話題の「退職代行」サービス 利用者たちの辛すぎる職場事情とは | FRIDAYデジタル

話題の「退職代行」サービス 利用者たちの辛すぎる職場事情とは

巫女、派遣労働者、原発作業員まで……

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『EXIT』Webサイト
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辞めたくても辞められない労働者の「駆け込み寺」

企業に就職した大卒者の、実に3割以上が3年以内に離職すると言われる現代。その時代を反映した、とあるビジネスが最近ネットメディアを中心に話題になっている。退職を円滑に進めるために、退社希望者と会社の仲介役を務める「退職代行業者」だ。

「働き方改革」が声高に叫ばれる昨今、多様化しているのは「働き方」だけではない。「辞め方」にも新たな選択肢が生まれているのだ。しかし、退職代行は実際にどんなことをするのだろうか。そして、どんな人が利用するのか。現在、月に300件ほどの依頼があるという退職代行業界のパイオニア『EXIT』に、その実態を訊いた。

転職するには前の会社をスムーズに退職するのがベストですが、それが難しい職場が意外なほど多いんです。問題がある職場だから辞めたいのに、できずに苦しんでいる方の退職をサポートするのが我々の仕事です」(EXIT株式会社共同代表の新野俊幸氏)

EXITの仕事の流れは至ってシンプル。まず、退社の意思のある利用希望者からの相談に、電話かLINEで応じる。そこで、ざっと会社情報や退社希望日を伺う。正式に依頼が決まれば、会社側に電話で退職にまつわる事務連絡を仲介する。その後、依頼者が退職届などで、正式に辞意を伝える。退職代行費用は正社員が5万円、パートの場合3万円。スムーズにことが運べば、5分ほどの電話2〜3回で退職代行は終わってしまう場合もあるという。

新野氏と同じく「EXIT」共同代表の岡崎雄一郎氏が話す。
利用者に聞くと、代行費用は安いと言われることがほとんど。『たった5万円でこの牢獄から抜け出せる』と感じるほどに、彼らは追い詰められているんです。我々は辞めたくても辞めれない人の駆け込み寺のような存在になっているのかもしれません

そんなEXITが目の当たりにした、衝撃の退職代行事例を見てみよう。
(下記事例に登場する人物はすべて仮名)

巫女、加藤さん(女性20代前半、関東地方)の場合

EXITに退職代行を依頼してくる利用者を職種別に分けると、最も多いのが製造業。続いて、小売業や建設業からの依頼も多いという。いずれも世間的に「きつい仕事」というイメージのある業界だが、中には意外な職業につく人から悲痛な電話がかかってくることもあるという。

「神社で働く巫女さんから相談が来た時は流石に驚きました。人を癒すイメージがあった巫女さんが、人知れず苦しんでいたのかと。関東のとある神社で働いていた加藤さんは、上司にあたる宮司との人間関係に悩んでいて、ある日通勤途中に動けなくなってしまったという。さらに話を聞くと、『余計なことは一言も喋ってはいけない』、『勤務中携帯を触ってはいけない』、『メイクは禁止』など細かい制約が多く、極めてストレスが溜まりやすい職場だったのでしょう」(新野氏)

新野氏が、宮司に電話すると「仕方ない」と、スムーズに手続きは進んだという。

似たケースだと、保育園の先生からの依頼も多い。「少人数で運営する職場は、どうしても閉鎖的になりがちで上司が絶大な権力を持ってしまうのかもしれない」と新野氏は話す。

派遣労働者、吉岡さん(男性20代前半、中国地方)の場合

「基本的には我々が会社に連絡したら、依頼者は職場には行かないケースがほとんどです。つまり、会社は我々の電話があったその時から依頼者に会えない状況になる訳です。『そんなことは認めるわけにはいかない』という会社側の憤りを、我々がぶつけられることも多々あります」(岡崎氏)

派遣事業者から仕事をもらい、肉体労働に従事していた吉岡さんは、あまりに過酷な労働条件と業者との人間関係が原因で退職を決意。藁にもすがる思いでEXITに退職代行を依頼した。

依頼を受け、派遣主の社長に連絡すると、20分以上一方的に怒鳴られ続けました。声が大きすぎて終始何を言っているのか分からなかったですが、とにかく罵詈雑言を浴びせられ会話にならない。この業者は夫婦で営んでいて、社長とは話にならないので、奥さんと話すことに。ホッとしたのも束の間、この奥さんも凄かったです。

