<h3><span class="strongInContent">「安倍やめろー」「増税反対」→強制排除…表現の自由を奪う行為！「おかしいことはおかしい」と言い続ける</span></h3>
<p>「ヤジ排除」を通して表現の自由と民主主義のあり方を問い、&#8217;20年にギャラクシー賞など数々の賞を受賞した北海道放送（HBC）のドキュメンタリー番組『ヤジと民主主義』。HBCがその後も取材を重ね製作した映画『ヤジと民主主義　劇場拡大版』が、現在上映中の東京と札幌を皮切りに順次、全国で公開される。</p>
<p>参院選を６日後に控えた’19年７月15日。JR札幌駅前で、街頭演説中の安倍晋三首相（当時）にヤジを飛ばした男女がいた。大杉雅栄さんは「安倍やめろー」と叫び、別の場所で桃井希生さんは「増税反対」と訴え、声を上げた直後に北海道警察によってその場から強制的に排除された。</p>
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<figure id="attachment_348714" aria-describedby="caption-attachment-348714" style="width: 983px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="9968ea63"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/5cb66f7f03d4359dff5f77538c42c780.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-348714" class="wp-caption-text">’19年７月15日、JR札幌駅前で演説を始めた安倍首相（当時）の耳にヤジが届いていたら、’17年の秋葉原での演説時と同じように、「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と反論していたかもしれない…（PHOTO：共同通信）</figcaption></figure>
<p>２人は’19年と&#8217;20年にそれぞれ、道警を所管する北海道を相手取り、表現の自由を侵害されたとして札幌地裁に国家賠償訴訟を提訴。地裁は’22年３月に原告の訴えを認め、２人は勝訴した。だが、道は一審の判決を不服とし、控訴。今年６月に行われた二審・札幌高裁では判断が分かれ、大杉さんは逆転敗訴、桃井さんは勝訴維持。７月、道と大杉さんは最高裁に上告した。</p>
<p>映画は、当事者や道警への取材と検証を重ねながら、４年にわたりヤジ排除の背景を追及し続けた1460日間の記録だ。当初から取材の指揮を執り、映画の監督を務めたHBCコンテンツ制作センター報道部デスクの山﨑裕侍さんに作品に込めた思い、伝え続けることの意味を聞いた。</p>
<p>道警による排除があった当日、山﨑さんは演説を聞こうとJR札幌駅前にいた。一瞬ヤジが聞こえたが、すぐに声はかき消えたという。</p>
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<p>「<span class="strongInContent">排除があったことは朝日新聞全国版の記事で知りました。実は、HBCのカメラマンはヤジ排除の現場にいなかったんです。でも幸い、HBCの通信員が排除の瞬間をたまたま撮っていた。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">映像を見て衝撃を覚えました。政権に批判の声を上げた市民を警察が拘束するという、社会主義国のような出来事が地元で起きている。ヤジ排除は表現の自由を奪う行為で、人権侵害ではないか。これは追いかけなければと強く思いましたね</span>」</p>
<p>朝日新聞で報道された内容を追い始めると、次々と疑問が湧いてきた。排除という行為にどのような法的根拠があるのか、ヤジは選挙妨害に当たるのか、道警の意図は何だったのか……。排除された当事者を探し出してインタビューを放送し、新たな映像を入手すれば排除の実態を伝え、続報を出し続けた。</p>
<figure id="attachment_348715" aria-describedby="caption-attachment-348715" style="width: 1920px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="6108b2b5"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/5483fd1ff2759d1c7d7d239150845ae5.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-348715" class="wp-caption-text">「安倍やめろー！」と叫び、演説の場から排除される大杉さんⒸHBC/TBS</figcaption></figure>
<div data-friday-nextpage-lead="「ヤジ排除は何も警察だけの問題ではありません」"></div>
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<p>「<span class="strongInContent">多くの社は第一報で終わっていて、気がつくと熱心に報道し続けているのは我々だけになっていました。北海道放送がやめると報じるメディアがなくなる恐れがある。問題は何も解決していないのに、あっという間に忘れ去られて過去の出来事になってしまう。我々には続報しないという考えはありませんでした</span>」</p>
<p>ヤジ排除問題の報道を続けようと決めた理由はもう一つある。</p>
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<p><span class="strongInContent">「警察を批判するメディアが少なくなっていると、日頃から感じていました。マスコミやメディアが権力を監視する役割を果たさず警察の広報のようになってしまったら、報道全体が信頼を失うことになりかねない。道警に嫌味を言われようとにらまれようと、報道機関として『おかしいことはおかしい』と言い続けようと思ったんです」</span></p>
