編集・ライター。’83年、山形県生まれ。10年間、健康情報誌の編集部で月刊誌・Webメディアの編集に携わったのちフリーランスに。現在はヘルスケア・医療分野などを中心に、医師や専門家の取材、企画、執筆を行う。

釼持 陽子

<h3>「抵抗力が強く自分で駆除するのは困難」と専門家</h3>
「日本では、’05年頃から害虫のトコジラミによる皮膚炎が確認され、’15年から’19年まではどんどん増えてこれは大変なことになる、と感じていました。
その頃は、インバウンドで訪日外国人が急増した時期。その後、新型コロナで人の移動が制限されたため流行は一時的に止まりましたが、コロナが５類になり再び増加しています。 
今年の５月以降、患者さんが一気に増え、旅行先から持ち帰ってきたらしいという方がほとんどです」
と話すのは、虫による皮膚病に詳しい兵庫医科大学教授の夏秋優医師。
来年の夏、パリでのオリンピック開催を控えるフランスでは、トコジラミが大量発生し、社会問題になっている。住宅やホテル、映画館など街のいたるところで目撃が相次ぎ、国民議会で対策を検討するほど事態は深刻化しているようだ。
<figure id="attachment_341596" aria-describedby="caption-attachment-341596" style="width: 5374px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="285f6c64"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/aa35f765e1f11228a53480d668de6e3b.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-341596" class="wp-caption-text">社会問題になっているフランス・パリのアパートでのトコジラミ駆除の様子。韓国でも各地で発生が相次いでいる…「自分で駆除するのは困難」と夏秋優医師（PHOTO：アフロ）</figcaption></figure>
トコジラミは人の血を吸って繁殖を繰り返す害虫で、一度激減したはずだったが、’05年以降に再び確認され、日本でもここ数年で被害が拡大している。その理由には、人の往来が関係しているという。
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「トコジラミは、国内では第二次世界大戦前後に増え、殺虫剤の普及や生活環境の変化で’70年頃には激減。それから’05年頃までは、絶滅危惧種といってもいいほど、国内ではほとんど見られない虫だったのです」（兵庫医科大学皮膚科学 夏秋優医師・以下同）
<figure id="attachment_341597" aria-describedby="caption-attachment-341597" style="width: 1512px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="b5f44d9d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/7ab611185bfeac61ec605d905c5412da.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-341597" class="wp-caption-text">写真はトコジラミの成虫。左がメス、右がオス。「シラミ」という名前がついているがシラミの仲間ではない。成虫は体長約５ミリで、家の中のすき間に潜んでいる（PHOTO：兵庫医科大学皮膚科学 夏秋優医師提供）</figcaption></figure>
トコジラミは、人が持ち運ぶ衣類や書類などの荷物に潜り込んで移動する。日本へ来る旅行者が持ち込んで宿泊施設で広がったり、旅行に行った日本人が旅先から持って帰ってきたりして、国内へ“再上陸”している。 
「家の中に住み着き、すき間というすき間に生息します。柱の割れ目、家具や調度品のすき間、ベッドのすき間、壁に飾った絵の裏側、電化製品や書物のすき間などに昼間は潜り込んでいます。
夜になるとすき間から出て人間の血を吸い、お腹がいっぱいになったらすき間に戻る。探してもなかなか見つからず、気づいたときには家じゅうに大量発生していたケースも少なくありません」 
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１匹でも持ち込まれると、冷暖房が効いた快適な環境で着々と子孫を増やす。エサとなる人間の血は豊富で、天敵となる他の生物がいないため、繁殖に歯止めが効かない。
「昆虫のメスの多くは、一度でもオスと交尾をすれば、一生卵を産み続けられるだけの精子を貯蔵できます。
言い換えると、交尾が済んだ成虫のメスが１匹でも侵入しそこに人が住んでいれば、夜な夜な吸血して生き延び、一生の間に200個以上を産卵。幼虫が１～２ヵ月で成長してメスとオスのペアができれば、永遠に繁殖を繰り返していくわけです」 
