<figure id="attachment_345270" aria-describedby="caption-attachment-345270" style="width: 3467px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e716fbfb"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/111191e5fb52a2f6eecf5a6d39c27106.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-345270" class="wp-caption-text">高校では補欠でプロ野球経験もない植松氏</figcaption></figure>
「来季の監督がボブ・メルビン氏に決まりました。お会いしたことはありませんが良い監督さんだと聞いているし、一緒に野球をするのが楽しみです」
大谷翔平がアジア人初となる本塁打王と２度目のＭＶＰとなった今年のメジャーリーグにもう一人、特筆すべき日本人がいる。日本人初の常勤コーチを務め、３つのワールドシリーズ・チャンピオンリングを持つサンフランシスコ・ジャイアンツの植松泰良氏（40）だ。裏方のブルペン捕手から脚光を浴びるコーチへと階段を駆け上がった植松氏が、メジャーの世界を語り尽くすロングインタビューをお届けする――。
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植松氏はメジャーリーグのコーチでありながら、日米でプロとしての野球経験がない。それどころか高校ではベンチを温めることばかりだった。
「西武台千葉高校（千葉県野田市）で捕手をしていましたが、高校３年間、一度も公式戦には出場できませんでした。一度だけでも出場したいと思い、最後の大会では監督に『試合に出してください』と直訴したこともあります」
小学校の卒業文集には将来の夢としてメジャーリーガーと書いたほどの野球好きで野球から離れることは考えたくなかったが、プレーヤーとしての限界も見え始めていた。
「父からは大学で準硬式野球を続けたらどうかとも言われました。でも自分の中では野球に見切りをつけてほかの道に進む方向に傾いていました。野球以外なら好きな英語を学びたい。それなら数年間アメリカで英語を勉強し、日本の大学へ入ろうと思ったんです」
<h2>こなした投手、捕手、トレーナーの３役</h2>
<figure id="attachment_345273" aria-describedby="caption-attachment-345273" style="width: 8640px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="0e9af6dd"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/ffeb0c1ae732d3c3000b084e1b9ea612.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-345273" class="wp-caption-text">試合前にバッティングピッチャーとして投球</figcaption></figure>
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植松氏は米国への語学留学を決断する。野球選手の夢は諦めたが、英語を身に付けたら将来は野球に関わる仕事に就きたいと考えていた。それが憧れのメジャーリーグなら言うことはない。渡米後、少ないチャンスをものにしながら、少しずつ夢の実現に近づいていく。
「カリフォルニア州の語学学校時代に、知り合いからホワイトソックスのマイナーリーグでトレーナー経験がある日本人を紹介され、南イリノイ大学にアスレチックトレーナーの資格を取るよい学科があると聞いたのです。
メジャーでイチローさん、佐々木主浩さん、長谷川滋利さんなどの試合を見て、自分も同じ舞台で仕事をしたいと思っていた頃です。トレーナーならそれが実現できるのではないかと考えました」
カリフォルニア大学サンタバーバラ校を経て、南イリノイ大学に進学。トレーナーの勉強をしながらも自らチャンスを作っていった。
「トレーナーの実習生として野球部に配属されたとき、希望して打撃投手をやらせてもらったんです。高校まで野球をやっていたので、良いボールを投げる自信はありました。打撃投手、ブルペン捕手、トレーナーの３役をこなすと選手たちに気に入ってもらえ、翌年も来てくれと言われました。実習で２年続けて同じスポーツに配属されるのは異例なのですが、チームとコネクションができたのが結果としてよかった。
卒業を控えてインターンシップで働けるメジャー球団の仕事を見つけたものの、どれも条件は良くない。そこで野球部の監督に相談するとジャイアンツを紹介してくれたんです。早速、球団のＧＭと話すと、『ジャイアンツ傘下でトリプルＡのフレズノ・グリズリーズ、（現在はロッキーズ傘下）が夏のシーズンにブルペン捕手を探しているけど興味があるか』と言うのです。チャンスだと感じてテストを受けたら合格し、２ヵ月間チームに合流できました。それからも連絡を取り続け、翌年の’07年にブルペン捕手として正式に契約を交わすことになりました」
<div data-friday-nextpage-lead="生活はホームステイ先の一般家庭"></div>
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<figure id="attachment_345275" aria-describedby="caption-attachment-345275" style="width: 2100px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a0bcbf78"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/fae4238b73d8c5bf60569250d0806a40.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-345275" class="wp-caption-text">イニングの合間に投手のボールを受けるのもブルペン捕手の役目</figcaption></figure>
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マイナーリーグはトリプルＡからルーキーリーグまでレベルごとに５つのクラスに分かれ、全部で約150チームある。最もレベルの高いトリプルＡでさえ、資金力はメジャーリーグとは雲泥の差だ。植松氏は一般家庭にホームステイしながら、ブルペン捕手、打撃投手、ノッカー、トレーナーなどあらゆる仕事をこなした。大変な思いもしたという。
「移動は基本的に飛行機ですが、メジャーのようにチャーター機ではありません。試合当日の一番早い飛行機に乗る規則だったため、前日に試合を終えて深夜12時ごろに家に帰っても翌朝４時には空港にいないといけない。移動先のホテルには早朝に着いてしまうため、部屋に入れるまでロビーで長時間過ごさないといけないこともありました。
メジャーリーガーの宿泊先は選手会の取り決めで、最高ランクと決まっています。フォーシーズンズやリッツカールトンなど高級ホテルに一人一部屋があてがわれ、食事代として当時は一日110ドル（約１万6000円）が支給されていました。しかし、トリプルAの選手はホテルのランクが落ち、相部屋もある。食事代も30ドル（約4400円）程度です。
