<figure id="attachment_345557" aria-describedby="caption-attachment-345557" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="fac162a2"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/89823d4eec103c937dd7f10f16da495b.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-345557" class="wp-caption-text">猟銃を構える野々村さん。護衛が本職ながら、大型のヒグマを自ら仕留めた経験もある</figcaption></figure>
<p><span class="strongInContent">「山の送電線の点検をする北海道電力の作業員や、鳥獣の生態を調べる研究者をヒグマから守るのが俺の仕事さ」</span></p>
<p>北海道帯広市在住の野々村信行さん（72）は、狩猟歴46年というベテランハンターだ。担当エリアは十勝地方。山で作業をする人が安全に作業できるよう、ライフルを手にクライアントの護衛をするいわば「用心棒」の役割を企業に頼まれ、ここ10年ほど従事している。</p>
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<p><a href="#" data-ident_hash="736b2884"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/7da94416ba96e2b7026dcab664350578.jpg" alt=""></a></p>
<figure></figure>
<p>ヒグマを仕留めることより、クライアントの命を守るのが最優先のため、ヒグマと遭遇したらまずは大声を出し、それでも近づいてくれば威嚇射撃をして追い払う。ヒグマとの戦闘は最終手段。それほどリスクを伴うというのだ。</p>
<p><span class="strongInContent">「近づかれてしまったら、負けなんだよ」</span></p>
<p>つい最近も、護衛をつけずに伐採した樹木を木材にする造材作業をしていた作業員がヒグマに襲われて大ケガをしている。野々村さんは今年に入って既に５〜６頭のヒグマに遭遇しているという。</p>
<p>夏季は山での作業が増えるため、野々村さんには月の半分ほど護衛の依頼が入るという。護衛をするにあたり心がけていることは何か。</p>
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<p><span class="strongInContent">「まずは、熊の習性を理解すること。熊を撃って『倒した』と思っても、安易に近くに行くと急に襲いかかってくることがある。『弾が命中したから大丈夫』と油断して襲われるハンターが多い。倒れていても必ずもう１発撃たないといけないんだ。山の地形を熟知することも大事だね。足腰も強くないとダメだ」</span></p>
<p>野々村さんは72歳とは思えない体力で傾斜のキツい山を、周囲を警戒しながら軽々と登っていく。</p>
<p>不運にも護衛なしで熊に遭遇した場合、どうすればいいのだろうか？</p>
<p><span class="strongInContent">「後ろを向いて逃げたら襲われる。武器になるようなものが無ければ、熊から目を逸らさずに後ずさりするしかないね」</span></p>
<div data-friday-nextpage-lead="家畜も餌食に……"></div>
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<p>今年は人間だけでなく、家畜もヒグマに襲われる被害が相次いでいる。</p>
<p><span class="strongInContent">「今年、３頭の子牛がヒグマにやられました。こんなのは初めてです」</span></p>
<p>足寄町(あしょろちょう)で３代にわたって黒毛和牛の繁殖を行っている兼古照夫さん（45）によれば、子牛の１頭は内臓を食べられた状態で見つかり、２頭は行方不明。母牛の体にはヒグマの爪による傷跡があったという。「牛は警戒心が強いため、これまで熊に襲われることは滅多になかった」と兼古さんはうつむいた。</p>
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<p>円安、ウクライナ戦争の影響などによる飼料の値段の高騰で廃業する畜産業者が多いなか、手塩に掛けて育てた牛を失うことは大きな痛手だ。</p>
<p>陸別町で酪農を営む大沼勤さん（52）が所有する飼料用の広大なトウモロコシ畑も、ヒグマによる被害を受けた。ヒグマは畑を囲う鉄柵を乗り越えて畑に侵入。柵はヒグマの重みでグニャリと曲がっており、畑には食い荒らされたトウモロコシの残骸が散乱していた。４ｍの高さまで成長するトウモロコシ畑にヒグマが身を隠していることがあり、収穫作業は命懸けだという。</p>
<p><span class="strongInContent">「熊を殺すのはかわいそうという意見も理解できるけど、ここで生活する者にとっては死活問題だから……」（大沼さん）</span></p>
<p>野々村さんと別れた後、私はベテランハンターの黒川光雄さん（68）の運転する車に乗り、鹿追町(しかおいちょう)の山中でのヒグマ猟に同行させてもらった。十勝地方でもとくに熊の多い鹿追町だが、狩猟歴40年の黒川さんも今年のヒグマ出没の多さには驚いているという。</p>
<p><span class="strongInContent">「今まで、車で林道を移動していて熊に出会うことなど滅多になかった。一日で熊に２回遭遇して２頭撃つなんてありえなかったよ」</span></p>
<figure id="attachment_345559" aria-describedby="caption-attachment-345559" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="60436623"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/084040012433132c12101212d175bfbd.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-345559" class="wp-caption-text">トウモロコシ畑にヒグマが侵入した痕跡。柱が曲げられ、防護用ネットも歪んでしまった</figcaption></figure>
