【追悼’23 あなたに逢えて本当に良かった】音楽評論家・小沼純一が語る「坂本龍一の自由さと凄さ」
坂本龍一
3月28日没・享年71
’23年3月28日に亡くなった音楽家の坂本龍一さん(享年71)。’78年に『YMO』(イエロー・マジック・オーケストラ)を結成してテクノポップで世界を席巻し、映画『戦場のメリークリスマス』(’83年)や『ラストエンペラー』(’87年)など数々の映画音楽を手掛けた。
坂本さんとNHKの音楽系教養番組『スコラ 坂本龍一 音楽の学校』で共演し、親交が深かった音楽評論家・小沼純一さんが、坂本さんの印象的なエピソードを語る。
「台本はいらない。あの自由さがなければ創作はできない」
小沼純一(音楽評論家)
坂本さんとは彼が50代の時に出会って、亡くなるまでのお付き合いでした。若い時は激しい人だったと思いますが、私が出会った時はとても丁寧で落ち着いていました。
NHKの『スコラ』という番組を一緒にやっていたんですが、坂本さんは最初から渡された台本を「いらない」と言って受け取らないんです。「台本ではなく、自分の言葉で話すからそれを編集してほしい」とスタッフに伝えていた姿が印象的でした。あの自由さがなければ創作はできないと、その時思いましたね。
坂本さんの演奏は自然で、かつ変化に富んでいた。他の人と一緒にセッションをすると、相手に合わせて変化を加えているんです。彼が一人で演奏している時は気付かないのですが、他の演奏家と一緒だとその絶妙さに気付くんですよね。
晩年はお会いできませんでしたが、亡くなる数日前までメールでのやり取りは続けていました。坂本さんは病床に臥しているにもかかわらず、私が母を介護していることに労(いたわ)りのメールをくれたんです。
私がめげてしまっているのがわかったのでしょう。坂本さんは自分が弱っている時には連絡をしてこない人なので、たまにふっとメールがくると「まだ無事なんだな」と思っていました。
坂本さんの訃報に対する気持ちは、表現するのが難しい。自分の身体の一部が欠けてしまったような、そんな感覚ですかね。悲しいという言葉では、収まるはずもありません。
『FRIDAY』2023年12月29日号より