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<h3>蔓延しているのは殺虫剤が効かない「スーパートコジラミ」</h3>
トコジラミに刺されるのは、就寝中に露出している手や足が多い。中には激しいかゆみで不眠状態に陥る人もいるという。
「虫に刺されてかゆくなるのは、注入された昆虫の唾液腺成分によるもの。アレルギー反応としてかゆみが起こります。１回目に刺されたときは症状がありませんが、何度か刺されると翌日か翌々日にかゆみと赤みが発生。
さらに何度か刺されると、刺されてすぐにかゆみがあらわれます。時には、しこりのある大きな赤みや腫れがあらわれる場合もあります」 
<figure id="attachment_341598" aria-describedby="caption-attachment-341598" style="width: 1498px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="f57a39ff"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/1c932e262dfb7a609112e16cdca7f305.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-341598" class="wp-caption-text">トコジラミに刺されると、かゆみやプツプツとした赤み、腫れがあらわれる。夏秋医師は飼育したトコジラミに吸血させ、自らの体で実験・研究を行っている（PHOTO：兵庫医科大学皮膚科学 夏秋優医師提供）</figcaption></figure>
外用薬を塗れば、１週間から10日程度で症状が改善するが、「難しいのは治療にいたるまでの診断」だと、夏秋医師は言う。
「刺されて１～２日後に自覚症状があらわれることが多いので、いつどこで刺されたかが分かりづらいのです。また、症状が他の虫刺されとさほど変わらないので、単なる虫刺されと診断されてトコジラミに気づかずに治療、その後症状が悪化するというケースもあります」 
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診断の確定には、どこかにいるはずのトコジラミを見つけ出す必要がある。そこで、ほぼ確実に捕獲できる方法として夏秋医師が推奨しているのが「うそ寝作戦」だ。
「夜行性の特性を利用して、寝室の電気を消して手足を露出させた状態で横になります。20～30分程度“寝たふり”をしてパッと照明をつけると、寝具や手足に集まってきたトコジラミを確認でき、高い確率で捕獲できます」
自分を“おとり”にしておびき寄せる「うそ寝作戦」。この方法で捕獲したトコジラミを受診の際に持参してもらい、診断が確定する。もう一つ、夏秋医師が厄介だと感じるのが、駆除の難しさだ。
<figure id="attachment_341599" aria-describedby="caption-attachment-341599" style="width: 1443px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="eb503f80"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/399ac5ed5402ebe1d9460265c7de9f4e.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-341599" class="wp-caption-text">バッグのすき間に潜んだトコジラミ。成虫や幼虫のほか、卵の殻なども見られ、ここに住み着いて、代々繁殖し続けていることが分かる（PHOTO：兵庫医科大学皮膚科学 夏秋優医師提供）</figcaption></figure>
「世界中で蔓延しているトコジラミのほとんどが『殺虫剤抵抗性トコジラミ』といって、一般的な殺虫成分が効かないタイプ。“スーパートコジラミ”とも呼ばれています。 
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一部、トコジラミに有効な殺虫剤もありますが、ドラッグストアなどでは手に入らないことが多い。またそれを使う場合、トコジラミが通るルートやエリアを予測して噴霧しなくてはならず、生態を知っていないと自分で駆除するのは難しいでしょう。
１匹いれば全部屋に繁殖している可能性は大きいので、信頼できる害虫駆除サービスを利用するのが確実です」 
<div data-friday-nextpage-lead="駆除するのに約10万円も！"></div>
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<h3>繁殖が広がると「駆除」するのに約10万円も！</h3>
「海外旅行後にかゆみがあらわれトコジラミだと言われた、海外の家具を輸入したらくっついていたなどのケースで駆除のご相談をいただいています」と話すのは、『害虫駆除110番』を運営するシェアリングテクノロジーの石田尚吾さん。 
駆除の相談・依頼を受けるのは一般の住宅だけではない。大人数が利用する施設からの依頼もあり、そうなると駆除の規模が大きくなる。
