国防ジャーナリスト。関西外国語大学卒業後、フリーライターとして自衛隊や安全保障問題を中心に活動。19年刊行の著書『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。公益財団法人アパ日本再興財団主催・第十五回「真の近現代史観」懸賞論文で最優秀藤誠志賞を受賞。産経新聞社「新聞に喝！」のコラムを担当

小笠原 理恵

<figure id="attachment_343416" aria-describedby="caption-attachment-343416" style="width: 1298px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c5362c62"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/3a8a65b5ca83ae0a45db8143803d088f.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-343416" class="wp-caption-text">飛行するドローン（明石大橋で撮影）</figcaption></figure>
<h3>自衛隊員のドローン訓練と法律の壁</h3>
<p>10月２日、 陸上自衛隊宮古島駐屯地（沖縄県宮古島市）に所属する１等陸佐が同市内の訓練場にドローンを持ち込み、飛行中にそのドローンが行方不明になったことが陸自の取材でわかった。陸自は訓練機体の登録義務を怠り、航空法違反の疑いで国交省に報告、その経緯を調査中となっている。</p>
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<p>なぜ、ドローンの操縦訓練を自衛隊の訓練場で行っているのに問題になるのか？</p>
<p>自衛隊は様々な任務で活用するためにドローン訓練を行っている。現在の航空法では自衛隊や警察・消防等は公共の安全や福祉のためにドローンを運用する組織と定義づけられている。そのため、自衛隊へのドローン訓練や講習・教育は必要だと航空法にも記載されている。問題は、訓練が必要なのにもかかわらず、法律の規制で十分な訓練ができないことだ。自衛隊の駐屯地の一部は（首都圏や人口集中エリア・空港施設等の近隣）にあるため、広大な訓練地がドローン飛行禁止や制限エリアに指定されている。</p>
<p>また、自衛隊や警察等の訓練でも、一般のドローン愛好家と同様に訓練の度に許可申請が必要となる。航空法において、国土交通大臣の許可や承認が必要となる空域及び方法での飛行（特定飛行）を行う場合は、基本的に飛行許可・承認手続きが必要だ。特定飛行区域には空港等の周辺、人口集中地区の上空、150ｍ以上の上空、緊急用務区域があげられる。このような制限区域で適切な許可承認を取得せずに無人航空機を飛行させる等した場合は、懲役又は罰金に科せられる。</p>
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<p>航空局認定ドローン講習団体の講師・木崎茂氏はこう明かす。</p>
<p><span class="strongInContent">「前述の一等陸佐も適切な登録をしなかったため調査対象となりました。人口集中地区（DID）等の特定飛行では自衛隊、警察、消防、海保などの組織団体等でも、ドローン教育訓練飛行で許可承認必要となるんです。</span></p>
<p><span class="strongInContent">あらかじめ航空局へ所定の登録が必要なので『本日は快晴で風も強くないため、ドローン訓練を訓練場で行うことにする！』と臨機応変に訓練することができない。天候や気象条件で左右される訓練に毎回登録、飛行許可、承認手続きが必要となると、多くの隊員にしっかりと訓練を積ませることは難しいですね」</span></p>
<p>自衛隊はドローンにより、偵察や物品運搬を熟練しなくてはならない。さらに、「夜間飛行」や「目視外での飛行」、「人または物体と距離を確保できない飛行」、「物件の投下（最大離陸重量が25kg未満）」といった難しいドローン操縦能力も必要となるはずだ。そのような特殊な訓練はさらにハードルが上がり、その訓練を行うための規制や許可申請等の手続きが重くのしかかる。現状では、自衛隊員が高度なドローン操縦訓練をすることが難しく、訓練する機会も失われてしまっている。もちろん、これは警察や消防も同じだ。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="１週間でドローンによって敵の113の装備品を破壊"></div>
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<figure id="attachment_343417" aria-describedby="caption-attachment-343417" style="width: 600px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="7ab8e5ac"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/17c6a04d8b48a48fb75928df43b6371b.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-343417" class="wp-caption-text">ウクライナ第一副首相のミハイロ・フョードロフ氏のドローン戦果報告のX ポスト</figcaption></figure>
<h3>ウクライナ紛争等にみるドローンの戦略的価値</h3>
<p>ドローンは今、これまでの戦術や戦略を変えた兵器として注目を集めている。ドローンは他の兵器と比べ安価でありながら、遠隔操作で偵察、爆撃等多方面で活躍する画期的な戦術兵器となった。「現代の火縄銃」と例えられるドローンは様々な場面で活用される。</p>
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<p>ドローン兵器が注目されたきっかけは、ウクライナ紛争だ。ロシアの軍事侵攻に対抗するため、ウクライナ軍が活用するドローン兵器は、的確にロシア軍の戦車や拠点を攻撃していった。ウクライナ第一副首相兼デジタル担当大臣のミハイロ・フョードロフ氏は８月７日の「１週間でドローンによって敵の113の装備品を破壊した。その中には42台の装甲車、何百万ドルもする25台の戦車、20の補給処等が含まれる」というようなポストを行った。</p>