球場のクラブハウスに行けば食事は用意されていますが、給仕スタッフにチップを払うとあまり残りません。メジャーとマイナーはもらえるおカネがケタ違いなため、降格してきた選手は早くメジャーに戻りたい。マイナーの選手たちは常にメジャーに上がりたいと思っていました」
<h2>「いまを逃したらチャンスはない」</h2>
<figure id="attachment_345287" aria-describedby="caption-attachment-345287" style="width: 6657px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="964287a1"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/16d1d8dddbc2ef2736668154e8afa914.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-345287" class="wp-caption-text">ブルペン捕手として多数の一流投手のボールを受けてきた</figcaption></figure>
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その年（’07年）のオールスターゲームはサンフランシスコの開催。ブルペン捕手として岡島秀樹など第一線で活躍していた投手の球を受けた経験から、ますますメジャーで仕事をしたいと考えるようになった植松氏に再びチャンスが訪れる。ジャイアンツにブルペン捕手を一人増やす計画が持ち上がり、同時期にアスレチックスなどを自由契約となった藪恵壹が入団テストを受けに来たのだ。
「テストが行われた秋季キャンプには私も手伝いで参加していました。率先して藪さんのトレーナーや通訳をやらせてもらい、『もしジャイアンツで野球をやることになったら通訳をやらせほしい』と頼み込みました。
その後、ブルース・ボウチー監督（現レンジャーズ監督）にも、『自分は日本語が話せて藪さんのサポート、打撃投手、トレーナーができる。ブルペン捕手としてメジャーに絶対に上がりたい』と直訴したんです。当時の私は、直属の上司を飛び越して監督と話すことを禁止されていました。ですが、いまを逃したらチャンスはないと思って監督室に飛び込むと、監督は話を聞いてくれた上で『分かった。上の人に話しておく』と言ってくれたのです」
だが、藪氏のジャイアンツへの移籍が決まった後も球団からは何の連絡もなかった。引き続きグリズリーズで仕事をする覚悟でいたそのとき、ＧＭから電話がかかってきた。
「グリズリーズの監督に、ホテルでは一人部屋にしてもらえないかと頼んでいたときでした。ＧＭからは開口一番『タイラ、申し訳ないけど一人部屋にはできない』と言われたんです。
予算もないしダメかと思っていたら、続けてこう言うのです。『だけど、メジャーリーグでなら一人部屋を用意することができるぞ』。一瞬、意味が分からなかったのですが、藪さんのサポートを兼ねてメジャーに行けるということだったのです。とても嬉しかった。ですがＧＭからは『ただし、何日メジャーリーグにいられるか分からないから覚悟しておけ』とも言われて身が引き締まる思いでした」
植松氏が子供のころから夢見ていた、メジャーでの仕事が決まった瞬間だった。【後編：「独占公開！３つのワールドシリーズ制覇リング」写真】では夢のメジャーの驚きの実態と一流選手たちの素顔を紹介する。
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【<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/345284">後編：「独占公開！３つのワールドシリーズ制覇リング」写真</a>】
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<figure id="attachment_345277" aria-describedby="caption-attachment-345277" style="width: 2896px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="5c0c5235"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/14507649c13b4e46ba3df6ce46cd63eb.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-345277" class="wp-caption-text">’07年のマイナー時代。厳しい環境で苦しみながらもメジャーを夢見ていた（中央が植松氏）</figcaption></figure>
<figure id="attachment_345278" aria-describedby="caption-attachment-345278" style="width: 4143px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e66dc467"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/1629656d8aaedeb989282916b63a97d9.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-345278" class="wp-caption-text">’23年のシーズンを戦ったジャイアンツのコーチ陣やスタッフ（右から２人目が植松氏）</figcaption></figure>
<figure id="attachment_345282" aria-describedby="caption-attachment-345282" style="width: 5472px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e1849cda"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/2703111621fa8a04a59d614877b8c2f5.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-345282" class="wp-caption-text">チームを強くするためにはコーチ同士のコミュニケーションも大切だという</figcaption></figure>
<figure id="attachment_345279" aria-describedby="caption-attachment-345279" style="width: 3264px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="4bec725b"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/49852b69f99ef235692bd15191e6b975.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-345279" class="wp-caption-text">独占公開！ワールドシリーズを制したチームの選手やスタッフしかもらえないリング。３つを所有しているのは日本人で植松氏だけ</figcaption></figure>

植松氏提供

形山昌由

メジャーには大谷翔平以外にも特筆すべき日本人がいる。日本人初の常勤コーチ植松泰良氏だ。彼にはプロ野球経験がなく高校時代は補欠。なぜメジャーのコーチになれたのか。勇気をもらえる植松氏の告白「前編」。

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