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<div data-friday-nextpage-lead="逆襲され死亡した猟師も"></div>
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<h2>逆襲され死亡した猟師も</h2>
<p>熊が増えている理由の一つに、ハンターの高齢化が挙げられる。黒川さんの所属する猟友会も、会員数がかつての３分の１ほどに減ってしまった。ウクライナ戦争による弾薬の供給不足や円安などによる弾薬の値上がり、山に入る際に使う車のガソリンの価格高騰もハンター不足に拍車をかけている。</p>
<p>そんな状況下で、黒川さんは若いハンターたちの育成も行っている。黒川さんのチームは車を使わず、徒歩で山に入ってエゾシカなどの獲物を獲る″忍び猟″を行う。</p>
<p>忍び猟だとヒグマに遭遇する危険が高まるため、熊の恐ろしさを説き、猟銃の撃ち方や山の歩き方など猟の基本を指導しているという。</p>
<p><span class="strongInContent">「道東の白糠町(しらぬかちょう)で、ハンターが手負いの熊に逆襲されて一人は亡くなり、もう一人は顔を抉(えぐ)られて重傷を負ったという話を聞いた。我々の仲間には、もし熊を撃ったら１時間ほど時間をおいてから近づくか、熊笹などが生い茂る藪に逃げたら深追いせずに仲間に連絡をするように伝えている」</span></p>
<p>取材中、「初めて熊を撃った」という若手ハンターから連絡が入った。弾は命中したが姿を見失ってしまい、どう対処すればいいかわからないという。</p>
<p><span class="strongInContent">「撃たれているなら近くに倒れていると思うから、時間をおいて血痕や足跡をたどって探してみろ。倒れていても襲ってくるかもしれないから、いつでも撃てるように銃を腰だめ（腰に銃をぶら下げ、いつでも構えられる状態）にして、気をつけて探せよ」</span></p>
<p>そうアドバイスした黒川さんは、若手ハンターが熊を撃った現場へと車を飛ばした。上足寄の林道の入り口で電話してきた二人組の若手ハンターに合流し、５分ほど一緒に歩いて現場に到着した。</p>
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<div data-friday-nextpage-lead="「命のやり取り」"></div>
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<p>林道を横切った親子のヒグマを見つけた二人は、山の斜面を駆け上(のぼ)るヒグマ親子を追いかけて発砲したという。子熊はその場で倒れ、親熊は腹を撃ち抜かれながらも山を駆け上がっていった。</p>
<p><span class="strongInContent">「まず山の頂上に登って、そこから降りながら熊を探せよ。熊より自分が下になったら絶対にダメだ」</span></p>
<p>黒川さんの指示で、銃を腰だめにした若手ハンターが山の斜面を登る。黒川さんも別の方向から山を登っていった。手負いとはいえ、どこかにヒグマが潜んでいると思うと、恐怖で震える――。</p>
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<p>「見つけた！」という声が聞こえ、声の方に向かって走って行くと、山の中腹に大きな黒いヒグマが横たわっていた。警戒しながら近づくとまだ息があり、手足を激しく動かしている。人間が近づいてくる気配を感じるとさらに手足をバタつかせ、最後の抵抗を見せた。「止め刺し」として急所の頭に弾を撃ち込んでもまだ手足は動き、生命力の強さを感じた。</p>
<p>体長は約１ｍ50㎝で体重は130㎏ほどの若い雌熊にナイフを入れた。体は分厚い脂肪に包まれている。腹を裂いて内臓を取り出すと、スイカほどのサイズの胃袋が出てきた。胃の中には食べたばかりの山葡萄がギュウギュウに詰まっていた。鋭利な牙と前足の巨大な爪に襲われていたらと思うと、思わず戦慄する。</p>
<p>ヒグマを仕留めた２日後、ハンター仲間が集まって、熊を料理して食べることになった。50㎝ほどの背ロースをタイム、ローズマリー、ニンニクで漬け込む。岩塩と黒胡椒だけのシンプルな味付けでフライパンにのせ、表面をバターでソテー。その後は薪ストーブの中で時間をかけてローストする。寄生虫がいるので、芯までしっかりと熱を通す必要がある。20分ほどしてストーブから肉を取り出し、少し休ませれば完成だ。熊肉は生臭いイメージがあるが、仕留めた後に血抜きなど適切に処理すれば臭みは全くなく、まるでイベリコ豚のようで美味だった。</p>
<p>取材で目の当たりにしたのは、人間とヒグマの凄絶な「命のやり取り」だった。山の主との均衡を保つため、ハンターの担う役割は重みを増し続けている。</p>
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<div data-friday-nextpage-lead="ベテラン猟師と″山の主″のドキュメント"></div>
<figure id="attachment_345560" aria-describedby="caption-attachment-345560" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="61a9f17a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/84478d3823fdb6248b36c1c1dfbb89c8.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-345560" class="wp-caption-text">山中で息絶えた子熊。小さいながらも指先の爪は成獣と同じように鋭く、恐怖を覚える</figcaption></figure>
