米でも「性感染症」急増!その背景にあるPrEPの広がりとコンドーム使用率減少…「PrEP」とは?
CDCが、性行為“後”に服用し感染予防する「PEP(ペップ)」を推奨
日本で問題になっているクラミジア感染症、淋病、梅毒などの性感染症(STD)の感染者の急増。アメリカでも、感染者は約10年間右肩上がりで、’21年にはさらに感染が拡大し250万人に達したという。
このため、アメリカ疾病対策センター(CDC)は10月2日、「ばく露後予防(PEP/ペップ)」として一般的な抗生物質を性行為後の内服薬として処方するよう医師に推奨することを提案した。
こうした背景には、HIV感染リスクを大幅に低減する薬を毎日服用する「ばく露前予防(PrEP/プレップ)」の用法が誕生して以来、コンドームの使用率が減少していることが挙げられるという。ロサンゼルス在住のライター廣田陽子が、現地で家庭医として働く斎藤秀人医師に実態・実情を聞いた。

性感染症増加の背景には、出会い系アプリの存在も…
車でロサンゼルスの街を運転していると「無料で性感染症(STD)の検査が受けられる」という看板や、コンドーム使用の啓蒙活動を行う大きな広告が目に付く。
近年における性感染症(STD)増加の要因はいくつかある。以前は、HIV感染予防にコンドームの使用が推奨されていたが、HIV感染リスクを低減させる薬を毎日服用する「ばく露前予防(PrEP/プレップ)」という用法が一般化。
コンドームの使用率が低下してしまったことを筆頭に、性教育が不十分であること、コロナ禍でSTD検査をする人が減ったこと、セックスパートナーがすぐに見つかる出会い系アプリの普及など、STDの急増にはさまざまな要素が挙げられている。
実際、ロサンゼルスで勤務する斎藤秀人医師も、性感染症の増加を懸念している。
「性感染症は頻繁に診る疾患です。梅毒の患者はここ10年で増加傾向にあるのは実感しています。クラミジアは変わらず一番多く診る性感染症です」
アメリカで普及、日本では馴染みのない「PrEP」とは?
そもそも、日本では馴染みのない「PrEP/プレップ)」。リスクのある性行為の前にHIVの予防薬を服用することで、感染リスクを抑える用法のことだ。内服方法は、1日1錠。
アメリカ疾病対策センター(CDC)によると、処方されたスケジュールを守って毎日服用すれば、性行為によるHIVの感染は99%予防効果が期待できるという。ただし、そのほかの性感染症にあたるクラミジアや梅毒には効果がない。コンドームだけがこれらの性感染症を予防するとも伝えており、CDCは、引き続きコンドームの使用も推奨している。
しかし、現実では「PrEP」が普及しHIVの感染予防が広まった一方で、コンドームの使用率が低下し、今度は性感染症が増加してしまった。
そのため、CDCが新たに医師に推奨したのは、一般的な抗生物質を性行為後の内服薬として処方する「ばく露後予防(PEP/ペップ))」だ。ドキシサイクリンという抗生物質は、クラミジアや梅毒などの性感染予防に効果がある。この用法は、薬の名前から「ドキシペップ」とも呼ばれている。
ドキシサイクリンは、アメリカで50年以上前から販売されている安価な抗生物質。常用することは、耐性菌増加の恐れがあるため発症リスクの高い、ゲイ・バイセクシャルの男性・トランスジェンダーの女性を処方の対象としている。
ちなみに前出の斎藤医師も患者に「PrEP/プレップ」を処方しているという。また、「PEP/ペップ」に関してはこう答えている。
「PEPに関してはしっかりと効果があることが治験で示されているのでこのまま新しいガイドラインとして定着するのでしょう。耐性菌の出現に関してはあらゆる抗菌薬に関して同じで、使えば使うほどそのリスクは上がるので無駄な抗菌薬の使用というのは常に控えるべきです」(斎藤秀人医師・以下同)

定期的な検査、コンドームを使用など基本的な感染予防は必須
リスクのある性行為をした後でも、薬で感染予防ができるからといって安心してはいけない。
「こういった性感染症は症状が出ないことも多いので知らないうちに感染して病状が進んだり、感染を他人に広げたり、妊婦さんが自分の胎児に感染を広げて赤ちゃんの方にも病気を起こすということも稀ではありません。
感染を防ぐ薬があることはいいことですが、その一方で普段から定期的に検査をして確認することや、コンドームを使用するなどして感染を防ぐこと、そして相手に感染を広げないことが大切だと思います。またPEPを使ったとしても感染に至ることもあります」
いくら効果が立証されていても100%安全と言い切れるものはこの世にない。自分はもちろんパートナーやまわりの人の健康を守るためにも、基本的な感染予防はこれからも怠ってはいけない。

斎藤秀人 北海道大学医学部卒。米海軍横須賀病院インターン修了。Providence St. Peter Family Medicine レジデンシー修了。UC BerkeleyにてMPH取得。The Mark Stinson Global Health フェローシップ修了。’10年よりロサンゼルスのクリニックに所属。
取材・文:廣田陽子
ロサンゼルス在住の編集ライター、ヘルスコーチ。雑誌編集者歴は20年以上。2015年に渡米し、日本で流行りそうなアメリカのヘルシーフード、エクササイズなどのトレンド記事を得意とする。