中川 いづみ

<h3><span class="strongInContent">咳止め薬、抗菌薬…薬価が安く、利益率が低い薬はメーカーも作りたがらない</span></h3>
<p>インフルエンザが流行している今年の冬。薬不足も続いていて、不安な年越しになりそうだ。</p>
<p>現在の薬不足について、都内の大病院で薬剤師を務め、一般社団法人asTasのボランティアとして、医薬品の供給状況を提供するDSJP（医療用医薬品供給データベース）を作成していた経験もあるS氏は、</p>
<p><span class="strongInContent">「咳止め薬や痰切り薬の不足が言われていますが、通常、こうした薬は夏の間に作りだめしておきます。ところが、今年は夏からインフルエンザが流行したため、ためておくことができませんでした。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">さらに夏には手足口病など子どもを中心とした感染症も流行し、現在、感染症に使う抗菌薬も不足しています」</span></p>
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<p>こうした状況を見て、11月７日に、武見敬三厚生労働大臣は咳止め薬などを製造・販売している24の製薬会社に安定供給に向けた対応を要請したが、</p>
<p><span class="strongInContent">「咳止め薬などは、もともと薬価が安く、利益率が低い薬品のため、製薬会社は作りたがらないのです」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<figure id="attachment_343197" aria-describedby="caption-attachment-343197" style="width: 4000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="17ddfeb5"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/78da730e78775e079a43f284dfcd6fd6.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-343197" class="wp-caption-text">咳止め薬の不足が叫ばれ始めたのは８月頃。しかし、武見厚生労働大臣が製薬会社に対応を要請したのは11月に入ってから…（PHOTO：アフロ）</figcaption></figure>
<p>さらに値下げ競争も激化し、売れば売るほど赤字になることもあるという。</p>
<p><span class="strongInContent">「古くから使用されている咳止めは薬価が低く、</span><span class="strongInContent">しかも、薬価自体も下がっています。医薬品は国が全国均一の公定価格（薬価）を定めていて、以前は薬価は２年に一度見直されていたのですが、’18年から１年に一度見直されることになりました」</span></p>
<p>「見直し」といってもほぼ値上がりすることはなく、薬価改定は値下げと同じ。患者としてはうれしいが、医薬品メーカ<wbr></wbr>ーは経営が厳しくなっているのだ。</p>
<p><span class="strongInContent">「たとえば、がん治療薬のオプジーボは、’14年の発売当初は100㎎あたり73万円でしたが、その後段階的に引き下げられ、’21年には100㎎あたり15万5000円になりました。これでは、開発費などを考えると製薬会社はたいへんです」</span></p>
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<h3><span class="strongInContent">国の「ジェネリック薬」推進政策が仇に…</span></h3>
<p>薬不足のきっかけとなったのは、’20年に発覚した後発薬メーカー、小林化工の不正だったといわれている。水虫などの皮膚病用の飲み薬に睡眠導入剤が混入した影響で、240人以上に健康被害が発生し、２人が死亡した。</p>
<p>それまで製薬会社への査察は、企業に事前に査察日を通告してから行うなど不正の隠ぺいを可能にするシステムになっていたが、小林化工の問題が発覚してからは、抜き打ち査察を行うようになった。その結果、続々と製造不正が発覚し、現在までに15社が業務停止などの行政処分を受けている。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="なぜ、これほどまでに不正が起こるのか…"></div>
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<p>なぜ、これほどまでに不正が起こるのか。</p>
<p><span class="strongInContent">「一つにはジェネリック市場の拡大があると思います」</span></p>
<p>ジェネリックとは、先発医薬品の特許が切れたあとに作られる薬で、先発薬と同じ成分をもつが、開発費が少ないため、価格が低く抑えられている。</p>
<p>医療費の軽減や患者の負担軽減になることから、国が利用を推進し、多くのメーカーが参入してきた。’11年まではジェネリック薬品の使用率は40％だったが、’21年には80％近くまでになった。</p>
<p><span class="strongInContent">「ジェネリック薬品メーカーには中小企業が多く、生産レーンも多く持ちません。Aという薬を作り終わったら、そのレーンを清掃してBという薬を作ったりします。限界に近い稼働を続けているので、ミスも起こりやすくなるのではないでしょうか」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p>しかし、薬不足はそれ以前から起きていたのだとか。</p>
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<p><span class="strongInContent">「薬不足の発端は、’19年２月に起きた『セファゾリン・ショック』。セファゾリンというのは、手術のときの感染予防などに使われる抗菌薬ですが、その</span><span class="strongInContent">原薬は海外から輸入されています。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">日医工が輸入していた</span><span class="strongInContent">原薬に異物が混入していたことがわかり、供給が９ヵ月にわたってストップしてしまったのです。日医工は当時、セファゾリンの国内市場シェア60％を占めていたので、その供給が止まったことで大パニックになりました」</span></p>
