<p>プロ転向後、初のアイスショーとなる『プロローグ』（’22年11月）で、羽生結弦（28）はファンからの<span class="strongInContent">「“羽生結弦選手”と呼んでもいいのか？」</span>との質問にこう答えた。</p>
<p><span class="strongInContent">「現役時代より体力をつけて、いろんな表現ができるようになったつもり。これからも〝選手〟と呼んでいただけたらうれしい」</span></p>
<p>現役時代を超えるアスリート、そして表現者へ……「プロスケーター・羽生結弦」のセカンドシーズンがいよいよ幕を開けた。</p>
<figure id="attachment_341692" aria-describedby="caption-attachment-341692" style="width: 807px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="1b7424c6"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/0ff2be171b6d1cfcb625af68b2d96b80.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-341692" class="wp-caption-text">北京五輪では前人未到の４回転半に挑戦</figcaption></figure>
<p>11月４日にさいたまスーパーアリーナでスタートした自身初の単独ツアー公演『Yuzuru Hanyu ICE STORY 2nd “RE_PRAY” TOUR』。来年１月に佐賀市（SAGAアリーナ）、２月に横浜市（ぴあアリーナMM）と、計３都市を巡るアイスショーの初日は１万4000人の観客が会場を埋めた。最も安い席でもチケット代金は１万6000円。入場料だけで、優に億を超える収益をたたき出したとみられる人気ぶりだ。８月４日にSNS で結婚を発表して以来、初の公の場となったが、「ゆづ人気」は微塵も衰えていなかった。</p>
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<p>今回の単独ツアーは自身が制作総指揮を務め、物語を執筆した。９月１日に開催を発表した際にはこうコメントした。</p>
<p><span class="strongInContent">「たった一回しかない命、繰り返しできるゲーム、相反している二つの中で、それぞれでしか見つけられない大切なことがたくさんあると思っています。どちらの大切なことも、言葉たちとスケートに、託していきます。見てくださる方の中で考えて、過去が昇華されたり、考えすぎて逆に悩みが増えることもあるかもしれません。正解が一つではない問いの中で、そして、一度として同じにならない空間とスケートと演出で、見てくださる方、一人一人の中にしか生まれない世界の色を、感じていただければと思います」</span></p>
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<p>今年２月の『GIFT』に続いてタッグを組んだ振付家のMIKIKOさんは<span class="strongInContent">「“羽生結弦”の表現に触れられることは、きっとこの時代を頑張って生きている私たちへのご褒美です」</span>とコメントを寄せ、その仕上がりに期待感は高まっていた。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="「非日常を味わってもらう」ため考え抜いた"></div>
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<p>そして迎えた当日、観客が目にしたのは、ゲームの世界観をベースにした演出だった。リンクに併設された巨大モニターに映し出された羽生がコントローラーを手に物語を進めていく。直後の囲みで、羽生はこう語っていた。</p>
<figure id="attachment_341693" aria-describedby="caption-attachment-341693" style="width: 840px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="728e2f1d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/2765eb2b6cc804390c4278f4861b7d0a.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-341693" class="wp-caption-text">’22年７月の「プロ転向」表明会見にて</figcaption></figure>
<p><span class="strongInContent">「そもそも自分自身、ゲームだったり、漫画だったり、小説だったり、いろんなところから自分の人生ってなんだろうなとか、命って尊いものだなとか、本当にざっくり、皆さんが感じているようなことをいろんな作品から受け取っていた。</span></p>
<p><span class="strongInContent">改めてゲームの中っていうのは、命っていう概念が本当にある意味、軽い。繰り返しできる。だからこそ、いろんなことを、キャラというものを使って、好奇心のままに突き進んで進んでいける。それって、なんかすごく、現実の世界に当てはめてみたら、夢をつかみに行く原動力のある人間なのかもしれないし、逆に違う観点から見たら、とても恐ろしい人間なのかもしれない」</span></p>
<p>ゲームの世界における「命の軽さ」に触れながら、「繰り返し生き返ることができるならどうしようか」と夢想することもあるという。</p>
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<p><span class="strongInContent">「でも、（何でも）繰り返しできるってなったら、きっと人はこれをするんだろうな、みたいなことをちょっと考えていて。それをじゃあ、一回、自分が選んできた選択肢っていうものが、人生の中であって、その選択肢の先に一回破滅っていうルートがあったとして、全ての障害を乗り越えて、夢をつかんで、何か目標をつかんでっていう人生があったとして、それがもう一回繰り返されるんだったら、皆さんは何を選ぶだろうか。皆さんが何を選んで何を感じるのかなということを、このアイスストーリーの中で皆さんに考えてもらいたいっていうのが、今回のテーマ」</span></p>
<p>ポリゴン化した羽生が、敵を倒して経験値を重ね、何度打ちのめされてもコンティニューを繰り返し、強力な敵に立ち向かっていく。まさにスーパースターの重荷を背負いながらも五輪２連覇の偉業を成し遂げ、競技生活最後の五輪となった’22年北京大会のフリーで前人未到のクワッドアクセル（４回転半ジャンプ）に果敢に挑む。そんな自身のスケート人生を重ね合わせたのかと思いきや、どうやらそれは違うらしい。</p>
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<p><span class="strongInContent">「これは僕の物語ではなく、全てゲームの出来事。皆さんに非日常を味わってほしくて作った物語。皆さんがプレイヤーです」（羽生）</span></p>
