東京都生まれ。フリーライターとして講談社、小学館、PHP研究所などの雑誌や書籍を手がける。携わった書籍は『近藤典子の片づく』寸法図鑑』（講談社）、『片付けが生んだ奇跡』（小学館）、『車いすのダンサー』（PHP研究所）など。

中川 いづみ

<h3>秋に十分食いだめできないと冬眠できない…</h3>
人里へ出没するクマの数が過去最高といわれる今年。クマの被害に遭った人は９月までに全国で109人を数えるという。しかし、もうすぐ冬眠の季節。クマによる被害も収束するかと思いきや、
「今年は冬眠しないクマ“穴持たずクマ”が増える可能性があります」
こう話すのは動物研究家のパンク町田氏。
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通常クマは、冬の寒い時期に動き回ると特に体力を消耗し、さらに食べるものが少ないため栄養不足で死んでしまうので、秋に大量に食いだめして、冬眠に入る。パンク町田氏によると、初夏の体重の1.2～1.3倍に体重を増やし、脂肪を蓄えておかないと冬眠モードに入れないのだとか。
ところが、今年は猛暑の影響で木の実が少なかったため、冬眠できるほど脂肪を蓄えられなかったクマが増えるだろうと言うのだ。
「冬眠後、クマの体重は冬眠前の30％から、最大50％減少します。それだけ脂肪を蓄えなければ冬眠中に餓死してしまう。 
そうならないためには冬眠しないで冬の間もエサを探したほうが生存率が高いということで、冬眠しない。採餌行動を続けなければいけないので、クマも必死です」 
<figure id="attachment_340192" aria-describedby="caption-attachment-340192" style="width: 640px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="d0963a02"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/76ab415e0070ab7675dfb8985be66507.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-340192" class="wp-caption-text">冬眠中に餓死しないために「冬の間もエサを探したほうが生存率が高いということで、冬眠しない可能性も」とパンク町田氏</figcaption></figure>
<h3>「空腹状態の穴持たずクマ」は危険。人を襲う可能性も</h3>
ということは、狂暴化するということなのか。1915年には穴持たずクマが８人を殺害したという「苫前三毛別（とままえさんけべつ）事件」と呼ばれる惨劇も起こっている。
「冬は気温が低いので、体温を維持するために春や夏よりカロリーが必要になります。冬の山の中で、それだけカロリーがあるものといえば、行き倒れの動物くらいです。それが不足すると、人間や家畜を襲ってカロリーを補充しようとするでしょう」
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空腹になるとイライラするが、それはクマも同じだという。
「食べたくて襲うというよりは、気がたっているから襲うということもあると思います。そういう意味で冬のクマは危険です」 
どうすればいいのか。
「有効なのは犬を飼うことです。基本的にクマは犬を嫌います。犬種は問いません。柴犬以上の大きさがあれば、どんな犬でも有効です（犬食を覚えたクマは例外）」
しかし、今から犬を飼うというのは、あまり現実的ではない。
「クマが近づいたら、パッとつくようなライトも有効です。ただ、しょっちゅう街に出てきているクマはライトに慣れているから効果はないでしょう」
いちばんは山に入らないこと。これに尽きるようだ。
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<h3>冬眠中でも寝ているだけではない。母熊は出産も</h3>
エサ不足は穴持たずクマを増やすだけではないとパンク町田氏は言う。
「“冬眠”というと、冬中ぐっすり眠っているイメージですが、眠っているわけではありません。冬眠中は代謝が落ちているだけ。心拍数も落ちて、消費カロリーが少なくなるのです。冬眠中も起きている時間はありますし、母熊は育児もします」
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なんと、クマは冬眠中に出産するのだとか。
「クマは春から夏にかけて交尾しますから、おなかの中に受精卵はもっていますが、着床しない状態でもっています。栄養状態がいいと、冬眠前に着床し、冬眠中に出産します。 
栄養状態が悪いと、着床すらできない。繁殖率が落ちるんです。穴持たずクマが増えた翌年は子熊が少なくなることが考えられます」 
<figure id="attachment_340193" aria-describedby="caption-attachment-340193" style="width: 3484px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="5c265cfd"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/6e820bbf6bf492191d06c894aa34def6.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-340193" class="wp-caption-text">「クマに限らず、シカでもなんでも殺すことに僕は反対です」人里に出てきたクマを殺してしまうことには賛成できないとパンク町田氏は言う</figcaption></figure>
<h3>捕まえたクマは動物園で保護を！</h3>
それが喜ばしいことかどうか微妙なところだが、そもそもクマが増えすぎたから、こんなに街に出没するようになったのではないのだろうか。
「増えていることは間違いないと思います。その原因の一つとして考えられることはハンターが減ったこと。明治時代まではニホンオオカミがいましたから、子熊を襲って食べていた。 
オオカミがいなくなった今は、ハンターがオオカミの代わりをしなくてはならなくなりましたが、そのハンターが減っている。オオカミを駆逐した人間の責任だと思います」
人間がオオカミの代わりをしなくてはならないと言う一方、人里に出てきたクマを殺してしまうことには賛成できないとパンク町田氏は言う。
「クマに限らず、シカでもなんでも殺すことに僕は反対です。できる範囲でいいから、動物園に保護してほしい。動物園には動物を展示して動物たちに対する理解を深めるといった目的のほかに、さまざまな動物を繫殖させて“種の保存”をするという大きな役目もあります。 
動物を飼育することで絶滅品種を救う貴重なデータを得ることもできる。野生の動物をもっと積極的に保護していくことで得られるデータも多いと思います。動物園には人間と動物たちが共存するための懸け橋になってほしい」
来年は一時的に子熊の数が減るかもしれないが、木の実が豊富になったら、また増えるだろうとパンク町田氏は予測する。地球は人間だけのものではない。なんとか共存する道は探れないものだろうか。
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パンク町田　昆虫から爬虫類、鳥類、猛獣といったありとあらゆる生物を扱える動物の専門家であり、動物作家。野生動物の生態を探るため世界中に探索へ行った経験を持ち、3000種以上の飼育技術と治療を習得。『知るほど楽しい！パンク町田のゆかい痛快！動物の子育ての世界』（赤ちゃんとママ社）、『パンク町田の動物たちの嘘のような本当の話116』（知的生きかた文庫）など著書多数。

中川いづみ

人里へ出没するクマの数が過去最高といわれる今年。もうすぐ冬眠の季節。クマによる被害も収束するかと思いきや、「今年は冬眠しないクマ“穴持たずクマ”が増える可能性があります」とパンク町田氏は言う。

「捕獲したクマは動物園で保護を」冬眠せずに採餌を続ける「穴持たず」が増える可能性が…パンク町田氏

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