編集・ライター。’83年、山形県生まれ。10年間、健康情報誌の編集部で月刊誌・Webメディアの編集に携わったのちフリーランスに。現在はヘルスケア・医療分野などを中心に、医師や専門家の取材、企画、執筆を行う。

釼持 陽子

<h3><span class="strongInContent">月に１回、半年に１回しか起こらない「不整脈」を捕まえることは非常に難しい…</span><span class="strongInContent"> </span></h3>
<p>メールや通話などの通知を手元で確認できる、便利なスマートウォッチ。心拍数や活動量、睡眠状態まで測定でき、健康管理に役立てているビジネスマンも多いだろう。そんな中、スマートウォッチの通知をきっかけに医療機関を受診する人が急増している。その受け皿として総合病院などで開設されはじめているのが「スマートウォッチ外来」だ。</p>
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<p><span class="strongInContent">「スマートウォッチの代表でもあるApple Watchでは、心拍数や心電図を高精度で測定できます。’20年に、Appleの心電図アプリケーション『家庭用心電計プログラム』と不規則な心拍を通知してくれる『家庭用心拍数モニタプログラム』が、厚生労働省から家庭用医療機器として承認されました。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">その頃から、不整脈のアラートが出たという患者さんが少しずつ増えてきたんです。どこの科に行ったらいいか分からない人が多いのではないかと思い、不整脈を診ている循環器内科で、’23年の夏から『スマートウォッチ外来』をオープンしました」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p>と話すのは、総合東京病院循環器内科の滝村由香子医師。担当するスマートウォッチ外来では、不整脈専門医が診断にあたる。</p>
<figure id="attachment_343812" aria-describedby="caption-attachment-343812" style="width: 8640px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="8432b8e9"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/6099e639c03c7f7c691e21214d9532b9.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-343812" class="wp-caption-text">仕事の効率化だけでなく、日々の健康管理にも便利なスマートウォッチ。「Apple Watchで見られる情報は多く、心電図の精度もかなり高い」と、滝村医師（PHOTO：アフロ）</figcaption></figure>
<p><span class="strongInContent">「Apple Watchは、悪性の不整脈である『心房細動（しんぼうさいどう）』の可能性がある場合や、脈が速すぎたり遅すぎたりする場合などにアラートが出ます。不整脈にはいくつか種類があり、心房細動はその一つ。診断するには、不整脈が起こったそのときの心電図を確認する必要があります。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">『昨日動悸がした』といって受診しても、病院で心電図をとってそのとき正常だったら、医師は不整脈と診断できない。その反対で、不整脈が潜んでいたとしても年１回の健康診断で問題がなければ見逃されることもあります」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
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<p>診断されないということは、早く治療がスタートできないということだ。その点、肌身離さず身に着けているスマートウォッチがあれば、動悸や息切れなどの不整脈に関わる症状が起こったときはもちろん、症状がないときでも測定が可能になる。</p>
<p><span class="strongInContent">「スマートウォッチ外来に来られる患者さんは、すでに不整脈を“現行犯”で捕まえた記録があります。そのため診断から治療までスピーディになっています。月に１回とか半年に１回しか起こらないような不整脈を捕まえることは非常に難しいのですが、受診時にその心電図があることは医師としても助かっています」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<div data-friday-nextpage-lead="25％は無症状…医師が“最も避けたい不整脈”"></div>
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<h3><span class="strongInContent">25％は無症状…医師が“最も避けたい不整脈”という「心房細動」とは？</span></h3>
<p>不整脈の一種である心房細動について滝村医師は、「一番なってはいけない不整脈」と話す。心房細動自体で死に至ることは少ないが、脳梗塞をはじめとする血栓の閉塞性疾患や、心臓の機能が衰える心不全の引き金になる。さらに認知症の発症率は２倍になるという報告もある。</p>
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<p><span class="strongInContent">「心臓は、上下左右での４つの部屋に分けられています。正常な心臓は、４部屋の上に位置する心房（しんぼう）から電気の興奮が出て収縮、そのあと下部屋の心室（しんしつ）に電気が通り収縮。一定で規則正しい収縮を繰り返して、全身に血液が送られます。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">一方で心房細動になると、心房で電気興奮が異常に暴れまわり、けいれんしているようになります。読んで字のごとく、心房が細かく動いた状態。すると下の部屋の心室には不規則に電気興奮が伝えられ、心電図の波形がバラバラになったり間隔があいたりします」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p>これにより動悸や息切れ、ひどい場合は胸が圧迫されるといった症状があらわれる。</p>
<figure id="attachment_343813" aria-describedby="caption-attachment-343813" style="width: 2649px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="b5cc3c27"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/8a8b12ac8bdca4b975ade9fe65a4c785.png" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-343813" class="wp-caption-text">正常な心拍は、１分間に60～100回といわれている。心房細動になるとちょっとした動作でも心拍数があがりやすくなる（AppleのHPより）</figcaption></figure>
<p><span class="strongInContent">「症状があれば医療機関を受診するのでまだいいのですが、問題なのはそのうち25%が無症状ということ。症状がないので心房細動と診断されることなく進行、あるとき前触れなく脳梗塞や心筋梗塞が起こるというパターンも少なくありません」</span></p>
<p>くわしくは解明されていないが、心房細動は男性のほうが1.5倍発症しやすいことが報告されている。脳梗塞や心筋梗塞が起こるのは、心房細動によって心臓内に血栓ができやすくなるからだ。<span class="strongInContent"> </span></p>