<p>さらに８月11日には、茂みの中に潜んでいたロシア軍の歩兵戦闘車への大爆発動画とともに「ロシア軍の10万ドル（1500万円）相当の資産をかなり強力な大爆発で吹き飛ばしました！」と投稿。安価に作れるドローンは消耗品として次々に投入される過程で戦場に適した能力を備えてきた。</p>
<p>ウクライナ軍のドローン兵器戦術を支えているのが衛星通信ネットワークサービス「スターリンク」である。宇宙開発事業「スペースX」のトップで、テスラＣＥＯでもあるイーロン・マスク氏によって、ウクライナに無償利用を許可されたことで戦況は大きく変わった。遮断されることのない通信ネットワークがあれば、ドローン操作する側は安定した敵の位置情報を取得することが可能だ。</p>
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<div data-friday-nextpage-lead="ロシアの量産体制にウクライナは押され気味"></div>
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<figure id="attachment_343578" aria-describedby="caption-attachment-343578" style="width: 1000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="07c06d23"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/0e892ab952ead58d9ad60a7de384f4d3.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-343578" class="wp-caption-text">国産小型ドローン「蒼天」。警察が採用。データセキュリティは安心だが、飛行時間延伸が課題</figcaption></figure>
<h3>ロシアとウクライナのドローン技術の違い</h3>
<p>ウクライナ人ジャーナリスト、グレンコ・アンドリー氏がウクライナとロシアのドローン技術の違いについてこう解説してくれた。</p>
<p><span class="strongInContent">「ウクライナには世界中から技術者が集まり、AI技術搭載のスマート軍事ドローンが開発された。緻密な画像解析や正確な攻撃能力は未来の新たな産業となる可能性がある。ウクライナには技術力はあるが、ドローンを大量生産できない。ドローン投入当初は優勢だったが、今はロシアの量産態勢に押されつつある」</span></p>
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<p>ロシアのイラン製シャヘドは、あらかじめプログラムされた場所で自爆する単純な機能のドローンが大半だ。簡単な機能しかないドローンでも大量投下できる強みがロシアにはある。ロシア西部のタタールスタン共和国の経済特区内にもドローン製造工場とされる建設予定地写真が公開されている。ロシアのドローン量産拠点は次々と稼働予定だ。大量生産されるロシアのドローンでウクライナのドローン戦力が押し戻される可能性が高い。</p>
<p>戦場で活躍するドローン兵器の開発は、世界各国が進めており、現代戦になくてはならないものとなった。</p>
<p>日本のドローン製造技術は高い。ただ、高度な性能を持つドローンも操縦できなければ、役に立たない。操縦技術を習熟する自衛隊員の訓練にも、法律上の手続きが重くのしかかり十分な訓練ができない。これでは宝の持ち腐れだ。ウクライナでもロシアでも10代の子供達から学校や軍事訓練センターでドローン操縦技術を学ぶ。ウクライナ軍は１万人単位の訓練プログラムを導入し、操縦技術戦争で勝利すると宣言している。</p>
<p>自衛隊に限らず、ドローンは建築や農業、災害派遣にも活躍が期待される。国民の安全を守るための法律であることはわかるが、時代に合わせた変化は必要だ。訓練に高すぎるハードル（法律）をつくった政治家は、今一度考えなおしてほしい。せめて、自衛隊の拠点内の訓練は自由に行えるようにしていただきたい。最先端の有能なデジタル機器を「箪笥のこやし」にするような法律はさっさと変えてもらいたいものだ。</p>
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<figure id="attachment_343421" aria-describedby="caption-attachment-343421" style="width: 694px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="56e786fb"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/d9df7ed0e0754d254cc7f428fa0d84bd.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-343421" class="wp-caption-text">国産無人航空機（ヘリ型、右）と中国産ドローン。価格・技術・量産体制で中国産は強い</figcaption></figure>


国防ジャーナリスト。関西外国語大学卒業後、フリーライターとして自衛隊や安全保障問題を中心に活動。19年刊行の著書『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。公益財団法人アパ日本再興財団主催・第十五回「真の近現代史観」懸賞論文で最優秀藤誠志賞を受賞

小笠原理恵

ウクライナ紛争でドローン兵器が注目されるようになった。日本も操縦技術を高める必要はあるが、この10月、自衛隊の訓練場で操縦訓練を行っていたのに問題視された。そこには日本独自の「法律の壁」があった

自衛隊駐屯地でドローンが行方不明に…日本が世界に後れをとる「ドローン訓練」を阻む「航空法」の壁

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