形山 昌由

<figure id="attachment_345287" aria-describedby="caption-attachment-345287" style="width: 6657px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="964287a1"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/16d1d8dddbc2ef2736668154e8afa914.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-345287" class="wp-caption-text">ブルペン捕手として多くの一流投手のボールを受けてきた植松氏</figcaption></figure>
大谷翔平がアジア人初となる本塁打王と２度目のＭＶＰとなった今年のメジャーリーグにもう一人、特筆すべき日本人がいる。日本人初の常勤コーチを務め、３つのワールドシリーズ・チャンピオンリングを持つサンフランシスコ・ジャイアンツの植松泰良氏（40）だ。裏方のブルペン捕手からメジャーコーチへと階段を駆け上がった植松氏自身が振り返る半生を、【<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/345267">前編：「高校でも補欠の男」米国で壮絶苦闘</a>】に続き紹介したい――。
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ブルペン捕手として’08年に念願のメジャーリーグの仕事をつかんだ植松氏。憧れのフィールドでの仕事は感動の毎日だった。
「メジャーは子供のころから描いていた景色ですから、嬉しさでいっぱいです。ナイトゲームがある日なら昼前に球場入りし自分のトレーニングを終えてからブルペン入りして投手の球を受ける。それ以外にも選手たちにいつでも利用してもらえるよう、キャッチボール、遠投の相手、打撃投手、トレーナーの手伝いなどいろいろやりました」
充実した毎日を過ごしていた植松氏だが、同じ仕事が長年続くと次第に心境の変化が生じてきた。これから自分がどうキャリアを積んでいけばよいのか分からなくなってしまったのだ。
<h2>「ブルペン捕手のままでいいのか」</h2>
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<figure id="attachment_345277" aria-describedby="caption-attachment-345277" style="width: 2896px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="5c0c5235"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/14507649c13b4e46ba3df6ce46cd63eb.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-345277" class="wp-caption-text">’07年のマイナー時代。厳しい環境で苦しみながらもメジャーを夢見ていた（中央が植松氏）</figcaption></figure>
「このままずっと裏方のブルペン捕手のままでいいのか考えました。とはいえ、選手として実績のない自分にどういう道があるのかも分からない。そんなとき、当時のアシスタントコーチが自分にコーチの仕事をいろいろと振ってくれたのです。
おかげで仕事を覚えることができ、自分にもコーチができるんじゃないかと思えるようになりました。新たな目標ができ、コーチとしてやれると実感できるようになった数年後、ゲーブ・キャプラー監督（当時）に『自分はチームに貢献できるからコーチをやらせてほしい』と伝えにいきました」
マイナーで長年コーチを務めても、メジャーのコーチになれない人はたくさんいる。だが、植松氏の普段の真面目な働きぶりはチーム内でも高く評価されていた。監督と数回の話し合いの後、’22年からアシスタントコーチに昇格することが決まる。岩隈久志など、かつてメジャーで活躍した選手が非常勤でコーチを引き受けるケースはあるが、常勤は日本人で初めてだ。
「常勤コーチは、シーズン中は常にチームに帯同します。今年、ジャイアンツには10人以上のコーチがいて、それぞれにヘッドコーチ、アシスタントコーチなど役割が分かれます。私の担当は外野守備コーチとベースランニングコーチの補佐ですが、一番大きな仕事は対戦チームの投手分析。投手が球種を投げ分けるときに無意識にでてしまうクセを見抜くことです」
<div data-friday-nextpage-lead="見つけた！世界最高投手のクセ"></div>
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<figure id="attachment_345273" aria-describedby="caption-attachment-345273" style="width: 8640px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="0e9af6dd"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/ffeb0c1ae732d3c3000b084e1b9ea612.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-345273" class="wp-caption-text">時にはバッティングピッチャーを務めることも</figcaption></figure>
世界最高レベルのメジャーの投手でも、探していけばどこかに投球時のクセはあるという。
「投手によってクセはいろいろです。投げる球種によってセットポジション時のグローブの位置や角度に差が出たり、足でマウンドを蹴る回数が違ったり。特定の球種を投げる際に舌を出す投手や、瞬きの回数が異なる人もいます。牽制球を投げるときもわずかにクセが出る。球場にはリーグで決まったいろいろな位置にカメラがあり、一球ごとの撮影動画はすべてデータベースに入っています。
打者から見えるアングルの動画を見ながら投手の頭の先から足まで分析し、分かりやすく打者に伝えるのです。相手から味方の投手も分析されているため、それを本人に伝えることもします。ただ伝えればよいというものではなく、かえって混乱して調子を崩す投手もいる。どう伝えればよいのかは常に考えています。
テレビ中継では、例えば大谷選手がベンチでタブレット端末を見ているシーンが映ることがあります。あの端末はインターネットには繋がっていませんが、膨大なデータが入っています。相手投手の動画を見てクセを確認することもあれば、自分の過去の打席映像を見て打席に入ったりもします」
<h2>シーズン３試合を残して解雇</h2>
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<figure id="attachment_345278" aria-describedby="caption-attachment-345278" style="width: 4143px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e66dc467"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/1629656d8aaedeb989282916b63a97d9.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-345278" class="wp-caption-text">’23年のシーズンを戦ったジャイアンツのコーチ陣やスタッフ（右から２人目が植松氏）</figcaption></figure>