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「依頼件数は大幅に増えてはいませんが、大量に繁殖しているケースが目立っています。例えば老人ホームでトコジラミがいるかもというご相談を受けてスタッフが確認したところ、ひと部屋だけでなくすでに複数の部屋に蔓延していたということがありました。 
個人のお宅でも、寝室だけだと思って調べたら、リビングや浴室などほかの場所にも発生していたという場合がよくあります」（石田尚吾さん・以下同）
駆除をする前にトコジラミの生息場所を目視で確認。その後、トコジラミに効く殺虫剤や、高温の蒸気スチーマーによる熱で駆除を行う。
「一般的に手に入るピレスロイド系殺虫剤は、スーパートコジラミには効きません。そのため有機リン系やカーバメート系という、よく効く成分の殺虫剤を使用。また、すき間に潜む性質や、卵を産んでいることを考えると、１週間程度あけてから再び駆除を行うほうが撲滅には効果的です」
気づいたときには大量発生となれば、駆除をする費用も高額になる。しかし、出費を気にして駆除を最小限にすれば、１匹でも“居残り組”がいた場合にまた繁殖が繰り返される…。
「費用は平均すると10万円程度。トコジラミの存在に気づいた頃には大発生していることが多く、入念な調査と駆除が必要になった場合、費用が高額になってしまうのです。先ほどの老人ホームのように規模が大きくなれば数十万円かかることもあり、被害が拡大する前に早めに分かるに越したことはありません」 
<figure id="attachment_341600" aria-describedby="caption-attachment-341600" style="width: 1462px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="76b6573a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/791a7c2382d700460672d6ca5ff5829c.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-341600" class="wp-caption-text">夏秋医師の研究では、１回の吸血に要する時間は平均15分。人間の血を吸うと、写真のように腹部が膨れ上がる。寝ている間に血を吸われるため、気づかないまま朝を迎える（PHOTO：兵庫医科大学皮膚科学 夏秋優医師提供）</figcaption></figure>
前出の夏秋医師は、じわじわと増えているトコジラミの被害を目の当たりにして、国内での今後の大流行を警戒している。
「新型コロナが落ち着き、海外から多くの旅行客が訪れています。これからも宿泊施設でトコジラミが蔓延することが予想されますし、同じ部屋に泊まった日本人が自宅に持ち帰ることもあり得ます。国内・海外の人の移動が盛んになるほど、フランスのように大流行する可能性が大いにあるでしょう」（兵庫医科大学皮膚科学 夏秋優医師）
旅から帰ってきたら、思わぬ形で“お土産”を持参することになるかもしれない。完全にトコジラミの侵入を防ぐことは難しいが、旅行後に皮膚に異常があらわれたら、早めに皮膚科医を受診するのが望ましいだろう。 
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夏秋 優（なつあき・まさる）　兵庫医科大学教授。兵庫医科大学病院皮膚科で、皮膚病の診断・治療にあたる。虫刺されによる皮膚病や接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎等が専門。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本東洋医学会認定漢方専門医・指導医。皮膚疾患の原因となる有害節足動物について長年にわたり研究している。著書に『Dr.夏秋の臨床図鑑　虫と皮膚炎　改訂第２版』（Gakken）。
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<a href="https://www.sharing-tech.co.jp/gaichu/" target="_blank" rel="noopener noreferrer">■「害虫駆除110番」のHPはコチラ</a>
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編集・ライター。1983年、山形県生まれ。10年間、健康情報誌の編集部で月刊誌・Webメディアの編集に携わったのちフリーランスに。現在はヘルスケア・医療分野などを中心に、医師や専門家の取材、企画、執筆を行う。

釼持陽子

フランスや韓国で大量発生しているトコジラミ。「メスが１匹でも侵入していれば、夜な夜な吸血して生き延び、一生の間に200個以上を産卵。幼虫が１～２ヵ月で成長して永遠に繁殖を繰り返していく」と専門家は言う

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