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<figure id="attachment_345561" aria-describedby="caption-attachment-345561" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="449cd286"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/249105f89351df19e3f750a4d1ca6018.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-345561" class="wp-caption-text">熊の肉を直火で加熱すると、たっぷりの脂がジュージューと音を立てて勢いよく流れ出た</figcaption></figure>
<figure id="attachment_345562" aria-describedby="caption-attachment-345562" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="d930b915"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/7c4b7f84b08ccea1c42dc88f66ad22a1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-345562" class="wp-caption-text">仕留めたメスのヒグマの口を開けると、立派な牙がのぞく。人間が噛みつかれれば、ひとたまりもないだろう</figcaption></figure>
<figure id="attachment_345563" aria-describedby="caption-attachment-345563" style="width: 2488px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="bd298fbc"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/7d35a4cc575977f844c649399aeb06e2.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-345563" class="wp-caption-text">若手ハンターたちが協力し、ヒグマを車まで運ぶ。成人二人がかりでもかなりの重労働で、息を切らしていた</figcaption></figure>
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<div data-friday-nextpage-lead="ベテラン猟師と″山の主″のドキュメント"></div>
<figure id="attachment_345567" aria-describedby="caption-attachment-345567" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="f4a1de2f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/21585b71e98787a40a57ef0b41b2faad.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-345567" class="wp-caption-text">本誌未掲載カット　野々村信行さん　「ヒグマハンター」命のやり取りを緊迫撮 入山者を守り続けて40年。ベテラン猟師と″山の主″のドキュメント</figcaption></figure>
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<figure id="attachment_345566" aria-describedby="caption-attachment-345566" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="be697c0d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/ad38c23fb1bca9562748bf766fa6028e.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-345566" class="wp-caption-text">本誌未掲載カット　「ヒグマハンター」命のやり取りを緊迫撮 入山者を守り続けて40年。ベテラン猟師と″山の主″のドキュメント</figcaption></figure>
<figure id="attachment_345565" aria-describedby="caption-attachment-345565" style="width: 1667px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="28f498d1"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/5a7bfc77e8639029859c17564fffcbad.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-345565" class="wp-caption-text">本誌未掲載カット　「ヒグマハンター」命のやり取りを緊迫撮 入山者を守り続けて40年。ベテラン猟師と″山の主″のドキュメント</figcaption></figure>
<p>『FRIDAY』2023年12月8・15日号より</p>
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横田 徹（報道カメラマン）

北海道を恐怖に陥れた最凶巨大ヒグマ"ＯＳＯ１８"が駆除されても、恐怖は続いている……入山者を守り続けて40年のベテランハンターと"山の主"のドキュメントを緊迫撮！

「近づかれてしまったら負けなんだよ」…北海道の”ヒグマハンター”「命のやり取りを緊迫現場」密着撮

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