<p>日医工では、その後も、品質試験で不適合となった錠剤を砕いて再加工するという違法行為が発覚し、業務停止命令が下された。その結果、薬不足に拍車がかかった。さらに10月には大手ジェネリック医薬品メーカー、沢井製薬でも医薬品に不正が発覚し、現在自主回収が進められている。</p>
<figure id="attachment_343198" aria-describedby="caption-attachment-343198" style="width: 5472px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="ca25a827"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/75a784085fb75f382a8eac72e12f6554.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-343198" class="wp-caption-text">ジェネリック医薬品メーカーの最大手、沢井製薬でも不正が発覚</figcaption></figure>
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<h3><span class="strongInContent">世界中で薬の取り合いに…「がん治療薬」も「糖尿病治療薬」も不足</span></h3>
<p>薬不足は日本だけのことではないともS氏は言う。</p>
<p>アメリカでは’11年から薬不足が懸念されていて、アメリカ食品医薬品局（FDA・日本の厚生労働省に似た役割を持つ）によると、抗生物質、がんの治療薬、麻酔薬を含む191種類の医薬品の在庫の不足状態が続いている状態なのだとか。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="日本は&quot;買い負け&quot;てしまう可能性も"></div>
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<p><span class="strongInContent">「世界的に薬不足になっている今、薬は取り合いになっています。薬価の安い日本は“買い負け”てしまう可能性もあります」</span></p>
<p>コロナ禍のときもワクチンを日本はなかなか入手できなかったが、そのような状態がさまざまな薬で起こっているという。</p>
<p>すでにすい臓がんの治療薬「アブラキサン」や前立腺がんなどの治療薬「リュープロレリン」が不足したこともあったという。</p>
<p><span class="strongInContent">「今</span>、<span class="strongInContent">急性期患者を受け入れる比較的大きな病院で喫緊の問題となっているのが、血液製剤であるグロブリン製剤の不足。川崎病やギラン・バレー症候群などに使われる治療薬ですが、幅広い疾患に使われるようになったため、必要な量を入手するのが困難な状態です」</span></p>
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<p>糖尿病患者も危険にさらされている。</p>
<p><span class="strongInContent">「GLP-1受容体作動薬という糖尿病治療薬が</span>、<span class="strongInContent">日本では認可が下りていないダイエットを目的として美容クリニックで使われるようになったため、供給不足になっているのです」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<figure id="attachment_343199" aria-describedby="caption-attachment-343199" style="width: 640px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="6a01d3d4"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/6bb1018f0d233c1825583e4188e10f6e.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-343199" class="wp-caption-text">世界的な薬不足の中、薬価の安い日本は“買い負け”の可能性が…</figcaption></figure>
<p>さまざまな要因が絡み合って起きている薬不足。武見厚生労働大臣の製薬会社への要請も、</p>
<p><span class="strongInContent">「表面的なもの。根本的な問題を解決しないと国民皆保険を維持していくのはむずかしい」</span></p>
<p>とS氏は手厳しい。</p>
<p>海外との薬の取り合いが激化した際、<wbr></wbr>買い負けないようにするためには製薬業界への補助金を増やしたり、<wbr></wbr>日本を海外の製薬メーカーから見て魅力ある市場にするための政策<wbr></wbr>が必要だと思われる。</p>
<p>１年ぽっきりの減税に予算を使っている場合ではないのかも。</p>
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<p><a href="https://drugshortage.jp/index.php" target="_blank" rel="noopener noreferrer"><span class="strongInContent">■医療用医薬品供給状況データベース『DSJP』</span>のHPはコチラ</a></p>
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中川いづみ

インフルエンザが流行している今年の冬。薬不足も続いていて、不安な年越しになりそうだ。しかし、コロナ禍のときもワクチンを日本はなかなか入手できなかったが、そのような状態がさまざまな薬で起こっているという

「咳止め薬」だけじゃない！　がんや糖尿病の治療薬も…世界規模の「薬不足」で”買い負け”の可能性も

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