<figure id="attachment_348716" aria-describedby="caption-attachment-348716" style="width: 1920px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="8c02b19d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/11736e6d574f2edb792602d8f7c1de80.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-348716" class="wp-caption-text">「増税反対！」と声を上げ、両サイドから挟まれ排除された桃井さんⒸHBC/TBS</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">Yahoo!ニュースの配信に寄せられる「ヤジは迷惑」「ヤジは選挙妨害」のコメント</span></h3>
<p>昨年11月、山﨑さんは北海道放送報道部道警ヤジ排除問題取材班の著者名で『ヤジと民主主義』を出版している。並行して映画『ヤジと民主主義　劇場版』を製作し、TBSドキュメンタリー映画祭に出品。そしてこの度、拡大版の全国公開に漕ぎつけた。「北海道だけの問題ではない。道外の人にも知ってもらいたい」との思いがずっとあったという。</p>
<p><span class="strongInContent">「ヤジは自分の意見を表明する一つの手段だと思います。一方ヤジ排除は、おかしいと感じることに声を上げる自由を侵害する行為です。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">ヤジ排除は何も警察だけの問題ではありません。日本は異質なものを排除することを許してしまう社会になっていないでしょうか。ヤジ一つ飛ばせない社会になったらどうだろうか。息苦しい世の中になることの怖さをわかってほしいですね」</span></p>
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<p>映画には、ヤジを飛ばして警察官に連れていかれる大杉さんや桃井さんに迷惑そうな視線を向ける市民も映っている。ヤジを演説の邪魔をする行為と見なす人は、もしかすると少なくないかもしれない。</p>
<p><span class="strongInContent">「HBCの報道がYahoo!ニュースなどに配信されるたびに、ヤジは選挙妨害だとか演説を聞きたい人にとって迷惑だといったコメントが必ず寄せられます。コメントを書く人には『みんな静かに聞いているんだからお前も静かにしろよ』という、同調圧力的な考え方が根強くあるような気がするんです。ヤジをイコール妨害行為と捉えている人にこそ、映画を最後まで見て考えてもらいたいですね」</span></p>
<p>大杉さんも桃井さんも、演説を妨害するためにヤジを飛ばしたのではない。それは映画を観ればわかる。わからないのは、映画の最後で伝えている今年６月の札幌高裁判決の中身だ。桃井さんは勝訴、大杉さんは逆転敗訴。警察官の行為に対する判断が、原告２人ではっきりと分かれたのはなぜなのか。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="声を上げることの大切さ"></div>
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<p>「<span class="strongInContent">高裁で警察側が大杉さんの排除に関して、新しく証拠を出してきたんです。それが結果的に、裁判所が判断を変える根拠の材料になったのではないかという見方をしている人はいます。</span></p>
<p><span class="strongInContent">一方、原告弁護団は結論ありきの判決だと言っている。これは想像でしかないですが、警察が全面的に負けると、演説会場でヤジが飛んだ時の警備が困難になる恐れがあると判断したのかもしれません。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
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<p><span class="strongInContent">今年の10月、岸田文雄総理が徳島市内で参議院徳島高知選挙区補欠選挙の応援演説をしていた時に、『増税メガネ』とヤジを飛ばした男性がいました。</span></p>
<p><span class="strongInContent">徳島県警の警察官３人がすぐ駆け寄って静かにというジェスチャーをすると、男性はすぐにその場を後にした。徳島県警に取材をしたら、政権に批判的な声を上げたので危険物を隠し持っているかもしれないと判断し声をかけたと言うんですよ。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">つまり警察は、ヤジを飛ばすのは危険な人物だという考え方なわけです。札幌高裁の判決によって、桃井さんに関しては表現の自由が認められました。徳島の演説現場では、札幌のように警察が強制的に連れ去ることはありませんでしたが、“ソフトな排除”が行われたという意味では判決は生かされなかったことになります</span>」</p>
<p>全国の警察官にはぜひ、映画を観てもらいたいものだ。</p>
<figure id="attachment_348717" aria-describedby="caption-attachment-348717" style="width: 995px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="99be5caa"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/72e738fa564e15b53c0d907d2dd70d74.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-348717" class="wp-caption-text">JR札幌駅前で行われた安倍首相（当時）の街頭演説に集まった聴衆（PHOTO：共同通信）</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">声を上げることの大切さを地方から伝えていきたい</span></h3>
<p>山﨑さんは20代から30代にかけて、テレビ朝日の『ニュースステーション』や『報道ステーション』のディレクターを務め、死刑制度や犯罪被害者、少年事件などを取材してきた。北海道放送に転職したのは30代半ば。なぜ地方の放送局を選んだのだろう。</p>