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<p><span class="strongInContent">「心臓の動きが正常なときは血流が一定で速いのに対して、けいれん状態が続く心房細動は心臓が収縮しにくいため“ちょろちょろ”としか血液が流れません。そして電気興奮が心臓の下の部屋に通ったときだけ一気にワーッと血液が引き込まれます。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">これが繰り返されることで血液がよどみ、いちごゼリーのような血栓ができるのです。この血栓が流れ出し、心臓の血管に詰まれば心筋梗塞、脳に詰まれば脳梗塞。腕や脚の血管、腸に流れることもあり、命にかかわる恐ろしい病気なのです」</span></p>
<p>しかも、心臓の血栓が原因で起こる心原性脳梗塞は、血栓が大きく重症化しやすい、と滝村医師は言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「心原性脳梗塞は約50％の人が死亡や寝たきり、車いす、介助が必要な状況になります。『若いからまだ大丈夫』と安心してはいけません。脳梗塞の患者さんの中には、お子さんがまだ中学生という、働き盛りのお父さんもいます。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">症状の有無にかかわらず、心房細動が早めにわかることは、その後の人生を考えるとラッキーなこと。スマートウォッチ外来はそんな患者さんを救える場所でありたいと思っています」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<div data-friday-nextpage-lead="若い世代の不整脈は…"></div>
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<h3><span class="strongInContent">若い世代の不整脈は睡眠不足、飲酒、過労などが原因</span></h3>
<p>Apple Watchでは心房細動以外の不整脈もキャッチする。心電図アプリで「判定不能」と表示された場合がこれに当てはまる。</p>
<p><span class="strongInContent">「『判定不能』の中には、心臓のしゃっくりのような『期外収縮』、突然脈が速くなる『発作性上室性頻拍』といった不整脈が隠れていることがあります。不整脈専門医から診てもApple Watchの心電図はかなり高性能で、広い範囲で不整脈を検出してくれます」</span></p>
<figure id="attachment_343814" aria-describedby="caption-attachment-343814" style="width: 681px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="5a105509"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/5e5b15c296b9781fc0dd42f2d9a62bbb.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-343814" class="wp-caption-text">Apple Watchの心電図アプリで「洞調律」と表示される場合は、脈は一定ですぐに心配する必要はない。ただし、自覚症状がなくても定期的に測定することをおすすめする</figcaption></figure>
<p>ふだんの心電図を確認したり、日々の睡眠状態をチェックしたりと、医師にとっても患者を知るための情報が詰まっているスマートウォッチ。実際に外来を受診し、早期に不整脈を発見、治療をした患者がいるという。<span class="strongInContent"> </span></p>
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<p><span class="strongInContent">「50代の男性は『心房細動』と表示されて、気になってスマートウォッチ外来を受診されました。心房細動と診断され、原因となっている心臓の一部を焼く『カテーテルアブレーション』で治療。無症状でしたが早期に診断ができ、治療後もスマートウォッチで経過観察しています」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p>心房細動の主な原因は、加齢で起こる心臓の衰えだが、若い世代の心房細動は乱れた生活習慣が関係している。</p>
<p><span class="strongInContent">「睡眠不足や飲酒、過労、ストレスなど、誰でもやってしまいがちなダメな生活習慣は、心臓の大きな負担に。１日だけならたいしたことはありませんが、慢性的にこうした生活が続くと、不整脈を引き起こす可能性はあります。30歳を過ぎたら、睡眠や食事、運動など体のケアに目を向けることをおすすめします」</span></p>
<p>「何より体が資本」と気づき始めた世代にとって、スマートウォッチで自分の体を“知ること”は、健康になるための第一歩といえる。今後、スマートウォッチ外来を受診する人が増えれば、誰にでも起こりうる病気のリスクを減らすことができるだろう。</p>
<figure id="attachment_343815" aria-describedby="caption-attachment-343815" style="width: 1315px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="14b9405b"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/bb052652551396e066ed6dae5d7c509d.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-343815" class="wp-caption-text">Apple Watchで心電図の記録が終わると、心電図アプリに上記のような結果が表示される。これ以外に「記録状態が良好でない」と表示された場合は、装着がゆるいことなどが考えられる。気になる結果があれば医師に早めに相談を</figcaption></figure>
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<p><span class="strongInContent">滝村由香子（たきむら・ゆかこ）</span>　総合東京病院循環器内科医長。’23年８月より開設した「スマートウォッチ外来」を担当。Apple Watchを愛用中。専門は、循環器内科一般、不整脈、カテーテルアブレーション治療、心臓植込みデバイス治療。日本循環器学会認定循環器専門医、日本不整脈心電図学会認定不整脈専門医。</p>
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<p><a href="https://www.tokyo-hospital.com/center/cardiovascular-internal-medicine/smartwatch/" target="_blank" rel="noopener noreferrer"><span class="strongInContent">■「総合東京病院 スマートウォッチ外来」」</span>のHPはコチラ</a></p>
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編集・ライター。1983年、山形県生まれ。10年間、健康情報誌の編集部で月刊誌・Webメディアの編集に携わったのちフリーランスに。現在はヘルスケア・医療分野などを中心に、医師や専門家の取材、企画、執筆を行う。

取材・文：釼持陽子

スマートウォッチの通知をきっかけに医療機関を受診する人が急増している。そんな中、注目されている「スマートウォッチ外来」。不整脈の一種である心房細動について医師は、「一番なってはいけない不整脈」と話す。

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