<p>映画の名作がそうであるように、一度見ただけで簡単に理解できるものではなかった。ただ、３つの新プログラムを含む12演目の滑りは圧巻だった。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="６分間練習ですら「芸術」に"></div>
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<p>フードをかぶり、白いマント姿で登場した羽生の動きに合わせてモニター画面に無数の羽が舞う。そんな演出から始まった『ファイナル・ファンタジーＸ』のテーマ曲を使ったプログラム『いつか終わる夢』では、羽生はジャンプは跳ばず、色彩豊かなプロジェクトマッピングと一体化するように、しっとりと美しいスケーティングで観客の心を引き込んだ。</p>
<figure id="attachment_341695" aria-describedby="caption-attachment-341695" style="width: 762px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="d6425e3e"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/07372df599aaa1fd6ea5732856154005.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-341695" class="wp-caption-text">３月のスターズ・オン・アイスでも圧巻の表現を見せた</figcaption></figure>
<p>新演目となる椎名林檎の『鶏と蛇と豚』では、左右20個のスポットライトに照らされたリンク上を広く使い、柔軟性豊かなイナバウアーを披露。</p>
<p>’17年世界選手権で３年ぶり２度目の優勝を勝ち取ったフリープログラム『ホープ＆レガシー』では、モニターに輝く満月の月明かりに照らされる幻想的な空間の中、この日初のジャンプとなる３回転ルッツを跳んだ。</p>
<p>４曲目の『Megalovania』では、バタフライからのコンビネーションやキャメル、シットなど、多彩なスピンを徹底的に魅せることで、単独公演でも飽きが来ないよう一つ一つに独自性を出していった。</p>
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<p>この日のハイライトとなったのは、前半最後となる５曲目。モニターの砂時計が「残り６分」から動き出した。試合の演技前と同じ、６分間練習を再現した演出だった。目の肥えたファンは理解も早い。それまでのショーの雰囲気から空気は一変し、緊張感が張り詰めていく。ティッシュで鼻をかみ、屈伸してリンク中央へ立った。</p>
<p>そうして始まった、新演目となる『ファイナル・ファンタジーⅨ』のテーマ『破滅への使者』。冒頭に跳んだ４回転サルコーは羽生らしく回転軸が細く、切れ味鋭い跳躍。トリプルアクセル（３回転半）からの２回転トーループ、４回転トーループとジャンプを立て続けに成功させると、最後のトリプルアクセルからオイラー、３回転サルコー、オイラー、３回転サルコーという、実戦では使わない５連続ジャンプでは観客からどよめき、ため息、歓声が入り交じった。</p>
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<p><span class="strongInContent">「プログラム自体が“ラスボス”というイメージで、戦いきって、やっと倒せる、倒せたってとこなんですね。倒し切った、全部使い果たした。でもまた続く、みたいなイメージ。繰り返されるっていうのが『RE_PRAY』の自分の中でのテーマなので、もちろん試合では使えないジャンプになるかもしれないけど、オイラー、サルコーというのはすごく繰り返されていくジャンプなので、テーマにもすごく沿っていいんじゃないかなっていうのと、音的にもすごくはまるかなっていうことを考えました」</span></p>
<p>真剣勝負の４分間は、演技も思いもゲームとリンクさせた実にわかりやすい演出だった。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="重荷を背負い続けていく「覚悟」"></div>
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<p>２時間半に及ぶ単独公演。その最終演目『Introduction and Rondo Capriccioso（序奏とロンド・カプリチオーソ）』を滑り切った羽生は肩で息を整えながら、総立ちの１万4000人の拍手を浴び、瞳を潤ませていた。羽生自身が振り返る。</p>
<p><span class="strongInContent">「製作陣の方々は、照明さんも含めて徹夜２日目、 ３日目ですかね、それくらいかかって作ってる。そこには感謝しかない。無事に皆さんの前でこうやって披露することができて、一つの作品としてのアイスストーリーというものを、まず実行できることが本当に幸せ」</span></p>
<p>一切の妥協を許さない羽生の信念をうかがい知ることができた。</p>
<figure id="attachment_341698" aria-describedby="caption-attachment-341698" style="width: 1479px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="23cd7580"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/40b3b63caa777fe7855f94bda47a181c.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-341698" class="wp-caption-text">詰めかけたファンで、開演前のさいたまスーパーアリーナには行列ができた</figcaption></figure>
<p>松任谷由美の『春よ、来い』を滑り終え、アンコールに向かう前、Tシャツ姿でリンクに立った羽生はファンに向けて、作品に込めた思いをこう語った。</p>
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<p><span class="strongInContent">「皆さんなりの楽しみ方で、ぜひこの作品というひとつのアイスストーリーというものを楽しんでください。 そして、少しでも何か皆さんの中の命に対する考え方だったり、 今日明日というものを生きていくにあたっての選択肢の連続というものを、本当に人生というものは、やめない限り明日は続いていくので、ぜひそんなことを考えながら毎日を生きてほしいなと思って、このアイスストーリーを作りました。どうか皆さんの中にちょっとでも刺さるものがあったらいいなって思っています」</span></p>
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<p>不世出のスケーターは、自身に課したすべての人の創造を超えていくという重荷を下ろすことなく、今季もまたファンに新たな表現のあり方を伝えていく。</p>


共同通信

羽生結弦の結婚発表後初のアイスショーとなる『RE_PLAY』がさいたまスーパーアリーナで開催された。披露された全12演目が、詰めかけた1万4000人のファンの心を打った

「見る人が悩んでしまってもいい」…羽生結弦が『RE_PRAY』全12演目で見せた「覚悟」

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