マイナーリーグを含めると総勢6000人ほどのプレーヤーがしのぎを削り、その頂点でプレーをするのがメジャーリーガー。日本のプロ野球で活躍してメジャーを目指す選手も少なくない。身近で見るメジャーリーグとはどんな世界なのだろう。
「メジャー、マイナーとも選手の解雇は日常茶飯事と言ってもよいくらいです。使えない選手と判断されると監督室に呼ばれ、ＧＭから下のリーグへの降格を言い渡されます。契約によってはそれもできず解雇されてしまう選手もいる。今年はキャプラー監督でさえシーズン３試合を残して解雇されました。華やかさと厳しさが隣り合わせの世界です」
明日の保証はない厳しい世界だが、メジャーで長年活躍する選手には特徴があるという。
「野球がうまいだけでなく優れた人間性を持っています。若い選手で実力だけみればすぐにメジャーで活躍できる素質を持った選手もたくさんいますが、人間性が伴わないと判断されると上がって来られないのです。だから、メジャーで活躍した選手で性格の悪い人を見たことはありません。
人間がしっかりしているからこそ長い間、第一線で活躍できる。同じポジションでレギュラーを競う選手はいますが、闘争心をむき出しにはせずシーズンを優勝するために皆、頑張ります。監督と選手の関係も一方的ではなくお互いのリスペクト（尊重）が基本。それは上のレベルにいくほど感じます。
通算165勝を挙げたスター投手のバリー・ジト氏は、私がブルペン捕手時代に肘を壊したとき、良い病院を紹介してくれ、治療費まで負担してくれました。年齢や立場に関係なく、相手を尊重しないと相手からもそうされないというのは、アメリカに来て学んだことの一つです」
<div data-friday-nextpage-lead="「神樣」ボンズが丁寧に指導"></div>
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<figure id="attachment_345275" aria-describedby="caption-attachment-345275" style="width: 2100px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a0bcbf78"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/fae4238b73d8c5bf60569250d0806a40.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-345275" class="wp-caption-text">イニングの合間に投手のボールを受けるのもブルペン捕手の役目</figcaption></figure>
ジャイアンツでメジャー歴代１位の本塁打記録を樹立したバリー・ボンズは現役時代に気難しい性格だと報道されることもあったが、彼とて例外ではないという。
「選手時代のことはよく知りません。ですが、コーチとして打撃指導に訪れている姿を見ると、後輩選手たちに丁寧に指導しています。あれだけ実績のある選手なので、どういう考えで打席に立てばよいかなど、メンタル面の指導はコーチ陣もとてもありがたいと感じています」
同じ環境に身を置いた同士だから理解できる話もある。植松氏はメジャーで活躍した福留孝介や川﨑宗則との交流経験があり、現オリックスの平野佳寿がダイヤモンドバックスやマリナーズにいた当時には、同学年ということもあり食事をしながらいろいろな話をする関係だったという。
<h2>日本人最多のワールドシリーズ制覇数</h2>
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<figure id="attachment_345282" aria-describedby="caption-attachment-345282" style="width: 5472px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e1849cda"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/2703111621fa8a04a59d614877b8c2f5.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-345282" class="wp-caption-text">チームを強くするためにはコーチ同士のコミュニケーションも大切だという</figcaption></figure>
植松氏はジャイアンツに16年間所属して３度のワールドシリーズ制覇（’10年、’12年、’14年）を経験し、３つの優勝リングを持つ。メジャーリーガーでさえ１度も優勝経験のない選手は数多くいるなか、日本人としては最多だ。最高の舞台を経験し、これから何を目指すのか。
「次の目標はベースコーチです。今年のオープン戦で一塁ベースコーチをやらせてもらい明確になりました。そのためには、さらに成長しないといけないと思っています。そうしないと私は２年のコーチ経験しかないし、厳しい世界なのでいつ降格させられるか分かりません。
コーチとして十分な経験を積んだら、最終的にはメジャーの監督までできれば最高です。そしてアメリカでしっかり経験を積んだ後にもし日本のプロ野球からオファーがあれば、どこかのチームの監督になって自分がメジャーで経験した野球の知識を若い世代に伝えたい気持ちもあります。日本の野球とアメリカの野球の良いところを合わせながら、よりよい野球の文化を作りたいと思います」
高校野球の控え選手からメジャーの首脳陣まで駆け上がった植松氏。若い世代にこんなメッセージを送る。
「目標はすぐに達成できるものではなく、回り道をしながら挑戦するのは当たり前のこと。その間、辛いこともあるでしょうが、達成したときのことを思い描きながら過程を楽しんでほしい。努力をして積極的に行動していればいつか必ずチャンスが訪れます。そのときには全力で掴みにいってください」
たゆまない努力を続け、少ないチャンスをものにする。渡米後に植松氏が実行してきたことこそが夢をつかむ近道なのかもしれない。
<figure id="attachment_345279" aria-describedby="caption-attachment-345279" style="width: 3264px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="4bec725b"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/49852b69f99ef235692bd15191e6b975.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-345279" class="wp-caption-text">独占公開！ワールドシリーズを制したチームの選手やスタッフしかもらえないリング。３つを所有しているのは日本人で植松氏だけ</figcaption></figure>

植松氏提供

形山昌由

メジャーには大谷翔平以外にも特筆すべき日本人がいる。日本人初の常勤コーチ植松泰良氏だ。彼にはプロ野球経験がなく高校時代は補欠。なぜメジャーのコーチになれたのか。勇気をもらえる植松氏の告白「後編」。

ブルペン捕手から夢を…日本人初メジャーコーチ「独占公開！３つのワールドシリーズ制覇リング」写真

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