THE END』を聞いて衝撃を受け、今作の企画が生まれました。もし彼女との出会いがなかったら、今回のプロジェクトは生まれていません」（制作会社プロデューサー）
アイナ自身は『PiCNiC』『スワロウテイル』と言った岩井作品について
「普通じゃない子たちが肯定される作品が多く、ああ私も私のままでいいんだって思ったので、岩井さんの作る映像作品の中に飛び込めるのは、本当に嬉しい」
と胸の内を語っている。
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本格的な演技は未経験だったアイナ・ジ・エンド。しかも岩井監督の演出は、セリフを言い終わっても、それから15分間もカットがかからずにアドリブを繰り広げる。この独特な演出について
「コンテンポラリーダンスを踊っているようで、すごく楽しかった」
と、語る。
<div data-friday-nextpage-lead="「もう無理です…」限界を感じたアイナは…"></div>
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しかし売れっ子アーティストである彼女を巡る環境は、とてもタフでハードなものだった。
「‘22年2月。北海道・帯広の広瀬すずとの雪中シーンからクランクイン。しかしその頃、アイナが所属するグループBiSHはツアーの真っ最中でした。
夏にはジャニス・ジョップリンを演じるブロードウェイミュージカル『ジャニス』が控えている。こうした中で今作のオファーを受けるのは、無謀といえば無謀。それだけ岩井作品への思いが強かったことも事実です」（ワイドショー関係者）
そんな中、映画の進捗状況も一進一退。クランクインはしたものの、脚本はまだ出来上がっておらず、『ジャニス』の舞台で撮影がストップしている間に、脚本作りとキャスティングの準備が進められる、まさに“綱渡り”の状況が続いていた。
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「今作は当初、路花（キリエ）と広瀬すず演じるイッコ、この２人の物語でした。しかし東日本大震災で行方不明となった姉・希（キリエ=アイナが１人２役）の恋人・夏彦（松村北斗）が登場することによって、家族を失った幼い路花が旅するパートも誕生。路花を心配する風美先生(黒木華)も大きな役割を果たす、４人の物語に生まれ変わりました。
これぞ岩井俊二流と言えばそれまでですが、演出だけでなく脚本作りもアドリブ満載。ギリギリのスケジュールにも関わらず、これだけの豪華キャストが集ったことは奇跡に近い。改めて、映画界における岩井作品に対する期待の高さが伺えます」（前出・プロデューサー）
映画は‘22年の秋を迎え、撮影は再開された。しかし、劇中でキリエが歌う楽曲を『みずから作ります』と名乗り出たことで、アイナは苦境に立たされた。
「被害者の人たちへのオンライン・インタビューにも参加して、真摯に楽曲作りにも取り組むアイナだが‘22年、BiSHは『NHK紅白歌合戦』にも出演するなど絶頂期を迎えていました。深夜に今作の曲作りを行うために、睡眠時間は毎日わずか２時間あまり。
微熱が続き、食事が食べられなくなり、限界を感じたアイナは『もう、無理です』と事務所の社長にSOSの電話を入れる事態も起きています」（制作会社ディレクター）
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こうして出来上がった、血を吐くような思いで完成させた劇中歌は、全部で６曲。いずれも、キリエの心情に寄り添う名曲ばかり。しかしなぜこれほどまでして、アイナはこの作品にのめり込んで行ったのか。
「当時BiSHは、‘23年6月の東京ドームのライブを最後に解散することが決まっていました。人気絶頂で解散するグループへの思いが彼女の心を熱くさせたのか。アイナ自身も『寂しさが募るほど曲を書きたくなった』と当時を振り返っています」（前出・ディレクター）
しかし楽曲へのこだわりは、“BiSH解散”の寂しさだけが原因なのだろうか――。
そうではないだろう。自身も上手く話ができずに学校に行かなくなった経験を持つアイナ。Kyrie（キリエ）は、アイナの分身。いや、一心同体といってもいい。
彼女は、今の自分の心に当時の自分の思いをパズルのピースのように、はめ込んでいった。どうやらそれが、劇中歌にのめり込んでいった真相に思えてならない。
東日本大震災で家族と言葉を失った少女が歌う楽曲は、まさに鎮魂の歌。クランクインの日、帯広の雪原で歌った魂の叫びオフコースの『さよなら』は、今では日本は勿論のこと、海を越えて広がりつつある。皆さんの元へは、もう届いているだろうか――。

島右近（放送作家・映像プロデューサー）

共同

今年解散した人気バンド「BiSH」のボーカルだったアイナ・ジ・エンド。10月に公開された映画『キリエのうた』では、初主演を務めるなど、女優としての才能も開花し始め……

岩井俊二監督の映画『キリエのうた』主演アイナ・ジ・エンドがキリエと「一心同体」になれたワケ

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