<figure id="attachment_349663" aria-describedby="caption-attachment-349663" style="width: 682px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="14b82b48"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/90a7bb6ec1233ff48935c94d6af5c54a.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-349663" class="wp-caption-text">26人が犠牲となった大阪・北新地のビル放火殺人事件の発生から２年。現場には多くの花束が手向けられていた</figcaption></figure>
<h3>「寂しさが薄れることはない」</h3>
<p><span class="strongInContent">｢事件が起きた当時、子どもも小さかったので、ほとんど覚えていないんですよね。テレビで映像が流れると、お父さんの事件だとはわかっているようですが、子どもには夫が亡くなったことは伝えてあるけれど、放火事件が原因で殺されたとは話していません。</span></p>
<p><span class="strongInContent">お墓参りにも行くし、お仏壇に手も合わせるし、お父さんが亡くなったことは、本人なりに理解しているとは思うのですが……。小さかったからよかったとは言えませんが、お父さんがいなくなったことが生活の始まりみたいになっているので、寂しくて泣いてしまう、っていうことはないですね。お父さんがいない生活が当たり前としてとらえているのでしょうか」</span></p>
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<p>そう話すのは、’19年12月17日に起こった北新地放火事件で夫を亡くした被害者遺族のAさんだ。放火事件で亡くなった夫との間には幼い子どもがおり、今、Aさんは、夫がいないことを受け入れつつ、子どもとともに前を向き、歩き出している。ただ、子どもにはあえてすべてを伝えずに過ごしている。</p>
<p><span class="strongInContent">「子どもの性格に影響しないように、それを心がけて生活していますね。子どもはあの事件のことは知っています。ただ、『殺された』という文言は使いたくない。その言葉がもつインパクトが強すぎるし、私自身、『災害』のイメージが強いです。加害者と故人の接点はまったくなかったわけですから。</span></p>
<p><span class="strongInContent">あの事件のことは、子どもが理解できる年齢になったときにはきちんと話そうと思っています。一番の心配は、これからの成長過程で、あの事件のことと子どものことを興味本位で話されたり好奇の目で見られたりすること。その事態を恐れているというのが今の気持ちです。だから、行けるところはどこへでも連れていくし、いろんな経験をさせています。情緒豊かな人間になってほしい。今は、そんな使命感を抱きながら子育てしています。</span></p>
<p><span class="strongInContent">主人がいなくなった現実に直面することって生活の中でたくさんあるんですよね。歯ブラシ、髭剃り……生活の場のあちこちにある。その度に、寂しさが薄れることはないのだけれど、いなくなってしまった生活を受け入れつつ、今、できることをしている。そんな感覚です」</span></p>
<p>そして、今、夫がいない現実を受け入れつつも、前を向いて歩いていけるのは、子どもの存在が大きいとAさんは話す。</p>
<p><span class="strongInContent">「ある意味、子どもがいることで、生活が落ちついていると思うんです。主人が亡くなったことで悲しみに打ちひしがれる時間もないというか。仕事もありますし、家事もしなければいけないし、あるときは子どもを叱るお父さんのような役割もしなければいけないし、子どもが泣いて帰ってくれば話を聞いてあげるお母さんの役割もしないといけない。</span></p>
<p><span class="strongInContent">両方しないといけないので本当に忙しくしています。忙しい日々を過ごすことで、痛ましかった事件から一瞬だけど離れられる。子どものおかげで、それができているんですよね」</span></p>
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<div data-friday-nextpage-lead="「後を追って死んだほうが楽かもしれない」とも……"></div>
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<figure id="attachment_349664" aria-describedby="caption-attachment-349664" style="width: 1125px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="0580d315"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/6848bf2d4cd92413a8fc6c1cb8c7d4f9.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-349664" class="wp-caption-text">取材に応じるAさん</figcaption></figure>
<h3>犯罪被害者が置かれている厳しい状況</h3>
<p>事件を経験したことで、Aさんは将来に対する考え方も時間の経過とともに大きく変化したという。</p>
<p><span class="strongInContent">｢事件を経験して、当初は子どもをどう育てていこうか、という不安がいっぱいで、今、後を追って死んだほうが楽かもしれない、とも思ったけれど、今は、いつ自分がいなくなるかわからない。明日かもしれないし、30年後かもしれない。だから自分がいなくなっても、この子が一人で生きていけるように準備はしなければいけないと常々思っています｣</span></p>
<p>Aさんが「明日自分が亡くなっても子どもが一人で生きていけるように」と考えるのは、事件に直面した遺族、犯罪被害者が置かれている厳しい環境が要因だ。</p>
<p><span class="strongInContent">「自分が遺族になって初めて知ることばかりでした。司法解剖した検案書の発行手数料や遺体の搬送費用など、殺されている側なのに、こっちが支払わないといけない。司法解剖した病院からの請求もあって、思わず警察の方にも『なぜ私が払わないといけないのですか』と言ってしまいました。　</span></p>
<p><span class="strongInContent">当時は『どうして？』と疑問を持てるほどの思考力もないし、言われるがままにしていましたが、やっぱり、落ち着いて考えたら、被害にあっているのに、お金まで払わされるのって、すごくおかしな話だと感じたのです」</span></p>
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<p>日本では、国から補償される犯罪被害者等給付金といったものが整備されているが、制度としてまだまだ未熟な点は否めない。給付金は被害者の収入が給付額の基準値として扱われ、給付額は320万～2960万円と幅広く、’21年度の平均は665万円だった。無職や学生であれば、かなり算定は厳しくなり、最低の320万円になる場合もあるのだ。</p>
<p><span class="strongInContent">「そのとき無職だったという理由だけで、算定はかなり厳しいものになる。それっておかしくないですか？　たまたま無職だっただけで生産性がない、そういった捉え方を国がしていることに納得できないのです」</span></p>
<p>犯罪被害者であるAさんらの活動が大きく取り上げられ、あまりの犯罪被害者等給付金の低さが社会の知るところとなり、今年６月、政府は給付金支給額を引き上げる方針を打ち出した。そのことによって、Aさんの今後の生活、我が子の将来に少しでも希望の光を照らす見通しは立ったが、Aさんは“戦い”をやめるつもりはないという。</p>
<p><span class="strongInContent">「私がメディアの取材に対応を続けるのは夫の名誉のためです。何年後、何十年後かわかりませんが、犯罪被害者を取り巻く環境が改善されるために、メディアを通して、私たちが置かれている過酷な環境を多くの方に知っていただき、制度や社会が良くなることが、亡くなった夫のためにできることだと思っています」</span></p>
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<figure id="attachment_349668" aria-describedby="caption-attachment-349668" style="width: 1107px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="ed0cb7a2"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/9a4d522a0fc34cbcbaddc9126d148d99.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-349668" class="wp-caption-text">火事が起きた病院の看板は今でも残されている</figcaption></figure>


ノンフィクションライター。ＮＰＯ法人サードプレイス代表。元週刊誌記者。不妊治療によって双子を授かり、次男に障害があることがわかる。自身の経験を活かし、生殖補助医療、妊娠・出産・育児、障害・福祉を中心に取材活動を行う。本人ツイッター（＠thirdplace_npo）

中西美穂

共同通信社（１枚目）、中西美穂（２、３枚目）

白昼に大阪の中心部で発生した放火事件から２年が経過。26人の尊い命が失われた。愛する夫を亡くした遺族Aさんにはまだ小さな子どもがいる。仕事や子育てに奔走しながら夫の名誉を回復する戦いも続けていた。

大阪放火事件から２年「子どもがいるから前を向ける」遺族が明かす「夫の死因を子どもに言わない理由」

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