あいつ(吉岡さん)が辞めるなら、私が行かなあかんやんか。私に恥かかせるつもりかいな』と脅しに近いことを言われ続けた挙句、『いっそ、あんたが代わりに働いてぇな』ときた。こちらとしては丁重に断り続けるしかありませんが、そんなやりとりが延々と続きました。吉岡さんは無事に退職できたから良かったですが、きっとまともな職場環境ではなかったと思います」(岡崎氏)

『EXIT』のオフィス
『EXIT』のオフィス

原発作業員グループ(男性、30人ほど)の場合

EXITでは、退職金の金額交渉など、交渉ごとは一切行わなない。弁護士資格を持たない人間が行うと弁護士法に抵触してしまうからだ。そのため、力になりたくても依頼に応えられないケースもしばしばあるという。

原発で働く作業員から依頼が舞い込んできたこともあります。しかも、現場で働く30人で同時に辞めたいという。なんでも、過酷な労働環境で同僚が死んでいるらしいんですよ。どこまで、原発作業が原因なのかは分かりませんが、それを近くで見ていた彼らとしては辞めたくなっても仕方のないことだと思います。でも、話を聞くと辞めたくてもそれが難しいということがよく分かりました。

多重下請け構造になっていて、会社の組織体系がよく分からない。上司に言ったところで、その上の会社に伝えないでしょうし。とにかく、末端の作業員が辞めにくい仕組みが構築されているんです。弁護士に相談したところ、訴訟問題など法的なトラブルに発展する可能性が高すぎると言われました。我々には対応しきれないとの判断で、お断りするしかなかった」(新野氏)

建設作業員、山崎さん(男性20代前半、関東)の場合

「建設業って現場に行く時に、一番下っ端がバンを運転して5〜6人の同僚を拾って現場に行くんですね。親方のパワハラに耐えかねて退社代行を依頼してきた山崎さんは一番下っ端だったので、その営業車を持っていました。車だけは返すよう親方に言われたので、山崎さんにその旨を伝え、親方のいない時間帯に営業所まで車を返しに行ってもらったのですが……」(新野氏)

なんとそこには、いないはずの親方が山崎さんを待ち構えていた。怖くなった山崎さんは、営業車に乗ったままUターン。暫くすると山崎さんから新野氏に電話が入る。なんと親方とその取り巻きに車で追跡されているという。危険を察知した新野氏は、とりあえず逃げるよう山崎さんに助言。山崎さんの心を落ち着かせるため、逃げている間もずっと電話を繋いでいたという。

「40分ほど経っても状況が変わらないので、大型ショッピングモールの駐車場に車を置いて、走って逃げてはどうかと提案しました。駐車場に入ったことは追っ手に見えるはずですし、営業車さえ戻れば親方も追跡をやめるだろうと思ったのですね。とにかく、依頼者の身に何か起こるのだけは避けなければいけませんから。そして、たまたま近くにあったというショッピングモールの駐車場に止めて、山崎さんは車を降りました」(新野氏)

しかし、車を置いて逃げる最中、とうとう親方たちと鉢合わせてしまう。力無く「囲まれちゃいました」と呟くと電話は切れてしまった……。

「『ボコボコに殴られてたらどうしよう』『警察に電話するべきか』とかなり不安だったのですが、10分ほど後にやっと電話が繋がり無事が確認できました。親方としては、普通に返してくれればいいのに逃げるから追いかけたということだったらしい。カーチェイスにまで発展しましたが、最終的に山崎さんには随分感謝されました。車で追いかけてくるぐらいの親方なので、第三者が介入しなければ辞めることさえ難しかったのかもしれません」(新野氏)

特殊な依頼ばかり見てきたが、これらはもちろん一部。基本的にはスムーズに解決することがほとんどだ。しかも、これまでにEXITが依頼を引き受けた全てのケースで退職が成功している。

「そもそも、法律上は退職届けを出せば誰でも退社できるんです。それを拒否する権利は誰も持ってません。大手広告代理店の事件がありましたが、自殺してしまうほど職場や労働環境に悩む前に、辞めるという選択肢をポジティブに考えて欲しいですね。『EXIT』がその手助けになれれば幸いですが、本来なら自分の口で辞められる健全な職場の方がいいに決まってます」(新野氏)

働き方改革が叫ばれるなか、あなたは今の会社を自力で「EXIT」できるだろうか。

『EXIT』Webサイト

  • 取材・文今川芳郎

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