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<p>「<span class="strongInContent">テレビ朝日の報道番組は全国放送で確かに華々しいですが、自分が日々伝えていることは社会の役に立っているのだろうかと疑問を感じていました。自分の住む地域が良くなっているという実感を持てなかったんです。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">僕は制作会社の契約社員だったので、将来の展望もまったく見えませんでした。もっと地に足のついた報道がしたいと考えていたところ、HBCが人を探していると聞いて採用試験を受けることにしたんです</span>」</p>
<div data-friday-nextpage-lead="報道の道に進むきっかけは…"></div>
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<p>報道の道に進むきっかけとなったのは、海外でのボランティア活動だったという。</p>
<p>「<span class="strongInContent">湾岸戦争中の1991年に、ヨルダンの難民キャンプでボランティア活動をしたんです。その時に、爆撃によって家と生活を破壊され、逃げざるを得なかった人たちに『僕にできることはあるか』と聞きました。すると「日本に帰ったら俺たちのことを伝えてくれ」と返ってきたんです。</span></p>
<p><span class="strongInContent">自分にはお金も資格もないけれども、彼らについて伝えることはできると思いました。伝えるということを職業として意識したのはその時が初めてです</span>」</p>
<p>そして山﨑さんは今、地方の放送局を拠点に「おかしいことはおかしい」と、ヤジ排除問題を伝え続けている。</p>
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<p>「<span class="strongInContent">たとえば、ガザで起きているイスラエルとハマスの衝突に対して、心を痛めて遠い札幌から『戦争反対』と声を上げている人がいます。遠い国で起きている人権侵害であっても、無関心でいてはいけない。世界中でおかしいと声を上げる人々がいる中で、僕らも声を上げることの大切さを伝えていきたいと思います</span>」</p>
<figure id="attachment_348718" aria-describedby="caption-attachment-348718" style="width: 4608px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="098e8571"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/9b924693090935a3165f610bb228ef88.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-348718" class="wp-caption-text">「ヤジは意見表明なのか、選挙妨害なのか。映画を観て考えてもらえれば」と山﨑さんは話す</figcaption></figure>
<p>ところで、ヤジ排除訴訟は最高裁に舞台を移し、引き続き争われることになったが……。</p>
<p>「<span class="strongInContent">最高裁での裁判がいつ行われるか、まったくわかりません。数年かかるとも言われますし、明日にでも突然、手紙が届くかもしれない。いずれにしても、最高裁の結論が出るまで取材を続けます</span>」</p>
<p>映画は全国27館（15日時点）で順次、公開される。11月20日に札幌のシアターキノであった先行上映会では、道警の排除行為に対して客席からたびたび嘲笑が聞かれたという。</p>
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<p><span class="strongInContent">山﨑裕侍</span>（やまざき・ゆうじ）HBCコンテンツ制作センター報道部デスク。1971年、北海道生まれ。日本大学卒業後、東京の制作会社に入社。テレビ朝日『ニュースステーション』『報道ステーション』のディレクターを務める。’06年、HBC北海道放送に中途入社。警察・政治キャップや統括編集長を経て、’22年４月から現職。ディレクターとして臓器提供の現場や地域医療の課題を追ったドキュメンタリーを制作。プロデューサーとして『ネアンデルタール人は核の夢を見るか～“核のごみ”と科学と民主主義～』などがある。</p>
<figure id="attachment_348719" aria-describedby="caption-attachment-348719" style="width: 1548px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="b870b6c1"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/d960fd9806889dec5e028c309fa34869.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-348719" class="wp-caption-text">『ヤジと民主主義 劇場拡大版』12月９日よりポレポレ東中野、シアターキノほか全国順次公開</figcaption></figure>
<div class="expapp-no-provided-scope expapp-no-provided-scope-start"></div>
<p><a href="https://yajimin.jp/" target="_blank" rel="noopener noreferrer"><span class="strongInContent">■映画『ヤジと民主主義　劇場拡大版』</span>公式HPはコチラ</a></p>
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斉藤さゆり

「安倍やめろー」「増税反対」…。‘19年７月15日、札幌駅前で、街頭演説中の安倍晋三首相（当時）にヤジを飛ばした男女。二人は声を上げた直後に北海道警察によってその場から強制的に排除された。

ヤジ排除「社会主義国のような出来事が地元で…」地方のテレビ局が訴えたいこと

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